さんぽの歌を保育士が徹底活用するための完全ガイド
「さんぽ」を1番だけ歌わせる保育士は、子どもの語彙力の伸びを半分以上損している可能性があります。
さんぽの歌の歌詞と誕生エピソード
「さんぽ」は、1988年4月16日に公開されたスタジオジブリのアニメ映画『となりのトトロ』のオープニングテーマとして生まれました。作詞は児童文学作家の中川李枝子さん、作曲・編曲は久石譲さんが担当しています。中川さんといえば、絵本『ぐりとぐら』の作者として知られており、子どもの言葉の感覚を知り尽くしたプロ中のプロです。
歌詞は3番まであり、それぞれ異なる自然の情景が登場します。
これだけ多くの自然語彙が3分半の曲の中に詰め込まれています。つまり3番が大切ということですね。
実は、「さんぽ」の歌詞にはモデルとなった道があります。中川李枝子さんが幼少期(小学校から高校時代)に歩き回っていた福島市の「信夫山」のイメージをもとに書かれたといわれています。「くさっぱら」「でこぼこ砂利道」「花ばたけ」など、歌詞に出てくる自然の風景は、実際に中川さんが体験した景色の記憶なのです。子どもの視点で綴られた言葉には、大人が後から作ったものとはまた異なる、生き生きとした実感が宿っています。
映画製作当時、宮崎駿監督は制作企画書の「音楽について」という項目に「せいいっぱい口を開き、声を張り上げて歌える歌こそ、子供達が望んでいる歌です。快活に合唱できる歌こそ、この映画にふさわしい」と記しました。その意図に応えるかのように久石さんが作り上げたのが、軽快な3連符を基調とした行進曲風のメロディです。いわば「歌われるべくして生まれた曲」ともいえます。
保育所・幼稚園での使用頻度についての研究(文化学園大学保育専門学校の研究紀要)によれば、「さんぽ」は季節を問わず年間を通して歌われる数少ない曲のひとつとして記録されています。現在20歳以下の日本人のほぼ全員がこの曲を歌ったことがあるといわれるほど、保育の場に根付いた一曲です。
「さんぽ」の歌詞・楽曲構造に関する学術的考察が載っています。保育者養成校での指導例も掲載。
子どもの歌における表現のあり方に関する考察(高松大学・研究紀要PDF)
さんぽの歌詞が子どもの発達に与える効果
「さんぽ」が保育の定番曲であり続ける理由は、単に「みんながよく知っている」だけではありません。歌詞の構造と子どもの発達的な相性が、非常に高いのです。
まず目を向けたいのが語彙の豊かさです。1番から3番にかけて、「くさっぱら」「でこぼこ砂利道」「くもの巣」「みつばち」「花ばたけ」「泉」「木の根」「枯れ木」「小川」など、自然にまつわる語彙が約20種類も登場します。これはA4用紙1枚にほぼ収まるほどのスペースに、絵本1冊分に相当する自然語彙が凝縮されているイメージです。子どもたちは歌いながら自然と「くもの巣って何?」「砂利道ってどんな道?」と興味を持ち始め、言葉と体験が結びついていきます。
次に、リズムと体の動きの一致が挙げられます。「さんぽ」は8分の6拍子を基調とした3連符リズムで構成されています。先行研究(大阪教育大学の研究)でも、3連符は子どもが好む「楽しさの要素」として挙げられており、幼児にとって自然に体を動かしたくなるリズムとされています。保育中に「さんぽ」を流すと子どもが自然に歩き出す、というのはこのためです。これは使えそうですね。
さらに、反復構造が記憶の定着を助けます。「あるこう あるこう わたしはげんき」というフレーズは各番で繰り返されるため、1番を覚えた子どもはその構造を流用して2番・3番も比較的速く習得できます。この「フレームの再利用」は幼児の言語習得においても重要で、特に2〜4歳児の言語発達期に効果的といわれています。
また、「元気」「大好き」「どんどん行こう」という前向きな言葉が多く盛り込まれており、肯定的な感情語を繰り返すことで、登園や集団活動への動機づけにも自然につながります。歌詞の効果は語彙力だけではありません。情緒面の育ちにも貢献しているということですね。
保育における歌のねらいや語彙発達について詳しく解説されています。
幼児期における「生活の歌」の教育的意義と役割(玉川大学研究紀要PDF)
さんぽの弾き歌いを保育士が攻略するコツ
「さんぽ」は保育士試験の音楽実技で2009年(平成21年)に課題曲として採用されたこともある曲です。それほど保育の場における重要性が高い一方で、「3連符が難しい」「リズムが崩れやすい」と感じる保育士も少なくありません。ここでは実践的な克服法を整理します。
最大の難関は3連符のリズムです。「さんぽ」の「あ・る・こう」「あ・る・こう」の部分は3連符(1拍を3等分したリズム)で書かれており、スキップするような弾んだ感覚が必要です。このリズムが崩れると、歩く動きとテンポが合わなくなるため、子どもが動きにくくなります。練習のコツは「歌詞を口ずさみながら弾く」ことです。「あ・る・こう」という言葉のシラブル自体が3連符の分割を体に教えてくれるため、メトロノームに頼るよりも自然にリズムが身につきます。
左手の伴奏で迷ったときは、コードのみ(ルート音だけ)に絞ることをおすすめします。左手でコード3音を全部押さえるのが難しい場合は、根音(例:Cなら「ド」)のみを弾く「一音伴奏」でも曲として十分成立します。右手のメロディーと声があれば、子どもたちには十分に伝わります。音を増やすのは弾き歌いに自信がついてからで問題ありません。
転調点に注意が必要です。「さんぽ」の楽譜によっては、3番から半音上がる「転調アレンジ」版が使われていることがあります(歌声喫茶の参考楽譜など)。保育の現場では同じキーで統一した楽譜を使うのが安全です。子どもたちが一緒に歌うことを優先すれば、難易度の低いシンプル伴奏版の楽譜を選ぶことが原則です。
ピアノが苦手な保育士向けに、さんぽの簡単アレンジ楽譜や練習法を解説しています。
子どもがよろこぶ!保育士におすすめのピアノ伴奏曲ベスト5(mikke music)
さんぽの歌を使ったリトミック・振り付け活用アイデア
「さんぽ」は、ただ歌うだけの曲ではありません。そのリズムの特性と歌詞の豊かさから、保育の様々な場面に応用できる万能ソングです。
リトミックとして活用する場合、「あるこう あるこう」のフレーズでは通常歩き、「どんどん行こう」では少し早足、という具合にテンポの緩急に体を合わせることで、リズム感・敏捷性・聴覚集中力を同時に育てられます。これは年中・年長(4〜5歳)クラスに特に適したアプローチです。保育者がピアノのテンポを変化させることで、子どもが音に集中して反応するための素材にもなります。音楽と動きをリンクさせるのが、リトミックの基本です。
振り付きで歌う場合、歌詞に出てくる自然の情景を体で表現させる方法が効果的です。「くもの巣くぐって」のフレーズでは腕で輪を作ってくぐる動作、「みつばち ぶんぶん」ではブンブン飛ぶ真似、「下り道」では膝を曲げて下る動作など、歌詞そのものが振り付けのヒントになっています。言葉と動きを一体化させることで、歌詞の理解と記憶が深まります。動きと言葉が結びつくということですね。
0〜2歳児クラスでは、大人が子どもを抱っこ・膝乗せして体を揺らすだけでも十分です。3連符のリズムは子どもが「気持ちいい」と感じやすい振動数と親和性が高く、安心感につながります。歌いながらゆっくり歩いて抱っこするだけで、十分な音楽体験になります。
3〜5歳児クラスでは、「4番を一緒につくる」という活動が特に豊かな教育体験をもたらします。実際に長野県の自然保育施設(信州やまほいくの郷)では、4歳児クラスが散歩で見つけた「きいちご」「あわふきむし」「やまあり」「かえるがぴょんぴょん」「りんごの木」などを歌詞にして、「さんぽ」の4番を自作しました。子どもたちが「5番も!6番も!」と意欲的になったと記録されています。オリジナル番がつくれることを知ったら、散歩そのものへの関心が一気に高まります。
「さんぽ4番」子ども自作の実際の事例が掲載されています。自然体験と言語表現の結びつきがよくわかります。
保育士だけが知っておくべきさんぽの歌の意外な活用術
「さんぽ」を「散歩のときに歌う曲」としか使っていない保育士は、この曲のポテンシャルを大幅に余らせています。現場でそのまま使える、あまり知られていない活用術を紹介します。
手洗い指導への転用という使い方があります。長崎女子短期大学の研究では、「さんぽ」のメロディーに手洗いの歌詞を乗せて保健指導に使った実践事例が記録されています。子どもたちがすでに覚えているメロディーに新しい歌詞をつけることで、指導内容がスムーズに定着するという効果があります。「あらおう あらおう てのひらぴかぴか」などと即興で歌詞を変えるだけでOKです。保育士が一から新しい歌を教える必要がないため、時間の節約にもなります。
生活の切り替えBGMとして使う方法も有効です。「さんぽ」は8分の6拍子の軽快なテンポが「これから何か始まるぞ」という気持ちを自然に引き出します。給食前、お外遊びへの移動前、朝の会の始まりなど、活動の切り替え場面でピアノまたは録音を短く流すだけで、子どもたちの気持ちが自然に切り替わります。これは音楽の「信号的機能」を使った保育技術のひとつです。
異年齢交流活動での橋渡し曲としても有効です。0歳児から5歳児まで全員が知っている曲は、実はそう多くありません。「さんぽ」はその数少ないひとつです。縦割り保育や異年齢活動の際に、年長が年少に向けて「さんぽ」を歌ってあげる、または一緒に振り付きで踊るという時間を設けると、お互いに自然に関わるきっかけになります。つまり「さんぽ」は共通言語になるのです。
連絡帳・保育日誌への記録でも「さんぽ」は活躍します。散歩中に子どもが歌詞に関連した自然物(くもの巣、みつばち、坂道)を発見した場面を記録する際に、「さんぽの歌の”くもの巣”を本物で見つけ、興奮した様子で指差し」といった形で記すと、保護者にも伝わりやすく、子どもの発達の文脈も表れやすい記録になります。歌が記録のフレームになるということですね。
さんぽの歌を3番まで使いこなすための年齢別まとめ
「さんぽ」を保育活動に取り入れる際、年齢によって適切な使い方が変わります。ここでは0歳から5歳まで、年齢ごとの目安をまとめます。
| 年齢 | 活用のポイント |
|---|---|
| 0〜1歳 | 抱っこ・膝乗せでリズムを体で感じる。歌詞の理解は問わない |
| 2歳 | 「あるこう」「どんどん」など繰り返しフレーズを一緒に口ずさむ |
| 3歳 | 1番の歌詞を動きと一緒に覚える。「みつばち」「砂利道」の意味を散歩中に確認 |
| 4歳 | 2〜3番まで覚える。歌詞に出てくる自然物を実際に探す体験と結びつける |
| 5歳 | 3番まで歌い、「4番」を自分たちでつくる創造的活動へ発展させる |
3歳児クラスで1番だけ教えている状態は、まず問題ありません。ただし4歳以降は2・3番まで丁寧に展開することで、語彙・自然認識・表現力の伸びが大きく変わります。3番まで使うのが本来の姿です。
保育士として押さえておきたいのは「歌を歌わせること」が目的ではないという点です。「さんぽ」を通じて、子どもたちが自然に目を向け、言葉に興味を持ち、体でリズムを感じる体験を積み重ねることこそが本来のねらいです。歌はあくまで「豊かな体験へのドア」であることを意識して使うと、保育の質はさらに上がります。
年齢別の保育活動アイデアや、選曲のポイントが丁寧に解説されています。


