カラスの歌の歌詞の意味を保育士として深く理解する
「七つの子」を”秋の歌”として子どもに教えている保育士さん、それが正しい季節ではない可能性があります。
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カラスの歌「七つの子」の歌詞と作品背景
「カラスなぜ鳴くの」という書き出しで誰もが耳にしたことのある童謡の正式タイトルは「七つの子」です。「カラスの歌」と呼んでいる方は多いですが、実は曲名そのものは「七つの子」が正解。保育の現場で扱うにあたって、まずこの基本を押さえておきましょう。
この童謡は、大正10年(1921年)に児童文学雑誌『金の船』7月号に掲載されました。作詞は野口雨情(のぐちうじょう/1882〜1945年)、作曲は本居長世(もとおりながよ/1885〜1945年)です。野口雨情は「赤い靴」「シャボン玉」「証城寺の狸囃子」など、誰でも知っている童謡の多くを手がけた童謡界の巨人で、北原白秋・西條八十とともに「童謡三大詩人」のひとりに数えられています。
歌詞は全体で3連構成になっており、内容はとてもシンプルです。
| 原詩(野口雨情)の歌詞 |
|---|
| 烏 なぜ啼くの |
| 烏は山に 可愛七つの 子があるからよ |
| 可愛 可愛と 烏は啼くの |
| 可愛 可愛と 啼くんだよ |
| 山の古巣へ 行って見て御覧 |
| 丸い目をした いい子だよ |
この歌詞は「なぜ鳴くの?」と問いかける年少者(子ども)と、「可愛い子がいるから鳴いているのよ」と教える年長者(親や祖父母)の対話形式で構成されています。つまり、大人と子どもが自然を一緒に眺めながら言葉を交わす情景が描かれているわけです。シンプルな歌詞なのに読み込むほどに奥が深い。それがこの童謡の魅力です。
なお、この歌には元になった詩があります。明治40年(1907年)に雨情が発表した「山烏」がその原型で、当時は「烏なぜ啼く/烏は山に/可愛い七つの/子があれば」という短い詩でした。14年後に「七つの子」として世に出る前から、「七つ」という言葉と「山」「可愛い子」のイメージが雨情の中に息づいていたことがわかります。
野口雨情記念館公式サイト|「七つの子」の原型「山烏」と「七つ」の解釈について掲載
カラスの歌「七つの子」の歌詞の意味:「七つ」は7羽?7歳?100年の論争
保育士としてこの歌を子どもに伝えるとき、最も押さえておきたいのが「七つの子の”七つ”とは何か」という問いです。これは実は100年以上にわたって決着がついていない大論争で、野口雨情記念館の館長(雨情の孫娘)でさえ「今でもはっきりしていない」と公式に述べています。
論争のきっかけは、鳥類学博士・清棲幸保(きよすゆきやす)の指摘です。「カラスは一度に7羽もの雛を育てることはない。またカラスが7歳まで生きたならばとっくに成体であり、”子”とは呼べない」という趣旨の疑問を提示したことから、学者や文学者を巻き込んだ論争が始まりました。
主な説を整理すると、以下の3つになります。
- 7羽説:子ガラスが7羽いるという解釈。ただし、現実のカラスが一度に7羽育てることはほぼなく、生物学的に無理がある。
- 7歳説:カラスの子が「人間で言えば7歳くらいの幼さ」という比喩的な表現。言語学者・金田一春彦が支持し、野口雨情の孫娘(記念館館長)も雨情の息子が7歳のころに作られた歌だとして支持している。
- 「たくさん」説:日本語の「七つ」は「多い」を意味する慣用的な使い方もあり、ざっくり「たくさんの子ども」という感覚で書いたという説。
雨情自身はこの論争に対して、「言葉の音楽から七歳とした方が芸術味を豊かにもたせることができる」と述べながらも、「七つといえば必ず七歳と思うのは、芸術に理解なき考え」とも残しています。答えを一つに固定させないまま世に出したのは、意図的だったかもしれません。
保育の場でこの「答えが一つでない」という構造は、実はとても使いやすいです。「七つって何だと思う?」と子どもに問いかけるだけで、数の話にも、家族の話にも、動物への興味にも展開できるからです。答えを決めなくていいからこそ、子どもの発想が生まれやすくなります。
Wikipedia「七つの子」|7羽説・7歳説・たくさん説の整理と野口雨情記念館の見解
カラスの歌の歌詞に込められた意味:「古巣」と「丸い目」の深読み
「七つ」の意味だけでなく、歌詞には他にも謎めいた表現が含まれています。特に「山の古巣」と「丸い目をした いい子だよ」という2つのフレーズは、注意深く読むと不思議な味わいがあります。
まず「山の古巣」という言葉。”古巣”は辞書的には「古い巣、もとの巣」を意味します。カラスが今も子育て中であれば、それは新しく使っている巣のはずです。なのになぜ「古巣」なのか。これが研究者や文学ファンを悩ませてきた部分です。
一方、tenki.jpのコラムでは、野口雨情の家系が楠木正成の実弟・楠木正季にさかのぼるという伝承をたどりながら、熊野大社の主祭神の眷族(けんぞく)であるヤタガラスや、物部氏の拠点「布留(ふる)」との関連性を指摘する独自の考察が紹介されています。この説に従えば、「山の古巣」は物部氏の神を祀る山への暗喩であり、「七つ(幾世代もの年月を経た)の子」はその血を受け継ぐ存在を指すのかもしれません。もちろんこれはひとつの文学的解釈ですが、雨情が童謡の中にそれほど深い歴史的背景を忍ばせていた可能性があるとするなら、この歌詞の奥行きは計り知れません。
次に「丸い目をした いい子だよ」というフレーズ。実はこの表現は、俳優の森繁久彌(もりしげひさや)が盲学校を訪問した際、盲目の生徒に対して「まるい目をした」をそのまま歌うのを憚り、咄嗟に「まるい顔した、いい子だよ」と歌い換えたという逸話が残っています(戸板康二著『ちょっといい話』より)。保育士として、歌詞の言葉が子どもの実情に合っているか立ち止まって考えることは、この逸話からも学べる姿勢です。
結論は出ていません。でも、その「出ていないこと」こそが、この歌を何度でも読み解く価値ある作品にしています。
カラスの歌の歌詞で保育士が知るべき「季節」の落とし穴
「七つの子」は秋の歌だと思っている保育士さんが多いですが、それは実は根拠のない思い込みである可能性が高いです。これは保育の現場でも意外と知られていないポイントです。
歌詞を改めて読んでも、秋を示す描写はどこにもありません。「夕焼け」や「もみじ」といった秋の季語にあたる言葉は一切使われていないのです。では、なぜ多くの人が秋の歌だと感じるのでしょうか?ひとつには、夕方の雰囲気や「山」「古巣」といったノスタルジックなイメージが、なんとなく秋の情景と重なりやすいからだと考えられます。
実際にカラスの生態から考えると、繁殖期・子育て期は春から初夏にかけて(4〜7月ごろ)です。子ガラスが巣にいる情景を歌った曲と解釈するなら、春または初夏の歌として見るほうが自然です。音楽系サイト「ASDの歌月さん」を運営する歌い手・解説者も「初夏の歌として結論づける」と明言しています。
保育の現場でこの事実を知っておくことには、具体的なメリットがあります。季節の行事に合わせて選曲するとき、「カラスの歌=秋」という固定観念で選んでしまうと、プログラムの組み立てが少し的外れになってしまう可能性があります。春のお散歩活動や初夏の自然観察の場面で「七つの子」を取り上げるのは、歌詞の内容とも合っていてとても自然な流れです。
また、「秋の歌として分類されていることも多いですが、実はカラスの子育ては春なんですよ」と子どもや保護者に伝えるだけで、この歌が生き物の話と自然とつながるきっかけになります。知識として引き出しに入れておくだけで、保育の幅が一つ広がります。
tenki.jp|カラスの子育て期と「七つの子」の季節の関係を解説した記事
カラスの歌の歌詞と替え歌・コナン・保育への活用法
「七つの子」はそのシンプルで美しい歌詞だけでなく、ポップカルチャーの中でも繰り返し登場している点が興味深い童謡です。この背景を知っておくと、保育の中で子どもと話が広がりやすくなります。
まず、替え歌について触れておきましょう。1980年代初頭、テレビ番組『8時だョ!全員集合』(TBS)の中でザ・ドリフターズの志村けんが「カラスなぜ鳴くの カラスの勝手でしょ〜」という替え歌を披露し、当時の子どもたちの間で爆発的に流行しました。志村けんが飽きてやめようとしたところ、抗議電話が殺到して続けざるを得なかったほどの社会現象だったと言われています。この替え歌を「本物の歌詞だ」と信じている大人が今も少なからず存在し、保護者対応の際に触れることもあるかもしれません。これが替え歌であり、元の歌詞は「可愛 可愛と 烏は啼くの」という優しい内容であることは、保育士として押さえておきたいポイントです。
次に、人気アニメ『名探偵コナン』との関係も見逃せません。作中に登場する黒の組織「あの方」のメールアドレス番号「♯969♯6261」を携帯電話のプッシュ音で押すと「七つの子」のメロディに似た音列になるという設定があり、この謎はコナンファンの間で長年語られてきた重要な伏線です。保育士として直接関係するわけではありませんが、家庭でコナンを観ている年長さんや就学前の子どもが「七つの子ってコナンの曲じゃないの?」という反応を示すこともあります。そういったときに「そうだね、コナンにも出てくるね。でも実はもっともっと古い歌なんだよ」と橋渡しできると、子どもの興味が一気に深まります。
保育への活用という意味では、替え歌は禁止より「使い分け」の設計が有効です。「七つの子タイム」は元の歌詞で優しく歌い、「替え歌タイム」は別の遊びとして切り分ける。そうすることで子どもは見通しを持ちながら両方を楽しめます。元の歌詞の「なぜ鳴くの?」という問いを使って、子ども自身に「なぜなら〜でしょ」と自由に答えを作らせる言葉遊びにも展開できます。言葉の創造性を育てながら、元の童謡への理解も深まる一石二鳥のアプローチです。
文化庁と日本PTA全国協議会が2006年に選定した「日本の歌百選」にも選ばれており、また2003年にNPO「日本童謡の会」が全国約5,800人にアンケートをとった「好きな童謡」でも第6位に輝いた作品です。これだけの支持を集めてきた背景には、歌詞の謎や余白、そして親子の情愛という普遍的なテーマがあります。保育士として自信を持って子どもたちに届けられる童謡のひとつです。


