羽根つきの正月の意味と由来を保育士が知っておくべきこと
羽根を落とした子どもの顔に墨を塗ると、その子の厄が消えます。
羽根つきの正月の起源は宮中の厄払い行事だった
羽根つきは「お正月の遊び」として親しまれていますが、実はもともと遊びではなく、宮中で行われた厄払いの儀式でした。その起源は複数の説が存在し、一つは7世紀ごろから宮中で行われた「毬杖(ぎっちょう)遊び」に遡るという説です。毬杖遊びとは、先端がへらのような形をした杖で毬を打ち合う遊びで、これが形を変えて羽子板と羽根を使う遊びへと発展したとされています。
もう一つの有力な説によると、14世紀ごろの中国で羽根に硬貨をつけたものを蹴り上げる遊びが行われており、それが室町時代に日本に伝わったとされています。日本に伝わった後、宮中では新年を迎えるにあたって「邪気をはね(羽根)除ける」という意味合いで行われるようになりました。これが正式な記録に残っているのは1433年(永享4年)で、宮中において「御所において宮様公卿女官達が紅白に分かれて羽根突に興ぜられた」と記されています。
つまり約600年前には、すでにお正月の羽根つきが宮中行事として定着していたということです。
その後、江戸時代になると羽根つきは庶民の間にも広まり、女の子のお正月遊びとして定着していきました。一般に盛んに遊ばれるようになったのも江戸時代以降とされており、明治時代には歌舞伎役者をモチーフにした豪華な「押絵羽子板」が大流行したという歴史もあります。
保育士として子どもたちに説明する際には、「大昔のお城に住むえらい人たちが、新しい年に悪いものをはね飛ばすためにやり始めたんだよ」とシンプルに伝えると、子どもにも伝わりやすいですね。
墨田区伝統工芸保存会:押絵羽子板の歴史と宮中での羽根つきの記録
羽根つきの正月の意味「厄払い・無病息災」を正しく理解する
保育士の中には、羽根つきは「子どもの遊び」という認識で終わらせていることも多いかもしれません。しかし、そこには「1年の厄をはね飛ばし、無病息災を願う」という非常に深い意味が込められています。
羽根をつき続けることそのものが、邪気払いの儀式を意味していました。羽根を空中に高く打ち上げることで、病気や災いを天高く遠ざけるというイメージが根底にあります。また、羽根が「はねる」という動作が「厄をはね除ける」という言葉遊び(縁起担ぎ)とも重なっており、日本人らしい感覚が反映されているのが面白いところです。
羽根つきが無病息災の祈りである以上、羽根を落とすことは「祈りが途切れた=厄が自分に落ちてきた」という意味になりました。これが結果として、ペナルティとして「顔に墨を塗る」というルールの誕生につながります。これについては次のセクションでくわしく説明します。
また、羽根つきは女の子の遊びとして特別な意味を持つようになっていきました。江戸時代以降、「邪気をはね(羽根)除ける」という意味から、女の赤ちゃんが初めて迎えるお正月(初正月)に羽子板を贈る習慣が生まれます。これは親が女の子の健やかな成長を願う、お守りとしての意味を持っていたのです。
無病息災が原則です。子どもたちに「病気をしないように、元気でいられるようにお願いする遊びだよ」と伝えるだけで、羽根つきへの向き合い方がぐっと変わります。
晴れと暮らす:初正月の羽子板の由来・歴史と厄払いの意味について詳しく解説
羽根つきの羽根の黒い玉「ムクロジの実」に込められた願い
羽根の先についている、あの黒くて硬い玉の正体を知らない保育士も意外と多いのではないでしょうか。あの黒い玉は「ムクロジ(無患子)」という落葉高木の種子です。
「ムクロジ」を漢字で書くと「無患子」、つまり「子(ども)が患(わず)ら無(い)」と読めます。これが「子どもが病気にならない」という祈りを込めた縁起物として使われるようになった大きな理由です。
さらに、羽根の形状にも深い意味があります。室町時代には羽根つきの羽根を「胡鬼子(こぎこ)」と呼んでいました。「胡鬼」は古代中国では「トンボ」を意味する言葉で、羽根が空中を飛ぶ姿がトンボに似ていることからこの名がつきました。
これは意外ですね。
トンボは蚊を食べてくれる益虫として昔から知られており、羽根をトンボに見立てることで「蚊を追い払い、子どもが蚊に刺されないように(=病気にかからないように)」という意味が加わります。当時の感染症は蚊が媒介することが多く、マラリアやデング熱のような疫病も蚊由来と考えられていました。羽根つきは、現代でいう「虫除け」「病気予防」のまじないだったのです。
| 羽根の要素 | 意味・由来 |
|---|---|
| 黒い玉(ムクロジの種) | 「無患子=子どもが患わない」無病息災の祈り |
| 飛ぶ形状(トンボに似る) | 蚊を食べるトンボに見立てた蚊除け・魔除け |
| 打ち上げる動作 | 厄・邪気を天高くはね飛ばす |
| 打つ音(カンカン) | 音を嫌う魔物・邪気を追い払う |
ムクロジは数珠の材料としても使われており、寺院との関わりも深い植物です。保育現場では「羽根の黒い玉には、みんなが病気にならないようにっていう願いが入ってるんだよ」と伝えると、子どもたちが目を輝かせて聞いてくれるはずです。
羽根つきの正月ルール「顔に墨を塗る」のは実は魔除けだった
羽根つきで負けると顔に墨を塗られる、というルールを子どもたちに説明するとき、「罰ゲームだよ」とだけ伝えていませんか?実はこれにも、れっきとした意味が込められています。
羽根つきでは、羽根を打ち続けることが無病息災の祈りとされていました。そのため、羽根を落とすということは「厄が自分に落ちてきた」「祈りが途絶えた」ということを意味します。厄が落ちた本人には、そのまま厄が憑いてしまうという考えがあったため、それを払う必要が生じました。
そこで登場したのが「墨を塗る」という行為です。顔に墨を塗ることで見た目を変えて鬼(邪気)の目をごまかし、「この人ではない」と思わせて厄を寄せ付けないようにする、という魔除けのまじないです。また、墨で顔が変な顔になるのを見て大笑いすることで、笑いの力によって悪霊を追い払えるという意味もあったとされています。
つまり「墨を塗る=罰ゲーム」ではなく、「墨を塗る=相手への厄払い」という本来の意味があります。
保育現場でそのままの墨を使うことは難しいですが、「負けた人の顔にシールを貼る」などのアレンジをすれば、子どもたちに安全に意味を伝えながら楽しむことができます。「顔にシール貼ったら悪いものが逃げていくんだって!」という説明なら、3歳児でも理解しやすいですね。
人形の陣屋:羽根つきで顔に墨を塗る行為の魔除けとしての意味を詳しく解説
羽根つきを正月の保育活動に取り入れるための実践アイデア
羽根つきの意味と由来を理解した上で、保育現場にどう取り入れるかが保育士にとっての実践的な課題です。子どもの年齢によって取り組み方を変えると、より深い体験学習になります。
まず、年齢別の関わり方のポイントを整理しましょう。
- 0〜1歳児:本物の羽子板を見せて触らせる「体験・見学」が中心。羽根が飛ぶ様子を眺めるだけでも十分です。
- 2〜3歳児:牛乳パックや割り箸で作った手作り羽子板を使い、風船を打つアレンジ版が安全で楽しめます。本物の羽根は小さく飛んでいくため、風船に替えると2〜3歳でも遊びやすいです。
- 4〜5歳児:本来のルール(追い羽根)に近い形で遊べます。落としたらシールを貼るなどの「墨塗りアレンジ」も取り入れやすく、意味を伝えながら楽しめます。
手作り羽子板の定番は「牛乳パック羽子板」です。牛乳パック1個と割り箸2膳、セロハンテープがあれば作れます。保育士があらかじめ切り開いておけば、3歳児から製作に参加できます。羽根の代わりにPEテープを短く切ってビニールテープでまとめたものを使うと、軽くて扱いやすく、室内でも安全に遊べます。
製作→由来を説明→遊ぶ、という3ステップで活動を組み立てると、子どもたちが「意味を知って遊ぶ」体験ができます。これは使えそうです。
また、製作の前に「羽根の黒い玉には何が入っているか知ってる?」「顔に墨を塗るのはどうしてだと思う?」といった問いかけをするだけで、子どもたちの好奇心を引き出すことができます。
遊ぶ環境には注意が必要です。羽根が予期せぬ方向に飛んでいくことがあるため、広めのホールや園庭で実施することを基本とします。また、羽根が目に入るリスクもゼロではないため、低年齢クラスでは風船アレンジを優先的に使うことをおすすめします。
HoiClue(ほいくる):手作り羽根つきアイデア集 保育園で使えるさまざまな製作方法を紹介
羽根つきの正月の意味を子どもへ伝える言葉かけのコツ
羽根つきの由来をどんなに正確に理解していても、それを子どもに伝える言葉かけが難しいと感じている保育士は多いはずです。「邪気をはね除ける」「厄払い」といった言葉は、5歳児でも理解しにくいため、言い換えのスキルが重要になります。
子どもへの伝え方の基本は「悪いものをはね飛ばす遊びだよ」という一言に集約されます。シンプルが基本です。以下に、年齢別の言葉かけ例を示します。
- 2〜3歳児向け:「羽根をつくと、風邪の悪い菌が逃げていくんだって!だから元気でいられるんだよ」
- 4歳児向け:「昔の人はね、羽根をとばすと悪いものがはね飛ばせると思ってたんだよ。だからお正月に羽根つきをするの」
- 5歳児向け:「羽根についてる黒い玉は『無患子』っていう木の実でね、『子どもが病気にならない』って書くんだよ。だからこの羽根をつくと、1年間元気でいられるようにお願いできるんだって」
大切なのは、単なる「罰ゲームのある遊び」として伝えるのではなく、「願いが込められた遊び」として伝えることです。子どもたちが意味を感じながら遊ぶことで、日本の伝統文化への興味や親しみが育まれます。
また、おたよりで保護者に羽根つきの由来を伝えることも効果的です。「今月は羽根つきを楽しみました。実は羽根つきには、子どもの無病息災を願う深い意味があります。羽根の黒い玉は『無患子(ムクロジ)』という植物の実で、『子どもが患わない』という願いが込められているんですよ」といった文章を添えると、家庭でも話題になり、文化の継承につながります。
保育士が正しく知ることで、子どもたちへの伝え方が豊かになります。羽根つきの意味を知っているかどうかが、保育の質に直結するといっても過言ではないでしょう。
京都地主神社:羽根つきを含むお正月遊びの意味・由来をわかりやすくまとめた解説ページ

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