いもむし歌・わらべうたを保育で活かす全ガイド
「いもむしごろごろ」は、たった1フレーズの繰り返しだけで、0歳から5歳まで全員が同じ歌で遊べます。
いもむし歌「いもむしごろごろ」の歌詞と由来
「いもむしごろごろ」は、保育現場で日常的に歌われているわらべうたのひとつです。その歌詞は非常にシンプルで、「いもむし ごろごろ ひょうたん ぽっくりこ」というたった1フレーズを繰り返すだけになっています。シンプルすぎると感じる方もいるかもしれませんが、実はこの短さが子どもの発達にとって重要な意味を持っています。
この歌の歴史は江戸時代にまでさかのぼります。江戸時代後期の国学者・喜多村 信節(きたむら のぶよ、1783〜1856年)が1830年に発刊した「嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)」に、「芋虫ころころ」という名で記載されています。つまり、少なくとも200年近くにわたって子どもたちの間で受け継がれてきたわらべうたです。これは使えそうです。
当時の江戸版では、列の先頭と最後尾が「あとのあとのせん次郎」と「何用でございます」と呼び合う問答形式がついており、現代よりもずっとドラマチックな遊びだったようです。
一方、現代の保育現場で使われている歌詞は、その問答部分が省かれてよりシンプルになっています。しかし、列になって前の人の肩をつかんで進むという基本的な遊び方は、江戸時代とほぼ同じです。現代の「電車ごっこ」の原型とも言えます。
なお、昭和8年(1933年)には久保田宵二 作詞・佐々木すぐる 作曲の童謡「ひょうたんぽっくりこ」が発表されており、「いもむし ごろごろ ひょうたん ぽっくりこ」という最初の2行はわらべうたをそのまま引用しています。同じメロディーに聞こえることがありますが、わらべうた版と童謡版は別物です。わらべうた版が原曲です。
「ひょうたん ぽっくりこ」という言葉が耳に残るのは、「ドレミソラ」の5音だけで構成される子どもに自然な音階のためです。半音がなく、子どもが無理なく自然に口ずさめる音域で作られています。これが基本です。
「いもむしごろごろ」の歴史と江戸時代の遊び方(世界の民謡・童謡)
いもむし歌を使った年齢別の遊び方とねらい
「いもむしごろごろ」の魅力のひとつは、0歳から5歳以上まで同じ歌をさまざまな形で楽しめる点にあります。発達段階に合わせて遊び方を変えるだけで、どの年齢にも使える万能なわらべうたです。
【0歳〜1歳】膝の上でのスキンシップ遊び
乳児期は、保育士や保護者が子どもを膝の上に乗せ、「ごろごろ」の部分で左右にゆっくり揺らして遊びます。「ぽっくりこ」のタイミングで子どもを軽く弾ませたり、上に持ち上げて降ろしたりすると、子どもは表情を緩めて喜びます。この揺れる感覚は、乳児の前庭感覚(平衡感覚)を刺激するうえで非常に効果的です。寝返りをまだうまくできない赤ちゃんには、布団の上でやさしく体を横に転がす補助遊びとしても使えます。スキンシップが条件です。
【1歳〜2歳】ボール遊びへの発展
1歳を超えて体が安定してきたら、大きなバランスボールに腹ばいで乗せ、保育士が引いたり押したりしながら歌うやり方があります。体幹がまだ発達段階にある1〜2歳児にとって、ボールのうえでバランスをとる経験は、固有受容感覚(筋肉や関節への刺激)と前庭感覚をまとめて刺激できる贅沢な遊びです。ボールの上で頭や手足をダラリと脱力できるようになったら、感覚の統合が進んでいるサインとも見られます。これは意外ですね。
【3歳〜4歳】列になって進む集団遊び
3歳以上になると、友達と一列に並んで前の人の肩や腰をつかみ、しゃがんで数珠つなぎで進む遊び方ができるようになります。人数が増えるほど難易度が上がり、みんなのペースを合わせることが求められます。自然と「合わせること」「待つこと」「他者と動きをシンクロさせること」という社会的スキルを遊びの中で体験できます。
【4歳〜5歳】貨物列車との組み合わせ
山口大学の保育実践研究報告によれば、「いもむしごろごろ」に「貨物列車」の遊び方の要素を組み合わせたアレンジを年中・年長クラスで実践している例があります。単純なわらべうたに組み合わせる要素を加えるだけで、5歳児でも飽きずに夢中になれる遊びに発展します。つまり、同じ1フレーズがずっと使えるということです。
| 年齢 | 遊び方 | 主なねらい |
|---|---|---|
| 0〜1歳 | 膝の上で揺らす | 前庭感覚・スキンシップ |
| 1〜2歳 | バランスボールに乗せる | 体幹・固有受容感覚 |
| 3〜4歳 | 列になって進む | 社会性・協調性 |
| 4〜5歳 | 他の遊びとアレンジ組み合わせ | 集中力・思考力 |
いもむし歌が育てる「平衡感覚」と「体幹」の関係
「いもむしごろごろ」でゴロゴロと転がったり揺れたりする動きが、なぜ子どもの発達にいいのか。この問いに答えてくれる専門的な情報があります。
名古屋短大准教授(保育カウンセラー)の山下直樹氏は、2019年2月の毎日新聞「くらしナビ」面で次のように語っています。「床をゴロゴロ転がる動作は、楽しいだけでなく、回転・上下・左右の動きを感じ、自分の体が空間の中でどういう状態にあるのかをつかむ平衡感覚を育む効果がある」と。
落ち着きのない子どもを「じっとしていなさい」と叱っても改善しないのは、しつけの問題ではなく、「体幹や感覚への刺激が不足しているから」という視点です。体幹が育っていないと筋力不足でじっと座れず、立ち歩いてしまうことがある、とも指摘されています。「いもむしごろごろ」のような感覚を刺激するわらべうた遊びを日常的に取り入れることで、そのような子どもの落ち着きを引き出せる可能性があります。
三条市の運動遊びプログラム(公開資料)でも、「いもむしごろごろ」は「寝転がり横に転がって進む」運動として、子どもの起き上がり・立ち上がりの発達ステップに組み込まれています。つまり、ただの歌遊びではなく、運動発達プログラムのひとつとして機能しているのです。
さらに、金城学院大学KIDSセンターの資料によれば、「いもむしごろごろ」で大人が前後に動く遊び方は「骨盤ウォーク」と同じ動作とされており、産後の骨盤の歪み改善にも効果があるとされています。子どもと一緒に遊びながら自分の体にもよいなんて、まさに一石二鳥です。
体幹や平衡感覚の育ちを実感しにくい場合は、バランスボール(フロアタイプ)を保育室に1個置いておくだけで、「いもむしごろごろ」の遊びに活用できます。腹ばい乗りや揺らす動作に活用でき、感覚遊びの幅がぐっと広がります。体幹に注意すれば大丈夫です。
わらべうたあそび「いもむしごろごろ」の効果と遊び方(金城学院大学KIDSセンター)
いもむし歌の保育へのねらいと指導案のポイント
「いもむしごろごろ」を保育に取り入れるとき、ねらいを意識して設定しておくことで、指導案の記録もぐっとスムーズになります。
ねらいの設定例:
保育所保育指針の「健やかに伸び伸びと育つ」という身体的発達の視点から、「いもむしごろごろ」のねらいは主に次の3つで設定できます。①保育士とのスキンシップを通じて情緒の安定を図る、②揺れ・転がる動作を通じて感覚(平衡感覚・固有受容感覚)を育む、③集団遊びを通じて他者との協調性を体験する。この3つが基本です。
活動の流れと導入のコツ:
わらべうたは、新しい活動への「導入(つかみ)」として非常に使いやすい形式です。「いもむしごろごろ」は短いフレーズの繰り返しなので、初めて聞く子でも数回でついてくることができます。部屋が狭い場合は膝乗せ遊びからスタートし、広い場所があれば転がる・列になる遊び方に展開するとよいでしょう。
また、わらべうたと手遊び歌の違いについて補足すると、「いもむしごろごろ」はわらべうたの分類です。わらべうたは子どもの話し言葉が元になったドレミソラ5音のシンプルな音階で構成されており、伴奏やCDがなくても保育士の声だけで自然に始められます。手遊び歌は西洋の音階を使ったものが多く、BGMとして流したり楽器と合わせる場面が多いという違いがあります。覚えておくと指導案で迷わずに済みます。
歌詞のバリエーションについて:
「いもむしごろごろ」は地域や園によって「ぽっくりこ」が「ぼっくりこ」になったり、リズムが微妙に異なったりします。これはわらべうたの特性上、作者がいない口承伝承のためで、どちらが正しいというものではありません。異なる歌詞で育った保護者が「私が知っているのと違う」と感じることもありますが、それが多様性であるとやわらかく説明できると安心です。
なお、乳幼児の発達に沿った保育の歌の選曲に関する白藤学院の研究論文でも、「いもむしごろごろ」は1歳6ヶ月〜2歳ごろに適した歌として位置づけられ、「歌詞を理解できる」時期のわらべうたとして掲載されています。
いもむし歌と他のわらべうたを組み合わせた独自アレンジ案
「いもむしごろごろ」単体でも十分に楽しめますが、他のわらべうたや活動と組み合わせることで、子どもの飽きを防ぎ、より豊かな体験を作ることができます。これは保育士としての腕の見せどころです。
アレンジ① 「一本橋こちょこちょ」との連続技
0〜1歳クラスでは「一本橋こちょこちょ」の後に膝乗せ「いもむしごろごろ」と続けることで、こちょこちょのドキドキから揺れる安心感に移行するコントラストが生まれます。子どもの情緒が「興奮→落ち着き」のリズムを体験することになり、自己調整力の発達を促すとも考えられます。
アレンジ② 「虫」テーマの季節活動とリンク
春から夏にかけて、散歩で虫を見つける機会が増える時期に「いもむしごろごろ」を取り入れると、歌と体験がつながります。実際に芋虫を観察した後に歌うと、子どもたちは「ごろごろしてる!」と身体で表現しようとします。絵本「いもむし ごろごろ」(とよたかずひこ作・世界文化社)と組み合わせると、導入から活動・まとめまで一本の流れが作れます。
アレンジ③ 4〜5歳への挑戦:「貨物列車」ミックス
山口大学の保育実践研究で紹介された方法では、「いもむしごろごろ」の列遊びに「貨物列車(じゃんけんで後ろにつながる遊び)」の要素を加えます。具体的には、列でしゃがんで進みながら先頭と後方でじゃんけんをして、負けた側が後ろにつながる形にします。列がどんどん長くなり、クラス全体がひとつのいもむしになる体験は、年長クラスの運動会前のチームビルディングとしても使えます。
アレンジ④ 「骨盤ウォーク」で保育士自身も楽しむ
子どもがボール遊びをしている間に、保育士が「いもむしごろごろ」に合わせて足を伸ばして座り、前後に揺れるだけで骨盤ウォークになります。産後の骨盤ケアに悩んでいる保育士さんにとって、業務中に自然にできるケアとなります。子どもが見て真似をすると、それ自体が遊びに発展することもあります。これも使えそうです。
アレンジ⑤ 「わらべうたカード」を使った記録・共有
園内で「いもむしごろごろ」の遊び方バリエーションを一枚のA4カードにまとめておくと、担任が変わっても遊びの質が落ちません。「0歳:膝乗せ」「2歳:ボール」「4歳:列遊び」と年齢帯ごとに絵と文で記録し、クラスの棚に置いておくと新任保育士にも伝わりやすいです。


