尺八の歌で育む子どもの感性と伝統音楽への親しみ

尺八の歌を保育に活かす方法と子どもへの効果

尺八の音色を「難しい」「老人向け」と思い込んでいると、子どもの感性を育てる最大のチャンスを逃します。

この記事でわかること
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尺八と歌の基本知識

尺八の名前の由来・構造・代表的な歌の種類(本曲・童謡・民謡・唱歌)を整理します。

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子どもの脳・言語発達との関係

和楽器の音は日本人の「言語脳(左脳)」で処理される研究があります。保育での鑑賞活動が言語・感性の発達に影響する理由を解説します。

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保育で使える尺八の歌・活動アイデア

「春の海」「赤とんぼ」「さくらさくら」など、保育現場ですぐ活用できる曲選びと鑑賞活動のポイントを紹介します。

尺八とはどんな楽器か?歌との関係を保育士が知っておくべき基礎知識

 

尺八は、真竹の根元付近の部分を約54〜55cmに切って作った縦笛です。名前の由来はそのまま「長さ」にあります。標準的なサイズが一尺八寸(いっしゃくはっすん)、つまり約54.5cmだったため、「尺八」と呼ばれるようになりました。ちょうどA4用紙を縦に2枚並べた長さをイメージするとわかりやすいです。

指孔(ゆびあな)は表側に4つ、裏側に1つの計5つだけ。それだけのシンプルな構造でありながら、2オクターブ半もの音域をカバーできます。これは奏者が「首振り」「メリ・カリ」と呼ばれる音程の微妙な変化技術を使うためで、演奏者の息と体が楽器の一部になっているような感覚です。

尺八は奈良時代に唐から伝わり、当初は雅楽の楽器として使われていました。江戸時代に入ると、虚無僧(こむそう)が「普化宗(ふけしゅう)」の修行として吹く楽器として広まります。「首振り3年、ころ8年」ということわざがあるほど、まともに音を出すまでに最低3年、自在に演奏できるまで8年かかるとされてきました。それだけ難しい楽器ですが、その分だけ音色の表現力は他の縦笛の追随を許しません。

尺八で演奏される歌・音楽の種類は、大きく以下の4つに分けられます。

  • 古典本曲(ほんきょく):「鹿の遠音」「巣鶴鈴慕」など、虚無僧の修行曲が起源。独奏や二管での掛け合いが中心
  • 三曲合奏:箏(こと)・三味線と組み合わせた合奏形式。「千鳥の曲」「六段の調」などが代表的
  • 童謡・唱歌・民謡:「赤とんぼ」「さくらさくら」「春の海」など、広く親しまれているメロディを尺八でアレンジしたもの
  • 現代・ポップス:ジブリの「となりのトトロ」や「もののけ姫」など、現代曲とのコラボも盛ん

保育士が特に知っておきたいのは「童謡・唱歌・民謡」との親和性の高さです。つまり保育現場で馴染みのある歌の多くが、尺八と相性がよいということです。

教育芸術社「尺八」解説:指孔の構造や音域について詳しく解説されています

尺八の歌が子どもの言語脳を育てる?保育士が知っておきたい研究事実

尺八の音を子どもに聴かせると「なんか懐かしい感じがする」という感想が出やすい理由には、脳科学的な裏付けがあります。これは意外な事実です。

日本人の脳は、和楽器の音色を「言語脳」である左脳で処理するという特徴があります。一方、西洋人が和楽器の音を聴く場合は、音楽を処理する右脳で処理されるという研究結果があります。これは、日本語を母語として育つ過程で、和楽器の音がオノマトペや自然音と同じカテゴリとして左脳に結びついていくためだと考えられています。

つまり、尺八の音は日本人の子どもにとって「音楽」であると同時に「言葉に近い感覚」として響くということです。これが重要です。

保育における言語発達の支援で「わらべうた」が重視されている理由と、実は同じ構造をしています。わらべうたも和楽器の音とも共鳴しやすい日本語のリズムや抑揚を持っており、子どもの発語・語彙獲得に影響するとされています。

東京藝術大学の研究「子どもの心を育む音楽活動」によれば、音楽活動を通じて育まれる力として、コミュニケーション能力・主体性・自発性・自己表現能力・集中力・社会性など、乳幼児の多様な能力が挙げられています。これらは尺八の音色を聴く鑑賞活動においても同様に期待できる効果です。

南カリフォルニア大学の研究(2012年開始)でも、音楽教育が子どもの頭脳形成や決断力の強化に有効であることが示されています。特に7歳未満の幼少期に音楽の訓練を受けると、週計4時間程度の音楽クラスへの参加でも脳の発達に好影響があったと報告されています。

尺八の鑑賞活動は、単なる「日本文化の紹介」にとどまりません。言語発達・感性教育・社会性の育みという複数のねらいを同時に達成できる、実は非常に多機能な保育活動なのです。

東京藝術大学「子どもの心を育む音楽活動」:保育での音楽活動が育む非認知能力について詳しく記載されています

保育の鑑賞活動で使いたい!尺八の歌の代表曲と年齢別の選び方

保育現場で尺八の歌を取り入れるとき、曲選びはとても大切です。年齢や季節に合わせた選曲ができると、子どもたちの集中力も変わります。

まず0〜2歳の乳児クラスには、テンポがゆったりして音域の変化がなだらかな曲が向いています。「さくらさくら」は低めの音で構成されており、波のように穏やかなメロディが乳児に安心感を与えます。また「ほたるこい」は同じ音の繰り返しが多く、耳に残りやすい点も◎です。

3〜4歳の幼児クラス前半には、親しみやすい童謡アレンジが効果的です。

  • 🍂 「赤とんぼ」(三木露風作詞・山田耕筰作曲):ゆったりしたテンポで、秋の自然と懐かしさを感じられます。尺八の音域に合った名曲で、初心者向け演奏にもなります
  • 🌸 「春が来た」:繰り返しのフレーズが多く、子どもが歌い出しやすい。尺八伴奏に合わせて一緒に歌う活動に最適です
  • 🎋 「君が代」:ゆっくりとした息遣いを感じられる国歌。尺八の「音の伸び」を体感するのにぴったりです

5〜6歳の幼児クラス後半には、情景をイメージさせる曲が発達に合っています。

  • 🌊 「春の海」(宮城道雄作曲・1929年):お正月に必ず流れる箏と尺八の二重奏。「春の海辺のかもめが飛んでいる様子」を描写した曲で、音と情景を結びつけるイメージ力を育みます
  • 🎑 「十五夜お月さん」:伸ばす音が多く、秋の行事前に鑑賞すると季節感と結びついた情操教育になります
  • 🎥 「風のとおり道」(久石譲・となりのトトロより):現代の子どもに馴染みのある曲を尺八三重奏で聴くことで、「同じ曲でも楽器が変わると雰囲気が変わる」という音楽的発見につながります

鑑賞活動を行う際のポイントは、「何の音が聴こえるかな?」「海の波みたいだね」「どんな気持ちになった?」といった声かけで、子どもが音を言葉に変える経験を積ませることです。これが言語脳の活性化にも直結します。

お正月の音楽と定番曲解説:春の海をはじめとする日本の代表的な和楽器曲の特徴がまとめられています

尺八の音色と保育の「歌」をつなぐ:わらべうた・唱歌での実践アイデア

尺八の歌は鑑賞するだけでなく、保育の「歌う活動」とセットにすることで効果が高まります。実践的な活用方法をいくつか紹介します。

① わらべうたと尺八BGMを組み合わせる

わらべうたの時間に、尺八のBGMを小さな音量でかけておくだけでも、場の雰囲気が落ち着き、子どもたちの歌声が自然と揃いやすくなる、という実践報告があります。わらべうたも尺八の音も、日本語リズムと親和性が高いため、音のバラバラ感が生まれにくいのです。

「wanooto-わのおと」という尺八奏者のユニットは、0歳からでも楽しめるコンサートを全国で展開しており、わらべうたと尺八演奏を組み合わせたプログラムで子どもたちに「なぜか懐かしい感じがする」という感想を多く引き出しています。これは保育のヒントになります。

② 行事に合わせた「歌と尺八の鑑賞セット」

行事・季節 おすすめの尺八の歌 連動できる保育の歌
お正月(1月) 春の海(宮城道雄) ♪お正月
秋の行事(9〜10月) 赤とんぼ、十五夜お月さん どんぐりころころ
春の行事(3〜4月) さくらさくら、春が来た チューリップ
七夕(7月) ほたるこい たなばたさま

行事のBGMとして尺八の歌をかけるだけでも、日本文化に触れる機会になります。特に「春の海」は昭和4年(1929年)の初演後、ラジオ放送での正月の定番としてヒットし、現在でも正月の代名詞的な曲です。子どもに「これが尺八の音だよ」と説明しながら聴かせると、記憶に残りやすくなります。

③ 出張コンサートを活用する

和太鼓の演奏会は保育園での実施例が多いですが、乳児クラスには「音が大きすぎる」という声も少なくありません。尺八は同じ和楽器でも柔らかくて温かみのある音色が特徴で、0歳の赤ちゃんが泣かずに聴き入る事例が多く報告されています。

保育園・幼稚園向けの出張コンサートを行う「サクラトーン」のような団体では、三味線と尺八のコンサートを専門に行っており、乳児対応プログラムも充実しています。出張コンサートの費用は団体や規模によって異なりますが、1公演あたり99,000円〜(人数100名規模まで対応)の相場が一般的です。年間の文化活動予算に組み込む際の参考にしてください。

サクラトーン「尺八と三味線のコンサート」:保育園・幼稚園向けの和楽器コンサートのプログラム内容と費用目安が記載されています

保育士が知っておきたい尺八の歌・独自視点:なぜ「ジブリ×尺八」が子どもに刺さるのか

古典本曲や民謡だけが尺八の歌ではありません。近年、保育現場で特に反響が大きいのが「子どもがすでに知っているポップスを尺八で演奏する」という手法です。

久石譲が手がけたスタジオジブリの楽曲、特に「となりのトトロ」の「風のとおり道」や「もののけ姫」は、尺八演奏と非常に相性がよいことで知られています。尺八奏者が保育園でこれらの曲を演奏すると、子どもたちが「あ、知ってる!」と声を上げる場面がよく見られます。これは興味深いです。

これには音楽教育的な意味があります。子どもが「知っている曲」を「知らない楽器」で聴く体験は、音色・音楽・感情の三角形を脳の中で再構築させます。「同じ曲でもこんなに雰囲気が変わる」という驚きが、音楽への能動的な興味を生む第一歩になるのです。

南カリフォルニア大学の研究では、週計4時間の音楽体験を6〜8歳に行った子どもたちは、1年遅く始めた子どもたちより脳の発達に明確な優位性が見られたと報告されています。保育の鑑賞活動は、その「体験」の積み上げになります。

また、ジブリ×尺八の動画はYouTubeでも多数公開されており、保育の導入として映像を活用しやすい点も実用的です。「先生、この音どうやって出してるの?」という疑問が生まれたとき、尺八の構造(5つの穴・歌口への息の当て方)を視覚的に見せることができると、子どもの探求心をさらに刺激できます。

さらに、「尺八・日本の旋律集(ヤマハミュージック)」などの楽譜集には、歌謡曲・童謡・唱歌・民謡に加え、現代ポップスのアレンジも収録されているものがあります。もし保育士自身が尺八に興味を持ったとしたら、このような入門曲集から始めるのが一番の近道です。

尺八演奏家 柴香山のnote:昔ながらの唱歌やわらべうたが年齢に関係なく心に馴染む理由について実体験を交えて書かれています

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