尋常小学唱歌一覧
保育で「春が来た」を歌うと著作権違反になります。
尋常小学唱歌の学年別収録曲数
尋常小学唱歌は明治43年(1910年)から昭和7年(1932年)まで使用された文部省編纂の音楽教科書です。全6学年で合計137曲が収録されていました。
各学年の収録曲数は以下の通りです。
- 第一学年:20曲
- 第二学年:24曲
- 第三学年:24曲
- 第四学年:24曲
- 第五学年:22曲
- 第六学年:23曲
第一学年が最も少ないですね。これは児童の発達段階を考慮し、簡単な曲から始める配慮がなされていたためです。各学年の楽曲は季節の歌、自然を題材にした歌、愛国的な内容の歌に大別されます。
第一学年では「日の丸の旗」「鳩」「雀」など身近な題材が中心です。学年が上がるにつれて「鯉のぼり」「紅葉」「ふるさと」といった情緒的な内容が増えていきます。第五・六学年になると「我は海の子」「水師営の会見」など愛国的な色彩が強まる傾向がありました。
楽譜は西洋音楽の記譜法を用いていますが、歌詞は和歌的な表現が多く使われています。つまり日本の伝統と西洋の音楽技術を融合させた教材だったということですね。
尋常小学唱歌の代表的な楽曲と歌詞の特徴
現代でもよく歌われる代表曲をご紹介します。保育現場で活用しやすい楽曲を中心に選びました。
季節の歌
- 春が来た(第三学年):「春が来た 春が来た どこに来た」で始まる有名な春の歌
- 朧月夜(第六学年):「菜の花畠に 入日薄れ」という叙情的な歌詞
- 紅葉(第四学年):「秋の夕日に 照る山紅葉」で知られる秋の名曲
- 雪(第二学年):「雪やこんこ 霰やこんこ」という冬の歌
情景を描いた歌
- ふるさと(第六学年):「兎追いし かの山」で始まる日本人の心の歌
- 春の小川(第四学年):小川のせせらぎを描いた優しい曲
- 虫のこえ(第二学年):秋の虫の鳴き声を表現した歌
これらは保育現場でも使いやすい内容です。
歌詞の特徴として、七五調や五七調のリズムが多用されています。例えば「春が来た」は「はるがきた(5音)はるがきた(5音)」という構成です。これは日本語の自然なリズムに合わせた工夫と言えます。
また、擬音語や擬態語を効果的に使っている点も特徴的です。「雪やこんこ」の「こんこ」、「虫のこえ」の「ちんちろりん」などは子どもの感性に訴えかけます。
ただし注意点があります。一部の楽曲には軍国主義的な内容が含まれているため、現代の保育では選曲に配慮が必要です。「水師営の会見」「戊辰戦争」などは歴史的資料として価値はありますが、保育現場での使用には適していません。
尋常小学唱歌と現代童謡の関係性
尋常小学唱歌は現代の童謡文化の基礎を築きました。
その影響は大きく3つの側面で見られます。
まず、音楽教育の標準化です。尋常小学唱歌以前は地域や学校によって歌う曲がバラバラでした。文部省が統一教材を作ることで、全国の子どもが同じ歌を学ぶ環境が整ったのです。
これが基本ですね。
次に、作曲技法の確立です。西洋音楽の和声法と日本語の韻律を組み合わせる手法が確立されました。「春が来た」や「ふるさと」の旋律は、日本人の耳に自然に響くよう計算されています。この技法は後の童謡作家たちに受け継がれました。
童謡運動への影響も見逃せません。大正時代に始まった童謡運動(北原白秋、西條八十らが主導)は、尋常小学唱歌の成果を土台にしています。ただし童謡は「子どもの視点」を重視する点で尋常小学唱歌とは異なりました。
尋常小学唱歌から派生した童謡の例
- 「赤とんぼ」:尋常小学唱歌の叙情性を受け継ぎながら、より個人的な視点を加えた作品
- 「しゃぼん玉」:子どもの遊びを題材にする手法は尋常小学唱歌にも見られます
- 「てるてる坊主」:天気を願う歌という点で尋常小学唱歌の「雨」と共通します
現代の保育現場では、尋常小学唱歌と童謡を組み合わせて使うのが効果的です。尋常小学唱歌は文語的で格調高い表現が特徴なので、言葉の美しさを伝える教材として優れています。一方、童謡は口語的で親しみやすいため、日常的な歌唱活動に適しています。
両方を取り入れることで、子どもの音楽体験が豊かになります。
尋常小学唱歌を保育で活用する際のポイント
保育現場で尋常小学唱歌を使う場合、いくつかの工夫が必要です。時代背景が異なるため、そのまま使うと子どもが理解しにくい部分があるからです。
まず歌詞の言葉を現代語で説明しましょう。「朧月夜」の「菜の花畠」は今の子どもにはイメージしにくいかもしれません。写真や絵本を見せながら「黄色い花がたくさん咲いている場所だよ」と補足すると効果的です。
「兎追いし」も同様です。「昔は野山で兎を追いかけて遊んだんだよ」と説明を加えると、子どもの理解が深まります。
季節の行事と結びつけるのもおすすめです。
このように体験と結びつけることで、歌の内容が実感を持って伝わります。
楽譜の調整も重要なポイントです。原曲のキーは現代の子どもには高すぎる場合があります。ピアノで伴奏する際は、子どもの声域に合わせて移調しましょう。一般的に、幼児は「ド」から「ラ」の音域が歌いやすいとされています。
リズム遊びと組み合わせる方法も効果的です。「春が来た」ならスカーフを持って春風を表現する、「虫のこえ」なら虫の鳴き声に合わせて体を動かす、といった活動が考えられます。
ただし無理に全曲を覚えさせる必要はありません。子どもの反応を見ながら、興味を持った曲を繰り返し歌うことが大切です。
一つ注意点があります。
著作権の扱いです。
尋常小学唱歌の多くは作詞・作曲者が不明(文部省編纂)なので、基本的に著作権保護期間は終了しています。しかし一部の楽曲(「ふるさと」など)は作者が判明しており、編曲版には著作権が残っている場合があります。
発表会で使う場合は、使用する編曲版の著作権状況を確認しておくと安心です。
JASRACのデータベースで検索できます。
JASRAC作品データベース検索サービス(尋常小学唱歌の著作権情報確認用)
尋常小学唱歌の歴史的背景と教育目的
尋常小学唱歌が作られた背景には、明治政府の教育改革がありました。明治5年(1872年)の学制発布以降、音楽教育の統一が課題となっていたのです。
それまでの音楽教育は各地でバラバラでした。地域の民謡を歌う学校もあれば、西洋音楽を教える学校もあるという状況です。この問題を解決するために、文部省は統一教材の作成を決定しました。
明治43年に第一学年用が発行され、順次各学年版が刊行されます。編纂には音楽教育の専門家だけでなく、国文学者や教育学者も参加しました。歌詞の選定には細心の注意が払われ、教育的価値の高い内容が選ばれています。
教育目的は3つありました。
1. 音楽技能の習得
西洋音楽の基礎(楽譜の読み方、リズム感、音程感覚)を身につけることが目標でした。それまで日本の伝統音楽は口伝が中心だったため、楽譜を使った音楽教育は画期的だったのです。
2. 情操教育
自然の美しさや季節の移り変わりを歌うことで、豊かな感性を育てることが意図されていました。「朧月夜」「紅葉」などの叙情的な歌詞は、この目的のために選ばれています。
3. 国民意識の形成
愛国心や共同体意識を育てることも目的の一つでした。「日の丸の旗」「我は海の子」などがこれに該当します。ただしこの側面は戦後批判されることになります。
面白いのは、作詞・作曲者を明記しなかった点です。個人の作品ではなく「国民全体の歌」という位置づけだったためと考えられます。この方針は後に変更され、昭和以降の音楽教科書には作者名が記載されるようになりました。
尋常小学唱歌は昭和7年まで使用されましたが、その後「新訂尋常小学唱歌」に改訂されます。改訂版では軍国主義的な内容が強まり、戦時色が濃くなっていきました。
戦後、GHQの指導により軍国主義的な歌は教科書から削除されます。しかし「春が来た」「ふるさと」「紅葉」など季節や自然を歌った曲は残り、現代まで歌い継がれているのです。
保育者として知っておきたいのは、この歴史的経緯です。尋常小学唱歌には時代の影響を受けた部分と、普遍的な美しさを持つ部分が混在しています。現代の保育で使う際は、普遍的な価値を持つ曲を選ぶことが大切ですね。
例えば「春が来た」は、春の訪れを喜ぶという普遍的なテーマです。時代を超えて共感できる内容なので、保育現場でも安心して使えます。一方「戊辰戦争」のような歴史的事件を題材にした曲は、保育には適していません。
尋常小学唱歌の選曲は、子どもの発達と現代の価値観を考慮して行いましょう。適切に選べば、日本の音楽文化を伝える貴重な教材になります。


