チェコ民謡モルダウを保育士が子どもに伝える方法
モルダウは「チェコ民謡」として保育の場で紹介されることが多いですが、実は作曲家スメタナが書いた交響詩であり、純粋な民謡ではありません。
チェコ民謡「モルダウ」の成り立ちと正しい理解
「モルダウ」はチェコ語で「ヴルタヴァ」と呼ばれる川の名前です。この曲は19世紀のチェコ人作曲家ベドルジハ・スメタナが、1874年から1879年にかけて作曲した交響詩「わが祖国」の第2曲として書き上げました。つまり、正確には「民謡」ではなく「交響詩」です。
保育の現場では「チェコ民謡モルダウ」という呼び方が定着しています。これは、曲の中にチェコの民謡メロディーが引用されているためです。つまり「民謡を素材にした交響詩」が正確な位置づけです。
この違いを知っておくだけで、子どもへの説明の深さがまったく変わります。
- 「わが祖国」は全6曲からなる交響詩集で、モルダウはその第2曲
- スメタナはチェコの民族独立運動に積極的に参加していた国民的作曲家
- 曲名「モルダウ」はドイツ語名で、チェコ語では「ヴルタヴァ(Vltava)」
- ヴルタヴァ川はチェコ共和国で最長の川であり、プラハを流れる「母なる川」
スメタナが曲を書いたのは、当時チェコがオーストリア帝国の支配下に置かれていた時代です。ドイツ語が支配階級の言語だったため、「モルダウ」というドイツ語名が世界に広まりました。
参考:スメタナとヴルタヴァ川の解説(家電Watch)

モルダウに引用されたチェコ民謡「コチカレゼディーロウ」とは
交響詩「モルダウ」の最後を飾るメロディーは、チェコの民謡「コチカレゼディーロウ」からの引用です。これがいわゆる「チェコ民謡モルダウ」の起源とも言える部分で、保育士として知っておきたい核心情報です。
「コチカレゼディーロウ」は、チェコの人なら誰でも子どもの頃に歌ったことがある有名な民謡です。日本でいえば「こぎつねこんこん」に似た、素朴で親しみやすいメロディーです。歌詞には「雨が降っても太陽が照らせば乾く」「やがて晴れるでしょう」という意味の言葉が含まれています。
これは使えそうですね。
スメタナはこの民謡を曲の終盤に用いることで、オーストリア支配という「嵐の時代」を生きるチェコの人々に「やがて晴れる」というメッセージを伝えようとしました。保育現場でこのエピソードを使えば、「音楽には気持ちを伝える力がある」という大切な価値観を子どもに自然に届けることができます。
- 「コチカレゼディーロウ」はチェコ子どもに広く歌われている民謡
- 日本の「こぎつねこんこん」に雰囲気が似ており、子どもが親しみやすいシンプルなメロディー
- 「やがて晴れるでしょう」という前向きな歌詞が含まれており、保育のメッセージとも合致する
- スメタナはこの民謡を終盤に引用することで希望のメッセージを込めた
参考:チェコのアイデンティティとモルダウに込められた民謡の力(アメブロ)

チェコ民謡モルダウの情景描写を保育に活かす具体的な方法
「モルダウ」は「トーン・ペインティング」という手法で作曲されています。音で情景をそのまま描く方法で、音から絵が浮かびやすいという特徴があります。この点が、保育の場で子どもに届けやすい最大の理由です。
曲は小さな2つの源流から始まり、川が次第に大きくなっていく場面展開があります。途中には森の狩猟の場面、村の婚礼の場面、夜の妖精たちの踊り、岩にぶつかる激流など、次々と情景が移り変わります。まるで絵本を読んでいるようです。
| 場面 | 音楽の特徴 | 保育での活用例 |
|---|---|---|
| 源流(2つの小川) | フルートとオーボエが交互に奏でる細い音 | 「水がちょろちょろ流れる真似をしてみよう」 |
| 川の広がり | 弦楽器が加わり、主題が力強くなる | 「川がどんどん大きくなるね、どんな気持ち?」 |
| 村の婚礼 | ポルカのリズムで明るく跳ねる | 「みんなで踊っている場面だよ、体を動かしてみよう」 |
| 夜の静けさ | 弦楽器が静かに流れる | 「お月さまが川を照らしているね、静かに聴いてみよう」 |
| 激流(聖ヨハネの急流) | 全楽器が力強く奏でるクライマックス | 「岩にぶつかる水しぶき、どんな音に聞こえる?」 |
各場面を子どもに「何の音に聞こえる?」と問いかけながら聴かせるだけで、音楽への集中力と表現力が同時に育ちます。絵を描かせながら聴かせる「音楽鑑賞画」の活動とも相性が抜群です。
スメタナが耳を失っても作り続けた理由と保育への応用メッセージ
ここは独自視点として押さえておきたいポイントです。スメタナは「わが祖国」を作曲中の1874年、突然完全に聴力を失いました。交響詩「モルダウ」を含む名曲群は、すべて耳が聞こえない状態で書き上げられた作品です。
これは保育の現場でも非常に強いメッセージになります。「好きなことへの気持ちは、どんな困難があっても続けられる」という事実を、子どもに具体的な人物のエピソードとして伝えられます。ベートーヴェンの逸話と同様に使えますが、「チェコ民謡モルダウ」というなじみのある曲とセットで伝えられる点が強みです。
意外ですね。
実際に、年長クラスで「この曲を作った人は、耳が聞こえなくなっても音楽を作り続けたんだよ」と話してから曲を聴かせると、子どもたちの聴く姿勢が明らかに変わったという保育士の声があります。音楽鑑賞の時間に「感じる力」を育てるうえで、背景エピソードの活用は非常に効果的な手法です。
- スメタナは1874年に聴力を完全に失った(推定50歳のとき)
- 「わが祖国」全6曲はすべて耳が聞こえない状態で完成された
- スメタナ自身も困難な時代(民族弾圧)の中で作曲し続けた
- このエピソードは「諦めない心」を伝える保育の題材として活用できる
チェコ民謡モルダウを年齢別に子どもへ伝えるポイント
モルダウは演奏時間が約12分あり、全曲を小さな子どもに聴かせるのは難しい場合があります。年齢に合わせて聴かせる場面を絞ることが基本です。
3〜4歳クラスでは「主題メロディーが流れる部分(川が大きくなる場面)」だけを1〜2分程度流すのがおすすめです。まずは「川の音楽だよ」という言葉かけと一緒に、波の動作(手をゆらゆら動かす)を合わせて聴かせると身体で音楽を感じられます。
5〜6歳クラスでは情景全体を説明してから聴かせる方法が効果的です。
- 🎵 0〜2歳:主題のハミングや鼻歌で「川の歌」として親しませる程度でOK
- 🎵 3〜4歳:川が大きくなる主題部分(1〜2分)を動作あそびと合わせて聴かせる
- 🎵 5歳:場面ごとに「何の場面か当てよう」クイズ形式で聴かせる
- 🎵 6歳(年長):スメタナのエピソード、チェコという国の話を加えて全体を通して鑑賞
合唱曲としての「モルダウ」は混声三部合唱で歌われることも多く、歌詞には「なつかしき河よ モルダウの 清き流れはわが心」という表現があります。年長クラスでこの歌詞の一節を使った「川の歌」として取り上げると、言葉の豊かさに触れる国語的な活動にもなります。
1946年以降、スメタナの命日にあたる5月12日に開催される「プラハの春音楽祭」では、「わが祖国」全6曲の演奏で幕が開くのが慣習となっています。これはチェコという国全体がこの曲をどれほど大切にしているかを示しています。5月の保育テーマ(こどもの日の余韻、春の自然)と合わせて、「世界の春の音楽」として紹介する切り口も使えます。
参考:プラハの春音楽祭とモルダウについて(うたごえサークルおけら)
参考:「わが祖国」全曲解説(ワルシャワ交響楽団東京公演)
