頭声発声のやり方と保育士が知っておくべき声の使い方
「大きな声で元気よく歌えば子どもに伝わる」は、実は声帯にコブができるリスクを高めています。
頭声発声とは何か|保育士が知っておきたい発声の基礎知識
頭声発声(とうせいはっせい)とは、声帯で生まれた音を頭部の共鳴腔に響かせることで音を増幅させる発声法です。「ヘッドボイス」とも呼ばれ、声楽やオペラの世界では長年にわたって使われてきた技術ですが、近年は保育・教育現場での「声の健康管理」という観点からも注目されています。
声の仕組みをざっくり整理してみましょう。声は、声帯が振動して音を作り出し、そのあと「共鳴腔(きょうめいこう)」と呼ばれる体内の空間で増幅されて外に出ます。この共鳴腔の使い方が声の質を大きく決めています。
共鳴腔には主に3つの場所があります。
- 胸部(チェストボイス):胸が響くため、低音域で力強く安定した声になる。日常の話し声に近い。
- 口腔・咽頭腔(ミドルボイス):中音域を担う。
- 頭部・鼻腔(ヘッドボイス=頭声):高音域を軽やかに響かせる。鼻腔から前頭部にかけて振動する感覚が特徴。
保育士が注意したいのは「地声(胸声)だけに頼りすぎること」です。子どもに向けて大声で呼びかけたり、ピアノに負けないように声を張り上げたりを繰り返すと、声帯に過大な負荷がかかります。これが蓄積すると声帯結節(こぶができる状態)や声帯ポリープにつながるリスクがあり、医学的にも「保育士・幼稚園教諭は音声障害の発症率が高い職種」とされています。
つまり頭声発声が基本です。胸声とうまく使い分けながら声帯への負担を分散させ、響きある声を長く保つことができます。
保育士の仕事では1日を通して声を使い続けます。朝の会から始まり、歌・読み聞かせ・屋外での呼びかけと、声を使う場面は10時間以上にのぼることも少なくありません。声を「一生使う楽器」として大切にする視点が、長く現場で活躍し続けるための土台になります。
保育士養成における歌唱指導の研究(近畿大学九州短期大学・江川靖志)|頭声・胸声・中声の声区、腹式呼吸の発声理論について詳述されている学術論文
頭声発声のやり方ステップ①|腹式呼吸で土台をつくる
頭声発声を身につけるうえで、最初に押さえるべきなのが腹式呼吸です。これが基本です。喉だけに頼った発声(いわゆる「喉声」)は、声帯を強く締め付けるため、長時間続けると疲労や声枯れを引き起こします。腹式呼吸は横隔膜(おうかくまく)を使って息を深く取り込み、安定した息の流れを声に乗せる技術で、頭声発声の「エンジン」にあたる部分です。
感覚をつかむためにまず、仰向けに寝て練習してみてください。寝た状態では肩甲骨が床に固定されるため、肩が上がりにくく、横隔膜の動きを感じやすくなります。
腹式呼吸の基本手順
| ステップ | 動作 | 意識するポイント |
|---|---|---|
| ① | 仰向けに寝て、おへその上に手を置く | 手が上下するかを確認 |
| ② | 鼻からゆっくり3〜4秒吸う | 胸でなくお腹が膨らむこと |
| ③ | 「スー」と細く8〜10秒かけて吐く | お腹がへこみながら吐くこと |
| ④ | 吐き切ったら自然に吸う | 吸い込む時に肩を上げない |
この感覚が体に馴染んだら、立って同じ呼吸を試みます。立つと肩が上がりやすくなるため、意識的に肩を下げ、「頭の頂点から糸で上に引っ張られている」イメージで姿勢を整えると呼吸がしやすくなります。
いいことですね。腹式呼吸は発声に役立つだけでなく、副交感神経を活性化させリラックス効果も得られるため、忙しい保育の現場でのストレス緩和にもつながります。
保育士の職業柄、子どもと一緒に床に座ったり、しゃがんだりすることが多く、前かがみの姿勢になりがちです。猫背や前肩の状態では喉が圧迫されて腹式呼吸が機能しにくくなります。発声練習の前には背筋を伸ばし、両足に均等に体重を乗せた正しい姿勢から始めることを習慣にしましょう。
慣れてきたら、「ス、ス、ス」と短く区切って息を吐く「スタッカート呼吸」で横隔膜を鍛えたり、「スーー」と長く細く吐き続ける「ロングブレス」で呼吸のコントロールを高めたりするとより効果的です。
保育士向け発声練習の実技研修レポート(petipa保育研修)|腹式呼吸から歌声への応用まで、現場目線でわかりやすく解説されています
頭声発声のやり方ステップ②|ハミングで共鳴の感覚をつかむ
腹式呼吸の土台ができたら、次は「共鳴」の感覚を体得するためにハミングを使います。これが頭声発声を実際に体感できる最短ルートです。
ハミングとは、口を閉じたまま「んー」と声を出す方法です。言ってしまえば鼻歌です。一見地味に見えますが、頭声発声の習得において非常に重要な練習法で、多くのボイストレーナーが初心者に勧める方法のひとつです。
ハミング練習の具体的な手順(3ステップ)
🔵 ステップ1:ハミングで共鳴箇所を探す
口を閉じて、「んーーー」と声に出す。このとき鼻の下や頬のあたりに指を当ててみてください。骨がビリビリと振動しているのが感じられれば、鼻腔共鳴がうまくできているサインです。
🟢 ステップ2:振動の場所を頭部へ意識を移す
額や頭頂部にも同様の振動があるかを意識します。声を鼻から上へ、頭の上から抜けていくようなイメージで発声してみると、次第に頭部での共鳴を感じやすくなります。「天井に向かって声を飛ばす」イメージが有効です。
🟡 ステップ3:「ん」から「ま・な・む」へ移行する
共鳴の感覚がつかめたら、「ん〜ま〜」「ん〜な〜」などハミングから母音へ移行する練習を行います。ハミング中の共鳴した響きをそのまま母音につなげていくことで、頭声発声の感覚を開口した声にも応用していけます。
ハミングは喉への負担がほぼゼロに近く、声帯の状態が悪い時でも行いやすい練習です。声枯れの翌朝や体調がすぐれない日でも、穏やかなウォームアップとして取り入れられます。毎日たった5分のハミングを続けるだけで、1〜2ヶ月後には声の安定感が体感できるようになるという声も多く聞かれます。
意外ですね。ハミング中に「鼻が詰まっている感じ」がするときは、逆に共鳴できていないサインです。息が鼻から過度に漏れている状態で、声帯の閉じが甘くなっています。「口の中は『ア』の形」をキープしたままハミングすることで、声帯がしっかり閉じやすくなります。
練習のコツとして、ハミングしながら音程を変えてみてください。低音から中音、中音から高音へとゆっくり移行しながら、どの音域で頭部の共鳴が感じられるかを探ります。共鳴の場所が音域によって変わっていく感覚があれば、頭声発声への道はぐっと近づいています。
頭声発声のやり方ステップ③|開口発声で頭声を実際の声に応用する
ハミングで共鳴の感覚をつかんだ後は、いよいよ口を開いた発声に移行します。ここが多くの初心者が悩む「壁」でもあります。つまり感覚のキープが条件です。
ハミングの振動感を保ちながら、そのまま「ん〜あ〜」と口を開けていきます。ポイントは「ハミングの状態から急に変えない」こと。ゆっくりと口を開きながら、頭部の共鳴感が消えないように意識します。
開口発声の基本手順
- 「ん〜ま〜」「ん〜な〜」:子音「ん」からスタートするので、共鳴のつながりが保ちやすい
- 母音「ア・エ・イ・オ・ウ」のスケール発声:ピアノで音階(ドレミファソ)を弾きながら各母音で歌い上げる
- 「ホー」発声:あくびをする感覚で喉を開きながら「ホー」と裏声気味に出す。喉の奥に空間ができている感じが正解
よくある失敗は、高音を出そうとするときに顎を上げてしまうことです。顎を上げると喉が圧迫され、声が喉から絞り出されるような「喉声」に戻ってしまいます。高音に向かう際は顎を引いたまま、頭の上に向かって声が抜けていくイメージを維持しましょう。
📌 チェックリスト(練習の確認用)
| チェック項目 | ✅ できている | ❌ 要注意 |
|---|---|---|
| ハミング中に鼻や頬が振動する | 共鳴できている | 声が喉でつまっている |
| 高音で喉に力みを感じない | 正しい頭声発声 | 喉を締めている |
| 口を開けても響きが変わらない | 移行がうまくいっている | 開いた瞬間に地声に戻る |
| 長く声を出しても喉が痛くない | 喉への負担が少ない | 地声・怒鳴り声の状態 |
これは使えそうです。上記チェックリストを印刷して練習場所に貼っておくと、自分でセルフチェックしながら練習を積み重ねていくことができます。
発声練習の音域は、普段歌っている曲よりも上下に3度(ドミファで言えば「ド〜ミ」くらいの音程差)ほど広いレンジを使うと効果的です。ただし無理は禁物で、喉に痛みを感じたらすぐに中断することが鉄則です。
頭声発声のやり方を子どもの歌唱指導に活かす方法
保育士が頭声発声を習得する意義は、自分の喉を守るためだけではありません。研究によると、子どもは保育者の声を自然にモデルとして歌声を形成していきます。つまり保育士が美しい頭声発声で歌えば、子どもたちも自然とそれに合わせた発声に近づくのです。
ただし、ここに大きな落とし穴があります。幼児の声帯は大人のそれと全く異なります。幼児の声帯は薄く繊細で、無理な力を加えると傷つきやすい構造をしています。先行研究(近畿大学九州短期大学・関東短期大学の論文)によると、埼玉県の保育者調査では65〜73%の保育者が「担当する子どもが怒鳴って歌っている」と認識していながら、そのまま歌わせ続けていたという実態が報告されています。
怒鳴り声(どなり声)で歌い続けると、子どもに以下の問題が生じます。
- 音程が取れなくなる
- 隣の友だちの声や伴奏を聴くことができなくなる
- 声帯に嗄声(させい)が生じやすくなる
- 「一緒に歌う喜び」が感じられなくなる
ここで重要なのは、子どもに「頭声的発声をしなさい」と直接指導する必要はない、ということです。これが原則です。技術的な指摘は子どもの「歌いたい気持ち」を削いでしまうリスクがあります。
代わりに有効なアプローチは次のとおりです。
- 保育士自身が頭声発声で範唱する:子どもは先生の声を自然に真似します。美しい声のモデルを見せることが最も効果的な「指導」です。
- 「声を届ける」意識を伝える:「大きな声を出して」と言うのではなく、「遠くのお友だちに届けるように歌ってみよう」と声かけを変えるだけで、怒鳴り声は減りやすくなります。
- 選曲と移調を工夫する:幼児の声域(年長児でおおよそラ〜高いドのあたりが多数派)を超えた曲は、怒鳴り声の原因になります。必要であれば曲を半音〜1音下げて歌いやすい音域に移調することも選択肢のひとつです。
保育士が毎朝の会で頭声発声を使って歌うだけで、クラス全体の歌声がやわらかくなるという現場報告もあります。特別な指導なしに環境が変わっていく、それが頭声発声の静かな力です。
幼児の歌唱指導に必要な指導者の技術に関する考察(関東短期大学・久保田和子)|子どもの声域と怒鳴り声の実態調査、頭声的発声指導の意義について詳しく論じられています
頭声発声の練習で保育士が見落としがちな「声帯ケア」の重要性
頭声発声の練習を進めるにあたり、同時に知っておきたいのが声帯ケアです。どれだけ正しい発声法を学んでも、ケアを怠れば声帯へのダメージは蓄積されていきます。これは健康の問題です。
学校教員と保育士を対象にした研究報告(谷亜希子・多田靖宏ら)では、学校教員の約50%が声のかすれや発声のしにくさを経験していると報告されています。保育士も同様に高いリスク職種とされており、声帯結節は「教師・保育士・若い女性歌手」に多くみられる疾患とされています。
声帯結節を放置すると声帯ポリープへと進行し、場合によっては手術が必要になります。手術後は5日間の沈黙療法(声を出さない)が必要で、仕事に復帰するまでに相応の時間がかかります。
痛いですね。早い段階でケアの習慣をつけることが、長く保育の現場に立つための現実的な選択です。
保育士が日常でできる声帯ケアの具体策
🔴 やってはいけないこと(声帯へのダメージになりやすい行動)
- 喉が枯れている状態で無理に声を出す
- 大声でのどを締めて叫ぶ・怒鳴る
- 乾燥した室内で長時間発声する
- カフェインの過剰摂取(声帯を乾燥させやすい)
🟢 声帯を守る日常ケア(具体的に実践できるもの)
| ケア方法 | ポイント |
|---|---|
| こまめな水分補給(常温水・白湯) | 乾燥を防ぐ。1時間に1回を目安に |
| 加湿器の使用 | 室内湿度50〜60%が声帯に最適 |
| 蒸しタオルを鼻・口に当てる | 保湿・ウォームアップ効果あり |
| 休日はできるだけ発声を控える | 声帯の回復に休息は不可欠 |
| 練習前のハミングウォームアップ | 急激な高音発声を避ける |
また、保育現場では「話すとき・歌うとき・呼びかけるとき」の3場面で発声の使い方を意識的に変えることが喉の負担を減らすポイントです。呼びかけるだけなら口元でなく「前方遠く」に声を届けるように意識するだけで、喉への圧力がぐっと下がります。
声帯ケアと頭声発声の練習は、セットで取り組むのが理想です。練習で正しい発声法を身につけながら、日常のケアで声帯を健康に保つ。これが保育士として声を長持ちさせる最も現実的な戦略です。
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