中国民謡の有名な曲を保育で活かす完全ガイド
「茉莉花」を保育で使うと、中国にルーツを持つ子が初めて声を出して歌い出すことがある。
中国民謡の有名曲「茉莉花(モーリーファ)」とは何か
「茉莉花(Mòlìhuā/モーリーホワ)」は、中国民謡の中で世界的に最もよく知られた曲のひとつです。日本語では「まつり花」とも訳され、小学校の音楽の教科書にも掲載されている、子どもにも親しみやすい民謡です。
この曲は清朝・乾隆帝の時代(18世紀ごろ)には江蘇省あたりで歌われていたことが確認されており、その起源は非常に古い。当時は「鮮花調(シェンホアディャオ)」という名前で、歌詞や旋律にもバリエーションが多くありました。1957年に南京前線歌舞団が曲を整理し、現在の「茉莉花」という名称に統一されています。
実は、この曲はオペラの世界でも使われています。イタリアの作曲家プッチーニが未完のオペラ「トゥーランドット」の中でこのメロディを引用しており、クラシック音楽のファンにも広く知られる存在です。それだけではなく、2004年のアテネオリンピック閉会式では中国人少女がこの歌を世界に向けて歌い、2008年北京オリンピックのメダル授与式でも中国を代表する音楽として演奏されました。つまり茉莉花は、中国の「国民的民謡」としての地位を確立しているわけです。
歌詞の内容は、庭いっぱいに咲く美しいジャスミンの花を一輪手折りたいけれど、怒られてしまうかも、と遠慮がちに想う情景を描いたものです。日本人の感性にも通じる「控えめで繊細な美意識」が、旋律のやわらかさと相まって子どもにも届きやすい世界観を作っています。
保育士として重要なポイントは、茉莉花が「五音音階(ペンタトニック)」で作られていることです。五音音階とは、1オクターブを5つの音で構成する音階で、日本の童謡「さくらさくら」なども同じ仕組みです。この音階は人間の声帯が自然に発する音程に近いとされており、子どもが直感的に「きれいだ」「歌いやすい」と感じやすい構造になっています。つまり茉莉花は、理論的にも子どもの耳に馴染みやすい曲なのです。
教育芸術社:民謡「まつり花(茉莉花)」の解説(小学校音楽教科書対応)
中国民謡の有名な一覧と保育向けの特徴比較
中国には広大な国土と56の民族が存在し、それぞれの地域・民族固有の民謡が無数にあります。その中でも日本で知られている代表的な有名曲を知っておくことは、保育士にとって実用的な武器になります。
まず「草原情歌(在那遙遠的地方)」は、1938年に王洛賓(ワン・ルオビン)がカザフ族の民謡をもとに編曲・作詞した曲です。「はるか離れたそのまたむこう、誰にでも好かれる綺麗な娘がいる」という内容で、NHKの「みんなのうた」でも1983〜84年に紹介された日本人になじみ深い曲でもあります。伸びやかなメロディが特徴で、スローテンポなので子どもが聴いて落ち着く環境音としても活用できます。
次に「康定情歌(こうていじょうか)」は、中国四川省の康定(カンディン)という高原の街を舞台にした恋歌です。「情歌」はラブソングを意味し、「なんと美しいお月様、康定の城がやさしく照らされている」というロマンチックな内容が特徴です。映画「レッドクリフ」の主題歌を歌ったシンガー・alanが幼少期を過ごした町としても知られており、近年再び注目されている曲です。
「夜来香(イエライシャン)」は、李香蘭(本名:山口淑子)が歌いテレサ・テンもカバーした、夜に強く香る花をテーマにした名曲です。哀愁を帯びたメロディが特徴で、保育でのBGMや発表会のテーマ曲にも活用できます。
「何日君再来(ホーリー・ジュン・ザイライ)」は、1930年代の上海映画から生まれたヒット曲で、テレサ・テンの歌声によって世界的に知られるようになりました。「また会える日はいつになるの」という別れの歌詞が特徴です。
これらの曲を整理すると、保育での使い分けはこのようになります。
| 曲名 | 雰囲気 | 保育での活用シーン |
|---|---|---|
| 茉莉花 | やわらか・清楚 | 朝のサークル・うた遊び・異文化紹介 |
| 草原情歌 | 伸びやか・おだやか | BGM・お昼寝・リトミック |
| 康定情歌 | 明るい・活発 | お遊戯・リズム遊び |
| 夜来香 | 哀愁・大人っぽい | 発表会のBGM・卒園式 |
| 何日君再来 | 叙情的・懐かしい | 保護者向け行事・卒園ソング |
それぞれの曲は雰囲気が異なります。保育の場面と子どもの状態に合わせて選ぶことが大切です。
中国民謡の有名曲が保育現場で重要な理由と多文化共生の背景
日本における在留外国人数は2024年時点で約322万人と過去最高を更新しており、その国籍別1位は中国で約87万人(全体の約24.9%)を占めています。これは在留外国人全体の4人に1人が中国にルーツを持つことを意味しています。
保育所の現場でもこの傾向は反映されており、全国の保育所等のうち約60%に外国籍の子どもが在籍しています(こども家庭庁の調査より)。在籍する外国籍の子どもの国籍別で最多は中国籍で、これは保育士として「中国の文化・音楽への理解」がもはや対岸の話ではないことを示しています。
保育士の96.2%が外国籍園児の保育に難しさを感じているという調査結果(2024年版)もあります。難しさの主な要因は「言葉の壁」ですが、音楽はその壁を越えるコミュニケーション手段として非常に効果的です。言葉が通じない状況でも、音楽・リズム・歌声は子どもの感情に直接届くからです。
中国民謡の有名曲を保育で取り上げることは、中国にルーツを持つ子どもが「自分の文化が認められた」と感じる心理的安全性につながります。これは愛着形成や情緒の安定にも関係します。特に転入してきたばかりの外国籍の子どもにとって、母国の曲を先生や友だちが歌ってくれる体験は、保育園を「安心できる場所」として認識するきっかけになることがあります。
これが大切なポイントです。中国民謡は「異文化を体験させるための材料」ではなく、クラスにいる子どもたちが互いを理解し尊重する環境を作る「架け橋」として機能するのです。
PRTimes:2024年版 外国籍園児の保育の実態調査(保育士の声・統計データ)
中国民謡の有名曲を使った保育活動の具体的なアイデア
実際に保育の現場で中国民謡を取り入れる際は、いきなり歌わせようとするのではなく、「聴く→感じる→やってみる」という段階を踏むことが子どもの興味を引き出すコツです。
① 「聴く」ステップ:BGMとして流す
まず茉莉花や草原情歌をBGMとしてお部屋にそっと流すことから始めましょう。お昼寝の時間や製作活動中に流すと、子どもは自然にその音楽に耳を傾けるようになります。数日間繰り返すうちに「あ、この曲だ」と認識するようになり、次の活動への橋渡しになります。
② 「感じる」ステップ:絵本・写真・実物と組み合わせる
音楽だけではなく、中国の花(ジャスミン)の写真や、お茶に浮かぶジャスミンの花びらの実物など、視覚・嗅覚にも訴えるものと組み合わせると効果的です。「この花の歌なんだよ」と紹介するだけで、子どもは歌詞の情景をイメージしやすくなります。
③ 「やってみる」ステップ:ボディパーカッションやリズム遊び
茉莉花の五音音階は「ド・レ・ミ・ソ・ラ」の5音で構成されており、複雑な音程移動がありません。このため、子どもがハンドベルや木琴で旋律をたどりやすいのが特徴です。ゆっくりしたテンポで「1・2・3、ドーレーミー」と音をたどる活動は、音感教育としても効果的です。
④ 中国の伝統楽器を「見て・触れる」体験
中国の代表的な民族楽器として「二胡(アルフー)」があります。二胡はバイオリンと同じように弦を弓でこすって音を出す二弦の楽器で、そのやわらかく哀愁を帯びた音色は「茉莉花」の演奏にも使われます。本物の二胡を保育園に持ち込むのが難しい場合は、YouTubeの演奏動画を大型モニターで見せるだけでも十分な体験になります。「どうやって音が出るの?」と子どもの好奇心に火がつく瞬間が生まれます。
このような段階的な活動が定着すれば、子どもたちは中国の音楽を「知らない外国の歌」ではなく「聴き慣れた、なんか好きな曲」として受け入れるようになります。
Wikipedia:茉莉花(民謡)の歴史・歌詞・日本への伝来(詳細な背景資料)
中国民謡の有名な五音音階と保育士が知っておきたい音楽の仕組み
「なぜ中国の民謡は日本人にも馴染みやすいのか」という疑問の答えは、音楽理論に隠されています。中国の伝統音楽の多くは「五音音階(宮・商・角・徵・羽)」で構成されており、これは現代でいうペンタトニック・スケールにあたります。
五音音階は「ド・レ・ミ・ソ・ラ」の5音で成り立ち、「ファ」と「シ」が含まれないのが特徴です。この音の組み合わせは、「四七抜き音階(ヨナ抜き音階)」とも呼ばれ、日本の童謡や演歌でも広く使われてきました。日本人が中国の民謡を聴いて「なんとなく懐かしい」と感じるのは、この音階の共通性によるものです。
また、五音音階はどの音をどんな順番に組み合わせても不協和音になりにくいという性質を持っています。これは保育の音遊びで重要な意味を持ちます。子どもが鍵盤を適当に叩いても「きれいな音がする」と感じやすく、失敗感なく音楽活動に参加できるのです。シュタイナー教育でも、幼少期の音楽教育においてペンタトニックの楽器(ライアー・ハープなど)が積極的に使われているのはこの理由からです。
五音音階が基本です。保育士がこの仕組みを知っておくだけで、「なぜこの曲は子どもに受けがいいのか」「どんな曲を選べば安心して音遊びができるか」という判断が格段にしやすくなります。
実際の保育では、グロッケン(鉄琴)や木琴の「ファ」と「シ」の鍵盤をマスキングテープで隠し、残りの5音だけで遊べるようにするという工夫もよく使われます。子どもが自由に叩いても必ず「いい感じの音楽」になるため、音に対する自己肯定感が育ちやすくなるのです。これは使えそうです。
中国民謡の有名曲を導入することで、五音音階の魅力を体験させつつ、異文化への親しみを育てる。この2つの目標を同時に達成できるのが、中国民謡を保育に取り入れる最大のメリットです。
東京科学大学デジタル創作サークル:中国民族音楽の五声音階をわかりやすく解説

中国の民俗音楽 vol.5 台湾先住民族の民謡

