思考力と保育と遊び
思考力の手遊び歌で育つ観察と集中のポイント
保育園の歌(手遊び歌・わらべうた・遊びうた)は、うまく設計すると「集中して見る→真似する→違いに気づく→修正する」という一連の流れが自然に起こります。手遊び歌には、手ぶり身ぶりを真似する楽しさ、言葉のリズムの面白さ、数遊びやストーリーに親しむ、などのねらいを置けるとされています。特に「先生の真似をすることで観察する力を養える」「手遊びで飽きずに集中を保てる」といった整理は、活動の意図を言語化する際に使いやすい視点です。
ここで大事なのは、子どもが“正しく再現できたか”よりも、“どこを見て、どう調整したか”に注目することです。例えばテンポが速い手遊び歌で、子どもが手の形を間違えたとしても、次の周回で目線が指先に寄って修正する姿があれば、それは思考の作動(仮説→確認)です。
また、わらべうたのように同じリズムや言葉を繰り返す歌は、繰り返しの中で概念(数や言葉のまとまり)を感覚的に身につけやすいと説明されることがあります。数え歌を入れると、単なる歌唱から「順序」「対応」「見通し」へと遊びが伸びやすくなります。
実践のコツ(箇条書き)
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🎵 1曲の中で「同じ型」を最低3回は繰り返す(子どもが調整できる余白を作る)。
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👀 子どもの視線がどこに向いたかを観察し、「今、どこ見てた?」と短く返す。
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⏱️ 速さは段階を作る(ゆっくり→ふつう→ちょい速い)と、比較が生まれます。
参考:手遊び歌のねらい・効果の整理(導入の意図づけ、活動評価の観点に使える)
保育におすすめの手遊び歌51選|ねらいと盛り上げ方のポイント(保育is)
思考力の歌の教え方で効く問いかけと共有の工夫
歌の導入や教え方は、「歌詞を覚えさせる」から「歌詞を材料に考える」へ寄せるだけで、思考力の立ち上がり方が変わります。具体的には、歌詞の意味や場面に触れつつ、「これって何をしているのかな」「どんな気持ちになったかな」と問いかけることが大切だとされ、子ども同士で感じたことを共有する機会が表現の深まりにつながる、と整理されています。
この“問いかけ→共有”は、思考力の入口を「正解探し」にしない点が重要です。歌は物語・感情・場面転換を含みやすいので、問いかけが「当てる質問」になると急にしぼみます。代わりに、複数の答えが成立する問いを置くと、同じ歌でも子どもの発言が増え、友達の意見で考え直す経験が起きます。
問いかけ例(そのまま使える形)
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🗣️「今の歌の主人公、どこにいると思う?」
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🗣️「この言葉、別の言い方にするとしたら?」
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🗣️「次の1番があるなら、何が起きる?」
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🗣️「同じ気持ちになった人いる?ちがう人もいる?」
共有の工夫(入れ子にしない箇条書き)
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🧑🤝🧑 ペアで10秒相談してから発表(話しやすい子だけが出ない)。
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🎭 役割を分けて歌う(ナレーター役・主人公役)と、場面理解が進む。
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📝 発言を短く復唱して板書代わりに空中でまとめる(「今のは“びっくり”だね」)。
参考:歌詞の意味を扱う問いかけや、共有の必要性(歌の指導の考え方)
保育園での歌の教え方。選曲や導入など子どもに指導するポイント(保育士就職サイト)
思考力のわらべうたのリズムと繰り返しのねらい
わらべうたは、派手な展開がなくても「繰り返し」に強みがあります。繰り返しは単調ではなく、子どもにとっては“試せる回数が多い”ことを意味します。例えば同じフレーズが戻ってくるたびに、声量・テンポ・間の取り方・手の動きなど、子どもは無意識に微調整をかけます。ここに、思考力の核になる「予測→確認→修正」の循環が入ります。
また、わらべうたは触れ合い遊びとして愛着関係を育む、伝承遊びを味わう、同じリズムを繰り返すことで思考力を育む、といった観点で語られることがあります。数が組み込まれた数え歌を選ぶと、「次は何?」が自然に発生し、子どもが“見通し”を立てやすくなります。
年齢別に寄せると、同じ歌でも「狙いの置き方」が変えられます。
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0〜2歳:安心して繰り返せることが最優先(正確さより心地よさ)。
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3〜5歳:ルール・役割・数・順序を少しずつ増やす(見通しの負荷を上げる)。
すぐできるアレンジ(意外と効く)
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🔁 “わざと”1回だけ間違える(子どもが気づいて訂正する瞬間が思考の見せ場)。
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🔢 数え歌は「逆から」も試す(順序の理解が深まる)。
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🤫 音量を変える(小声→普通→大声)と、自己調整が必要になり集中が戻る。
参考:わらべうたのねらい(繰り返しとリズム、数え歌の扱い)
【保育園】わらべうたを取り入れよう!ねらいや年齢別の楽しみ方(保育士ワーカー)
思考力の遊びの中で伸びる試行錯誤と環境構成
「思考力 保育 遊び」を語るとき、歌は単独活動ではなく、遊びのスパイラルに接続させると強くなります。杉並区立の子供園の研究では、幼児が試行錯誤しながら主体的に遊ぶプロセスを「発想する→やってみる→共有する→振り返る」と捉え、遊びの中で論理的思考力が育まれるという整理が示されています。さらに、思考を読み取る視点として、規則性・比較分類・全体と部分・因果関係・仮説確認・人との関係性、などの観点を挙げています。
この整理を歌に落とすと、歌の時間は「発想」や「やってみる」の場になり、歌の後の自由遊びで「共有」「振り返り」が起きやすくなります。例えば、歌に出てきた動物の動きを真似する遊びに発展させるなら、子どもは“どの動きがそれっぽいか”を比較し始めます。さらに、友達の動きが面白いと共有が起き、次の発想が生まれます。
環境構成の具体(歌→遊びへ橋をかける)
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🧺 歌に出る物の小道具(布・輪・カード)を、取り出しやすいかごに常設する。
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🗂️ 歌詞のキーワード絵カードを置く(読めなくても“選ぶ”ができる)。
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🎶 コーナー名を歌に合わせる(例:動物コーナー、数コーナー)と導線が自然になる。
援助(声かけ)のコツ:答えを渡さず、道筋だけ照らす
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🔦「今のままだと、どこが困る?」(問題の輪郭化)
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🔦「前に似たこと、あった?」(過去経験の呼び出し)
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🔦「試すなら、どれから?」(選択と見通し)
参考:遊びの中で論理的思考力を育むという研究の枠組み(スパイラル、分類視点、援助の考え方)
遊びの中で幼児の論理的思考力を育む(杉並区立堀ノ内子供園 研究資料PDF)
思考力の保育で歌を「記録」して伸ばす独自視点:音の振り返り
検索上位の一般的な記事は「おすすめの手遊び歌」「歌の教え方」「盛り上げ方」に寄りがちですが、思考力の観点で差が出るのは“振り返りの設計”です。そこで独自視点として、歌を「その場で消える活動」にせず、子どもの思考の痕跡が残る形にして次の遊びへつなぐ方法を提案します。ポイントは、評価のための記録ではなく、子どもが自分で“変化に気づく”ための記録にすることです。
方法1:10秒の「音」だけ録音(顔は映さない)
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🎙️ 今日はAパターン(普通のテンポ)を録音。
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🎙️ 明日はBパターン(少し速い)を録音。
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👂 聞き比べて「どっちが合わせやすい?」「どこが難しい?」を話す。
音だけだと、恥ずかしさが減り、自己評価がしやすい子もいます。歌の上手下手ではなく、「合わせる工夫」「待つ」「入るタイミング」など、集団調整の思考に焦点が当たります。
方法2:歌の“ルール部分”を子どもが言い換える
例:じゃんけん要素や交代要素がある歌なら、遊びの前に子どもに「今日の約束」を短く言ってもらいます。言語化はそのまま思考の整理になり、友達との共有にもなります。
方法3:わざと「選択肢」を残して終える
歌の最後を固定せず、「次はどう終わる?」で終えると、自由遊びで続きが始まります。ここで子どもは、過去の経験を根拠に次の展開を作るので、遊びのスパイラル(発想→やってみる→共有→振り返る)に乗りやすくなります。
現場での注意(安全と配慮)
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📌 記録は“できた/できない”の証拠集めにしない。目的は気づきの共有。
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📌 録音・撮影をする場合は園の方針と保護者同意を最優先。
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📌 子どもが嫌がる日はやらない(活動の主体が崩れると逆効果)。
この「音の振り返り」は、歌を起点にした思考力の育ちを、子ども自身が実感しやすくするための仕掛けです。歌の活動が、単発のレクリエーションから、遊びの探究へ変わっていきます。


