変奏曲形式の歌を保育で活かす主題・旋律・リズム変奏の使い方
「変奏曲形式の歌は、むしろ毎回同じに歌うと子どもの音感発達を止めます。」
変奏曲形式の歌とは何か|主題と旋律変化のしくみ
変奏曲形式(Variation Form)とは、ひとつの主題(テーマ)をもとに、リズム・旋律・速度・音色などを変化させながら繰り返していく音楽形式のことです。英語では「Theme and Variations」と表記します。
主題は通常、短くて明快なメロディで提示されます。10秒程度の短いものもあれば、2〜3分かかるものもありますが、聴く人が「覚えられる長さ」に収まるのが基本です。この主題が原形を留めながら少しずつ変化していくことで、「聴き慣れた安心感」と「変化の面白さ」が同時に生まれます。
この仕組みは、保育の場で子どもが歌に親しむプロセスとよく似ています。
変奏の種類は、大きく3つに分けられます。
- 装飾変奏(旋律的変奏):主題の和音進行は同じままで、旋律だけを装飾的に変化させる
- 性格変奏(自由変奏):リズム・テンポ・調性を自由に変える、表現の幅が大きい変奏
- 対位法的変奏:主題の旋律を別の声部と組み合わせて複雑な音響を作る変奏
保育の現場でとくに使いやすいのは、装飾変奏と性格変奏です。
つまり「同じ歌を少し変えて歌う」ということですね。
保育士が意識しておきたいのは、この形式が「繰り返し+変化」という構造を持っている点です。子どもの脳は、知っているものに小さな変化が加わるとき、より強く反応するとされています。南カリフォルニア大学の研究では、音楽教育が子どもの頭脳形成・決断力強化に有効であることが示されており、変奏を意識した音楽活動はその効果をさらに引き出しやすいと考えられています。
変奏曲形式を意識するだけで、普段の歌遊びの質が変わります。
参考:変奏曲形式の基本構造と各変奏の役割について詳しく解説されています。
変奏曲形式(Variation Form)|役に立つ音楽の情報〜専門学校
変奏曲形式の歌の代表例|きらきら星から天国と地獄まで
変奏曲形式の代表として、保育士なら必ず知っておきたい曲がいくつかあります。
まず最も有名なのがモーツァルトの「きらきら星変奏曲」です。正式タイトルは「フランス民謡『ああ、お母さん、あなたに申しましょう』による12の変奏曲 ハ長調 K.265」といい、1778年にパリで流行していた歌をもとに作曲されました。主題として使われているのは、日本で「きらきら星」として親しまれているメロディです。この曲はバイエル中〜上級程度(ツェルニー30〜40番相当)とされており、フルで演奏すると約12の変奏があります。
これは使えそうです。
ただし注意が必要な点もあります。「きらきら星」のメロディは簡単に見えますが、モーツァルト版の変奏曲を全曲ピアノで弾くとなると難易度は中上級〜上級クラスです。保育の現場では、主題部分と2〜3変奏程度を選んで弾き歌いに活用するのが現実的です。
次に紹介したいのが「天国と地獄」(ジャック・オッフェンバック作曲、1858年)です。運動会の徒競走でおなじみのあの曲です。実はこの曲、1886年にサン=サーンスが『動物の謝肉祭』の中で「亀」の曲として速度を大幅に遅くしてアレンジしました。テンポが変わるだけで全く別の印象になるという変奏の典型例で、子どもにテンポ変奏の面白さを体感させるのに最適な例です。
さらに、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」は全30変奏を持つ大曲で、演奏時間は約1時間になります。保育で直接使う曲ではありませんが、「同じテーマがここまで広がる」という変奏曲の可能性を保育士自身が理解するうえで知っておく価値があります。
変奏曲の歴史は16世紀にはすでに始まっており、古い形式です。
参考:きらきら星変奏曲の成立背景とモーツァルトの制作意図が詳しく解説されています。
主題を徹底的に深堀りする「変奏曲」の魅力|Phonim Music
変奏曲形式の歌を保育に取り入れる効果|音感・集中力・表現力
変奏曲形式の歌を保育活動に取り入れることには、複数の発達的な効果があります。ここでは保育士として知っておきたい3つの観点から整理します。
🎧 ① 音感の発達
同じメロディがテンポ・音域・リズムを変えて繰り返されることで、子どもは「同じ」と「違う」を聴き分ける力を自然に鍛えます。ヤマハ音楽振興会の研究によると、幼児の歌記憶においてテンポやリズムの変化は聴覚刺激として特に強い影響を持つとされています。変化に気づいた子どもが多い音楽要素ほど、歌を記憶しようとする脳の活動が活性化されることが示されています。
音感は「聴き比べ」で育ちます。
🧠 ② 集中力の向上
子どもは「同じ曲なのに何か違う」という状態に対して、特別な注意を向けます。これはリトミック研究でも裏付けられており、音楽の変化に反応しながら動く活動が自己調整力・集中力・柔軟な思考力を育むと指摘されています(Diamond V Japan、2026年)。
変奏曲形式は「聴く集中」を引き出す仕掛けが最初から組み込まれていると言えます。
💃 ③ 表現力の広がり
同じ曲をゆっくり歌ったとき・速く歌ったとき・大きく歌ったとき・ひそひそ声で歌ったとき、子どもはそれぞれ違う動きや感情表現を自然に引き出されます。これは単なる「楽しさ」にとどまらず、言語表現にも連動する感性の発達につながります。
表現力が広がると、日常の言葉も豊かになりますね。
また、4〜6歳の時期に週4時間程度の音楽訓練を受けた子どもは、そうでない子どもと比べて聴覚野の神経活動が大きく発達することが、生理学研究所(2006年)の研究で確認されています。毎日の保育の中に変奏要素を取り入れるだけで、この時期の発達に積極的に関われます。
参考:幼児の歌記憶と音楽要素の関係について、脳波計測を用いた研究成果が掲載されています。
変奏曲形式の歌遊び|年齢別の具体的な保育活動アイデア
ここからは、変奏曲形式の考え方を保育活動に落とし込んだ、年齢別の実践アイデアを紹介します。難しい楽典の知識は不要です。「同じ曲を変えて楽しむ」という意識だけで実践できます。
🐣 2〜3歳向け:テンポ変奏あそび
「きらきら星」や「ちょうちょう」など、知っている曲をゆっくり歌ったり速く歌ったりするだけで立派な変奏遊びになります。ゆっくりのときはゾウさんのように大きくゆっくり歩き、速いときはうさぎのようにぴょんぴょん跳ねる、という動作と組み合わせると子どもが体で変化を感じられます。変奏曲の「テンポ変奏」を、体を使って体験する活動です。
まずは体で感じることが基本です。
🌱 3〜4歳向け:ダイナミクス(音量)変奏あそび
同じ曲を「大きな声で」「ひそひそ声で」「普通の声で」と3段階で歌う活動です。音量の変化は子どもが最も察知しやすい変奏のひとつで、「大きい・小さい」という概念の理解にもつながります。絵カード(大きなクマ・小さなネズミ)を使いながら歌うと視覚的にもわかりやすいです。
🌿 4〜5歳向け:リズム変奏あそび
主題となる歌を「普通に歌う」→「手拍子だけで打つ」→「足踏みで打つ」という順で変化させます。旋律は消えてリズムだけが残る、という経験は、音楽の構造への気づきを育てます。「あれ、同じ歌でも全然ちがう!」という子どもの驚きが、音楽的思考の芽生えになります。
🌳 5歳向け:みんなで変奏を作るあそび
「きらきら星」を主題にして、「どんな変奏を作る?」とグループで考えます。「逆さに歌う」「ロボットみたいな声で歌う」「ゆっくり怖い感じで歌う」など、子どもが自分でアイデアを出して変奏を作る経験は、創造性・自己表現・コミュニケーション力を一度に育てる活動になります。
これはまさに作曲への第一歩ですね。
変奏曲の本質は「同じものを変えて楽しむ」創造的な行為です。子どもが変奏を「自分で作る」体験を持てるかどうかが、この活動の最大のポイントです。
参考:保育現場での音楽活動のねらいと具体的な指導法が整理されています。
音楽活動の指導:歌やリズムに親しむための活動|お茶の水女子大学
保育士だけが知っておくべき変奏曲形式の歌の独自活用術|弾き歌いへの応用
変奏曲形式の視点は、保育士の「弾き歌い」そのものにも応用できます。これは一般的な保育関連記事ではあまり取り上げられない独自の視点です。
保育士の弾き歌いは「同じ曲を毎回同じように弾く」ことがほとんどです。しかし、変奏曲形式の考え方を取り入れると、同じ曲でも毎回の活動に違いを持たせられます。
具体的には次のような「弾き歌い変奏」が実践できます。
- 🎹 テンポを変える:朝の活動では少し速め、昼食前はゆっくりめに弾く。子どもの生活リズムに合わせたテンポの変奏です。
- 🎵 伴奏形を変える:いつもはコード(和音)弾きの伴奏を、単音のオクターブ奏にする。旋律だけが際立ち、子どもが歌いやすくなります。
なかでも「調を変える」変奏は実践的な効果が大きいです。保育士試験でも、子どもが「歌いやすい音域」を意識した弾き歌いが求められます。一般的に3〜4歳の子どもが無理なく歌える音域はド(C4)〜レ(D5)程度とされており、元の楽譜の調が合わない場合は半音〜1音程度の移調が有効です。
移調は難しく聞こえますが、意外とシンプルです。
また、ベートーヴェンは若い頃、貴族の館で流行歌をその場で即興変奏して見せることで収入を得ていたことが記録に残っています(エンゼル財団音楽ラボ)。変奏のスキルはそもそも「応用力」そのものです。保育士が変奏の引き出しを持っておくことは、子どもの反応を見ながらその場で歌を調整できる力につながります。
変奏力は、保育士の現場対応力と直結しています。
現場での応用として、ピアノや弾き歌いに不安を感じている保育士には、ヤマハの「大人のピアノ教本」やヤマハ音楽振興会が提供している保育士向け弾き歌い教材などが参考になります。まずは1曲を3つのテンポで弾く練習から始めてみてください。
参考:変奏曲形式の創造的な側面と作曲への橋渡しが分かりやすく説明されています。
第4回:作曲につながる「変奏」を体験しよう!|エンゼル財団音楽ラボ

4つの即興曲作品142 D935第3番 アンダンテ、変ロ長調、変奏曲形式。

