幼児音楽研究会の歌で保育士が知るべき選曲と実践
保育でピアノを弾きながら歌うと、子どもの歌声が育ちにくくなることが研究で示されています。
幼児音楽研究会とは何か・歌を中心とした活動の概要
幼児音楽研究会(通称:YOU-ON-KEN)は、1987年に設立された保育者・音楽講師・養成校教員向けの専門研究団体です。主に保育者、音楽講師、保育関係の養成校の教員を対象とし、年4回の例会・年2回の機関誌発行・年1回の研究大会を継続的に開催しています。2026年2月時点で170回以上の例会実績を持ち、保育音楽の分野では国内屈指の歴史と積み重ねを誇ります。
つまり、現場の保育士が直接学べる場です。
例会のテーマは多岐にわたります。「あそびうたいっぱい」「子どもと歌を楽しむために」「子どもと一緒に創るあそび歌」「わらべ歌の実践」「カール・オルフの教育理念に基づく幼児の音楽表現」など、実践に直結したテーマが毎回設定されます。参加費は会員・学生1,000円、一般2,000円と手頃な価格設定で、現場の保育士も参加しやすくなっています。
注目すべきは、単に楽曲を紹介するだけでなく、「子どもの表現を引き出す視点」を徹底的に重視している点です。東京学芸大学の水﨑誠氏をはじめとした研究者が常任理事として関わり、「楽しい気持ちが表現することの源」という理念のもとで活動が展開されています。保育士養成校の教員だけでなく、現場の保育者がともに参加して知見を深め合うスタイルが、この研究会の大きな特徴といえます。
参加することで、保育現場では得られない最新の研究知見と実践アイデアを一度に受け取ることができます。これは使えそうです。
幼児音楽研究会 公式サイト(例会スケジュール・申込方法などの最新情報はこちら)
幼児音楽研究会の歌が重視する年齢別の音域と選曲基準
保育現場でよく歌われる子どもの歌を300曲分析した研究(宮崎国際大学・日髙まり子氏ら、2021年)によると、保育現場で使われるあそび歌の約70%が音域1オクターブ以上だったことが判明しています。一方、幼児が実際に無理なく歌える声域は年齢によって大きく異なります。
音域のギャップが問題です。
年齢別の声域の目安をまとめると、次のとおりです。
| 年齢 | 無理なく出せる声域 | 音程の幅 |
|---|---|---|
| 1歳児 | C♯¹〜G¹ | 3度前後 |
| 2歳児 | C♯¹〜A¹ | 3〜4度 |
| 3歳児 | B♭⁰〜A¹(約半オクターブ) | 5度前後 |
| 4歳児 | B♭⁰〜B♭¹ | 5〜6度 |
| 5歳児 | A⁰〜B¹(約1オクターブ) | 6〜7度 |
この数字が示すのは、3歳児が無理なく歌える幅はピアノの鍵盤でいうと「ド〜ソ」程度、つまりはがきの横幅ほどのごく狭い範囲だということです。それにもかかわらず、保育士が保育現場で歌わせる曲の7割は1オクターブを超えています。このギャップが「どなり声で歌う癖」や「声帯への負担」「歌への苦手意識」につながるのです。
音域に合った曲を選ぶのが原則です。
幼児音楽研究会でも繰り返し強調されている重要な視点が、「子どもの発達段階に沿った選曲」です。高すぎる音域の曲を無理に歌わせ続けると、子どもは声を張り上げて歌うしかなくなり、その状態が習慣化すると喉のポリープ形成リスクも高まると指摘する専門家もいます。保育士として「元気よく歌ってくれている」と安心していた場面が、実は子どもの声帯に負担をかけていたという事態は決して珍しくありません。
選曲の具体的なポイントとして、「わらべうた」が特に推奨されます。わらべうたは伝統的に幼児の音域に合わせて作られており、4〜5度の音域に収まる曲が多いため、3歳以下の子どもでも無理なく歌えます。選曲に迷ったときには、まずわらべうたを候補にするのが確実な方法です。
保育ネクスト「子どもの音域に合わせた歌の選び方」(年齢別の音域と選曲のポイントを詳しく解説)
幼児音楽研究会が実践するあそびうた・わらべうたの活用法
幼児音楽研究会の例会では、「あそびうた」や「わらべうた」を保育に取り入れる実践がたびたびテーマになっています。荒巻シャケ氏、三根政信氏、石川和男氏、ケロポンズなど、現役の保育音楽アーティストが登壇し、現場で即使える具体的な手法を伝えてきました。
🎵 あそびうたを保育に取り入れるときのポイントは次の3点です。
- 子どもとの「対話」を大切にする:一方的に歌を覚えさせるのではなく、歌いながら子どもの反応を受け取り、子ども自身が歌遊びに参加できる余地を意図的に作ることが重要です。2019年の例会「子どもと対話しながら楽しむあそび歌」でも、この応答的な姿勢が特に強調されていました。
- 手・体を使った表現と組み合わせる:手遊び歌やわらべうたは、歌と体の動きが一体化しているため、言語発達や運動機能の向上にも同時に働きかけます。歌詞を覚えられない子どもでも、体を動かすことで参加できるという大きなメリットがあります。
- 季節・行事と連動させる:春は「チューリップ」「キャベツのなかから」、夏は「七夕」関連のうた、秋は「まつぼっくり」「どんぐりころころ」、冬は「赤鼻のトナカイ」「カレンダーマーチ」など、季節感のある選曲は子どもに豊かな感性を育てます。保育の見通しを立てる際も、月ごとの季節の歌リストをあらかじめ作っておくと便利です。
わらべうたの音域は原則として狭いため、声域がまだ発達途上の0〜2歳児クラスでも安心して取り入れられます。0歳児にはスキンシップを伴う「あそばせうた」(くすぐりうた・抱っこうた)が最適です。言葉が話せない時期でも、保育士の声とふれあいを通じて子どもは「音楽的な体験」を蓄積していきます。
いいことですね。
また、2022年の例会「子どもと一緒に創るあそび歌」(荒巻シャケ氏)では、保育士が子どもと共同で新しいあそびうたを生み出す手法が紹介されました。既存の歌を使うだけでなく、子どもの日常のセリフや動作を即興的に歌にしていくことで、子どもの創造性と自己表現力が格段に引き出されます。
わらべうたあそび研究会・WAK(0〜2歳児向けわらべうたの遊び方・生活場面別解説)
幼児音楽研究会の歌指導でありがちな誤解とピアノ伴奏の落とし穴
「ピアノで伴奏しながら歌えば子どもも歌いやすい」と考えている保育士は少なくありません。実は、これは逆効果になるケースがあります。
芦屋大学の研究(2023年)によると、保育士がピアノを弾きながら歌う場合、ピアノの音量が保育士の声を実質的にかき消す状態になりやすく、子どもたちへのモデル(手本)となる歌声が届きにくくなると指摘されています。ガイドとなるはずのピアノが、歌声を阻害している構図です。
これは意外ですね。
さらに、弾き歌いに集中する保育士は子どもから目が離れやすく、子どもたちの表情や反応を見ながら歌を届けるコミュニケーションが難しくなります。幼児音楽研究会でも、歌を「保育士と子どもが響き合う時間」として捉える視点が繰り返し強調されており、ピアノなしで向き合って歌う場面の重要性が指摘されています。
では、どうすればよいのでしょうか?
具体的な対策として次の方法が有効です。
- ア・カペラで歌う場面を積極的に作る:特に新しい歌を教えるときは、ピアノなしで保育士が声だけで範唱するほうが子どもに歌声が正確に届きます。子どもも保育士の口元を見やすくなるため、言葉の習得にもつながります。
- ピアノを使う場合は音量を控えめにする:バイエル程度の平易な伴奏を選び、歌声が主・伴奏が従になるよう意識することが肝心です。難しい伴奏を弾くことに集中するのではなく、子どもの顔を見ながら歌うことを優先しましょう。
- 録音・CDを活用する手段もある:現在はYouTubeや音楽配信サービスでも多数の保育向けあそびうたが公開されています。保育士が子どもとともに動いたり踊ったりするためにBGMとして活用するのも一つの選択肢です。
「弾き歌いが上手くなれば良い保育になる」という思い込みを手放すことが、まず重要な一歩です。歌の上手下手よりも、保育士が子どもと視線を合わせながら楽しそうに歌う姿そのものが、子どもの歌う意欲を引き出します。
ボイストレーニングが気になる保育士には、保育向けのボイスケアや発声法を専門に解説した書籍や、保育士向けボイストレーニングのオンライン講座も近年増えています。声帯の健康を守りながら長く現場で歌い続けるために、早めに知識を身につけておく価値があります。
保育IS「保育士の歌の悩みをズバッと解決!ボイストレーナーが練習のコツを伝授」(発声法・音程改善のヒントが豊富)
保育士が幼児音楽研究会の歌活動を日常保育に落とし込む独自メソッド
幼児音楽研究会の研究知見を、日々の保育の中でどう活かすか。これが保育士にとって最も実践的な課題です。研究大会や例会で得た知識は、日常の保育活動に継続的に取り入れてこそ意味を持ちます。
まず、「朝の会」と「帰りの会」に季節の歌を1〜2曲固定で取り入れるだけでも効果が出ます。1ヶ月を通じて同じ曲を繰り返すことで、子どもはメロディを自然に覚え、自分から口ずさむようになります。これが子どもにとっての「音楽の習慣化」です。
繰り返しが基本です。
次に着目したいのが「即興的なあそびうた」の活用です。幼児音楽研究会では「子どもが主役になる音楽活動」を重視しており、特定の歌を教え込むのではなく、子どもの日常の遊びや出来事を即興的に歌にしていくアプローチが推奨されています。たとえば、砂場で遊んでいる子どもの様子を「♪ちゃんと積んだよ たかいね」などと即興で歌いかけることで、子どもは保育士と音楽で会話する体験を積めます。
研究大会の場では、この「応答的な歌遊び」が子どもの創造性と人間関係の広がりに深く関わることが繰り返し報告されています(2020年・島本一男氏の例会発表より)。かたちだけの歌活動ではなく、子どもの心に響く歌遊びを日常の保育に組み込むことが、幼児音楽研究会が一貫して訴えてきたメッセージです。
以下のような週次ルーティンを参考にしてみてください。
| タイミング | 歌活動の内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 朝の会(毎日) | 季節の歌1曲(固定) | 音楽の習慣化・季節感の形成 |
| 自由遊び中(週2〜3回) | 即興あそびうたでのかかわり | 応答的な関わり・創造性の育成 |
| 帰りの会(毎日) | 手遊び歌またはわらべうた | 情緒の安定・1日の締めくくり |
| 発表会前(月1〜2回) | 合唱・合奏練習(音域に配慮した曲) | 協調性・達成感の体験 |
さらに、幼児音楽研究会の機関誌や例会資料には実践報告が豊富に掲載されています。会員になると年2回の機関誌を受け取ることができ、現場のリアルな保育事例が多く含まれています。保育士としてのスキルアップに直結する情報源として、積極的に活用する価値があります。
この情報を日常に取り入れるだけで、保育の質は確実に変わります。子どもが歌を「楽しむ」場面が増えるだけでなく、保育士自身も音楽を媒介にして子どもとより深くつながる喜びを感じられるようになるでしょう。それが幼児音楽研究会が長年にわたって伝え続けてきたメッセージの本質です。
宮崎国際大学「幼児の歌唱声域と子どもの歌曲集の音域についての考察」(300曲の楽曲分析データと年齢別声域の詳細)

うたって、つくって、あそぼう 幼児の表現指導

