いないいないばあっ! 歌を保育で活かす発達効果と実践ガイド
「いないいないばあっ!」の歌をBGMで流すだけでも著作権違反になる場合があります。
いないいないばあっ! 歌が生まれた科学的背景と番組の設計思想
「いないいないばあっ!」は1996年4月にNHK BS2で放送を開始した、世界初の0〜2歳児専用テレビ番組です。当時イギリスBBCが「テレタビーズ」を放送したのが1997年ですから、日本発の乳幼児番組が世界に先駆けていたことになります。これは意外ですね。
番組が誕生したきっかけは、1989年に発行された「テレビがある時代の赤ちゃん」というNHK放送文化研究所の研究報告でした。小児科医・産婦人科医・大学研究者が共同執筆したこの報告書に、NHKディレクターの久保なおみ氏が注目し、「月齢ごとの発達段階を科学的に反映した番組を作るべきだ」という提案から開発がスタートしました。
0〜2歳児がいる部屋の約7割にテレビが置いてあり、乳幼児が日常的にテレビと接しているという事実が、番組制作の急務感を高めたのです。開発チームは小児科医・お茶の水女子大学の発達心理学教授・国立小児病院の専門家らと連携し、乳幼児の認知・感覚発達に沿ったコーナー設計を徹底しました。
番組の歌を作る際に最初に決めたポイントは「擬音をテーマにする」ことでした。NHK放送文化研究所の資料によると、1歳児の発達の特徴として「擬音が大好き」という点が研究で明らかになっており、それを反映した結果です。「ぐるぐるどっか〜ん!」「ピカピカブー!」「ワンワンパラダイス」など、番組を代表する曲の多くが擬音・オノマトペをふんだんに使っているのは、この設計思想に基づいています。
また番組の映像づくりでも、0〜2歳の認知発達に特有の配慮がされています。「対象が多いと注視できないのでマンツーマンで語りかける」「カットの切り替えやズームは別なものと認識してしまうため最小限にする」「BGMがあると言葉を聞き取りにくいため、言葉と音楽は重ねない」といった原則は、すべて乳幼児の神経発達の特性から導かれたものです。つまり「いないいないばあっ!の歌」は、単純に子ども向けに作られたわけではなく、発達科学の知見を丁寧に積み上げた設計の産物といえます。
参考:NHK放送文化研究所「いないいないばあっ!が生まれるまで〜ワンワン誕生秘話〜」

参考:NHK放送文化研究所「いないいないばあっ!のはじまり②〜どきどきあそび・擬音のうた〜」

いないいないばあっ! 歌と遊びが乳児の脳に与える発達効果
「いないいないばあっ!」の歌や遊びには、保育士が意識して活用すべき具体的な発達効果があります。重要なのが「物体の永続性(対象の永続性)」の獲得です。
物体の永続性とは、「見えなくなっても存在し続けている」ことを理解する認知の発達段階で、生後6〜11か月ごろに成立するとされています。「いないいないばあ」の遊びは、まさにこの認知の発達を繰り返し刺激するための行動パターンです。顔を隠して「いない」→現れて「ばあ!」という反復が、赤ちゃんの記憶と予測の回路を鍛えます。
脳科学的な観点では、「いないいないばあ」で子どもがたくさん笑うことで、脳の扁桃体が「快」と感じ、海馬が活発に働きます。それが記憶力アップにつながるという研究結果があります(朝日新聞「dot.」2015年5月)。また、人間が持つ「ワーキングメモリ(短期記憶)」も、顔を隠す→現れるという一連の流れで繰り返し使われることで鍛えられていきます。これは使えそうです。
年齢ごとに効果を整理すると、次のようになります。
| 月齢・年齢 | 主な発達効果 | ポイント |
|---|---|---|
| 0〜5か月 | 聴覚刺激・感情の安定 | 声のリズム・抑揚で情緒が安定 |
| 6〜11か月 | 物体永続性の獲得・記憶力 | 「ばあ!」の瞬間に神経回路が強化 |
| 1歳〜 | 言語発達・擬音の模倣 | オノマトペを通じて語彙が広がる |
| 2歳〜 | 感情コントロール・予測力 | 「次はばあが来る」という期待と喜びを制御 |
0〜2歳児に「いないいないばあっ!の歌」を歌う際、ただ流すだけではなく、保育士が子どもの顔を見ながら歌い、「ばあ!」の瞬間に表情豊かに顔を出すというふれあい要素を加えることで、脳への刺激が大幅に高まります。これが基本です。
ふれあいで生まれるオキシトシン(愛情ホルモン)の分泌は、ストレスを緩和し情緒を安定させる効果があることも明らかになっています。保育士1人で複数の乳児を担当する際も、「歌いながら目が合った子に顔を向ける」だけで十分な刺激になります。
参考:「いないいないばあ」遊びが赤ちゃんの脳にいい理由(朝日新聞デジタル)
保育士が現場で使えるいないいないばあっ! 歌の年齢別活用法
「いないいないばあっ!」の歌は、保育の場面に応じて柔軟に活用できます。ここでは0歳・1歳・2歳それぞれの場面別の使い方を整理します。
0歳クラス(特に生後3か月〜11か月) では、朝の登園後や哺乳後の抱っこタイムが活用のチャンスです。「いないいないばあっ!」の曲を小声でゆっくり歌いながら、タオルやハンカチを使って顔を隠す・現す動作を加えると、赤ちゃんの注視が引き出されやすくなります。単調に流すのではなく「ばあ!」のタイミングで声のトーンを上げることが重要です。音量が大きいと逆に驚かせてしまう場合があるため、BGMとしての再生よりも保育士が直接歌いかける方が0歳には効果的です。
1歳クラス(1歳0か月〜1歳11か月) では、擬音・オノマトペを使った歌遊びが有効です。「ぐるぐるどっか〜ん!」「ピカピカブー!」など、番組内の擬音系の歌は、この年齢の語彙発達を直接刺激します。朝の会の最初に1〜2曲歌い、子どもが真似して声を出した瞬間を見逃さずに褒めましょう。子どもが「ばあ!」と自分で声に出せるようになったら、それは語彙発達の大きな一歩です。いいことですね。
2歳クラス(2歳0か月〜2歳11か月) では、子ども同士でいないいないばあの歌遊びができるよう、保育士がモデルとして動作を示す展開が有効です。友達の前に自分でタオルを使って「いないいない…ばあ!」とやってみることで、社会性と共感力が同時に育まれます。「おうちゃんのえかきうた☆」など歌いながら手を動かすタイプの曲も、2歳児の協調運動の発達に有効です。
また、場面の切り替えに「いないいないばあっ!」シリーズの歌を使うと、子どもたちの注意を自然に集めやすくなります。たとえばお片付けの前に1曲歌い始めると、興味が保育士に向き、切り替えがスムーズになりやすいです。これは使えそうです。
| 年齢 | おすすめ場面 | 活用のコツ |
|---|---|---|
| 0歳 | 抱っこタイム・ぐずり対応 | 保育士が直接歌いかける。BGM頼みにしない |
| 1歳 | 朝の会・食事前 | 擬音を一緒に声に出させる |
| 2歳 | 遊びの導入・切り替え | 子ども同士でやり取りできる構成に発展させる |
知らないと怖い!いないいないばあっ! 歌の保育現場での著作権ルール
「いないいないばあっ!」の歌は子どもたちに大人気ですが、保育現場での使い方によっては著作権法に触れるリスクがあります。これは意外ですね。
まず整理しておきたいのが「歌うこと自体は基本的に問題ない」という点です。保育士が子どもの前で直接歌う行為は、著作権法第38条の「非営利・無料・無報酬」の要件を満たす場面では問題になりません。これが原則です。
問題が生じやすいのは、次の3つの場面です。
- 📱 YouTubeやCDの音源をスピーカーで流す:「いないいないばあっ!」の公式音源をBGMとして流す行為は、複製権や演奏権に触れる可能性があります。YouTubeは個人視聴を前提としており、保育施設での集団再生には権利者への許諾が本来必要です。
- 📄 お便りや掲示物に歌詞を転載する:歌詞は著作物であり、作詞者に著作権があります。親向けのお便りに歌詞をそのまま書き写して配布することは、複製・頒布にあたります。特に施設のホームページに掲載した場合は「公衆送信」となり、リスクがさらに高まります。
- 🎥 運動会や発表会の動画を動画サービスにアップする:「いないいないばあっ!」の歌に合わせたダンス動画を施設のSNSに投稿することは、音楽の著作権(JASRAC管理楽曲)に抵触する可能性があります。JASRACはGoogleの画像・動画検索技術と連携し、ネット上の無断使用を検知できる体制を強化しています。
保育施設は著作権法上「教育機関に準ずる施設」として一定の優遇があります。しかし「営利法人が運営する認可外保育施設」「SNS等への外部公開を伴う利用」は優遇の範囲外になるケースもあり、グレーゾーンが存在します。
安全に運用するための具体的なアクションとしては、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)のウェブサイトで「保育所等の教育機関向け手続き」を確認することをおすすめします。著作権フリーの乳幼児向け楽曲(パブリックドメインの童謡・民謡など)を並行して活用するのも現実的な選択肢です。
参考:著作権法に注意!学童や保育園で知らないとヤバい違反行為(学童クラブの管理ブログ)

参考:JASRACによる教育機関向け音楽著作権の利用案内

【保育士視点】いないいないばあっ! 歌を深く知ることで保育の質が上がる理由
「いないいないばあっ!の歌をなぜ子どもたちが好むのか」という背景を理解していると、保育の質は確実に変わります。曲を「流す」から「使う」へ、そして「使う」から「活かす」へとステップアップできるからです。
たとえば「ピカピカブー!」という曲は、擬音「ピカピカ」「ブー!」を組み合わせた歌詞で構成されており、1歳児が最も音声反応しやすい破裂音と母音の組み合わせを意図的に使っています。赤ちゃんが「ぱぴぷぺぽ」の破裂音を好むという研究は、番組のキャラクター「ペンタ」の名付けにも活かされています。こうした背景を知った上で歌えば、子どもがどのフレーズで笑うか、どこで体を動かすかを事前に予測しながら関わることができます。
また、歌の「繰り返し構造」には保育的な意味があります。「いないいない…ばあっ!」という展開は、毎回同じパターンで終わる「閉じた構造」を持っており、予測が成立することで子どもに安心感を与えます。不安な状況(入園直後・慣れない場所)のそばで繰り返し同じ歌を歌うことが、情緒的安全基地としての役割を果たすのです。これが条件です。
さらに独自の視点として、保育士が「歌うときの間(ま)の取り方」を工夫することは非常に有効です。「いない…いない…(2秒待つ)…ばあっ!」という”ため”を作ることで、子どもの脳に「次が来る」という期待と緊張が生まれます。この緊張と解放のサイクルが繰り返されることで、前頭前野(感情コントロールや注意力に関わる領域)が刺激されます。早口でサラっと歌うよりも、間を大切にした歌い方の方が、発達的な効果が高いと考えられます。
曲のリストとして保育現場でよく使われる「いないいないばあっ!」シリーズの歌には以下のようなものがあります。
- 🎵 ぐるぐるどっか〜ん!(ワンワン・ふうか):ダイナミックな擬音と動き。1歳児の運動発達にも◎
- 🎵 ピカピカブー!(ワンワン・はるちゃん/おうちゃん):破裂音系の擬音。語彙発達の刺激に
- 🎵 いないいないばあっ!〜まんまるのくに〜(おうちゃん・ワンワン・ぽぅぽ):現行の主題歌
- 🎵 ポポポポポーズ(ゆきちゃん・ワンワン・うーたん):体を使うポーズ遊びと連動。2歳の模倣遊びに活用しやすい
- 🎵 カミカミ20(トゥエンティ)(ことちゃん・ワンワン・うーたん):咀嚼習慣の定着に。食育の場面で使える珍しい1曲
曲ごとのねらいを理解して使い分けることが、保育士としての専門性を高めることにつながります。「なんとなく子どもが好きだから流す」から「発達のねらいに合わせて選ぶ」へ。その視点の転換こそが、保育の質を底上げする鍵です。つまりリサーチと選曲が保育の武器になるということです。

