唱歌集とは何か保育士が知るべき歴史と活用法

唱歌集とは何か:保育士が知るべき歴史と活用の全知識

唱歌集に収録された「ちょうちょう」のメロディは、実はドイツの民謡が原曲です。

この記事のポイント3つ
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唱歌集とは何か?定義と誕生背景

唱歌集とは明治政府が学校教育用に編纂した歌曲集のこと。1881年に文部省が刊行した「小学唱歌集」が起点で、91曲中81曲が外国民謡の翻訳曲だった。

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わらべうた・童謡との違いを整理

唱歌は「明治時代の学校教育用」、童謡は「大正時代の芸術的創作」、わらべうたは「江戸時代以前の自然発生的な伝承歌」。保育士試験でも頻出の区別ポイント。

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保育現場での唱歌集の使い方と著作権

明治・大正期の唱歌は著作者の死後70年を超えてパブリックドメインになっているものが多く、保育現場でも比較的自由に使いやすい。ただし音源・楽譜の版には別途注意が必要。

唱歌集とは何か:定義・誕生の背景と明治政府の意図

 

唱歌集とは、明治時代に政府主導で編纂された、学校教育用の歌曲を収録した曲集のことを指します。単に「子どもの歌を集めた本」ではなく、国家の教育政策として生まれたという点が、唱歌集の最大の特徴です。

1872年(明治5年)に学制が発令されたことで、日本に近代的な学校教育制度が始まりました。このとき、小学校の教科のひとつとして設けられたのが「唱歌」という科目です。「唱歌」は教科名であり、その授業で使う教科書として編纂されたのが「唱歌集」という位置づけになります。つまり唱歌集が原則です。

その後、文部省の音楽取調掛によって1881年から1884年にかけて刊行されたのが、日本最初の本格的な唱歌集である「小学唱歌集」です。全3冊に合計91曲が収録されましたが、そのうち81曲が外国民謡や讃美歌に日本語歌詞をつけた「翻訳唱歌」でした。つまり「小学唱歌集」のほぼ全曲がカバー曲だったわけです。これは意外ですね。

明治政府が唱歌集を作った目的は大きく3つあります。

  • 🎓 西洋音楽の教育導入:欧米列強の音楽教育に追いつくために、西洋音楽の基礎を子どもたちに教えること。
  • 🏔️ 道徳・情操教育:日本の風景・風俗・歴史を歌詞に盛り込み、国民としての情操と道徳心を育てること。
  • 🎌 国民意識の形成:天皇賛美や愛国的な内容を含む曲を通じて、国民意識を統一すること。

戦後、軍歌的な内容を持つ歌詞は書き換えられたり教科書から削除されたりしましたが、「春の小川」「故郷」「虫の声」など、日本の自然や季節を歌った唱歌は今も保育現場で歌い継がれています。唱歌集の歴史を知ることは、保育士として曲の背景を子どもへ語り伝えるうえでとても大切な知識になります。

唱歌集の歴史的な流れを詳しく知りたい方は、以下のページが参考になります。

唱歌の歴史 明治・大正・昭和(世界の民謡・童謡)

唱歌集とわらべうた・童謡の違いを保育士試験視点で整理する

保育士試験の「保育実習理論」問6では、唱歌・童謡・わらべうたの区別が毎年のように出題されます。この3つをきちんと整理できているかどうかが、確実に得点を積み重ねるうえで重要なポイントです。

まず「わらべうた」は、江戸時代あるいは室町時代ごろから子どもたちの遊びの中で口伝えされてきた伝承歌です。誰が作ったか不明なものがほとんどで、「かごめかごめ」「あんたがたどこさ」が代表例として知られています。メロディは「ドレミファソラシド」のうちファとシを省いたヨナ抜き音階が多く、ピアノ伴奏なしで先生の声だけで歌えるシンプルな構成が特徴です。今でも乳児保育の現場でよく活用されています。

次に「唱歌」は1872年(明治5年)の学制発令とともに学校教育の教科として誕生した歌です。文部省が主導し、道徳教育・情操教育を目的として文語体(書き言葉)で書かれたものが多いです。唱歌集に収録された曲がこれに当たります。唱歌が教育用という点は必須です。

「童謡」は1918年(大正7年)に児童文学者の鈴木三重吉が創刊した雑誌「赤い鳥」によって生まれました。鈴木は「唱歌の歌詞は難解すぎて子どもが理解できない」と疑問を呈し、北原白秋・野口雨情・西條八十らの一流詩人と、成田為三・山田耕筰らの作曲家が子どもの視点に立って創作した曲が童謡です。童謡は芸術性の高い「創作歌」という点が唱歌との本質的な違いです。

種類 誕生時期 目的・性質 代表曲
わらべうた 江戸〜室町時代ごろ 子どもの遊びで自然発生・伝承 かごめかごめあんたがたどこさ
唱歌(唱歌集) 明治時代(1872年〜) 政府主導の学校教育・道徳教育用 蛍の光、春の小川、故郷
童謡 大正時代(1918年〜) 芸術的な子ども向け創作歌 シャボン玉あめふり赤とんぼ

保育士試験の過去問では「唱歌は明治時代に生まれた教科名でもあった(〇)」「わらべうたと童謡は同じものである(✕)」といった問題が頻出です。試験対策としても、この3つの違いをしっかり押さえておきましょう。

また「7月1日は童謡の日」という豆知識も覚えておくと役に立ちます。これは「赤い鳥」の発刊日(1918年7月1日)にちなんで1984年に制定されたものです。

保育士試験の音楽分野の過去問対策として、以下のページが役立ちます。

保育実習理論 おぼえよう!音楽の基礎知識②唱歌・童謡(保育士試験対策)

唱歌集に収録された代表曲の知られざる原曲と保育現場での使い方

保育の現場でよく歌われる唱歌の多くは、外国民謡に日本語の歌詞をつけた翻訳唱歌です。この事実を知っているかどうかで、子どもへの歌の伝え方がぐっと豊かになります。

代表的な翻訳唱歌を整理してみましょう。

  • 🎶 「蛍の光」原曲スコットランド民謡「Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン)」。英語圏では大晦日に旧友と再会して乾杯するときに歌う陽気な歌です。「卒業・別れ」のイメージが定着した日本とは、まったく反対の使われ方をしている点が興味深いです。
  • 🦋 ちょうちょう…原曲はドイツ民謡「Hänschen klein(ヘンシェン・クライン)」。当初はスペイン民謡と説明されていましたが、後の研究でドイツ民謡が正しいと判明しています。これは使えそうです。
  • 🤲 むすんでひらいて…讃美歌のメロディが原曲です。フランスの哲学者ルソーが作曲した旋律が讃美歌になり、さらに唱歌として日本に広まったという長い旅路を経た曲です。
  • きらきら星…フランス生まれでイギリスで歌詞がつけられた曲。モーツァルトがこの旋律を気に入り変奏曲を作曲したことでも有名です。

これらの翻訳唱歌は「知らずに歌う」より「背景を知って歌う」方が、子どもへの伝え方が圧倒的に豊かになります。

一方で、日本人の作詞・作曲によるオリジナル唱歌が本格的に誕生したのは、1911年から1914年にかけて文部省が刊行した「尋常小学唱歌」からです。全6冊・各20曲で合計120曲が収録され、「かたつむり」「紅葉(もみじ)」「春が来た」「故郷」など、現代でもそのまま歌われている有名曲がこの時代に多数誕生しました。尋常小学唱歌が日本独自の唱歌の集大成と言えます。

保育現場では、季節に合わせた唱歌の選曲がとても効果的です。春なら「春の小川」「春が来た」、夏なら「茶摘み」「われは海の子」、秋なら「紅葉(もみじ)」「虫の声」、冬なら「雪(雪やこんこ)」といった具合に、カレンダーと歌をリンクさせると子どもの季節感が自然に育まれます。

唱歌の音源や楽譜を手軽に確認したいときは、YouTubeでの音源確認や、著作権が切れた楽譜を無料公開しているサイトも活用できます。

尋常小学唱歌 有名な唱歌 一覧(世界の民謡・童謡)

唱歌集のなかで保育に特化した「保育唱歌」という独自ジャンル

「唱歌集といえば小学生向けのもの」と思っている保育士の方が多いかもしれませんが、実は保育の場に特化した唱歌集が、明治10年(1877年)にすでに誕生していました。

それが「保育唱歌(保育並ニ遊戯唱歌)」です。東京女子師範学校(現:お茶の水女子大学)の付属幼稚園の依頼を受け、宮内省式部寮雅楽課の楽人たちが明治10年から13年にかけて約100曲を作りました。日本で最初の幼児教育専用音楽集として、音楽教育史に特別な位置を占めています。

ここに驚くべき事実があります。保育士試験の過去問に「明治期に作成された保育唱歌は、西洋音楽を基本にした旋律でつくられている(答え:✕)」という問題が出ています。正解は「✕」です。雅楽由来の旋律が基本になっているからです。西洋音楽のプロではなく、雅楽の楽人が作ったため、雅楽の音感や音階が色濃く反映されています。この知識は1点に直結します。

さらに、保育唱歌の中に国歌「君が代」が含まれていたことも、あまり知られていない事実のひとつです。当時はまだ正式な国歌ではなく、幼稚園の教育用楽曲のひとつとして収録されていました。

明治20年(1887年)には、文部省音楽取調掛(現:東京藝術大学)が「幼稚園唱歌集」を出版しました。こちらは保育唱歌と同様に幼児向けの唱歌集ですが、掲載曲の約半数がドイツやフランスの民謡・童謡を原曲とした翻訳唱歌という構成です。「ちょうちょう」「霞か雲か」「ぶんぶんぶん(蜜蜂)」などが収録されています。ドイツ歌謡が多い点が特徴です。

その後、明治33年(1900年)には「幼年唱歌」が出版されます。この唱歌集の画期的な点は、それまでの文語体(書き言葉)の歌詞を口語体(話し言葉)に改めた「言文一致唱歌」を採用した点です。難解な古語ではなく子どもが普段使う言葉で歌詞が書かれたことで、唱歌が一気に子どもにとって身近なものになりました。「桃太郎」「金太郎」「浦島太郎」という昔ばなし唱歌もここから生まれています。これが転換点です。

保育唱歌の詳細については、以下の資料が参考になります。

British Libraryに所蔵される保育唱歌の墨譜について(お茶の水女子大学リポジトリ)

唱歌集の著作権と保育現場での正しい使い方

保育士が唱歌集の曲を保育現場で使う際に気をつけておきたいのが著作権の問題です。「明治・大正の昔の歌だから自由に使えるはず」と思っている方も多いのですが、これは少し注意が必要です。

日本の著作権法では、音楽の著作権保護期間は「著作者の死後70年」です。明治・大正時代に作られた唱歌の多くは、作詞者・作曲者がすでに死後70年を超えているため、著作権が消滅した「パブリックドメイン」の状態になっています。つまり、楽譜の印刷や保育でのピアノ演奏・歌唱については、権利上の制約が基本的にありません。パブリックドメインなら問題ありません。

ただし、気をつけるべき点が2つあります。

  • 📀 市販のCD・音源を使用する場合:曲そのものの著作権が切れていても、その音源を録音したアーティストやレコード会社には「著作隣接権」があります。市販のCDをBGMとして流す、または録画に使う場合はJASRACへの申請が必要になるケースがあります。
  • 📝 歌詞を印刷・配布する場合:歌詞を家庭向けのお便りやSNSに掲載する際は、その歌詞の著作権が切れているか確認が必要です。戦後に新しく書き直された歌詞バージョンは、まだ保護期間内であることがあります。

卒園式発表会でJASRAC管理楽曲を演奏・録音する場合は、申請と使用料が発生することがあります。保育園での演奏・歌唱そのものは営利目的でなければ著作権法38条の「非営利演奏」として免除される場合もありますが、録音・録画・配信を伴う場合は別途手続きが必要です。JASRACに確認するのが確実です。

JASRAC公式の学校・教育機関向け説明は以下で確認できます。

学校など教育機関での音楽利用(JASRAC公式)

保育の現場で唱歌を活用する際に、著作権のリスクを最小限にする実用的な方法として「i-LAND MUSIC」や「NHK for School」の無料音源を活用するという手があります。これらのサービスでは利用条件の範囲内で音源を使えるため、卒園DVDや行事での使用をスムーズに進めやすいです。著作権の手続きを省く意味でも、こうしたツールの活用が選択肢になります。

保育士だからこそ伝えられる:唱歌集が子どもに与える5つの教育効果

唱歌集の曲を保育で積極的に取り入れることには、明確な教育的効果があります。ただ歌うだけでなく、そのメリットを意識して活動を組み立てると、一曲がより大きな保育的価値を持つようになります。

① 日本語の語彙と表現力が育つ

唱歌の歌詞には「さらさら」「こんこ」「おーい、おい」など、豊かな擬音語・擬態語が多く含まれています。童謡や絵本と組み合わせることで、子どもたちは遊びながら自然に語彙を増やしていきます。メロディーに乗せて言葉を覚えることは、感覚的な記憶として定着しやすいです。

② 音感・リズム感が鍛えられる

明治・大正の唱歌は4拍子・2拍子を中心とした分かりやすいリズム構造を持っています。繰り返し歌うことでリズムへの反応力が育ち、後にピアノや合奏を学ぶ際の土台となる「聴く力」が磨かれます。シンプルな旋律を何度も歌う体験が基本です。

③ 日本の四季・自然への感性が養われる

「春の小川」「紅葉(もみじ)」「虫の声」「雪(雪やこんこ)」など、唱歌は日本の四季の情景を歌ったものが非常に多いです。実際の自然の観察と歌を組み合わせることで、季節感と自然への感受性が豊かに育ちます。季節と歌を結びつけるのが条件です。

④ 想像力と共感力が育つ

物語のある唱歌(「桃太郎」「浦島太郎」など)を歌いながら動作をつけると、頭の中で場面をイメージする「想像力」と、登場人物の気持ちに寄り添う「共感力」が同時に育ちます。視覚情報がない分、脳が想像力をフル活用するからです。絵本との組み合わせが効果的ですね。

⑤ 世代間の文化継承ができる

唱歌は祖父母世代が小学校で習った曲と共通するものが多く、保育園で唱歌を覚えた子どもがおじいちゃん・おばあちゃんと一緒に歌えるという場面が生まれます。唱歌は「歌う橋渡し」として、世代を超えたコミュニケーションを生む文化的な価値があります。これはいいことですね。

保育での音楽活動のねらいと効果については、以下の論文も参考になります。

保育活動における童謡・唱歌の機能(椙山女学園大学)

日本唱歌集 (岩波文庫 緑 92-1)