春の童謡・唱歌を保育で使い倒す全ガイド
あなたが保育で毎年歌っている「春の小川」の今の歌詞、実は1942年に別の人が書いた改変版です。
春の童謡・唱歌を月別に選ぶ基本と3月の定番曲
春の保育で歌を選ぶとき、「とりあえず知っている曲」だけで乗り切っていませんか。実は月ごとに行事や季節感にフィットする曲があり、それを意識するだけで子どもたちの反応がぐっと変わります。3月から5月の春のシーズンは、卒園・入園・端午の節句と行事が連続する時期です。曲選びが保育の質に直結するといっても過言ではありません。
まず3月から見ていきましょう。この月は卒園シーズンにあたるため、感謝や旅立ちをテーマにした歌が映えます。春の童謡・唱歌として外せないのが「春よ来い」(作詞:相馬御風・作曲:弘田龍太郎)です。♪春よ来い、早く来い──という繰り返しのフレーズが子どもでも覚えやすく、3歳児クラスからでも十分に歌えます。
「うれしいひなまつり」(作詞:サトウハチロー・作曲:河村光陽)も3月の定番中の定番です。ただしこの曲には、保育士として知っておきたい重要なポイントがあります。歌詞の中で「赤いお顔の右大臣」と歌いますが、雛人形を正面から見て右側に座っているのは実際には左大臣です。赤ら顔の老人が左大臣で、白く凜々しい顔の若者が右大臣という位置関係が正しい雛飾りの配置です。作詞者のサトウハチロー本人も、向かい合った雛人形の配置を自分と同じ方向で見てしまい書き間違えたと認めています。これは子どもに問われたとき答えられると、保護者の信頼にもつながる豆知識です。
行事とのひもづけが大事です。3月は「春よ来い」→ひな祭りなら「うれしいひなまつり」→卒園なら「さよならぼくたちの保育園」という流れで曲を構成すると、一ヶ月の保育に自然なストーリーが生まれます。
| 曲名 | 作詞・作曲 | ポイント |
|---|---|---|
| 春よ来い | 相馬御風/弘田龍太郎 | 3歳〜OK・繰り返しがわかりやすい |
| うれしいひなまつり | サトウハチロー/河村光陽 | 3月3日前後に特化。歌詞の間違いに注意 |
| どこかで春が | 百田宗治/草川信 | 静かで落ち着いた雰囲気。お遊戯会にも |
春の小川・春が来たの由来と保育で伝えたい唱歌の背景
「春の小川」と「春が来た」はどちらも、作詞・高野辰之と作曲・岡野貞一という黄金コンビによる文部省唱歌です。このコンビは「ふるさと」「おぼろ月夜」「もみじ」なども手がけており、日本の学校音楽の基盤を作った存在です。長らく作者不明とされていましたが、戦後になって2人の名前が判明しました。
「春の小川」が発表されたのは1912年(大正元年)のことです。驚くのはそのモデルとなった川が、田園風景を想像させる地方の川ではなく、現在の東京都渋谷区を流れていた河骨川(こうほねがわ)だという点です。高野辰之が当時住んでいた代々木周辺を流れていた小川で、春になるとメダカが泳ぎ、スミレやレンゲが咲いたといいます。その河骨川は現在、東京五輪(1964年)の準備に伴う都市開発で完全に暗渠(地下水路)となっており、地上から見ることはできません。渋谷のビル街の地下に「春の小川」が眠っているという話は、子どもたちに話してあげると目を丸くします。
もうひとつ重要な事実があります。今わたしたちが歌っている「春の小川」の歌詞は、高野辰之が書いたオリジナルではありません。1942年(昭和17年)に林柳波(はやし りゅうは)という別の人物が文語体から口語体に改変したもので、このとき元の3番の歌詞が丸ごとカットされています。つまり今の保育現場で歌われているバージョンは、戦時中に手が加えられた「改変版」なのです。これは意外と知られていない事実で、知っておくと唱歌の授業や音楽活動に深みが出ます。
「春が来た」は1910年(明治43年)に発表されています。♪春が来た、どこに来た──という繰り返しの問いかけ構造は、子どもの応答性を引き出すのに絶妙です。「山に来た」「里に来た」「野にも来た」という広がりの表現は、季節を空間的にイメージさせる力を持ちます。春の季節感を言葉で体感させる曲として、4月の入園式前後に歌うと非常に効果的です。
東京都第二建設事務所「春の小川」のモデル・河骨川についての公式解説
参考:「春の小川」の舞台・河骨川と渋谷川の関係についての東京都公式情報です。保育での語りかけに使えるエピソードが確認できます。
春の童謡・唱歌で4月の保育を組み立てる選曲術
4月は保育の新しい一年が始まる月です。子どもたちにとっては環境の変化で緊張感が高まる時期でもあるため、明るく親しみやすい曲が求められます。春の童謡・唱歌の中では「春が来た」「めだかの学校」「チューリップ」の3曲が特に4月向きです。
「チューリップ」(作詞:近藤宮子・作曲:井上武士)は言葉が平易で、2歳・3歳の乳幼児クラスでも無理なく歌えます。♪さいた さいた チューリップの花が──という歌い出しは、春の植物への興味・関心を自然に高めてくれます。実際に園の花壇でチューリップが咲いているタイミングに合わせて歌うと、視覚と聴覚が連動した体験になります。これは使えそうです。
「めだかの学校」(作詞:茶木滋・作曲:中田喜直)は4月の新学期ムードにぴったりの一曲です。♪めだかの学校は川の中──という情景描写が、入園・進級で新しいクラスに来た子どもたちに「学校ってなんだろう」と楽しい想像をさせてくれます。曲のテンポもゆったりしており、ピアノ初心者の保育士でも弾きやすい構成です。
4月の選曲のポイントは「繰り返し」と「問いかけ」のある曲を軸にすることです。子どもは同じフレーズが繰り返されるほど覚えやすく、保育士の声に安心感を感じます。これが4月の選曲の基本です。「春が来た」の「どこに来た」という問いかけを、保育士が歌った直後に子どもたちが「山に来た!」と答えるコール&レスポンス形式にするだけで、集団活動の一体感が一気に高まります。
- 🌷 チューリップ:乳幼児クラス向け。花壇のチューリップが咲く時期に合わせて歌うと効果大
- 🐟 めだかの学校:新学期ムードにぴったり。ピアノ初心者でも弾きやすいシンプルな構成
- 🌸 春が来た:コール&レスポンス形式にアレンジするだけで集団活動の一体感が生まれる
- 🦋 ちょうちょう:ドイツ民謡が原曲。明治14年に日本語訳で唱歌に採用された歴史ある一曲
年長クラスには「さくらさくら」のような雅楽音階(ヨナ抜き音階)を使った唱歌を少し加えると、日本の伝統音楽への感性が育まれます。この音階は現代ポップスにはほぼ使われないため、唱歌の授業でしか体験できない貴重な音感体験です。
5月の春の童謡・唱歌おすすめと行事に合わせた活用法
5月は「こどもの日」「母の日」がある月です。行事に合った曲選びがそのまま保育の充実度につながります。春の童謡・唱歌の中で5月に特に適しているのは「こいのぼり」「おかあさん」「肩たたき」の3曲です。
「こいのぼり」には2つのバージョンが存在することを知っておくと便利です。「やねより たかい こいのぼり」で始まる童謡「こいのぼり」(作詞:近藤宮子・作曲:不詳)と、「甍(いらか)の波と雲の波」で始まる唱歌「鯉のぼり」(作詞:不詳・文部省唱歌)は別の曲です。保育現場では前者の「やねよりたかい」バージョンが圧倒的に多く使われます。子どもたちが親しみやすいリズムと簡単な歌詞が理由です。
「おかあさん」(作詞:田中ナナ・作曲:中田喜直)は5月の母の日行事に欠かせない一曲です。♪おかあさん おかあさん どんなにか好きか──という直接的な愛情表現が、母の日製作と組み合わせることで子どもの情感をうまく引き出します。
「肩たたき」は子どもが実際に動作をつけながら歌える点が強みです。肩をたたく動作を音楽に合わせることで、リズム感と身体感覚が同時に育まれます。動作のある歌は、特に集中力が続きにくい2〜3歳児クラスで有効です。動くから楽しいということですね。
| 曲名 | 5月の行事・場面 | 年齢の目安 |
|---|---|---|
| こいのぼり(やねよりたかい) | こどもの日・製作発表 | 2歳〜 |
| おかあさん | 母の日・お遊戯発表 | 3歳〜 |
| 肩たたき | 母の日・動作あそび | 3歳〜 |
| 緑のそよ風 | 5月の自然活動・散歩 | 4歳〜 |
「緑のそよ風」(作詞:清水かつら・作曲:草川信)は比較的知名度は高くないものの、5月の清々しい野外活動のBGMや散歩の帰り道に口ずさむと場の雰囲気がぐっと上がります。歌詞に「ぶらんこゆりましょ」「小川のふなつり」など具体的な遊びの場面が詰め込まれており、子どもが自分のことのように共感しやすい内容です。
春の童謡・唱歌の著作権と保育士が知らないと損する注意点
保育の現場では、歌詞を書いたカードや印刷したプリントを子どもや保護者に配ることがあります。「童謡だから古い曲だし、無料で使えるはず」と思っていませんか。実は、それが大きな誤解を生む原因になっています。
著作権には保護期間があり、作者の死後70年が経過するまで有効です(日本の著作権法)。先ほど紹介した「春の小川」の1942年改変版は、改変者・林柳波が1974年に死去したため、保護期間は2044年まで続きます。つまり、今わたしたちが歌っているバージョンの歌詞はまだ著作権の保護期間中なのです。JASRACが歌詞の著作権を管理している楽曲の場合、歌詞をコピーして配布・掲示した場合、著作権法に基づいて罰則の対象になりえます。
ただし、授業や保育活動の現場での「歌唱」そのものは、著作権法第35条で一定の範囲で認められています。つまり子どもたちとそのまま歌う分には問題ありません。問題が生じるのは「歌詞プリントを印刷して配布する」「歌詞を模造紙に書いて保護者に向けて掲示する」「歌詞データをSNSに投稿する」といった場面です。
- ✅ 保育室での歌唱・演奏:著作権法35条の範囲内で問題なし
- ⚠️ 歌詞を書いたカードを保護者に配布:JASRAC管理楽曲の場合は要注意
- ❌ 歌詞データをSNSや園のブログに全文掲載:著作権侵害の可能性が高い
- ✅ 明治期の文語体オリジナル歌詞(高野辰之作詞版):著作権保護期間は切れている
著作権の確認は一つで終わります。JASRACの公式データベース「J-WID(ジェイウィッド)」で楽曲名を検索すれば、管理状況をすぐに調べることができます。保護者向けの歌詞配布やSNS投稿を考えているときは、使用前にこのデータベースで確認する習慣をつけておくと安心です。これが条件です。
参考:保育・教育機関での楽曲利用についてのJASRAC公式ガイドです。著作権法35条の適用範囲と例外についてわかりやすく解説されています。
また、保護期間が切れてパブリックドメインになっている唱歌も多くあります。「春が来た」「春の小川(高野辰之の原版)」「ちょうちょう」などは、作詞・作曲者が没後70年以上経過しているため、歌詞の引用・配布に制限はありません。楽曲ごとに著作権の状況が異なる点を押さえておきましょう。


