共感教育と歌で育む子どもの感情と思いやり
上手に歌えない保育士のクラスほど、子どもの共感力が高い傾向があります。
共感教育における歌の役割とは何か
共感教育とは、子どもが自分の感情を正しく認識し、同時に他者の気持ちを推察する力を育てる教育アプローチです。保育の現場では、この共感力こそが「思いやり」や「友達関係」の土台になると考えられています。
では、なぜ「歌」がその手段として有効なのでしょうか。
岡山大学の研究(教育実践研究・第5号)によれば、「共通に知っている歌は、感情を共有する際の媒体となり、幼児間のコミュニケーションを円滑にする役割を担っている」と報告されています。つまり歌は、感情を「乗せて運ぶ乗り物」として機能するのです。これは非常に重要な視点です。
音楽が持つリズムやメロディーは、脳の感情処理に直接働きかけます。歌詞の内容を通じて「悲しみ」「喜び」「孤独」「つながり」などの感情に名前がつき、子どもはそれを「自分ごと」として感じ取ります。特に3〜6歳の幼児期は感情の語彙が急速に増える時期であり、歌による感情体験の積み重ねは、この発達に直接リンクします。
さらに、EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員・浦谷裕樹氏は、「共感力は、他人の気持ちや欲求を推察し、良好な人間関係を築くための力であり、グローバル化が進む現代においてますます重要性を増している」と指摘しています。歌によって感情を繰り返し体験することは、まさにこの共感力の土台を育てることにつながります。
歌が共感教育の入口になるということですね。
保育現場で実践!子どもの「共感力」の育て方|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員インタビュー(マイナビ保育士)
共感教育に使いたい歌・選曲のポイントと厳選7曲
共感教育を目的に歌を選ぶとき、「メロディーが難しいかどうか」よりも「歌詞のメッセージが子どもの心に届くかどうか」を優先することが大切です。子どもが歌詞の意味を少しでも感じ取れると、自然と表情が豊かになり、歌いながら感情が動き始めます。
選曲の基本ポイントをまとめると、以下のとおりです。
- 🎶 感情の言葉が歌詞に含まれている……「うれしい」「さびしい」「ありがとう」など、子どもが共鳴できる言葉があるか確認しましょう。
- 🎶 歌詞のイメージが具体的……「友達と手をつなぐ」「一緒に笑う」など、子どもが頭の中でシーンを想像できる歌詞が理想です。
- 🎶 メロディーが子どもの声域に合っている……一般的に幼児の声域はド〜シ(約1オクターブ)程度です。高すぎる曲は歌うことに精一杯になり、感情まで届きません。
- 🎶 繰り返しのフレーズがある……サビや繰り返しのある曲は、2〜3回歌ううちに覚えられるため、感情の定着が早くなります。
現役保育士15年以上のちゃたろ〜氏(保育歌専門ライター)が特に推薦する共感教育向けの曲を紹介します。
| 曲名 | 主なメッセージ | 対象年齢目安 |
|---|---|---|
| ともだちになるために | 友達を大切にすること | 4〜5歳 |
| きみイロ | 個性の違いを認め合う | 4歳〜 |
| 君に会えたから | 友達といる喜び | 5歳〜 |
| てをつなごう(槇原敬之) | 人とのつながりと優しさ | 5歳〜 |
| 私と小鳥と鈴と(金子みすゞ) | みんな違ってみんないい | 5歳〜 |
| なかまはたから | 仲間の大切さ・自然との共生 | 4〜5歳 |
| スマイル(ゆず) | 笑顔で周りを元気にする力 | 5歳〜 |
これらはすべて、「自分だけでなく他者のことを想う」という共感のテーマが歌詞の核心に置かれています。
歌を覚えること自体がゴールではありません。歌を通して「あの子はどんな気持ちかな」と想像できる子どもを育てることが、共感教育としての本質です。
思いやりの心を育む歌7選と保育のポイント|現役保育士が解説(ちゃたろ〜ブログ)
共感教育に活かす歌の実践法:感情ラベリングとの組み合わせ
歌を使った共感教育の効果を最大化するカギは、「感情ラベリング」との組み合わせです。感情ラベリングとは、子どもの感情に言葉という「名前」をつけてあげることを指します。
例えば、「ともだちになるために」を歌い終わった後、保育士がこう問いかけます。「お友達と一緒にいるとき、どんな気持ちになる?」子どもが「なんかいい感じ」と答えたら、「それは『うれしい』って気持ちかな?それとも『あんしん』かな?」と言語化を手伝ってあげるのです。
これがラベリングです。
子どもは自分の内側の感情に気づき、それに名前がつくことで、他者の同じ感情にも気づけるようになります。EQWELの浦谷裕樹氏によれば、「子どもが自分の気持ちをきちんと見つめられるようになると、その姿勢は他者の気持ちに対しても向かい、共感力の向上に結びつく」とのことです。
感情の語彙が豊かな子どもは、友達が泣いている理由を「悲しいから?怖いから?さみしいから?」と複数の視点から考えられます。この思考こそが共感力の核心です。
具体的な保育実践の流れは以下のとおりです。
- 🌟 ステップ①:歌を歌う……まずは楽しく歌います。感情を「仕込む」フェーズです。
- 🌟 ステップ②:問いかける……「この歌の○○はどんな気持ちかな?」と登場人物の感情に目を向けさせます。
- 🌟 ステップ③:言葉にする……子どもの答えに対して「それって『さみしい』って感じ?」と感情の名前を一緒に見つけます。
- 🌟 ステップ④:自分に引き寄せる……「あなたも同じ気持ちになったことある?」と自己体験につなげます。
このプロセスは1回5分程度でできます。歌の後に必ず時間を設けるようにすると習慣化しやすく、子どもの感情語彙が日を追うごとに増えていきます。
子どもたちが「感情のラベリング」ができるように|保育現場のスタッフブログ(株式会社ちら)
共感教育の歌活動でありがちなNG:「上手に歌わせよう」とする落とし穴
保育士が共感教育に歌を使うとき、最も陥りやすいミスは「正しく・上手に歌わせること」を目的にしてしまうことです。これが実は、共感力の発達を阻む一番の落とし穴になります。
「音程が合っているか」「全員が揃っているか」に注意が向くと、保育士の声かけは必然的に「技術の修正」になります。そうなると子どもの注意も感情ではなく「声の出し方」に向いてしまいます。感情を感じる余白がなくなるわけです。
保育コレクション(保育士向けメディア)でも、「自分が歌を上手く歌うことにこだわらず、子どもが楽しく歌えるよう意識していくと良い。実際に歌が苦手な担任のクラスでも、子どもたちはとても上手」という現場の声が紹介されています。これは非常に示唆に富む事実です。
つまり「保育士が上手に歌えない」ことは、共感教育においてはむしろ子どもの自発的な表現を引き出す余白になり得るのです。「先生も一緒に感じながら歌う」というスタンスが、子どもの感情参加を促します。
歌が苦手な保育士も、このスタンス次第では十分な共感教育の実践者になれます。
一方で、歌活動における別のNGとして「一斉に同じ歌を繰り返す」だけの活動も挙げられます。同じ曲を機械的に5回繰り返しても、感情の動きは最初の1〜2回で終わります。その後は「作業」になってしまいます。
共感教育としての歌活動には、「感じる時間」と「語る時間」のセットが不可欠だということが原則です。
共感教育の歌活動に「SEL」の視点を加えた独自アプローチ
近年、日本の保育・教育現場でも注目されている「SEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング)」の視点を歌活動に組み込むと、共感教育の効果がさらに深まります。これは検索上位の記事ではほとんど取り上げられていない、実践の最前線にある考え方です。
SELとは、自己認識・自己管理・社会的認識(=共感)・対人関係スキル・合理的意思決定の5つの力を育てる教育フレームワークです。もともとは欧米から発信され、日本でも2022年頃から保育・学校現場への導入が始まっています。
歌活動とSELを組み合わせた実践例を紹介します。
- 🎯 自己認識×歌……「今日はどんな気持ちで歌いたい?」と歌う前に子どもに問いかけます。自分の状態に気づく力を育てます。
- 🎯 社会的認識×歌……「この歌の子は今どんな気持ちかな?」と歌の登場人物に感情移入させます。これが共感力の直接的なトレーニングになります。
- 🎯 対人関係スキル×歌……2人組や小グループで歌い合い、「相手の声を聴きながら歌う」体験を積みます。相手を感じながら動く練習です。
特に「今日はどんな気持ちで歌いたい?」という問いかけは、夢ナビ講義(高崎健康福祉大学関連)でも「虹が出ると、どんな気持ちになる?と尋ねることで子どもの感性が育まれる」と紹介されており、歌前の感情チェックインとして非常に効果的です。
このアプローチでは、1回の歌活動が「SELの5分間ワーク」になります。
特別な道具は一切不要です。いつもの歌に「問いかけ1文」を加えるだけで、歌活動は共感教育の場に変わります。保育室にある絵カードや表情カードを歌の前後に使うと、感情の言語化がさらにスムーズになります。気持ちの名前を可視化するツール(表情チャートやきもちカード)は、文具店や保育専門のオンラインショップで500〜1,000円程度で入手できます。
SELと歌を組み合わせることが、これからの共感教育の形です。
ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)とは?保育現場での非認知能力の育て方|保育士バンクコラム

共感力 (ハーバード・ビジネス・レビュー [EIシリーズ])

