展覧会の絵の一覧と各曲を保育に活かすための完全ガイド
「展覧会の絵」はラヴェルが編曲したオーケストラ版より、原曲のピアノ版のほうが子どもの情感表現を引き出しやすいという研究報告があります。
展覧会の絵一覧:全10曲とプロムナードの構成を理解しよう
「展覧会の絵」を保育の現場で紹介するとき、まず全体の構成をしっかり把握しておくことが大切です。この組曲はムソルグスキーが1874年に完成させたピアノ曲で、絵画を描いた10の曲と、絵から絵へ歩いていく場面を表した「プロムナード(散歩)」で成り立っています。曲全体の構成は下の一覧のとおりです。
| 順番 | 曲名 | テンポ・曲想 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ― | 第1プロムナード | Allegro・華やか | トランペット独奏で始まる有名な旋律。5/4拍子と6/4拍子の変拍子が特徴 |
| 1 | グノーム(小人) | Vivo・唐突 | 地底の小人を描く。急速なフレーズと低音のトリルが不気味 |
| ― | 第2プロムナード | Moderato・穏やか | ホルンの遠くから聞こえるような優しい音色 |
| 2 | 古城 | Andantino・古風 | サックス(サクソフォン)が主役。中世の城の前で吟遊詩人が歌う |
| ― | 第3プロムナード | Moderato・重厚 | 金管が旋律、弦と木管が伴奏。重厚感がある |
| 3 | テュイルリーの庭 | Allegretto・軽快 | パリの公園で遊ぶ子どもたちの喧嘩。木管の速いパッセージが楽しい |
| 4 | ビドロ(牛車) | Moderato・重々しい | 低音の2音が延々と続く。「虐げられた人々」の意味もあり深い |
| ― | 第4プロムナード | Tranquillo・悲しい | 短調で空想的。最後に次の曲の断片が現れる |
| 5 | 卵の殻をつけた雛の踊り | Scherzino・軽快 | バレエ衣装のデッサンが元ネタ。ひな鳥の鳴き声のような装飾音が可愛い |
| 6 | サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ | Andante・暗い | 金持ちと貧乏、2人のユダヤ人の対話。後半で2つの旋律が重なる |
| ― | 第5プロムナード | Allegro・華やか | ラヴェル版ではカット。ピアノ原曲のみに登場 |
| 7 | リモージュの市場 | Allegretto・明るい | フランスの市場で女性たちが口論。16分音符が止まらない疾走感 |
| 8 | カタコンブ | Largo・悲痛 | 地下墓地。ハルトマンへのレクイエム的な曲。直後に「死せる言葉による死者への呼びかけ」が続く |
| 9 | バーバ・ヤガー(鶏の足の小屋) | Allegro・恐怖・快活 | ロシア民話の魔女の小屋を模した時計のデッサンが元ネタ |
| 10 | キエフの大門 | Allegro・絢爛豪華 | テレビCMでも使われる壮大な曲。プロムナードの旋律が再登場する |
この一覧を手元に置いておくだけで、子どもへの説明が格段にスムーズになります。それが基本です。
各曲が長調か短調かでも、子どもが受けとる「明るい・暗い」の感覚がはっきりと変わります。一覧を見るだけでも、長調と短調が交互に並んでいることがわかり、聴き手を飽きさせない設計になっていることに気づけるはずです。つまり曲順そのものに意図があるということですね。
展覧会の絵一覧の中で保育士が押さえるべき「プロムナード」の役割
プロムナードは「展覧会の絵」の中でも特に重要な存在です。意外かもしれませんが、プロムナードはただの「つなぎ曲」ではありません。
プロムナードとはフランス語で「散歩」を意味し、ムソルグスキーが遺作展の会場を歩きながら次の絵に向かう自分自身の姿を音楽で表現したものです。組曲全体で5回(ラヴェル版)または6回(プロムナードの変奏を含む原曲版)登場し、そのたびに雰囲気が変わるのが特徴です。
- 🎺 第1プロムナード:トランペット独奏でスタート。5/4拍子と6/4拍子が交互に現れる変拍子で、歩調そのものを表している
- 🎶 第2プロムナード:ホルンの遠くから聞こえるような音色で「con delicatezza(繊細さをもって)」と指示されている
- 🎸 第3プロムナード:金管の旋律に弦・木管が加わり重厚さを増す
- 😢 第4プロムナード:唯一の短調で空想的。最後に第5曲の断片が予告として現れる
- ✂️ 第5プロムナード:ラヴェル版ではカットされている。ピアノ原曲のみに登場
プロムナードが全曲に統一感をもたらすのが原則です。これは、子どもたちに「同じメロディが出てくるよ」と伝えるだけで、曲を追いかける楽しさが生まれます。保育の音楽鑑賞の場面では、プロムナードが出てきたら「絵から絵へ移動してるね」と語りかけるだけで十分です。実際に2〜3歩歩きながら聴かせると、子どもが身体で音楽を感じやすくなります。これは使えそうです。
第1プロムナードの冒頭は5/4拍子と6/4拍子が交互に変わるという複雑な拍子構造を持ちながら、世界中の人が知る有名なメロディになっています。複雑な仕組みが隠れていると知っておくと、大人として自信を持って子どもに伝えられるようになります。
プロムナードに隠された魅力:展覧会の絵鑑賞のコツをわかりやすく解説したブログ記事です。
展覧会の絵一覧で子どもが特に親しみやすい曲ベスト3と保育活動での活かし方
「展覧会の絵」の中でも、保育の場で子どもたちが特に反応しやすい曲があります。3曲に絞って紹介します。
🐣 第5曲「卵の殻をつけた雛の踊り」
この曲はバレエ「トリルビー」のための衣装デッサン(ひな鳥の衣装を着たダンサーの姿)をモデルにしています。元ネタがしっかり存在する点が確認されているのは全10曲中でも数少ない曲のひとつです。
スピードが速く、装飾音(前打音)がピヨピヨというひな鳥の鳴き声のように聴こえ、左手の半音階がひな鳥がチョコチョコ歩く様子にそっくりです。子どもたちに「ひよこになってみよう」と声がけするだけで、自然に体を動かした表現活動につながります。保育室でも簡単に取り入れられる曲です。
🌳 第3曲「テュイルリーの庭」
パリにある公園で「遊んだ後の子どもたちの口げんか」が副題です。ムソルグスキー自身がこの曲の自筆譜にそう書き残しています。木管楽器が速いパッセージを刻み、子どもが走り回るような軽快さがあります。
実は、子どもが「主役」として描かれた唯一の曲です。つまり保育士としてもっとも共感しやすいテーマです。子どもたちに「これ、あなたたちが遊んでるときの音楽だよ」と言うだけで、聴く姿勢がガラッと変わることが期待できます。
🏰 第10曲「キエフの大門」
組曲全体を締めくくる壮大な曲で、テレビCMや映画でも使われる認知度の高い曲です。ムソルグスキーが生まれた1874年当時、ロシア皇帝への暗殺未遂事件を記念した城門の設計コンペにハルトマンが応募したデッサンがモチーフです。結局その門は建設されませんでしたが、友人ハルトマンの夢が音楽の形で今に残っています。感動的ですね。
曲の途中でプロムナードの旋律が再登場するため、「最初の曲が戻ってきた!」という発見を子どもと一緒に楽しめます。最後の「大きな音がどんどん盛り上がる」クライマックスは、子どもでも直感的にわかります。
保育の表現活動として、これら3曲を聴きながらパステルやクレヨンで色を塗る「音楽×絵画」の活動は、和歌山大学の研究でも幼児の豊かな感性を育む有効な手法として報告されています。「どんな色に見えた?」という問いかけひとつで、子どもの感想が驚くほど豊かになります。
展覧会の絵一覧に登場するモデルの絵画と、知られざる「失われた絵」の話
「展覧会の絵」のモデルになった絵画について、保育士がひとつ知っておくと話が深まる事実があります。実は、10曲すべてについてモデルの絵が確認されているわけではありません。
全10曲のうち、モデルの絵が「断定」されているのはわずか5曲分(6枚)だけです。残り5曲のモデルは現在も所在不明または推定の域を出ません。
1874年の遺作展で展示された400点以上の作品は、展示終了後に所有者へ返却されたり売却されたりして散逸してしまいました。1991年にはNHKと作曲家・團伊玖磨氏がソ連へ渡り取材を行い、「追跡ムソルグスキー展覧会の絵」というNHKスペシャル番組が放送されました。そこで未発見だった5曲分の「候補となる絵」が提示されましたが、それでも断定には至らなかったのです。
現在、断定されている絵が存在するのは以下の曲です。
- ✅ 卵の殻をつけた雛の踊り:バレエ「トリルビー」の衣装デッサン
- ✅ サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ:2枚の人物画(ただし一方は研究者によって異論あり)
- ✅ カタコンブ:パリの地下墓地を描いた絵(ハルトマン本人が描かれている)
- ✅ バーバ・ヤガー:鶏の足の上に立つ小屋を模した時計のデッサン
- ✅ キエフの大門:キエフ市の城門コンペ用の設計図
「グノーム」「古城」「テュイルリーの庭」「ビドロ」「リモージュの市場」は現在も推定段階です。
逆に言えば、10曲のうち5曲については「どんな絵を見て作曲されたかは、今もわからない」というロマンがあります。子どもたちに「じゃあ、どんな絵に聴こえた?」と問いかけることで、「正解がない鑑賞」の楽しさを体験させることができます。絵が残っていないからこそ、想像力が自由になるのです。保育の音楽活動における「対話型鑑賞」の導入として最適な素材です。
Wikipedia「展覧会の絵」:組曲の全構成やモデルの絵画、作曲経緯など網羅的な情報がまとめられています。
展覧会の絵一覧をさらに深く知る:ピアノ原曲とラヴェル版オーケストラ編曲の違い
「展覧会の絵」には2つの主要なバージョンが存在します。保育の現場でどちらを使えばよいか迷う場面もあるでしょう。それぞれの特徴を知っておくと選びやすくなります。
ピアノ原曲版は1874年にムソルグスキーが作曲したもので、ロシア音楽らしい荒削りな力強さがあります。ただし生前には一度も演奏されず、1886年に没後出版されました。ロシアの民族音楽的な独特の雰囲気が強く出ています。
ラヴェル版(オーケストラ)は1922年、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーの依頼を受けて編曲したものです。パリのオペラ座で初演されて大成功を収め、今日「展覧会の絵」として広く知られているのはこのバージョンです。
主な違いを整理すると以下の通りです。
- 🎹 ピアノ原曲版:第5プロムナードが存在する(全16曲構成)
- 🎻 ラヴェル版:第5プロムナードが削除(全15曲構成)
- 🎷 「古城」:ラヴェル版ではサックスが吟遊詩人の歌声を担当(オーケストラでは珍しい使い方)
- 🥁 「ビドロ」:ピアノ原曲は最初からffで始まるが、ラヴェル版はppからクレッシェンドして牛車が近づく効果を出す
オーケストラ版は楽器の色彩感が豊かで子どもが飽きにくい一方、ピアノ版はテンポや表情の変化が直接的に伝わりやすい特徴があります。幼児向けには場面ごとの「楽器あて」を楽しみながらオーケストラ版を聴くのが定番です。
ピアノ版とオーケストラ版の両方を聴き比べることで「同じ曲でもこんなに違う!」という音楽への気づきが生まれ、子どもの音楽的な耳を育てる機会にもなります。曲の違いを比べることが目的です。
ムジクラス(音楽教員の教材研究ブログ):各曲の楽曲構成表や絵画との対応関係を詳しく解説しており、保育・教育への活用に参考になります。
展覧会の絵一覧と保育士だけが気づける独自の視点:曲の「対比と感情の流れ」を子どもと読む
「展覧会の絵」は、保育士が子どもの感情の流れを読むことと共通する構造を持っています。これはあまり語られない視点です。
この組曲は、明るい曲と暗い曲、軽快な曲と重い曲を意図的に交互に並べることで、感情の「山と谷」を繰り返す設計になっています。重要な対比が2か所あります。
まず「テュイルリーの庭(第3曲・長調・軽快)」と、その直後の「ビドロ(第4曲・短調・重々しい)」の対比です。「テュイルリーの庭」の冒頭フレーズと「ビドロ」の伴奏は同じ「2音の連続」という音型を持ちながら、前者は高音・長調・弱音、後者は低音・短調・強音と全く正反対になっています。まるで「子どもの笑顔」と「大人の苦労」を音楽で並べているようです。
次に「リモージュの市場(第7曲・明るく疾走)」から「カタコンブ(第8曲・地下墓地・悲痛)」への流れです。市場の明るい喧騒がAttacca(途切れなく)で突然暗闇の地下墓地に切り替わります。子どもでも「急に変わった!」と感じる劇的な転換です。
保育士として子どもたちに伝えるときは、「さっきは楽しかったのに急に暗くなったね。どんな気持ちになった?」と感情の変化を言葉にさせる問いかけが効果的です。感情に名前をつける練習は、保育における言語発達と情動調整の両方に働きかけます。これが音楽鑑賞の本当のねらいです。
実は保育士が毎日やっている「子どもの気持ちを読み、言葉にして返す」という仕事と、音楽鑑賞の「感情の流れを読む」という行為は、まったく同じスキルを使っています。「展覧会の絵」はその練習素材として理想的な一曲と言えます。音楽と保育は繋がっているということですね。
保育での活用に際しては、全曲を通しで流すより、「テュイルリーの庭→ビドロ」や「リモージュ→カタコンブ」といった対比のある2曲セットで使うのが実践的です。短い時間で大きな感情の変化を体験できます。子どもたちの表情や体の動きをよく観察しながら進めるのが条件です。

