胸声発声で歌う保育士のための声帯を守るコツと練習法

胸声発声と歌を保育士が正しく学ぶ方法

胸声発声の練習を熱心にやるほど、声帯が傷んで手術代7〜8万円の出費になることがあります。

この記事でわかること
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胸声発声の基本と保育士が注意すべきポイント

「胸声(チェストボイス)」とは何か、なぜ保育士にとって重要な発声なのかを解説します。声帯への負担を最小限にする仕組みも紹介します。

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腹式呼吸と胸声を組み合わせた正しい発声練習

保育士が今日から実践できる、喉に負担をかけない腹式呼吸と胸声発声の具体的な練習ステップを紹介します。

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声帯を守るセルフケアと声枯れ予防策

声帯結節やポリープになる前に知っておきたいケア方法と、毎日の仕事の中で続けられる予防策をまとめます。

胸声発声とは何か:保育士が知るべき声の仕組み

 

胸声(きょうせい)とは、声帯を縮める・閉じる筋肉がメインで働いてつくられる声のことです。英語では「チェストボイス(Chest Voice)」と呼ばれ、胸部に振動が伝わって共鳴することからその名がついています。普段の会話や、保育士が子どもたちに呼びかけるときの声も、基本的にはこの胸声です。

声区(せいく)という概念があります。声帯の使い方によって「胸声」「中声」「頭声」「ファルセット」と音域ごとに共鳴の場所が変わります。低い音域では胸声の共鳴が主体となり、音が高くなるほど頭部の共鳴が多くなるのが特徴です。

保育士の仕事では、子どもたちへ歌を歌ったり元気よく呼びかけたりする場面が一日中続きます。そのほとんどが胸声を使う場面です。つまり保育士は職業柄、胸声を使う時間が一般の職業と比べて極めて長い。

声が胸に響く感覚は、胸に手を当てながら「あー」と少し低めの声を出したときにわかります。指先がかすかに振動するような感覚があれば、胸声が正しく出せている状態です。これがチェストボイスの基本的な確認方法です。

一方、声帯を引き伸ばす・開く筋肉がメインで動いてつくられる声が裏声(ヘッドボイス・ファルセット)です。高音域を担うグループで、保育の歌で「さんぽ」などの明るいキーを歌う場面で使われます。胸声と頭声の自然なつながりを意識することが、長く声を保つ第一歩です。

近畿大学九州短期大学の江川靖志氏による研究「保育士養成における歌唱指導についての研究」では、理想の発声について「胸声、中声、頭声の順に自然につなげられること」を挙げ、声区を決めつけて発声することを避けるよう指摘しています。

保育士向け発声・歌唱指導についての学術論文。胸声・中声・頭声の声区の繋げ方や、姿勢・呼吸・共鳴の各観点が詳しくまとめられています。

保育士養成における歌唱指導についての研究(近畿大学九州短期大学)

保育士が胸声発声の練習でやりがちなNGと声帯結節のリスク

多くの保育士が「歌が上手くなりたい」「声をもっと大きくしたい」という気持ちから、胸声の練習に取り組みます。それ自体は正しい方向性です。問題は、練習の量とやり方にあります。

保育士はもともと、一日中子どもたちと話し、歌い、呼びかけることで声帯を酷使しています。そこにさらに胸声の発声練習を上乗せしてしまうと、声帯のオーバーワークが起きやすい状態になります。ボイストレーニング専門家によると、「大きな声を使う職業(保育士や教師など)の方は、地声(胸声)の訓練までやると、オーバーワークになる可能性が高い」と明確に注意を促しています。つまり声が枯れているのに練習するのは危険です。

オーバーワークが続くと、声帯粘膜への機械的刺激が蓄積し、「声帯結節(せいたいけっせつ)」という状態になることがあります。声帯結節は保育士・インストラクターなど音声を酷使する20〜30代の成人女性に多い症状で、気息性嗄声(かすれ声)や高音が出しにくくなる症状が現れます。

放置して悪化すると、手術が必要になることも。全身麻酔で入院する声帯ポリープ・結節切除術の費用は、健康保険3割負担で約7万〜8万円が目安です。仕事の休業期間も含めると、そのコストはさらに大きくなります。つまり間違った練習は健康損失と経済的損失の両方につながるということです。

では、練習するなということでしょうか。そうではありません。声が十分に回復している状態・短時間・正しいフォームという条件を守れば、胸声の練習は保育士の声を長期的に守ることにつながります。声が掠れているときや明らかに枯れているときは、どんなボイストレーニングも中止することが大原則です。

症状の段階 状態 推奨アクション
声が多少かすれる 声帯に疲労が蓄積している 当日の練習は中止・水分補給
声が枯れている 声帯に炎症の可能性あり 安静・翌日以降も練習は休む
2週間以上嗄声が続く 声帯結節・ポリープの可能性 耳鼻咽喉科を受診する

声帯結節の概要・症状・治療について詳しく書かれた耳鼻咽喉科専門クリニックの解説ページです。

声帯ポリープ・声帯結節の手術について(岩野耳鼻咽喉科)

胸声発声を安全に鍛える腹式呼吸の練習ステップ

胸声発声の土台は腹式呼吸です。腹式呼吸は、横隔膜を下方に押し広げることでお腹周りを膨らませ、多くの空気を取り込む呼吸法です。胸式呼吸と比べて空気交換量が多く、発声器官に余計な力が加わりにくいのが特徴です。

腹式呼吸ができているかどうかを確認するには、仰向けに寝てお腹に手を当て、息を吸ったときにお腹が膨らむかを見ます。仰向けの姿勢では自然と腹式呼吸になるため、感覚をつかむのに最適です。これは保育士がお昼休みの5分で試せる方法です。

腹式呼吸が身についたら、それを立った姿勢に移行します。以下が基本ステップです。

  1. 足を肩幅に開いて立ち、肩の力を抜く
  2. 口から息を吐き切り、お腹をへこませる
  3. 鼻からゆっくり吸って、お腹を膨らませる(3秒程度)
  4. そのままの状態で「あー」と低めの声を出す
  5. 声を出しながらお腹がゆっくりへこんでいくのを手で確認する

発声の際、肩が上がっていないかチェックすることが重要です。肩が上がると胸式呼吸になり、喉に力が入って声帯に直接負担がかかります。猫背になりがちな保育士の方は、背筋を自然に伸ばし、視線をやや上に向けるだけで姿勢が改善されます。

腹式呼吸の発声練習は1回15〜30分程度を目安にしてください。毎日少しずつ続けることが大切で、焦って長時間やる必要はありません。短い練習で声帯を慣れさせていくイメージです。

胸に手を当てながら「ホ」の音を低音から出す練習も効果的です。この「ホ」は母音の「オ」を暗く虚ろに発音するイメージで行います。このとき音量は徐々に大きくする方が声帯の振動効率の特性に合っています。喉が温まってきたら「ア」の母音でしっかりした発声を試みます。

腹式呼吸を自然に習得するためのやり方と、歌における活用法が詳しく掲載されています。

保育の歌で胸声と頭声を自然につなげる換声点のコツ

保育の歌には「さんぽ」「手のひらを太陽に」「犬のおまわりさん」など、音域が広く高い音が含まれる曲が多くあります。胸声から頭声に切り替わる境目を「換声点(かんせいてん)」またはブリッジと呼び、ここでうまく切り替えができないと声がひっくり返ったり、急に細くなったりします。

換声点の位置は声種によって異なります。女声(ソプラノなど)では胸声の音域が比較的短く、男声では胸声の領域が長い傾向があります。保育士に多い女性の場合、ミ〜ソ(E4〜G4)付近が換声点になりやすいです。子どもの歌でよく使われるキーはちょうどこのあたりに集中しているため、換声点の扱いが特に重要になってきます。

換声点でひっくり返らないために大切なのは、胸声と頭声をどちらか一方に決めつけないことです。「低音だから胸声」「高音だから頭声」と切り替えを意識しすぎると、スムーズなつながりができません。車のギアチェンジのように、自然に移行できるのが理想です。

具体的な練習としては、ハミングが効果的です。口を軽く閉じた状態で「ん〜」と高めのラ(A4)あたりでハミングします。眉間の間にわずかに振動が感じられれば、鼻腔や口腔の奥にある「共鳴腔(きょうめいくう)」に声が響いている状態です。これが頭声の響きの感覚です。

胸声と頭声の自然なつながりを意識するためのもう一つのポイントは「力まないこと」です。換声点の前後で肩や首に力が入ると、喉が締まって声が詰まります。まずは無理のない音量・音域でハミング練習を繰り返し、徐々に換声点をまたいでも滑らかに声が続くようにしていきましょう。

保育士が日々歌う中で音程に不安があるなら、片耳を軽く塞ぎながら歌うと自分の声が聞き取りやすくなります。音程だけに集中して「ラララ」で歌う練習を繰り返すと、換声点での声の変化も自然に把握できるようになります。

ボイストレーニングの基礎として、胸声・地声の出し方と練習方法が詳しく解説されています。オーバーワークへの注意点も記載されています。

ボイストレーニングの基礎|地声/チェストボイス/胸声の練習(k-voicetraininglab.com)

保育士が毎日できる胸声発声と喉のセルフケア習慣

胸声発声を長く維持するためには、練習と同じくらいケアが重要です。保育士は一日に歌を何曲も歌い、大きな声で子どもたちに呼びかける。そのうえ教室内が子どもの声で賑やかなため、自分の声量を無意識に上げてしまうことが多い環境です。声帯にとって過酷な状況です。

毎日できるセルフケアの基本は水分補給です。声帯の粘膜を潤した状態に保つことが、摩擦や炎症を防ぐ最もシンプルな方法です。仕事前や歌の前には必ず水かぬるま湯を飲む習慣をつけましょう。ウーロン茶は喉の脂分を洗い流し、粘膜を乾燥させやすいため避けた方が無難です。

加湿も重要です。冬場の乾燥した室内では、声帯が乾きやすく傷みやすい。保育室の湿度を50〜60%程度に保つことが声帯保護に効果的です。加湿器が難しい場合は、濡れタオルを室内に干すだけでも差が出ます。

仕事が終わったあとのセルフケアも習慣にしてください。

  • 🎙️ 帰宅後は声を休める:仕事で使い続けた声帯を休ませるため、帰宅後は大声を出す行動(大声での電話・カラオケなど)を控える
  • 💧 寝る前のうがい:口腔内の雑菌を減らし、翌朝の声帯コンディションを整える
  • 😷 就寝時のマスク着用:睡眠中の口呼吸による喉の乾燥を防ぐ
  • 🌡️ 蒸しタオルを鼻に当てて深呼吸:声帯の血行を促進し、疲労回復を助ける

声帯の疲れが慢性的に続くようであれば、ボイストレーニングのレッスンを受けることも一つの手です。現在はオンラインレッスンも普及しており、通勤ゼロ・好きな時間帯で専門家に発声を見てもらえます。独学で間違った練習を続けるよりも、正しいフォームを早く身につけられるという意味でコストパフォーマンスが高い方法です。

保育士向けの発声セルフケアについて、毎日できる方法が具体的に紹介されています。

大切な声を守る!保育士が行うべきのどのセルフケア(mirakuu)

声枯れの原因から即効で治す方法、予防策まで保育士向けに詳しくまとめられています。

保育士にとって声枯れは職業病?即効で治す5つの方法(保育士くらぶ)

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