声の発達と歌を保育士が年齢別に理解する方法
保育現場で使われる童謡・あそび歌の約7割は、幼児が無理なく歌える音域(1オクターブ)を超えた音域で作られています。
声の発達の始まり:0歳〜1歳の喃語と歌の芽生え
「まだ0歳なんだから歌は関係ない」と思っていませんか。実は、子どもの声の発達は産声の瞬間から始まっています。生後2〜3か月ごろには「あー」「うー」といった母音中心の発声(クーイング)が始まり、生後4〜6か月になると「ばばば」「まままま」のように子音を含む反復的な喃語へと移行します。この時期の発声は、やがて歌唱へとつながっていく土台そのものです。
特に注目したいのが、生後7か月ごろからの喃語の変化です。日本女子大学の志村洋子氏らの研究によれば、生後12か月の乳児には「短・長」のリズムパタンを一定時間繰り返すハミングのような発声が観察されており、これは「ことば」とは異なる歌唱的な音声表出の芽生えとされています。
さらに生後16か月になると、「ぞうさん」の冒頭フレーズに聞こえる模倣唱のような発声も確認されています。つまり、歌は1歳を過ぎてから急に始まるわけではなく、生後半年ごろからすでに準備が進んでいるのです。これは使えそうです。
保育士として0歳児クラスを担当しているなら、歌いかけは単なる「お楽しみ」ではなく、言語発達と声の発達を同時に促す専門的なアプローチだと理解しておく必要があります。梶川ら(2000)の研究では、生後7か月の赤ちゃんが保育者の「歌唱音声の中から」でも単語を切り出せることが確認されており、語りかけと歌いかけは脳の中で別々に処理されている可能性も指摘されています。
| 月齢 | 発声の特徴 | 保育士の関わり方 |
|---|---|---|
| 0〜1か月 | 母音系のシンプルな発声 | 優しい声でゆっくり歌いかける |
| 2〜3か月 | クーイング(/gu/など口蓋音) | 顔を見ながら歌う、真似をする |
| 4〜6か月 | 反復喃語(ba-ba、ma-ma) | リズムに合わせてスキンシップ |
| 7〜11か月 | 短く明瞭な発声が増える | わらべ歌でふれあい遊び |
| 12か月〜 | 歌唱様の発声・初語 | 歌の一部を一緒に口ずさむ |
声の発達の出発点はここです。「歌は2歳から」という思い込みを手放すと、0歳クラスの保育が大きく変わります。
赤ちゃんの歌唱発達を詳しく知りたい場合は、ヤマハ音楽財団の研究サイトが参考になります。
赤ちゃんはいつごろから歌い始めるか|ON-KEN SCOPE(ヤマハ音楽財団)
声の発達と音域の関係:1歳〜3歳に選曲が命取りになる理由
1歳児の出せる音域は、研究者によって多少差はあるものの、おおむね「ド(C1)〜ソ(G1)」程度とされています。音程の幅にすると3度〜4度ほどで、鍵盤で言えば「ドレミファ」の4音分しかありません。2歳になると「レ・ミ〜ソ」「ド〜ソ」あたりに広がり、3歳では半オクターブほど(ド〜ラ)、4〜5歳でようやく1オクターブ(ド〜ド)が安定して出せるようになってきます。
ここで重要な問題があります。宮崎国際大学の日髙まり子・横山祐里奈両氏の研究(2021)によれば、保育現場でよく使われる子どもの歌曲集300曲を分析したところ、音域が1オクターブ以上あるものが全体の約70%(213曲)を占めていました。1オクターブが適当とされる幼児の声域と比べると、多くの歌が実は広すぎる音域で作られていることになります。
つまり、何気なく選んだ人気の曲が、子どもの発達段階と合っていないケースは珍しくないということです。声帯が問題です。
音域に合わない高音域の曲を繰り返し歌わせると、子どもは高い音を出すために怒鳴ったり叫んだりするような発声(どなり声)になりがちです。これが習慣化すると、声帯への慢性的な負担につながります。最悪の場合、声帯結節やポリープのリスクもゼロではありません。ただし、幼児のどなり声が必ずしも否定すべき表現とは限らず、子どもの自己表現の一形態として見守る視点も必要です。重要なのは、選曲の段階で意図的に音域を意識することです。
選曲時に確認したいポイントは3つです。
- 🎵 最低音・最高音の確認:楽譜の音符の最高点と最低点をチェック。3歳未満なら最高音が「ラ(A1)」を超える曲には注意が必要です。
- 🎵 音程の跳躍幅:一度に5度以上跳躍する箇所が多い曲は幼児には難しくなります。
- 🎵 歌詞のリズム:日本語の自然なアクセントとメロディーが合っている曲の方が、子どもが声を当てやすくなります。
選曲の目安がわからないときは、保育ネクストの「子どもの音域に合わせた歌の選び方」ページが年齢別に整理されていて参考になります。
「大きな声で元気よく」が声の発達を妨げるメカニズム
多くの保育現場では、歌の時間に「もっと大きな声で!」「元気よく歌おう!」という声かけが日常的に行われています。しかし、この指導が声の発達にとってむしろ逆効果になるケースがあることはあまり知られていません。
名古屋学院大学の研究(「子どもの歌の歌唱表現の方法についての一考察」)では、「声帯に負担をかけて大きな声を出して歌唱するならば、忽ち声帯は傷付いてしまい、音声障害を引き起こす危険性が大きい。元気=大きな声との考えは、危険性がある」と明確に述べています。また、奈良佐保短期大学の研究でも「大きな声を出そうと意識することは、力を入れてしまう原因になる。繰り返しになるが大きな声はいらない」とされています。
では、なぜ「大きな声」の要求が問題になるのでしょうか。子どもの声帯は非常に柔らかく傷つきやすい組織です。大人の指示に応えようとして声を張り上げると、声帯に過剰な圧力がかかり、炎症を起こしやすくなります。繰り返すと声がかすれたり、慢性的な声帯炎になることもあります。
「元気よく」が条件です。元気よく歌うことと、声を張り上げることは別の話です。
保育士として実践できる代替の声かけを整理すると、次のようになります。
- 😊 「お口を大きく開けて歌おう」(声量ではなく口の形に意識を向ける)
- 😊 「歌詞がきこえるように歌おう」(はっきり発音することを促す)
- 😊 「先生のお口を見ながら一緒に歌ってみよう」(見本を示す)
- 😊 「おなかに手を当てて、ぼよーんと膨らませて歌ってみよう」(腹式呼吸の感覚)
声量を求めるのではなく、自然な発声が育まれるような環境を作ることが、長期的な声の発達を支えます。とくに3歳未満の乳幼児クラスでは、この意識の差が非常に大きな影響を生みます。
わらべ歌が声の発達に特別に有効な3つの理由
保育の場で長年活用されてきたわらべ歌は、声の発達という観点から見ても非常に合理的な教材です。単なる「懐かしい歌」として扱うにはもったいないほど、発達支援の根拠が揃っています。
理由の1つ目は、音域の狭さです。わらべ歌の多くは「ミ・ソ・ラ」など3〜4音で構成される短い音程の中に収まっており、1歳〜3歳の子どもが無理なく歌える音域と自然にマッチしています。音域が広いポップスや童謡を無理に歌わせるよりも、声帯への負担がはるかに少ないのが特徴です。
理由の2つ目は、日本語のリズムとの親和性です。わらべ歌は日本語のアクセントやリズムに基づいて作られているため、子どもが言葉の節を自然に感じ取りやすくなっています。北九州市立大学などの複数の研究が、わらべ歌への継続的な接触が音程取得能力や言語感覚の発達に有効である可能性を示しています。
理由の3つ目は、身体との連動です。わらべ歌には触れ合い・くすぐり・揺らし・拍手などの動きが組み合わさっているものが多く、声を出すことが全身の感覚と結びついて体験されます。これは保育学・心理学的な視点からも、発達の土台となる「触覚」「生命感覚」「運動感覚」「平衡感覚」の4つを同時に育む活動として評価されています。
| 年齢 | おすすめのわらべ歌の特徴 | 代表的な例 |
|---|---|---|
| 0〜1歳 | 保育士が歌いかけ、スキンシップを伴うもの | 「いないいないばあ」「ととけっこう」 |
| 1〜2歳 | 繰り返し・オノマトペが多いもの | 「あんたがたどこさ」「ずいずいずっころばし」 |
| 2〜3歳 | 保育士の動きを真似る要素があるもの | 「かごめかごめ」「はないちもんめ」 |
| 3〜5歳 | ルールのある集団遊びと組み合わせるもの | 「おてらのおしょさん」「なべなべそこぬけ」 |
わらべ歌は伴奏なしのアカペラで歌えるため、保育士の声そのものが子どもにとって最大の音楽環境になります。保育士の声の質と音程が、子どもの声の発達に直接影響を与えるという意識を持っておくことが大切です。
わらべ歌の保育学・心理学的な効果に関する詳細は以下の記事が参考になります。
「わらべうた」が子どもの発達を左右する!?保育学・心理学的視点から|マイナビ保育士
声の発達を促す「保育士の歌い方」という独自視点
子どもの声の発達を語るとき、ほとんどの情報は「子どもにどんな曲を歌わせるか」という選曲の話に集中しています。しかし、実は保育士自身の歌い方が子どもの声の発達に与える影響は、見逃されがちな重要な要素です。
ヤマハ音楽振興会の実験的研究(嶋田氏ら、2013年)では、同一のわらべ歌を8種類の異なる声質で歌い分けたものを子どもと大学生に聴かせ、印象評価と音響分析を行いました。この研究は、保育士の「声の質」が子どもの反応や感情状態に具体的な違いをもたらすことを示唆しています。保育士の声は「環境」そのものです。
芦屋大学の論文(2024年)でも、手遊びはアカペラで歌われるため「保育者の声の効果を最大限に生かせる表現活動」であり、わらべ歌から連綿と続く保育者の声の重要性が指摘されています。つまり、上手に歌えるかどうかよりも、子どもに向けてどのように声を使うかが問われているのです。
保育士の歌い方で意識したい具体的なポイントは以下の通りです。
- 🎤 子どもより少し高め・ゆっくりめのテンポで歌うことで、子どもが音を模倣しやすくなります(マザリーズ的な効果)。
- 🎤 口の動きを子どもから見えやすい位置で歌う。視覚的な情報が発声の模倣を助けます。
- 🎤 子どもの発声に応答する(子どもが歌ったら同じフレーズを繰り返す、歌ったことを褒めるなど)。
- 🎤 子どもが声を出すのを「待つ」。全員が一緒に歌える曲でも、少し間を取ると自発的な発声が引き出されやすくなります。
「先生がピアノを弾きながら子どもに歌わせる」という形式も保育には大切ですが、ピアノが不要なわらべ歌や手遊び歌の時間こそ、保育士の声そのものが最大の発達支援ツールになります。意識の切り替えが大事です。
また、保育士自身が声を酷使して喉を傷めていると、声の質が変わり子どもへの歌いかけの効果も落ちます。喉のセルフケアも保育士の専門性の一部として意識しておきましょう。喉のケアに困ったときは、耳鼻咽喉科への早めの受診が原則です。
保育者の声と歌声の質に関する実験的研究については、以下を参照してください。


