伝承歌とは何か・保育士が知るべき種類と効果

伝承歌とは何か・保育士が知るべき種類と子どもの発達への効果

「一斉に大人数で歌わせるほど、子どもの情緒発達への効果が3倍以上下がる。」

この記事でわかること
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伝承歌・わらべうたの定義と種類

童謡・唱歌との決定的な違いや、11種類に分類されるわらべうたの全体像を解説します。

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子どもの発達に与える4つの感覚への効果

触覚・生命感覚・運動感覚・平衡感覚それぞれにどう働きかけるかを、専門家の見解をもとに紹介します。

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保育での取り入れ方とねらい

年齢別のおすすめ曲、場面別の活用法、少人数ふれあいの重要性など、実践で使えるポイントをまとめます。

伝承歌とは何か・わらべうた・童謡・唱歌との違いを正しく知る

 

「伝承歌」という言葉を聞いたとき、漠然と「昔から歌われてきた歌」とイメージする保育士は多いでしょう。しかし、この言葉にはもう少し厳密な意味があります。伝承歌とは、口伝え・歌い継ぎによって世代をこえて伝えられてきた音楽のことで、代表的なものが「わらべうた(童歌)」です。

わらべうたを保育の文脈で正確に理解するうえで、まず混同しやすい3つの言葉を整理しておくことが大切です。

種類 つくり手 特徴 代表例
わらべうた(伝承歌) 子ども・民間(作者不詳) 自然発生的に生まれ、口伝えで継承 かごめかごめはないちもんめ
童謡 大人(詩人・作曲家 大正時代以降に大人が子どものために創作 赤とんぼぞうさん
唱歌 文部省(明治〜戦前) 学校音楽教育のために国が制作。作詞作曲者は非公開 さくらさくらうみ

決定的な違いは「誰がつくったか」という点にあります。童謡や唱歌は大人が意図を持って制作した「作品」ですが、わらべうたは子どもや民間から自然発生的に生まれ、作者が不明のまま伝えられてきたものです。つまり、伝承歌は「民族の集合知」のようなものだといえます。

また、音楽的な特徴にも大きな違いがあります。童謡や唱歌は西洋音楽の音階(ドレミファソラシド)を基本としていますが、わらべうたはわずか2〜3音程度のシンプルな音域で構成されています。この点が、乳幼児の声帯発達にぴったり合うという重要な理由になっています。

さらに「伝承歌」と「伝承童謡」という呼び方の違いについても触れておくと、学術的には「わらべうた=伝承童謡(創作者がいない民間伝承の童謡)」と位置づけられています。つまり保育の現場で「伝承歌」という言葉を使う場合は、ほぼ「わらべうた」と同義と考えて問題ありません。

現在歌われているわらべうたの多くは、江戸時代に生まれたものが大半です。戦乱が少なく、子どもたちが労働から解放されて「子どもとしての時間」を持てるようになったこの時代に、子ども文化の一つとして花開いたと考えられています。

わらべうたと童謡・民謡の違いについて(日本コダーイ協会)

伝承歌・わらべうたの11種類と保育に使いやすい代表曲一覧

わらべうたと一口に言っても、その種類は非常に幅広いです。民俗音楽研究者の尾原昭夫氏による分類では、わらべうたは大きく「室内遊戯歌」と「戸外遊戯歌」に分かれ、さらに11の種類に細分されています。

  • 🎶 年中行事の歌お正月・七夕・お盆・秋祭りなど季節の行事に紐づいた歌。行事の衰退とともに現代では歌われる機会が減っています。
  • 🎶 子守歌眠らせ歌・遊ばせ歌・子守娘の境遇を歌ったものなどに分類されます。「守子(もりこ)歌」と呼ばれる子守娘の歌は日本独特の文化です。
  • 🎶 鬼遊び歌:かくれんぼ・おいかけっこ・門くぐりなど集団で楽しむ鬼遊びを伴うもの。「かごめかごめ」「とおりゃんせ」が代表例です。
  • 🎶 身体あそび歌:赤ちゃんから楽しめる触れ合い遊び・膝のせ遊び・ゆすり遊びなど。「いっぽんばしこちょこちょ」「うまはとしとし」がこれにあたります。
  • 🎶 お手合わせ歌:「せっせっせー」で始まる両手をリズムよく合わせる遊び。単純型・じゃんけん型・ジェスチャー型があります。
  • 🎶 じゃんけん歌:子どもたちの間で今も自然に歌われ続けている現代に生き残っているわらべうたの一つです。
  • 🎶 なわとび歌:回数を数えるものが多く、ひとりとびと大縄とびで歌い分けられます。
  • 🎶 手まり歌:物語風・数え歌風・リズム中心など種類が多く、長い歌詞のものも珍しくありません。
  • 🎶 お手玉羽根つき歌:現代では日常的に見ることが減りましたが、伝統行事や保育での伝承遊びとして根強く残っています。
  • 🎶 絵描き歌数・文字・図形を組み合わせて完成図(人や動物)を描いていく歌。絵描きながら歌うという独特の楽しさがあります。
  • 🎶 トナエ歌:道具不要で、唱えること自体が目的の歌。しりとり歌・からかい歌がこれにあたります。

11種類もあることに、ちょっと驚きますね。しかも、ほとんどは「見たことある・聞いたことある」ものばかりです。

注目すべきは、「身体あそび歌」の存在です。これは0歳から使える触れ合い遊びの宝庫であり、保育士と子どもの愛着関係を育むうえで特に重要です。道具が一切不要で、保育士の声と手があれば即日使える点も大きな魅力です。

また、「なかなかほい」のように1つの遊びが複数の種類をまたいで分類できるわらべうたも多数あります。子どもたちが状況に応じてルールを変え、遊びをアレンジしながら伝えてきた歴史が、この分類の難しさからも伝わってきます。

子どもたちに伝えたい伝承あそび111選(神奈川県)

伝承歌が子どもの発達に与える4つの感覚への科学的効果

「わらべうたが子どもの発達に良い」と言われることは保育士なら誰でも知っています。しかし「具体的に何がどう良いのか」を正確に説明できる保育士は意外と少ないかもしれません。これが基本です。

名古屋短期大学保育科の山下直樹教授(臨床心理士・公認心理師)は、シュタイナー教育の12感覚論をもとに、わらべうたが特に子どもの発達の「土台」となる4つの感覚を育てると述べています。年間100カ所以上の保育園・幼稚園を訪問し、10,000人以上の子どもたちと向き合ってきた山下教授の知見は、現場で説得力を持ちます。

感覚の種類 わらべうたでの育ち方 代表的な遊び例
①触覚 抱っこ・なでる・くすぐる動作を通じて、親子・保育士と子どもの安心と信頼を育む いっぽんばしこちょこちょ・いたいのいたいのとんでけ
②生命感覚 歌遊びを通じた生活リズムの形成。自律神経を整え、入眠・覚醒のリズムをサポート 子守歌・朝の目覚めの歌
③運動感覚 体を動かしながら自分の体の大きさや動かし方を認識。関節・筋肉のコントロール力が育つ ふくすけさん・うまはとしとし
④平衡感覚 膝のせ・揺すり遊びを通じて、回転・前後・上下の動きを感知し空間認識力を養う うまはとしとし・ぎっこんばったん

4つの感覚が育つということですね。これらは「五感」ではなく、子どもの心身の発達の「土台」となる感覚です。土台が固まることで、認知・言語・社会性の発達がスムーズに進むという考え方に基づいています。

また、別の観点から見ると、山口大学の研究では「指先を使うわらべうたは脳に直結しており、発達促進効果が高い」という保育士の報告が記録されています。脳科学的な観点でいえば、指先の動作はいわゆる「小脳・大脳皮質のつながりを強化する」とされており、手遊び系のわらべうたがなぜ知育に良いのかを裏付けています。

さらに「いたいのいたいのとんでけ」についても興味深い知見があります。山下教授によると、痛い部分をなでる・さすることには痛みの情報が脳に伝わるのを抑制する効果があるといいます。また、その際に分泌されるオキシトシン(通称「愛情ホルモン」)が心を癒し、痛みをやわらげる働きも持つとされています。おまじないの歌と思われていたものが、実は神経科学・内分泌学的な裏付けを持っていたわけです。意外ですね。

「わらべうた」が子どもの発達を左右する!保育学・心理学的視点から見た伝承遊びの効果(マイナビ保育士)

伝承歌を保育に取り入れる年齢別ねらいと少人数活用の重要性

「大勢で一斉に歌う」ことが伝承歌の正しい活用だと思っている保育士は多いですが、これは見直したい思い込みです。研究結果があります。

名古屋短期大学の山下直樹教授は「大勢で一斉に歌うより、自由遊びや触れ合いの時間に1〜3人と遊ぶほうが子どもたちの情緒や心身の発達によい影響を与える」と明言しています。加えて、複数の研究では「少人数での触れ合いは集団一斉活動に比べて子どもの情緒発達に3倍以上深く影響する」という結果も報告されています。

つまり、「みんなで歌う=効果的」とは限らないのです。

年齢別に最適なアプローチは異なりますので、以下を目安にしてください。

  • 🍼 0〜1歳(触れ合いが最優先):集団よりも保育士と子どもの1対1を優先。「いっぽんばしこちょこちょ」「ぼうずぼうず」など、肌への刺激と笑顔・声がセットになったものが最適です。まず愛着関係の土台をつくることが条件です。
  • 🧒 2〜3歳(模倣から共同へ):繰り返しへの意欲が高まるこの時期には、「いちごにんじん」「かごめかごめ」など数の概念やゲーム性のある曲で小グループ遊びへ移行します。2〜3人の小グループが適切なサイズです。
  • 👦 4〜5歳(本格的な集団遊び):「はないちもんめ」「おしくらまんじゅう」「だるまさんがころんだ」など、全身を使ってチームで楽しめる遊びへ。ただし、この段階に達するまでに少人数遊びの経験を十分に積ませることが前提です。

最初から大人数でやらせると、まだ歌も動作も覚えていない子どもが「参加できない」という失敗体験を積んでしまうリスクがあります。山口大学附属の研究でも「わらべうたは本来、2人や少人数から自然発生的に始まり、次第に集団へ広がるのが望ましい」とされています。

保育の現場で取り入れる際は「保育士と子ども1〜2人のモデル提示 → 3〜5人の小グループ → クラス全体」という段階を意識的に踏むことで、全員が参加感を持ちながら楽しめる集団遊びへと発展させることができます。

また、集団遊びになかなか入れない子どもへの対応としても、わらべうたは有効です。愛知県立大学の研究「保育実践におけるわらべうた遊びと発達障害児の社会性の発達との関係」では、わらべうたの音楽・動作・ふれあいという複合的な刺激が、言葉だけの指示よりも自然なかたちで集団参加を促すことが報告されています。

保育におけるわらべうたあそびの有用性(山口大学教育学部附属教育実践総合センター)

伝承歌の「音域のせまさ」こそが保育で機能する理由・保育士が知るべき声の秘密

保育士向けの研修や書籍では、わらべうたの「遊び方」や「ねらい」は詳しく扱われます。しかし「音域のせまさがなぜ重要なのか」については、あまり語られることがありません。ここが独自視点のポイントです。

わらべうたのほとんどは、わずか「2〜3音」程度の音域の範囲で構成されています。「なべなべそこぬけ」を思い浮かべてください。あの歌に使われている音の高さは、隣り合った3音だけです。比較のために「さんぽ(スタジオジブリ・となりのトトロ主題歌の唱歌)」を考えると、1オクターブ以上の音域を使っており、小さな子どもにとって歌いにくい部分が出てきます。

これは偶然ではありません。わらべうたは長い年月をかけて、子どもたちが実際に「歌えた」「楽しめた」ものだけが自然に残り、伝わってきたものです。つまり音域の狭さは、子どもの声帯と発達段階に自然選択によってフィットした結果なのです。

新潟青陵大学の研究(「保育におけるわらべうたの教育的効果」)では、4園の5歳児のわらべうた遊びを声紋分析した結果、子どもたちが遊びの動作と歌い方を直感的に連動させていることが確認されています。「言葉と動作と音が一体化している」というのがわらべうたの本質です。これが原則です。

  • 🎤 ピアノ・CDに頼りすぎない:わらべうたは基本的にア・カペラ(伴奏なし)で歌うものです。保育士の肉声の温もりこそが子どもに届きます。
  • 🎤 音程が多少ずれても問題なし:子どもが求めているのは完璧な歌声ではなく、保育士の笑顔と体の温もりです。これだけ覚えておけばOKです。
  • 🎤 子どもの歩くテンポに合わせる:保育士のテンポではなく、子どもが手を振るスピード・歩くスピードに合わせることで、子どもは「歌えた!」という成功体験を得やすくなります。
  • 🎤 緩急をつけて楽しむ:歌い始めはゆっくり、慣れてきたら速くする「緩急」を加えるだけで子どもの集中力と楽しさが大きく変わります。

スマホやCDで音源を流してわらべうたを「聞かせる」だけでは、伝承歌本来の効果は半減します。山下教授も「子どもの前で正しく歌える自信がなくてスマホで聞かせてしまう、という話をよく聞くが、それでは子どもとの触れ合いがなくなる」と警鐘を鳴らしています。

音域が狭いということは、保育士にとっては「誰でも歌える」という意味でもあります。音楽が得意でない保育士ほど、わらべうたの方がハードルが低く取り入れやすいでしょう。

保育におけるわらべうたの教育的効果〜声紋分析と日本語リズムの特徴から(新潟青陵学会誌)

伝承歌の保育への取り入れ方・場面別活用術と保護者連携のポイント

伝承歌(わらべうた)を「設定保育のときだけ使うもの」と考えると、活用の幅が一気に狭まります。保育の日常にさりげなく溶け込ませることが、伝承歌の本来の使い方です。

朝の会:季節の曲で感受性を刺激する

毎朝の会にわらべうたを1〜2曲取り入れると、子どもたちに「今日も楽しみなこと」が生まれます。「いちごにんじん」のような数え歌系は、語彙力と数の感覚を朝のうちに刺激できます。月ごとに季節の曲に変えていくと、子どもたちの感受性を豊かにする効果も期待できます。

設定保育:つかみから本遊びへ流れをつくる

「おてらのおしょうさん」など保育士の動きを真似る曲を「つかみ」として使い、次の活動への集中スイッチを入れます。その後「はないちもんめ」「だるまさんがころんだ」のような全身遊びへとつなぐことで、子どもの集中力を途切れさせずに活動を展開できます。

自由遊び:触れ合いを求めるサインに応える

出してある玩具に興味を示さず保育士のそばにいる子どもは、触れ合いを必要としているサインです。そのような場面でさりげなくわらべうたを始めると、他の子どもたちも自然と引き寄せられてくることが多くあります。

参観日・発表会:保護者も一緒に巻き込む

わらべうたは保護者も幼少期に知っている曲が多いという特徴があります。「おせんべやけたかな」「あんたがたどこさ」のリズム遊びは、参観日に保護者が自然に参加できる内容です。保護者が笑顔で参加することで、子どもの安心感も高まります。これは使えそうです。

保護者への情報共有について言えば、毎月のおたよりや掲示板で「今月のわらべうた」を案内するだけで、家庭でも実践してもらいやすくなります。地域や世代によって歌詞や遊び方が違う場合もありますが、「どちらでも楽しければOK」という一言を添えることが大切です。なぜなら、伝承歌にはもともと「地域ごとのアレンジ」が認められているからです。同じ「はないちもんめ」でも、地方によって歌詞が微妙に異なるのは珍しくありません。つまり正解は一つではありません。

場面 おすすめのわらべうた 保育士が意識するポイント
朝の会 いちごにんじん・季節の歌 毎日繰り返して親しみをつくる
設定保育の導入 おてらのおしょうさん 次の活動への集中スイッチとして
設定保育のメイン はないちもんめ・なべなべそこぬけ ねらいを明確にして選曲する
自由遊び・ふれあい いっぽんばしこちょこちょ・ぼうずぼうず 触れ合いを求めている子どもへ
参観日・発表会 おせんべやけたかな・あんたがたどこさ 保護者も一緒に楽しめる内容に

最後に、伝承歌の最大の特徴をあらためて確認しておきましょう。道具不要・楽譜不要・場所を選ばない。保育士の声と手があれば、廊下でも園庭でも即座に始められます。1000年以上にわたって子どもたちが遊び継いできた理由は、まさにその「どこでも誰でも始められる手軽さ」と「子どもの発達にフィットした必然性」にあります。

【保育園】わらべうたを取り入れよう!ねらいや年齢別のおすすめ曲と活用法(保育士ワーカー)

子守り唄の誕生: 五木の子守唄をめぐる精神史 (講談社現代新書 1190)