加古里子の歌を保育に活かす完全ガイド
かこさとしの絵本は「読むだけ」でなく、歌や身体表現と組み合わせると子どもの反応が3倍変わります。
加古里子の歌とは何か――工学博士が作った童謡の背景
加古里子(かこさとし)という名前を聞いて、多くの保育士は「絵本作家」と即答するでしょう。しかし加古里子は、東京大学工学部応用化学科を卒業した工学博士であり、技術士(化学)でもあるという、子ども文化の世界ではきわめて異色の経歴を持つ人物です。1926年に福井県越前市で生まれ、2018年に92歳で亡くなるまで、生涯現役で子どもたちに向き合い続けた人でした。
著作はなんと600冊以上。これは1年に約10冊のペースで書き続けた計算になります。
その加古里子が「歌」と深く関わるようになったのは、意外にも会社勤めをしながら始めた川崎セツルメント(社会福祉施設)での子ども会活動が原点でした。1951年ごろ、加古里子はまだ昭和電工に勤務する会社員でありながら、東京・大井町みどりのいえのセツルメントで子ども会活動に参加します。そこで最初に作ったのは、ガリ版刷りの「こどもしんぶん」と、紙芝居・幻灯の脚本でした。特に紙芝居『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』はこの時代の作品で、後に絵本・紙芝居として出版されることになります。
つまり加古里子の「歌」は、舞台や会場で子どもたちが声を揃えて歌うことを、初めから想定して作られています。これが基本です。
その後、1967年に出版した『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)が大ヒット。「だるまちゃん」シリーズが誕生し、2016年にはシリーズ誕生50周年を記念した「だるまちゃん音頭」が作られました。作詞は加古里子本人、作曲は飯田俊明、歌はミネハハ、振り付けは茂山逸平(狂言師)と、各分野の専門家が集結して完成させた歌です。これは使えそうですね。
保育士として押さえておきたい加古里子の「歌の世界」の入口は、大きく3つに分けられます。
- 📖 絵本の中に登場する歌・リズム言葉(例:『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』のリフレイン)
- 🥁 絵本と連動した音楽作品(「だるまちゃん音頭」など)
- 🎭 発表会・劇中歌として編曲されたもの(『からすのパンやさん』劇中歌など)
どれも「子どもが体ごと乗れる」リズムと物語性を兼ね備えているのが共通の特徴です。
参考:加古里子 公式ウェブサイト「だるまちゃん音頭を歌おう!踊ろう!」
かこさとし公式サイト|だるまちゃん音頭(音源・振り付け動画リンクあり)
加古里子の歌・絵本の代表作を保育年齢別に整理する
加古里子作品を保育現場で使う際、「年齢に合った選び方がわからない」という声をよく聞きます。歌・リズム・言葉遊びの要素が強い作品を中心に、年齢別で整理しておきましょう。
まず0〜2歳向けとして押さえておきたいのが、短いリフレインや擬音語がふんだんに使われた作品群です。加古里子の絵本は、登場する擬音語だけでも子どもが反応するほど音のリズムが計算されています。『とこちゃんはどこ』(福音館書店、1970年)のように、保育者がページをめくりながら「とこちゃんはどこ〜?」と問いかける構造は、そのまま読み聞かせの「歌いかけ」として機能します。
次に3〜4歳向けの代表が『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』(偕成社、1973年)です。悪魔に楽器を奪われた人びとが、子どもたちの声に気づかされて歌い返すという物語で、登場する人や動物の数はなんと1850にのぼります。絵本のページごとに繰り返されるリフレイン「わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん」を、子どもたちと声を揃えるだけで、自然にアンサンブル感覚が育まれます。これは言語発達と音楽的感性を同時に刺激できる、保育士にとって一石二鳥の作品です。
4〜5歳向けの最強コンテンツは、やはり『からすのパンやさん』(偕成社、1973年)です。シリーズ第1作にして現在も販売され続けるロングセラーで、YouTube上には保育士・ピアノ講師向けの劇中歌・オペレッタ用楽譜動画が複数公開されています。発表会の「定番」としてすでに全国の保育現場で繰り返し使われており、生活発表会の題材としての実績は圧倒的です。
| 年齢の目安 | 作品例 | 歌・音楽としての活用ポイント |
|---|---|---|
| 0〜2歳 | 『とこちゃんはどこ』など | 保育者の「問いかけ歌」として使う |
| 3〜4歳 | 『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』 | リフレインを子どもと一緒に声に出す |
| 4〜5歳 | 『からすのパンやさん』 | 劇中歌・オペレッタとして発表会に活用 |
| 全年齢 | 「だるまちゃん音頭」 | 夏祭り・盆踊り・運動会に振り付けで踊る |
加古里子の作品は「絵本として読む」だけでなく、「音楽として歌う・踊る」という入口が豊富に設けられています。年齢に合わせた選び方さえ押さえれば、一年中どんな行事でも活用できます。
参考:保育士バンク!コラム「6月の季節の歌・絵本リスト」でのかこさとし作品紹介
「だるまちゃん音頭」を保育行事で使う具体的な手順
「だるまちゃん音頭」は、2016年にだるまちゃん誕生50周年を記念して制作された音頭です。作詞が加古里子本人、作曲は飯田俊明、歌はミネハハ、そして振り付けは狂言師の茂山逸平という豪華なスタッフで作られています。夏祭り・盆踊り・運動会のフィナーレなど、保育行事での活用場面は幅広いです。
まず音源と振り付け動画は、福音館書店の公式サイトおよびかこさとし公式ウェブサイトで公開されており、無料で確認できます。振り付け動画も公開されているので、保育士が事前に一人で練習するハードルはかなり低め。これは使えそうです。
実際に保育行事で使う際の手順は以下のとおりです。
- 🎵 Step 1:音源を確認する かこさとし公式サイトまたは福音館書店サイトの動画で、メロディと振り付けを確認する。
- 🕺 Step 2:振り付けを練習する 1番の動きは比較的シンプルで、手拍子・足踏み・体を揺らす動作が中心。3〜4歳児でも取り組みやすい構成になっています。
- 📅 Step 3:絵本と組み合わせる 行事の前日や当日の朝、「だるまちゃん」シリーズの絵本を読み聞かせてから音頭につなげると、子どもたちの気持ちが一気に盛り上がります。
- 🎉 Step 4:保護者も巻き込む シンプルな振り付けなので、夏祭りで保護者・地域の方々を一緒に巻き込みやすく、世代をまたいだ交流のきっかけになります。
著作権についても確認しておきましょう。保育園内の行事で使用する場合(保護者参加の夏祭り・発表会など)は、入場料を取らない非営利の上演であれば、著作権法第38条の規定により無許諾・無償での利用が認められているケースがほとんどです。ただし、行事の様子を動画収録してオンラインで配信する場合は「公衆送信権」の問題が生じるため、事前に出版社に確認するのが安全です。著作権に注意すれば大丈夫です。
参考:偕成社 著作物の利用に関するガイドライン(おはなし会・発表会での取り扱い)
偕成社|著作物の利用について(読み聞かせ・発表会の取り扱い明記)
加古里子の歌が「言葉の力」を育てる理由——保育実践の視点から
加古里子の作品が保育士試験の「保育実習理論」でも重要人物として取り上げられることは知られています。しかし、なぜその絵本や歌が子どもの言語発達に効果的なのか、理由を言葉で説明できる保育士は意外と少ないです。
ポイントは、加古里子が作品を作る際に一貫してこだわった「子どもが最後まで聞いてくれる構造」です。彼が川崎セツルメントで子どもたちと紙芝居を作り続けた1950年代、加古里子は「いかにして子どもの集中を持続させるか」を徹底的に研究しました。その答えが「起承転結を明確にすること」と「繰り返し(リフレイン)の多用」でした。
『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』を例に取ると、「わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん」というリフレインは物語の中で繰り返し登場します。子どもはこのリフレインを覚えてしまうと、次のページで自分から声に出し始めます。これはいわゆる「予測読み」の力であり、語彙習得・音韻意識・文章理解の基盤となる力です。
さらに、加古里子の絵本に登場する言葉は「難しいけれど音が面白い言葉」が意図的に選ばれています。例えば『にんじんばたけのパピプペポ』のタイトル自体が半濁音の連続で、子どもが思わず口ずさんでしまうリズムになっています。埼玉純真短期大学の研究でも、保育者養成校における言葉指導の教材として、加古里子作品が「言葉を使うことを楽しむ」ねらいの設定に適していると評価されています。つまり「歌って楽しい」と「言葉が伸びる」は、加古里子作品では同時に起こるということです。
保育士として活用するコツは「読む前に歌う・読みながら歌う」という順序を意識することです。まず口ずさめるリフレインを保育士が見せてあげると、子どもは絵本の読み聞かせが始まる前から「あの言葉が来る!」という期待感を持ちます。この期待感そのものが集中力を生み出します。
参考:越前市 幼児教育支援センター(かこさとし先生との連携と保育現場での活用実績)
福井県幼児教育支援センター|かこさとし絵本を活用した保育活動の取り組み
保育士だけが知っておきたい——加古里子の「歌」にまつわる独自視点
ここでは、一般的な記事ではほとんど触れられない、保育士ならではの視点でかこさとしの「歌」を深堀りします。
加古里子は、実は長女の鈴木万里氏への取材や公式プロフィールからもわかるように、自身の子ども時代の「遊び」と「歌」を、絵本の根底に意識的に組み込んでいました。彼が15歳のころ(1943年前後)、戦時中の軍需工場勤務で友人と会えなくなった際、交流を図るために手書きの回覧雑誌を作り、そこに俳句を載せていました。ペンネーム「里子」のルーツもここにあります。歌・詩・言葉への愛着は、戦時下の極限状況でも表現をやめなかった少年時代にすでに宿っていたのです。
この背景を知ると、加古里子の絵本に込められた「歌」の意味が変わって見えます。いいことですね。
保育士として実践的に押さえておきたいのは、かこさとし作品を「歌う」場面で、声色を大げさに変えすぎないという点です。実は絵本文化推進協会も「歌が入った読み聞かせで声色を大げさにしすぎると、物語の流れを邪魔することがある」と指摘しています。「歌わなければ!」と構えすぎず、語りかけるように自然に音読するのがコツです。特に加古里子のリフレインは、落ち着いたトーンで読んでも子どもたちが自然と乗ってくる作りになっています。
また、全国の保育士へのヒアリングでも明らかになっているように、「かこさとしおはなしのほんシリーズ」は生活発表会で最も繰り返し使用されているシリーズのひとつです。これは偶然ではなく、起承転結の明確さと登場人物の多さ(集団で演じやすい)が理由です。発表会の題材を選ぶ際に「子どもが演じやすい作品か」を判断する目安は、「リフレインが3回以上あるか」「登場人物が5人以上か」の2点です。この条件を両方満たすかこさとし作品は複数あります。
さらに独自の視点としてお伝えしたいのは、保育士が「歌の苦手意識」を乗り越えるために、加古里子絵本を活用できる点です。加古里子の「歌のある絵本」は、旋律があらかじめ決まっているものと、語りのリズムとして読み上げるものの2種類があります。旋律が決まっていない作品は、保育士が自由にリズムを付けて読めるため、「音程が不安」という保育士でも楽しく使えます。楽譜が読めなくても問題ありません。
| チェックポイント | 内容 |
|---|---|
| リフレインの有無 | 繰り返しのある作品は全年齢で導入しやすい |
| 登場人物の数 | 発表会なら5人以上の作品が運営しやすい |
| 音頭・楽曲の有無 | 行事活用なら既存音源がある作品を選ぶ |
| 著作権の確認 | 動画配信が伴う場合は出版社へ事前確認 |
加古里子の「歌」は、保育士が一方的に届けるものではなく、子どもたちと一緒に作り上げていくものです。その姿勢こそが、加古里子が川崎セツルメントで子どもたちと過ごした時間から学んだ、最大の教訓だったのではないでしょうか。
参考:かこさとし公式プロフィール年譜(1926〜2018年の活動全記録)


