地域子育て支援と保育園の役割を保育士が知っておくべき理由
保育園で地域支援をしても、給与に一切反映されないと思っていませんか?
地域子育て支援拠点事業とは何か・保育士が押さえる基本
地域子育て支援拠点事業とは、乳幼児とその保護者が気軽に集まり、交流・育児相談・情報収集を行える場所を提供する国の事業です。こども家庭庁の令和6年度データによると、全国の実施か所数はすでに8,061か所に達しており、平成14年度にわずか28か所でスタートした事業が、約20年で300倍以上に拡大しています。
この規模感は、コンビニの全国店舗数(約5万6千店)と比べると小さく見えますが、0〜4歳の乳幼児千人当たり平均2.0か所という密度で整備されています。地域によって差があり、山形県は4.0か所と最も充実しており、一方で福岡県都市部や神奈川県は1.1か所前後にとどまっています。
事業の実施場所として最も多いのが「保育所」で、全体の約27%を占めています。つまり、4か所に1か所以上は保育園が地域子育て支援拠点の場となっているということです。保育士にとって、地域支援は「別の職場の話」ではなく、自分の職場に直結したテーマだということが分かります。
事業の内容は主に4つで構成されています。
- 子育て親子の交流の場の提供と交流の促進:親子が集いやすい「ひろば」として機能します。
- 子育て相談・援助の実施:保育士の専門知識を活かした相談対応が中心となります。
- 地域の子育て関連情報の提供:保育園・幼稚園・行政の子育てサービスを親子につなげます。
- 子育てに関する講習の実施:離乳食、絵本の読み聞かせ、発達相談など多様なテーマで行われます。
これが基本の枠組みです。保育士として関わるときに、「どのサービスを提供できるか」を事前に整理しておくことが重要です。
参考リンク(地域子育て支援拠点事業の実施か所数推移・都道府県別データ)。
こども家庭庁「地域子育て支援拠点事業の実施か所数の推移」(令和6年度交付決定ベース)
地域子育て支援が必要な背景・保育園外の3歳未満を取り巻く現状
「保育園に通っていない子どもは保育士には関係ない」と思いがちです。しかし実態はまったく逆で、保育士が最も注力すべき層がそこにいます。
日本保育協会および厚生労働省の資料によると、3歳未満の子どもの約7〜8割が保育所・幼稚園に通わず、家庭で育てられています。就学前の子ども全体では4割強が在宅育児という状況です。コンビニで例えると、店頭に来ているお客さまは全体の2割で、8割は家の中にいるようなイメージです。その「家の中の8割」を、保育士の専門性が支えなければならない時代になっています。
なぜこれが問題かというと、核家族化と地域のつながりの希薄化が重なることで、保護者が孤立してしまうからです。かつてはご近所の先輩お母さんから育児のコツを教えてもらったり、祖父母がそばにいてサポートしてくれたりといった「地域の子育て力」が自然に機能していました。それが失われた現在、育児の悩みを話せる相手がいない「孤育て」状態の保護者が増えています。
孤立した子育ては、深刻な問題に発展することがあります。厚生労働省の資料では、虐待死に至るケースのうち、心中以外の死亡事例で0歳児が全体の約49%、2歳以下が約60%を占めることが示されています。地域子育て支援は育児の「楽しさ」を高めるだけでなく、虐待予防という命に関わる役割も担っているということです。重い現実ですね。
保育士はこの文脈を理解したうえで、地域の親子と関わることが求められています。「遊びの場を提供している」という表面的な認識を超えて、「孤立を防ぎ、虐待リスクを下げる専門職」として立ち位置を持つことが、これからの保育士に必要な視点です。
参考リンク(保育所・保育士による地域の子育て支援に関する厚生労働省資料)。
厚生労働省「保育所・保育士による地域の子育て支援」(令和3年10月)
地域子育て支援拠点事業の形態・保育士が知るべき「一般型」と「連携型」の違い
地域子育て支援拠点事業には、大きく「一般型」と「連携型」の2形態があります。それぞれで開設要件や従事者の条件が異なり、保育士として働く場合にどちらに属するかで、業務の内容や配置のルールが変わってきます。
一般型は、保育所・公共施設の空きスペース・空き店舗・マンションの一室など、幅広い場所に設置できます。開設条件は週3日以上・1日5時間以上です。出張ひろばを行う場合は週1〜2回、1日5時間以上が条件となっています。全国の一般型は令和6年度時点で6,999か所にのぼり、全体の約87%を占めます。
連携型は児童館などの児童福祉施設に設置される形態で、開設条件は週3日以上・1日3時間以上と一般型より短くなっています。ただしその分、施設職員との協働実施が条件となっています。
ここで多くの保育士が誤解しやすいポイントがあります。地域子育て支援拠点の従事者に「保育士必須」というイメージを持っている方は多いですが、実際の要件は少し異なります。
| 項目 | 一般型 | 連携型 |
|---|---|---|
| 従事者の最低人数 | 2名以上 | 1名以上(+施設職員) |
| 保育士の配置条件 | 保育士が1名以上、残りは研修修了者でもOK | 経験豊富な保育士1名以上 |
| 開設日数 | 週3日以上・1日5時間以上 | 週3日以上・1日3時間以上 |
つまり、一般型では保育士1名さえいれば、もう1名は保育士でなくても子育て支援員などの研修修了者でよいのです。「保育士2人以上が必要」というのはよくある思い込みです。これは条件を正確に把握するうえで大切な情報です。
実施場所別のデータを見ると、全体で「保育所」が約27%と最多で、次いで「公共施設・公民館」約21%、「認定こども園」約18%の順になっています。運営主体としては「社会福祉法人」が約38%と最も多く、次いで「直営(市区町村)」が約32%、「NPO法人」が約10%です。地域によって担い手の構成はまったく異なります。
保育士が地域子育て支援で実践すること・具体的取組と専門性の活かし方
保育士が地域子育て支援の現場で実際に行う取組は、保育園の通常保育とは異なる独自のスキルが必要になります。具体的に見ていきましょう。
園庭開放・ひろばの運営は最も基本的な取組です。未就園の親子が保育園のスペースを使って自由に遊べる環境を提供します。ここで保育士に求められるのは「見守る力」です。保育園の保育とは違い、スケジュール管理も一斉活動もありません。親が主体であり、保育士は黒子に徹しながら、自然な流れの中で親子の様子を観察し、必要なときだけそっとサポートする技術が問われます。
育児相談・カウンセリング的な対応も重要な役割です。保護者から「子どもが食事を食べない」「夜泣きが続く」「発達が心配」といった相談が寄せられます。保育士は「保育の専門家」として根拠ある情報を提供できますが、同時に「その保護者の感情を受け止める」傾聴の姿勢が不可欠です。答えを押し付けず、一緒に考えるスタンスが信頼関係を生みます。
情報のコーディネートという役割も増えています。厚生労働省の資料でも指摘されているように、保育士が「子育て支援コーディネーター」として機能することで、保護者は自分に合った子育て支援サービスを安心して選べるようになります。保育園の情報だけでなく、一時預かり事業・ファミリーサポートセンター・保健師の相談窓口など、地域の複数のリソースをつないでいくのが現代の保育士の役割です。
さらに、イベント・講習の企画・運営も実践の中心です。離乳食の作り方、親子で楽しめる体操、季節の製作あそびなど、毎月プログラムを設計して実施します。準備や広報も含めた企画力が求められるため、普段の保育と異なるやりがいを感じる保育士も多いです。これは使えそうですね。
アウトリーチ型の支援も注目されています。拠点に来られない家庭に対して、出張ひろばや家庭訪問を通じてアプローチする取組です。高知県では保育所が地域の交流拠点として出張型の活動を展開していますが、同様の取組は全国に広がりつつあります。
保育士と地域子育て支援がつながる制度・キャリアアップと処遇改善の関係
「地域子育て支援の仕事は大変なのに、給与に反映されない」と感じている保育士は少なくありません。しかし実際には、この取組はキャリアと給与に直結する制度的な仕組みが存在します。この情報を知っておくかどうかで、年収に数万円〜数十万円の差が生まれることがあります。
まず、主任保育士専任加算があります。保育所が地域の子育て支援を行う場合、主任保育士が通常の保育業務を外れて地域支援に専念できる体制を整えると、公定価格上の加算を受けられます。これは保育所の収入が増えることを意味し、結果として処遇改善原資として活用できます。
次に、処遇改善等加算Ⅱ(キャリアアップ研修)との連動があります。地域子育て支援分野のキャリアアップ研修を修了することで、「専門リーダー」や「副主任保育士」などの職位に就きやすくなり、月額最大4万円の給与改善が可能になります。令和7年度以降、この加算制度は一本化が進んでいますが、「経験と研修の積み重ねが給与に反映される」という仕組みの大枠は変わっていません。
また、地域子育て支援拠点事業自体が市区町村からの委託・補助金事業であるため、保育所が拠点として機能することで別途の運営財源が確保されます。拠点に勤務する保育士には、通常の保育業務とは別の人件費が措置されるケースもあります。
2025年度は過去最大となる10.7%の人件費引き上げが実施され、2026年度も5.3%の引き上げが予定されています。地域子育て支援への関与度が高い保育士ほど、こうした処遇改善の恩恵を受けやすい構造になっていると言えます。
| キャリアパス | 加算の種類 | 給与への影響(目安) |
|---|---|---|
| 専門リーダー(地域子育て支援分野) | 処遇改善等加算Ⅱ | 月額+5,000円〜 |
| 副主任保育士 | 処遇改善等加算Ⅱ | 月額最大+40,000円 |
| 主任保育士専任(地域支援担当) | 主任保育士専任加算 | 施設収入増→処遇改善原資に |
地域子育て支援に積極的に関わることは、保育士としてのキャリア形成においても合理的な選択です。「保育の専門家として地域に貢献しながら、自分の待遇も改善できる」という両立を意識して動くことが大切です。
処遇改善の最新情報は、こども家庭庁の公式ページでも随時更新されています。現在の加算状況を把握したい場合は、以下のリンクから確認するのが確実です。
参考リンク(令和7年度以降の処遇改善等加算の詳細)。
こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について」(令和7年10月)
保育士だからこそ気づける地域の「小さなSOS」・在宅育児家庭への支援実践
地域子育て支援の現場にいる保育士が、施設保育にはない独自の役割を持つ場面があります。それが「小さなSOS」のキャッチです。これは検索上位にはほとんど出てこない視点ですが、現場の保育士にとってきわめて重要なスキルです。
保育士が毎日顔を合わせる在宅育児の保護者の中には、ちゃんとひろばに来ているのに育児に相当なストレスを抱えているケースがあります。「なんとなく元気がない」「毎回同じ悩みを話している」「子どもへの関わり方が気になる」といったサインは、書類や数値には表れません。保育士の長年の観察眼があってこそ気づける変化です。これが原則です。
厚生労働省の資料では、「参加できない層や参加しない層へのアプローチ」が重要だと指摘されています。ひろばに一度も来ない家庭の中に、最も支援が必要なケースが潜んでいることがあります。出張ひろばや公園への出向き型支援が注目されているのはそのためです。実際に神奈川県川崎市では、保育所を活用して保育士・栄養士・看護師などが連携し、専門的な相談支援を実施しています。専門職の連携で初めて見えてくるリスクがあるということです。
保育士が「小さなSOS」に気づいたとき、どう動くかが問われます。大切な点は、すぐに「問題あり」と判断して行政に通報することではなく、まずつながりを深めることです。「先週より顔色が明るくなりましたね」「最近どうですか」といった何気ない声かけが、保護者の孤立を防ぐ最初のステップになります。
一方で、虐待のリスクが高いと判断した場合には、要保護児童対策地域協議会や市区町村の子育て相談窓口との連携が不可欠です。保育士は「ポピュレーションアプローチの専門家」つまり「広く地域全体の子育てを支える専門家」という位置づけですが、専門の判断が必要な局面では迷わず関係機関につなぐことが大切です。
地域の関係機関との連携方法や虐待への対応フローについては、各市区町村の子育て支援担当窓口やこども家庭センターに相談するのが一番の近道です。職場の管理職や主任保育士とも日頃から情報共有の体制を整えておくことをおすすめします。
参考リンク(保育士による地域子育て支援の実践研究・こども家庭庁資料)。
こども家庭庁「地域子育て支援拠点事業 実施のご案内」(令和5年4月)

地域子育て支援拠点で取り組む利用者支援事業のための実践ガイド

