音楽理論入門・東川清一から保育士が学べる基礎知識と実践
楽典の専門書を読んで理解するのは一部の音楽家だけ、と思っていませんか。実は保育士こそ1,430円の本1冊で子どもの歌が劇的に変わります。
音楽理論入門・東川清一の著者プロフィールと本書の特徴
東川清一(とうかわ・せいいち)氏は1930年富山県生まれで、東京芸術大学音楽学部楽理科を卒業後、ドイツのケルン大学音楽学研究所に留学した音楽学者です。東京学芸大学教授・東海大学教授を歴任し、現在は東京学芸大学名誉教授という立場にあります。著作も多く、『バッハ研究ノート』『音楽理論を考える』『シャープとフラットのはなし』(すべて音楽之友社)などで知られ、西洋音楽理論の歴史研究と日本の音階研究の両方に精通した第一人者です。
『音楽理論入門』は1994年に音楽之友社から『だれも知らなかった楽典のはなし』というタイトルで出版された書籍を、2017年に筑摩書房がちくま学芸文庫として文庫化・改題したものです。税込1,430円・384ページで、「音符と休符」「リズム」「テンポ」「音程」などのキータームごとに丁寧な解説が加えられています。単なる楽典の暗記書ではなく、「なぜそうなったのか」という歴史的・理論的視点を軸にしているのが最大の特徴といえます。
たとえば「調号」ひとつとっても、なぜシャープやフラットが五線譜に並ぶのかという歴史的な経緯から説き起こします。このアプローチはとても珍しいです。単に記号を暗記するより、仕組みを理解した方が忘れにくく、応用も利くようになります。保育士として長く音楽に向き合うためには、こうした根本的な理解が後々の財産になります。
| 書誌情報 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 音楽理論入門(ちくま学芸文庫 ト18-1) |
| 著者 | 東川清一(東京学芸大学名誉教授) |
| 出版社 | 筑摩書房 |
| 刊行年 | 2017年5月10日 |
| 価格 | 1,430円(税込) |
| ページ数 | 384ページ |
| ISBN | 978-4-480-09795-8 |
公式の書籍情報や目次はこちらから確認できます。
『音楽理論入門』東川清一 – 筑摩書房公式ページ(著者プロフィール・目次あり)
音楽理論入門の目次と、保育士が優先すべき章
『音楽理論入門』の全12章の構成を見ると、内容は非常に広範囲にわたります。保育士という立場から読むとき、どの章を重点的に読めばよいのかを整理しておくと、時間を効率よく使えます。
全12章の内容は次のとおりです。
- 第1章 鍵と音名
- 第2章 譜表と音部記号
- 第3章 変化記号
- 第4章 いわゆる「調号」の理論、あるいは均記号と均
- 第5章 音程
- 第6章 旋法と調
- 第7章 教会旋法(ヨーロッパ中世・ルネサンス)
- 第8章 日本の音階
- 第9章 音符と休符
- 第10章 リズム
- 第11章 テンポ
- 第12章 表情記号と強弱記号、およびその他の付随的な記号と用語
このうち保育士にとって実務直結度が高いのは第1章・第5章・第6章・第9章・第10章・第12章です。つまり7章と8章は読み飛ばしても保育の現場では困りません。
第1章「鍵と音名」は、移動ド唱法と固定ド唱法の違いを扱っています。保育現場では子どもたちと「ドレミ」で歌うことが日常ですが、東川氏はここで「音名(ハニホヘトイロ)と階名(ドレミ)を混同しないことの重要性」を説いています。階名と音名が混同されたまま子どもに音楽を教えると、調性感が身につかないという問題が生じます。これは保育士として非常に気を付けたいポイントです。
第5章「音程」は保育士試験「保育実習理論」の音楽問題でも頻出の知識で、音と音の距離を正確に把握する力につながります。長3度・短3度・完全5度などの概念を理解すると、コードの構成音の理屈も見えてきます。これは使えそうです。
第12章は強弱記号・表情記号など楽譜上のあらゆる記号を扱っており、保育士試験の筆記問題にも直接対応できます。義務教育の音楽授業では学び切れなかった部分が、ここに凝縮されているといっても過言ではありません。
CiNii(国立情報学研究所)による書誌情報・目次の確認(学術データベース)
音楽理論入門で学ぶ音名・音程・音階が保育実務で役立つ理由
保育士試験の筆記科目「保育実習理論」では、音楽に関する問題が毎年5〜6問程度出題されます。出題の傾向としては、音程の種類・調号と長短調の見分け・移調後のコード名変換・カデンツ(和音の進行)などが繰り返し登場します。これらはまさに『音楽理論入門』が扱う内容の核心部分です。
音程とは、2つの音のへだたりのことです。「ド」から「ミ」までは長3度、「ド」から「ソ」までは完全5度、というように数えます。この知識があると、楽譜を見ながらコードの転回形を判断したり、メロディのどの部分が強調されているかを直感的に理解できるようになります。結論は、音程を知ると読譜スピードが上がります。
調号については、シャープ・フラットの数がそのまま調の名前と結びついています。保育士試験の音楽問題では、「♯が2つの長調は何調か?」という形で出題されることがあります。この答えはニ長調ですが、これを暗記ではなく「五度圏の仕組み」として理解しておくと、どんな問題が来ても対応できるようになります。東川氏の本ではこの五度圏的な考え方が歴史的背景とともに丁寧に説明されているため、丸暗記に比べて記憶の定着率が格段に上がります。
移調は、保育の弾き歌いで子どもの声域に合わせて曲のキーを上下させる操作です。本書の知識が身についていると、「この曲をハ長調からト長調に移調するとコードがどう変わるか」をその場で判断できるようになります。現場での移調判断は、時間のない保育の現場では大きな武器になります。
また東川氏が本書で強調している「移動ド唱法」の理解は、保育士が子どもに歌を教える際の指導方針にも関わります。日本の義務教育の音楽授業では移動ド唱法を採用することが指針で示されており、保育士も同じ文脈の中にいます。この点が保育士に特に関係する部分です。
保育士養成校におけるソルフェージュ教育の必要性(学術論文・PDF)音名・移動ドの指導と保育養成の関係が詳述されています
音楽理論入門をもとに保育士が弾き歌いの伴奏を組み立てる方法
弾き歌いの伴奏を「難しいアレンジ」から「子どもが歌いやすい伴奏」へ切り替えるには、主要三和音(Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ)の仕組みを理解することが第一歩になります。子どもの歌は、多くの場合この3つの和音だけで伴奏が成立します。これが原則です。
主要三和音とは、調の中心であるトニック(Ⅰ)、広がりを与えるサブドミナント(Ⅳ)、戻りたくなる力を持つドミナント(Ⅴ)の3種類です。たとえばハ長調ならC(Ⅰ)・F(Ⅳ)・G(Ⅴ)がこれにあたります。東川氏の本書で扱う「旋法と調」の章を読むと、この3つの和音がなぜその役割を持つのかという理論的な背景まで理解できます。
実際の保育の弾き歌いで活用するポイントとして以下の点が参考になります。
- 🎵 曲の冒頭と終わりはトニック(Ⅰ)で安定させる
- 🎵 盛り上がる部分にはサブドミナント(Ⅳ)を置く
- 🎵 フレーズの終わりはドミナント(Ⅴ)→トニック(Ⅰ)で終止感を作る
- 🎵 迷ったときは左手をルート(根音)だけにして視線を子どもに向ける
さらに大切なのは、伴奏の「情報量を意図的に減らす勇気」を持つことです。弾き歌いをしながら子どもの様子を確認し、次の活動へのつなぎも担うのが保育士の仕事です。音楽的な華麗さよりも、「何があっても崩れない設計」を優先する方が保育現場では実用的です。東川氏の本でリズムや拍感の根拠を理解しておくと、どの部分を削ぎ落としても音楽が成立するかの判断がしやすくなります。
左手の形をレベルに応じて3段階に分けると現場での破綻を防げます。はじめはルートの単音、次にオクターブや5度の重音、慣れてきたら分散和音(アルペジオ)へと段階的に移行するのがおすすめです。1つの段落は「場面の判断→音の選択→実行」という順番で考えると、本番でも落ち着いて対処できます。
弾き歌いの基礎知識を補強したい場合は、音楽之友社が出版している『楽典─理論と実習』(石桁真礼生 著)も参照する価値があります。ただし、東川氏の本と違ってやや専門的なため、あくまで副読本として使うのが現実的です。
音楽理論と保育とピアノ伴奏とコード(保育情報サイト)主要三和音を使った伴奏の組み立て方が実務向けにまとめられています
音楽理論入門・東川清一の独自視点:日本の音階と保育の歌の接点
本書の第8章「日本の音階」は、保育士が見落としがちな内容です。検索上位の解説サイトではほとんど触れられていません。しかしここに、保育の現場に非常に関係の深い知識が眠っています。
日本の童謡や伝統的なわらべうたの多くは、西洋の7音音階ではなく「5音音階(ペンタトニック)」を基本としています。よく知られているのは、「ファ」と「シ」を除いた「ドレミソラ」の5音で構成される「ヨナ抜き音階」です。「はるがきた」「うみ」「さくらさくら」などの保育でよく歌われる曲がこの音階で作られています。
興味深い事実があります。いわゆる「日本らしい」ヨナ抜き音階は、実は日本古来のものではなく、明治時代に西洋音楽の影響を受けて形成されたものです。東川氏はこの点を本書で丁寧に整理しており、「日本古来の音階=ヨナ抜き音階」という先入観を持ったまま子どもに音楽を教えることへの注意を促しています。
一方、本当の意味での日本の伝統的な音階は、琉球音階や雅楽の音階など複数の系統があり、ひとくくりに「日本の音階」とは言えないほど多様です。東川氏が専門書『日本の音階を探る』(音楽之友社)で詳述しているこの問題は、保育士が多文化音楽を取り入れる活動をする際に大いに参考になります。わらべうたをただ歌うだけでなく、なぜこの音の並びが耳に心地よいのかを保育士自身が理解していると、子どもへの言葉のかけ方が変わります。日本の音階を知ることが、保育の質を上げる鍵です。
また本書の第11章「テンポ」では、テンポとは機械的なBPMだけでなく、人の呼吸や脈拍と深く結びついていることが説かれています。保育では子どもの呼吸リズムに合わせた歌い方が、情動的な安定につながるという観点からも、このテンポ論は実践的な示唆を含んでいます。子どもが落ち着きを取り戻すわらべうたの遅いテンポ設計は、こうした理論的背景に支えられているのです。
