絶対音感教育と歌で育む子どもの豊かな音楽力

絶対音感教育と歌で子どもの音楽力を育む保育実践ガイド

歌だけ歌わせても、絶対音感は身につきません。

この記事の3つのポイント
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絶対音感には「6歳」という臨界期がある

絶対音感が育つのは6歳頃までとされており、保育士が関わる年齢はまさにゴールデンタイム。正しい知識で関わることが子どもの音楽力を大きく左右します。

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歌の使い方しだいで効果が変わる

「ただ楽しく歌う」だけでは絶対音感は育ちにくいです。ドレミ唱や音名読みを組み合わせた歌い方が、音感教育としての歌を効果的にします。

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絶対音感より「相対音感」が音楽には大切という研究もある

新潟大学の国際比較研究では、日本の音楽学生は絶対音感が高い一方で相対音感が弱いと報告されています。両方をバランスよく育てる視点が保育には求められます。

絶対音感教育とは何か:歌と音感の基本をおさらい

 

「絶対音感」という言葉は、保護者の間でも注目度が高く、保育の現場でもよく耳にするようになりました。しかしその正確な意味を理解したうえで保育に活かしている人は、意外と少ないのが現状です。

絶対音感とは、基準となる音がなくても、聴いた音の音名(ド・レ・ミなど)を瞬時に正確に識別できる能力のことです。たとえば、街中で聞こえてきた救急車のサイレンを聞いて「これはシ♭だ」とわかる、それが絶対音感です。つまり”音の絶対的な高さ”を記憶している状態ですね。

これに対して「相対音感」は、ある基準の音があるときに、その音との高低関係を把握する能力です。ハモリ転調への対応には相対音感が欠かせません。

絶対音感と相対音感は別物です。

種類 特徴 習得の時期
絶対音感 音を聞くだけで音名がわかる 主に3〜6歳の臨界期
相対音感 音と音の距離感(音程)を把握できる 年齢を問わず習得可能

保育士として歌を使った音感教育を考えるとき、この2種類をセットで理解しておくことが基本です。「絶対音感さえ育てれば完璧」とは言えず、相対音感も同時に意識することが求められます。

絶対音感教育の臨界期:歌での働きかけが有効な3〜6歳とは

絶対音感を身につけるには「臨界期」があります。これは脳と聴覚の発達において、特定の能力が育ちやすい期間のことです。絶対音感の臨界期は、一般的に3〜6歳頃とされています。

聴覚は五感の中でも発達が早く、生後すぐから機能しています。しかし、音の高さを「音名として記憶・識別する」能力は、脳の言語野や聴覚野が柔軟に活動している幼児期にしか十分には育ちにくいとされています。6歳を超えると習得が急激に難しくなるというのは、複数の研究が示しています。

これは保育士にとって非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、保育士が日々関わる0〜6歳という年齢は、まさに絶対音感の臨界期そのものだからです。

この時期が音感教育の勝負どころです。

ただし、臨界期だからといって焦って詰め込む必要はありません。子どもが音楽を楽しいと感じることが、音感発達の土台になります。保育の中で自然に歌に触れ、音を意識する機会を作ることが、もっとも有効なアプローチです。

たとえば、朝の会や給食の前後に童謡を1曲歌うだけでも、継続することで子どもの耳は確実に育っていきます。毎日2〜3分のドレミ唱(歌詞ではなく音名で歌うこと)を加えるだけで、音への意識が大きく変わってきます。

【白百合幼稚園】絶対音感の発達と臨界期について(臨界期・音楽的発達の解説)

歌を使った絶対音感教育の実践:童謡「かえるのうた」から始めるドレミ唱

保育の現場で絶対音感教育を取り入れるとき、特別な教材や楽器がなくても始められる方法があります。それが「童謡を使ったドレミ唱(階名唱)」です。

ドレミ唱とは、歌詞ではなく「ドレミファソラシド」の音名で曲を歌う方法です。歌詞で歌うのとは違い、音名を声に出すことで、子どもが音と音名を結びつける脳の回路が育ちやすくなります。

🎵 ドレミ唱におすすめの童謡(保育園でよく使われるもの)

  • 「かえるのうた」… ド・レ・ミ・ファで構成されており、音域が狭く最も入門向け
  • ちょうちょ」… ド・レ・ミ・ソ・ラの5音で構成されており、次のステップに最適
  • きらきら星」… 音の跳躍があり、音程感覚を養いやすい
  • 「ドレミのうた」… 音名と歌詞が一致しており、音名を意識させやすい

特に「かえるのうた」は、ド・レ・ミ・ファという4音だけで歌える曲です。保育士がピアノで単音を弾きながら「この音、なんていう名前かな?」と問いかけるだけで、立派な音感レッスンになります。これは使えそうです。

実践の手順としては、まず歌詞で歌って曲に親しんでもらい、次にゆっくりとドレミで歌い直す流れが自然です。最初から音名を覚えさせようとせず、「音遊び」の感覚で取り組むのがポイントです。

1日わずか2分でも毎日続けることで、3〜4か月後には音名を自然に口にする子どもが出てきます。継続が音感を育てるということですね。

【kodomomusiq】絶対音感・相対音感の違いとリトミックを使った音感教育の実践解説

絶対音感教育で歌うときの注意点:実は音感を妨げる3つのNG行動

保育の現場でよかれと思ってやっている「歌の指導」の中に、音感の発達を妨げてしまう行動が潜んでいることがあります。知っておかないと損する内容なので、ここで整理しておきましょう。

①音程が不正確な歌を繰り返す

子どもが自由に歌うことは大切ですが、保育士自身が音程のずれた歌を繰り返し聴かせることは避けたいです。絶対音感の発達期にある子どもの耳は非常に敏感で、繰り返し聞いた音をそのまま記憶します。「だいたい合っていればいい」という認識は要注意です。

ピアノの音を基準にして、自分の声の音程を確認しながら歌う習慣をつけましょう。音程が合っているかどうか不安な場合は、電子ピアノやスマートフォンの音程チェックアプリを使うことで確認できます。

②毎回違うキー(調)で歌わせる

絶対音感は「この音はドだ」という記憶の積み重ねで育ちます。そのため、同じ曲を毎回違う高さで歌わせると、音名と音の高さの対応関係が定着しにくくなります。特に絶対音感教育を意識する場合は、同じ曲は同じキーで歌わせることが重要です。

キーを統一することが条件です。

③歌を「感情表現」だけで教える

「楽しく歌えばいい」という考え方は間違いではありません。しかし、それだけでは音感教育にはなりません。たとえ楽しく歌えていても、音名を意識せずに歌い続けるだけでは、絶対音感は育ちにくいです。音楽の喜びと音名への意識はセットで育てるのが理想的です。

絶対音感だけを重視する保育が生む落とし穴:相対音感との両立が鍵

ここで、少し立ち止まって考えてほしいことがあります。新潟大学の宮崎謙一名誉教授らの国際比較研究(2018年)によると、日本・中国・ポーランド・ドイツ・アメリカの音楽専攻学生1,000名以上を対象とした調査で、日本の音楽学生は絶対音感の成績が高い一方で、相対音感のテストでは他国の学生に劣るという結果が出ました。

これは非常に示唆に富む発見です。

絶対音感に偏った教育を幼少期に受けた子どもが、音楽的に最も重要とされる「音と音の関係性を感じとる力(相対音感)」が弱くなってしまう可能性があると研究は指摘しています。保育の現場でも、「絶対音感を育てること」が目的化してしまい、音楽そのものを楽しむ感覚が薄れてしまうのは本末転倒です。

【新潟大学公式】日本の音楽学生は絶対音感が優れているが相対音感が弱い:国際比較研究の成果

厳しいところですね。

では、保育士はどうすればよいのでしょうか。答えは「音感教育と音楽体験の両立」です。具体的には次のようなバランスを意識することが大切です。

  • 💡 週に2〜3回はドレミ唱で音名を意識した歌の時間を設ける(絶対音感の刺激)
  • 💡 それ以外の時間は、歌詞で楽しく歌い、音楽の喜びを存分に味わわせる(感性・相対音感の土台)
  • 💡 ハモリや手拍子など「他の音との関係」を感じる活動も定期的に取り入れる

絶対音感と相対音感は「どちらかを選ぶ」ものではなく、両方をバランスよく伸ばす意識が重要です。これが今の音楽教育研究が示している最前線の考え方です。

保育士が今日から実践できる!絶対音感教育の歌活動プログラム

ここまでの内容をふまえて、保育士が現場ですぐに活用できる実践プログラムをまとめます。特別な教材や費用は一切不要です。毎日の保育の中に、少しだけ意識を加えるだけで始められます。

🎵 週5日の音感歌プログラム(例:3〜5歳児クラス向け)

曜日 活動内容 ねらい
月曜 今週の曲を歌詞で歌う(導入) 曲に親しむ・楽しさを感じる
火曜 ピアノに合わせてドレミで歌う 音名と音の高さを結びつける
水曜 「この音は何?」ゲーム(単音当て) 音の識別・聴覚の集中
木曜 ドレミで歌う+手拍子でリズム 音名×リズム感の同時強化
金曜 歌詞で通し歌い(振り返り) 音楽の楽しさの再確認

このプログラムのポイントは、月曜と金曜に「歌詞で歌う日」を入れていることです。音楽を楽しむ時間を確保することで、音感トレーニングだけになって子どもが疲弊するのを防ぎます。音感の刺激と音楽の喜びのバランスが原則です。

また、「この音は何?ゲーム」は特別な準備がいりません。ピアノで1つの音を弾いて「ドかな、レかな?」と子どもたちに問いかけるだけです。正解・不正解よりも「音に耳を傾ける習慣」を育てることがねらいです。

最初は音名がわからなくても大丈夫です。

子どもたちが音に集中しようとする姿勢が育まれれば、それだけで十分な成果です。続けることで、音を聴くだけで音名がふっと浮かんでくる子が出てきます。その瞬間は、保育士としてとても嬉しい瞬間のひとつになるでしょう。

音感教育は、特別なスキルがなくても保育士ならできます。大切なのは知識と継続性です。毎日の歌の時間に少しだけ意識を加えることが、子どもの一生モノの音楽力につながっていきます。


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