ただいまの歌 矢野顕子が保育現場で愛される理由と歌い方

ただいまの歌と矢野顕子——保育士が知っておきたい全知識

あなたが「ただいまの歌」を子ども向けの曲だと思って選ぶと、実は大人の自己肯定を歌った歌詞で保護者が涙してしまうことがあります。

この記事でわかること
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「ただいまの歌」の誕生背景

矢野顕子と森山良子によるユニット”やもり”の楽曲で、2010年にスタジオジブリ制作・日清製粉110周年CMソングとして生まれた経緯を解説します。

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歌詞の世界観と保育での活用法

「わたしにごくろうさん」という言葉が持つ意味と、帰りの会をはじめとした保育現場への取り入れ方をわかりやすく紹介します。

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著作権と保育施設での演奏ルール

保育室でこの歌を演奏・使用する際にJASRACへの手続きが必要かどうか、知らないと損するポイントをしっかり整理します。

「ただいまの歌」矢野顕子×森山良子が生んだ名曲の誕生背景

 

「ただいまの歌」は、矢野顕子と森山良子が結成したユニット「やもり」の楽曲です。2010年、日清製粉グループの創業110周年記念キャンペーンCMソングとして書き下ろされました。このCMはスタジオジブリが制作を担当し、絵コンテ・演出は宮崎吾朗、プロデューサーは鈴木敏夫という豪華な顔ぶれです。「ホーホケキョ となりの山田くん」でもお馴染みの作画家・近藤勝也が描いた猫キャラクター「コニャラ」が登場するアニメーションと、矢野顕子の温かい歌声が相まって、放映直後から大きな話題を呼びました。

「やもり」というユニット名も、じつは少しユニークな由来があります。ヤモリ(守宮)は家を守る縁起の良い生き物とされていることから、”家に帰る”というこの曲のテーマと自然に重なります。作詞・作曲はともに矢野顕子が担当。「ただいまの歌」はCMソングを超えた存在として、2010年7月に発売されたアルバム『あなたと歌おう』にも収録されました。

注目すべきは、この楽曲がNHKの番組ではなく企業CMから生まれた曲だという点です。保育士の間では「NHKみんなのうた」などのルートで知られた曲と思い込んでいる方もいますが、それは誤りです。同時期に「やもり」は「風のブランコ」をNHKみんなのうたで発表しているため、混同されやすいのかもしれません。つまり「ただいまの歌」は、企業CMという異色のルートで誕生した、保育業界とは別の起点を持つ楽曲なのです。

さらに2018年には、矢野顕子のコラボレーションアルバム『ふたりぼっちで行こう』の中で「ただいまの歌 〜ふたりぼっちで行こうver.〜」として再録されました。このバージョンにはU-zhaan(タブラ奏者)、環ROY、鎮座DOPENESSという異ジャンルのアーティストが参加し、ヒップホップ的なアレンジで原曲に新たな息吹を与えています。これが保育士の方にとっては意外と知られていない事実です。

スタジオジブリ公式サイト:日清製粉110周年記念CM「コニャラ」の制作クレジット・全シリーズ紹介

「ただいまの歌」矢野顕子の歌詞が持つ深いメッセージを読み解く

「ただいまの歌」の歌詞は、一見シンプルに見えてとても深いメッセージが込められています。歌詞は次のような内容です。

フレーズ 読み取れるメッセージ
ただいま ただいま 帰りを告げる、存在を確認する言葉
たのしいことも ありました/つまんないことも ありました 一日の出来事の等価肯定
いっしょうけんめい はたらいた/わたしに ごくろうさん 自分自身を労う自己肯定の表現
おかえりなさいって きこえても/きこえなくても かまわない 他者の承認に依存しない、自立した心
ここにかえって これたから 帰れたこと自体への感謝と安堵

この歌の最大の特徴は、「わたしにごくろうさん」という自分自身を主語にした自己肯定の言葉です。楽しいことも、つまらないことも、一日をまるごと受け止めて「それでよかった」と言い切るこの構造は、大人にとって非常に心に沁みます。これが重要です。

保育士として注意したいのは、この歌詞が子ども向けではなく、大人の目線で書かれているという点です。「いっしょうけんめいはたらいた」という表現は就労する大人のものですし、「おかえりなさいって聞こえても聞こえなくてもかまわない」という独立した精神は、幼い子どもよりも働く大人に響く言葉です。帰りの会の場で子どもたちに歌う歌として使う場合は、この点を理解したうえで導入することが大切です。

一方で、この歌詞には一日をまるごと受け入れる包容力があります。保育現場でいえば、子どもたちが「楽しかったこと」「嫌だったこと」の両方を抱えて家に帰る—そのすべてを「ごくろうさん」と言える温かい空気を作るための歌として使うことができます。歌詞の意味を保育士が深く理解することが条件です。

また、子どもにこの歌を教える際、「おかえりなさいってきこえてもきこえなくてもかまわない」というフレーズが誤解を生まないよう配慮が必要です。「誰かが迎えてくれなくてもいい」と受け取られると、帰宅後に親の出迎えがない家庭環境を気にする子どもに影響を与える場合があります。この部分の歌詞をどう子どもたちに説明するか、事前に考えておきましょう。

うたてん:「ただいまの歌」(やもり)の歌詞全文(ふりがな付き)

「ただいまの歌」矢野顕子を保育の帰りの会で活用する具体的な方法

「ただいまの歌」を保育現場に取り入れる場合、まず想定すべき場面は帰りの会(降園前のサークルタイム)です。この時間帯は、一日を振り返り、落ち着いた気持ちで家庭へ繋げるための大切な時間です。

具体的な活用ステップを整理すると、次のような流れが考えられます。

  • 📌 歌う前の導入:「今日一日、何が楽しかった?」と短く問いかけ、子どもたちが一日を振り返るきっかけを作る
  • 📌 歌いながら手を動かす:「ただいま」の言葉に合わせて手を合わせたり、胸に手を当てるなど、シンプルな動作を添える
  • 📌 「ごくろうさん」の意味を伝える:「今日もよく頑張ったね、自分に”えらかったよ”って言ってみよう」と言葉を補足する
  • 📌 ピアノ伴奏はシンプルなコードで十分:CとFの2コードを基本にした簡単アレンジでも十分に歌える曲です

ピアノが苦手な保育士にとってうれしいのは、この曲が2〜3コードの基本進行で弾けるシンプルな構成であることです。原曲は矢野顕子によるピアノ演奏ですが、保育現場用の簡易アレンジ版の楽譜も存在します。楽器が得意でない方でも取り組みやすい曲です。

また、乳児クラス(0〜1歳)では、メロディーに合わせてゆったりと体を揺らしながら歌うことが有効です。歌詞の理解より音楽的な安心感を優先するのが乳児クラスの基本です。幼児クラス(3〜5歳)では、歌詞の内容を絵本のように噛み砕いて話したうえで歌うと、子どもたちの理解と感情表現を引き出しやすくなります。

さらに、この曲は保護者対応の場面でも活用できるという意外な側面があります。入園説明会や保護者会のBGMとして流すと、「家に帰ってきた安心感」を演出でき、保育園への信頼感醸成にもつながります。運営上の工夫として覚えておくと役立ちます。

仁愛大学リポジトリ:幼児の歌唱活動におけるピアノ伴奏の役割と効果(学術論文・保育士向け参考資料)

「ただいまの歌」矢野顕子と保育士が知るべき著作権の注意点

保育現場で「ただいまの歌」を使う際、見落とされがちなのが著作権の問題です。これは保育士として絶対に押さえておきたい知識です。

まず大前提として、「ただいまの歌」はJASRACの管理楽曲です。作詞・作曲は矢野顕子で、JASRACに著作権が信託されています。以下のケース別に使用ルールが変わります。

  • 🎵 保育室でピアノ伴奏しながら子どもたちと歌う:「営利目的でない」「入場料を取らない」「演奏者に報酬を支払わない」という3条件を満たせば、著作権法第38条により手続き不要です
  • 🎵 発表会お遊戯会で演奏する:無料開催で保育士が演奏者として報酬を受けない場合は手続き不要。ただし保護者への有償DVD配布には別途JASRACへの許諾申請が必要です
  • 🎵 保育園のホームページやSNSでBGMとして使用する:JASRACへの申請が必要です。手続きなしで動画に使用してSNS公開すると著作権侵害になるため注意が必要です
  • 🎵 卒園アルバム・DVDのBGMとして使用する:JASRACへの利用許諾申請が必要です。申請はJASRACのWebサイトからオンラインで行えます

結論は明確です。「歌う」行為は原則OK、「録音して配布・公開する」行為は要申請というのが基本ルールです。

特に気をつけたいのがSNS投稿です。子どもたちが歌っている様子をそのまま撮影してInstagramやYouTubeにアップする場合、BGMに「ただいまの歌」が含まれているだけで著作権申告の対象になります。近年は音楽の自動検出システムが精度を上げており、知らずに投稿して動画が削除されたり収益化できなくなる保育士が増えています。

著作権の確認は、JASRACの無料データベース「J-WID(作品データベース)」を使えば誰でも無料で調べられます。楽曲名で検索すると管理状況が一目でわかります。

JASRAC公式:学校など教育機関での音楽利用ガイド(著作権法第35条・第38条の詳細説明)

「ただいまの歌」矢野顕子が保育士自身の自己ケアにも響く理由【独自視点】

保育士という職業は、感情労働の側面が非常に強い仕事です。子どもたちの「ただいま」を毎日受け止め、保護者の不安にも寄り添い、園内の連絡業務もこなす。そんな一日の終わりに「ただいまの歌」を口ずさむことが、保育士自身の精神的なセルフケアになるという視点はほとんど語られていません。

「わたしにごくろうさん」というフレーズは、まさに保育士が自分自身に向けて言える言葉です。子どもが怪我をしたとき、保護者とのコミュニケーションがうまくいかなかったとき、そういった「うまくいかなかった日」ですら「いっしょうけんめいはたらいた、わたしにごくろうさん」と言える—これが、この歌の本当の力です。

厚生労働省の保育所保育指針においても、保育士の精神的健康の維持は重要なテーマとして位置づけられています。保育士の離職率が高い背景には、精神的な消耗が大きな割合を占めていることが指摘されており、2024年の調査では保育士の約6割が仕事上の強いストレスを感じているという結果も出ています。

帰りの会でこの歌を子どもたちと歌い終えた後、保育士自身がひと呼吸置いて「今日も頑張った」と内側から感じる時間を持つ—そのきっかけとして「ただいまの歌」を意識的に使ってほしいのです。これは使えそうです。

矢野顕子という音楽家は、子どもの純粋さと大人の深みを同時に持った稀有なアーティストです。「ごはんができたよ」「春咲小紅」など、彼女の楽曲には普段の生活そのものを肯定する力があります。「ただいまの歌」もその系譜に連なる一曲として、子どもへの歌い聞かせと同時に、保育士が自分自身を労う道具として活用する視点を持つことで、この曲の価値はより豊かになります。

保育士が楽しそうに、心から歌う姿を子どもたちは見ています。歌に込められた意味を自分のものにしている保育士が歌うとき、その空気感は必ず子どもたちにも伝わります。歌が心から生まれるものになるのが理想です。

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