和声法と対位法を保育士が学ぶ音楽理論の基礎
和声法を学んでも、伴奏が自然につながらないと感じたことはありませんか?
和声法とは何か:保育士が押さえる音の「縦」の理論
音楽には「縦」と「横」という2つの軸があります。和声法は、その「縦」の軸、つまり同時に響く複数の音の組み合わせ(和音)を美しく連結させる技法です。英語では「Harmony(ハーモニー)」と呼ばれ、こちらの言葉のほうが耳慣れている方も多いでしょう。
和声法の世界では、メロディが1つの「主役」として存在し、その他の声部はあくまで主役を支えるハーモニーの役割を担います。基本となるのは4つの声部(ソプラノ・アルト・テノール・バス)で、これを滑らかにつなぎながら、和音の進行を美しく構成していきます。
保育実習理論の試験でも、この和声法の考え方が土台になっています。たとえば「Ⅰ→Ⅴ7→Ⅰ」という和音進行は「安定→緊張→安定」という流れを生み出し、子どもたちが聴いても自然に感じられる音楽の文法です。これはトニック(T)・ドミナント(D)・サブドミナント(S)と呼ばれる機能和声の考え方で、保育実習理論の伴奏選択問題を解く際に大きなヒントになります。
具体的には、ハ長調の曲であれば「ドミソ(C)がトニック」「シレファソ(G7)がドミナント」「ドファラ(F)がサブドミナント」という対応になります。伴奏を選ぶ問題では、「曲の冒頭はトニック」「曲の終わりに向かってドミナント」という法則を覚えるだけで、選択肢をかなり絞ることができます。つまり、和声法は保育士試験の得点に直結する知識です。
また、現場での弾き歌いにも和声法の理解は欠かせません。難しいアレンジよりも、子どもが安心して歌える拍感と、歌の入口・出口がわかる和音の置き方が保育のピアノ伴奏では重要とされています。和声法の基本を理解することで、「なぜここでこの和音を使うのか」が分かり、自分でアレンジを考える力も養われます。
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対位法とは何か:和声法との違いを保育士の視点で整理する
和声法が「縦」の技法なら、対位法は「横」の技法です。簡単に言うと、「複数のメロディを同時に、互いの邪魔をせず美しく絡み合わせる技術」が対位法です。英語では「Counterpoint(カウンターポイント)」と言います。
和声法との大きな違いをいくつか挙げると、以下のようになります。
- 🎼 主役の数が違う:和声法ではメロディが1つの主役ですが、対位法では複数の旋律がそれぞれ主役として動きます。
- 🎼 声部の数が違う:和声法は基本4声部、対位法は2声〜10声以上でも成立します。
- 🎼 調性との関係が違う:和声法は調(キー)が決まっていないと使いにくいですが、対位法は無調音楽でも組み立てることができます。
対位法の歴史は中世のグレゴリオ聖歌にまで遡ります。1つの旋律に別の旋律を重ねる行為が発展して、現在の対位法の体系が生まれました。当時は完全4度・5度・8度でハモることが基本でしたが、ルネサンス時代を経てバロック時代のバッハに至るころには、対位法は頂点に達したとされています。
大切なのは、和声法と対位法は「どちらか一方でいい」という話ではないということです。対位法を使えばハーモニーは不要、と思い込んでいる保育士の方も多いようですが、実際には「和声法も対位法的に優れている必要がある」と言われています。2つは切っても切り離せない関係にあります。対位法を学ぶことで、和声法の理解も一段と深まるのが音楽理論の面白いところです。
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対位法を知ろう!歴史から実践まで(Phonim Music)
和声法と対位法の禁則:保育士が知っておくと役立つ基本ルール
和声法にも対位法にも、「禁則(きんそく)」と呼ばれる「やってはいけないこと」があります。禁則が多くて難しく見えますが、ポイントだけ押さえれば保育の現場でも十分活かせます。
和声法の代表的な禁則として有名なのが「連続8度の禁止」「連続5度の禁止」「並達8度・5度の禁止」です。これらは、声部の独立性を失わせてしまうため避けるべきものとされています。たとえば2つの声部が同じ方向に動いて完全5度を2回続けて作ってしまうと、まるで1つの声部が2本になっただけのような単調な響きになってしまいます。これはイメージとしてはピザ生地を2枚重ねて食べるようなもので、それぞれの良さが消えてしまいます。
対位法でも同様の禁則が存在します。とくに全音符対位法(定旋律に全音符で対旋律をつける最も基本的な形)では、「2声部間の全ての音程は協和音程になること」「連続同度・連続8度・連続5度は禁止」などのルールが厳格に定められています。
禁則が多すぎる、と感じる必要はありません。重要なのは「禁則の意味を理解する」ことです。禁則は制約ではなく、音楽を自然に美しく聞かせるための知恵の結晶です。禁則に慣れてくると、自然に美しい音の動きが身につき、アレンジ力や即興伴奏の幅も広がります。保育実習理論の問題でも、禁則的に不自然な伴奏は選択肢から除外できるため、正解を絞り込む力になります。
和声法の禁則をポップス理論に活かす視点で解説された記事は参考になります。
対位法が生きるカノン・わらべうた:保育現場での実践的な活用法
「対位法って難しそう」と感じる保育士の方も多いかもしれませんが、実は保育の現場には対位法の実例がたくさん潜んでいます。もっとも身近なのが「カノン」です。
カノンとは、同じメロディを時間をずらして複数の声部が追いかけ合う音楽形式です。対位法の典型的な応用形と言えます。「カエルの合唱」を何人かで時間差で歌うあの形が、まさにカノンです。子どもたちが自然と複数の旋律のハーモニーを体験できる、保育現場に最適な音楽活動です。
わらべうたにも対位法的な要素は多く見られます。掛け合い歌や輪唱の形をとるものは、異なるメロディが絡み合う対位法の初歩的な形です。わらべうたを通じて、子どもたちは理屈なしに「複数の声部の絡み合い」を体感し、音楽的な耳を育てていきます。
さらに保育現場では、弾き歌いの伴奏にも対位法の考えを活用できます。左手のバス部分をただ和音で打つだけでなく、歌のメロディとは異なる対旋律として動かすことで、伴奏が格段に豊かになります。これは「自由対位法」と呼ばれる手法で、和声法の制約の中で旋律的な動きをバス声部に与えるものです。伴奏が「歌心を持つ」ようになると、子どもたちの歌声も自然と引き出されていきます。
大阪教育大学の研究では、わらべうたのカノンを取り入れたデジタル教材を活用する中で、2声・3声・4声と段階的にカノンを積み重ねることで、子どもたちがハーモニー感覚を体感的に身につけられることが確認されています。これは対位法の教育的な有効性を示す一例です。
わらべうたのカノンを使ったデジタル教材研究について、大阪教育大学の論文が参考になります。
わらべうたのカノンを取り上げた歌唱デジタル教材の検証(大阪教育大学リポジトリ)
和声法・対位法を保育士が独学で学ぶ方法と おすすめの進め方
「和声法や対位法を学びたいが、どこから始めればいいか分からない」という保育士の方は少なくありません。音大受験レベルまでマスターする必要はありませんが、保育現場で役立つレベルの基礎知識は確実に身につけられます。
まず和声法から入ることをおすすめします。和声法は「調性に基づく和音の連結ルール」が基本であり、保育実習理論の試験にも直結するため、実用的な動機で学びやすいです。トニック(Ⅰ)・サブドミナント(Ⅳ)・ドミナント(Ⅴ・Ⅴ7)という「主要3和音」の役割を理解するところからスタートしましょう。これだけで、ほとんどの子どもの歌の伴奏は作れます。主要3和音だけで成立する曲は保育現場で使われるものの実に約7〜8割にのぼると言われています。つまり、主要3和音が基本です。
次のステップとして対位法の入門を学ぶと、伴奏が一層豊かになります。対位法の入門としては、「2声対位法」から始めるのが王道です。池内友次郎著の『二声対位法』は、国内の音楽理論学習者に長く使われてきた定番テキストです。ただしこの本は内容が本格的なので、最初は専門書に触れる前に、動画解説やわかりやすい音楽理論サイトで概念をつかむと良いでしょう。
独学の進め方のポイントをまとめると、以下の順序が効率的です。
- 🎵 ステップ1:主要3和音(T・S・D)を全調で覚える
- 🎵 ステップ2:童謡・子ども歌の伴奏を机上で分析してみる
- 🎵 ステップ3:左手の伴奏に「歌心のある旋律的な動き」を取り入れてみる(自由対位法の初歩)
- 🎵 ステップ4:カノンを使った音楽活動を保育に取り入れ、対位法を感覚で体験する
学習を継続するコツは「完璧に理解してから次へ」ではなく、「現場で少しだけ試してみる」を繰り返すことです。これが原則です。理論は知識として蓄えるより、実際の弾き歌いや保育活動の中で使ってみることで定着が早まります。
また、音楽理論専門のオンラインスクールや、保育士試験対策の通信講座の中には和声法の講座を設けているものもあります。自分のペースで学びたい場合は、そういったサービスを活用するのも一つの選択肢です。
保育現場のピアノ伴奏と音楽理論の関係をわかりやすく解説しているサイトです。


