ビバルディ「四季」冬を保育で活かす実践ガイド
実は「四季・冬」第1楽章のテンポはBPM約84で、子どもの早歩きリズムとほぼ一致しています。
ビバルディ「四季・冬」の作曲背景と3楽章の構成
アントニオ・ヴィヴァルディが「四季」を出版したのは1725年のことです。当時ヴェネツィアの孤児院「ピエタ慈善院」の音楽教師を務めていた彼は、そこに暮らす少女たちの演奏教育のために多くのヴァイオリン協奏曲を書きました。「四季」は協奏曲集「和声と創意への試み Op.8」の第1番〜第4番にあたり、「冬」はその第4番(ヘ短調)です。
「冬」は全3楽章で構成されています。それぞれの楽章にはヴィヴァルディ自身が書いたソネット(14行詩)が対応しており、音楽が「何の情景を描いているか」が言葉で示されている点が珍しい特徴です。
| 楽章 | 速度記号 | ソネットの情景 | 特徴的な音の動き |
|---|---|---|---|
| 第1楽章 | Allegro non molto | 凍える寒さ、震える人々 | 刻むような短いスタッカート音型が連続 |
| 第2楽章 | Largo | 暖炉のそばで雨を眺める静けさ | ゆったりとした長いメロディーライン |
| 第3楽章 | Allegro | 凍った道での転倒、風との戦い | 滑るような音の連続、急激な強弱変化 |
保育の場では、3つの楽章を「お話の章」として子どもに提示するとイメージを持ちやすくなります。つまり「音楽絵本」として使える構造になっているということです。
第1楽章のBPM(テンポ)は演奏者によりますが平均的に約80〜90です。これは人間の早歩きや子どもの小走りに近いリズムで、体を動かす活動と組み合わせやすい数値です。第2楽章はBPM約50前後とかなりゆっくりで、呼吸を意識したリラックス活動に向いています。テンポを意識するだけで活動の設計が変わります。
ビバルディ「四季・冬」のソネット内容と保育での言葉かけ例
ヴィヴァルディのソネットは難解なイタリア語詩ですが、内容をかみ砕くと子どもでも十分イメージできる「冬の一日」が描かれています。保育士がそのイメージを言葉で橋渡しするだけで、子どもの聴き方が大きく変わります。
第1楽章のソネットを現代語で意訳すると、「雪の中で震えながら歩く人が、足を踏み鳴らしながら歯をカチカチさせている」という場面です。この情景は子どもにも身近です。「寒いとき体がどうなる?」と聞くだけで、子どもは自然に体をぷるぷる震わせて反応します。これは使えそうです。
第2楽章は「暖かい部屋の中で、外の雨をのんびり見ている」情景です。保育士は「ぽかぽかの部屋でストーブのそばにいるイメージで聴いてみて」と伝えるだけで、子どもの体の力が抜けてリラックスした姿勢になります。
第3楽章は「凍った路面で何度も転びながら、強い風と戦う」情景で、突然の大きな音と静かな音が交互に来るのが特徴です。「いつ大きい音が来るかな?」と予告するだけで、子どもは集中して聴くようになります。集中が自然に生まれます。
以下に楽章別の言葉かけ例をまとめます。
- 第1楽章:「外はすごく寒い!体が震えてる音だよ。一緒に震えてみよう」
- 第2楽章:「お部屋の中でほっとしてる音だよ。ゆっくり深呼吸しながら聴いてみて」
- 第3楽章:「つるつるの氷の道で転んじゃう音だよ。突然大きくなるよ!」
言葉かけは「これが正解」と押しつけず、「こんな感じの音かな?」という問いかけ形式にするのが原則です。子どもが自分なりの答えを出す余白を残すことで、情緒的な感受性が育ちます。
ビバルディ「四季・冬」を使った身体表現活動の具体例
クラシック音楽を「聴かせるだけ」の活動にすると、子どもは5分ともちません。「四季・冬」は音の変化が激しく、動きと組み合わせやすい曲です。厳しいところですね、でも逆にいえばアクションのきっかけが多い曲でもあります。
第1楽章を使った活動例として「雪の中ウォーキング」があります。BPM約85に合わせて室内を歩き、バイオリンの刻む音のタイミングで「ぴたっ」と止まるゲームです。何度も止まるテンポなので、集中力が自然に鍛えられます。2〜3歳児からでも取り組めます。
第2楽章は「ゆっくり呼吸・伸び」活動に向いています。ゆったりしたメロディーに合わせて腕を大きく上げ下げしたり、ゆっくり回転したりする動作を組み込みます。午睡前や午後の落ち着きタイムに使うと、10分以内に室内の雰囲気が静まります。
第3楽章は「氷の道ゲーム」として活用できます。滑るような音型に合わせて足をすべらせるジェスチャーをしたり、突然の強音に合わせてジャンプしたりします。4〜5歳児なら「音の変化を聴いて動きを変える」という即興性の高い活動が可能です。
- 🎯 2〜3歳児:「止まる・動く」の二択の動きを中心に設定する
- 🎯 4歳児:動きの種類を3〜4種類に増やし「どの動きをするか自分で選ぶ」要素を加える
- 🎯 5歳児:グループで「冬の劇」を即興でつくる創作活動まで発展できる
活動後に「どの音が一番好きだった?」と聞くことで、言語化の力も同時に育てられます。音楽→体→言葉の三段階が条件です。
ビバルディ「四季・冬」の鑑賞活動における保育計画の組み立て方
鑑賞活動を設計するとき、最も多い失敗は「曲全体を通しで聴かせる」ことです。「四季・冬」の全演奏時間は約9〜11分で、これを最初から最後まで静聴させるのは幼児には難しい課題です。意外ですね。
現実的な計画としては、1回の活動で使う楽章を1つに絞り、3〜4分以内に収めるのが基本です。週3回に分けて3楽章を順番に体験させる「週またぎ鑑賞プラン」が効果的です。
保育計画の一例として以下のような流れが考えられます。
- 1週目:第1楽章→「震える体」の動き遊びと組み合わせる(月曜・水曜の2回実施)
- 2週目:第2楽章→呼吸活動・絵を描く活動と組み合わせる
- 3週目:第3楽章→グループゲームや即興劇と組み合わせる
- 4週目:3楽章をつなげて通しで聴く(すでに耳なじみがあるため集中が続きやすい)
この順序を守ることで、最終週に全曲通しで聴いたとき「あ、知ってる!」という既知感が生まれ、子どもが積極的に音楽に関わる姿が観察されます。
月案・週案に組み込む際は、「音楽表現」の領域だけでなく「身体表現」「言葉」の領域とのねらいを合わせて記載するのがポイントです。指導案の評価欄では「子どもが自発的に体を動かしたか」「音の変化に気づく言葉が出たか」を具体的な観察指標として設定しておくと、次回の改善につながります。これが原則です。
なお、CDやストリーミングで使う場合、演奏者によって印象が大きく変わります。子ども向けには速めのテンポで演奏したイ・ムジチ合奏団(1959年録音版)や、映像つきで視覚情報も加わるNHKクラシック音楽館の映像素材が使いやすいです。視覚情報が加わるだけで理解度が上がります。
以下は参考になる音楽教育関連リンクです。
「四季」の楽曲解説と教育活用事例について、NHK for Schoolの音楽コンテンツが参考になります。
NHK for School|音楽 – 楽曲・鑑賞コンテンツ一覧
文部科学省が示す幼稚園教育要領における「表現」領域の解説(音楽を使った保育の位置づけを確認できます)。
保育士だけが気づける「四季・冬」の隠れた音楽的仕掛け
これは検索上位にはほとんど書かれていない視点ですが、「四季・冬」には子どもの感情発達を後押しする構造が偶然ではなく計算的に組み込まれています。その核心は「コントラスト(対比)」です。
ヴィヴァルディは第1楽章と第2楽章の間に、BPMで約35〜40の差をつけています。これは心拍数に換算すると「軽いジョギング」と「深い睡眠直前」の差に相当します。この落差を体で感じることは、感情の切り替えの練習そのものです。つまり音楽が「感情調節の教材」として機能するということです。
感情調節は、2025年度以降の保育所保育指針でも重視されている「社会情動的スキル(SEL)」の一要素です。「自分の気持ちを動かす体験」を音楽で積み重ねることで、怒りや不安を感じたときに「深呼吸する」「気持ちを切り替える」行動に結びつきやすくなると言われています。
また、第3楽章には「テルツェット(3声の掛け合い)」的な音型が含まれており、ソロバイオリンと弦楽合奏が問いと答えのように掛け合う場面があります。これを「会話する音楽」として子どもに紹介すると、コミュニケーション教育の文脈で使えます。
- 🎻 ソロバイオリン=「一人の声」に見立てる
- 🎼 弦楽合奏=「みんなの返事」に見立てる
- 💬 「バイオリンが何か言ってる。みんなはなんて返す?」と問いかける
この視点を取り入れると、「音楽鑑賞」が「対話の練習」として機能します。これは他のどの鑑賞教材でも使えるアレンジ視点です。ぜひ自分のものにしておくと損はありません。
保育士が「音楽を知っている」だけでなく「音楽の仕掛けを語れる」状態になると、子どもへの言葉かけの質が変わります。その積み重ねが、子どもの音楽体験の深さに直結します。これだけ覚えておけばOKです。


