イタリア民謡の有名な曲を保育で活かす方法
実は「サンタルチア」は、もともと子ども向けに作られた曲ではなく、ナポリの漁師が夜明けに船を出す労働歌です。
イタリア民謡「有名な定番曲」の背景と歴史
イタリア民謡の代表格として多くの人が思い浮かべるのは、「サンタルチア(Santa Lucia)」「フニクリフニクラ(Funiculì, Funiculà)」「オー・ソレ・ミオ(O Sole Mio)」あたりではないでしょうか。これらはどれも19世紀から20世紀初頭にかけてナポリを中心に生まれた曲です。
ところが、保育士の多くが「昔から伝わる純粋な民謡」だと思っているこれらの曲、実際には「カンツォーネ・ナポレターナ(ナポリ歌謡)」と呼ばれるジャンルに分類されます。民謡というより、作詞・作曲者がいる「大衆歌謡」に近い性格を持つのです。
「サンタルチア」は1849年にテオドロ・コトラウが採譜・編曲した楽曲で、もとはナポリ湾のサンタルチア地区を舞台にした舟歌です。原語の歌詞には「漕ぎ出せ、夜明けの波は穏やかだ」という情景が描かれており、子どもが歌うことを想定していません。それが世界中に広まる過程で「美しいメロディ=子ども向け」という誤解が定着しました。
つまり「有名=最初から万人向け」ではないということです。
「フニクリフニクラ」はさらに興味深い経歴を持ちます。1880年、ヴェスヴィオ火山にケーブルカーが開通した際の宣伝ソングとして作られたプロモーション曲です。作詞はジュゼッペ・トゥルコ、作曲はルイジ・デンツァ。「ケーブルカーに乗ろう!」という観光広告の歌が、今や保育園の歌として歌われているのは、なかなか痛快ですね。
保育現場でこれらの曲を使う際は、原曲の背景を少し知った上で「どのエッセンスを子どもに伝えるか」を意識すると、曲の選び方や説明の仕方に深みが出ます。
イタリア民謡の有名曲一覧と保育での難易度比較
保育士が実際に使いやすいイタリア民謡を、難易度・テンポ・子どもの反応という観点で整理してみましょう。
| 曲名 | 作曲年 | テンポ | 子ども向け難易度 | 保育での活用場面 |
|---|---|---|---|---|
| サンタルチア | 1849年 | ゆっくり | ★★☆(中級) | お昼寝前・情操教育 |
| フニクリフニクラ | 1880年 | 速い | ★★★(やや難) | 運動会・リズム遊び |
| オー・ソレ・ミオ | 1898年 | 中程度 | ★★★(やや難) | 発表会・合唱 |
| 帰れソレントへ | 1894年 | ゆっくり | ★☆☆(初級) | 情操・鑑賞活動 |
| カタリ・カタリ | 1885年 | 中程度 | ★★☆(中級) | 音楽鑑賞・BGM |
難易度「初級」の「帰れソレントへ(Torna a Surriento)」は、メロディがゆるやかで繰り返しが多く、年中・年長クラスでも無理なく鑑賞できます。フニクリフニクラはリズムが強く、体を動かす活動と相性が抜群です。
ここで重要なのは、難易度と「楽しさ」は比例しないという点です。
子どもにとっての「楽しい曲」は、テンポが明確でリズムが規則的なものです。難しい曲を無理に歌わせるより、簡単な曲でリズム打ちや手拍子を加える方が、音楽的感受性を育てる効果が高いと言われています。
保育士が選曲で迷ったら、「子どもが自然にリズムを取り始める曲かどうか」を基準にするとよいでしょう。それが基本です。
参考として、国際基督教大学など音楽教育の研究では、リズムの規則性が幼児の音楽理解に直結することが示されています。保育での選曲基準として参考にしてみてください。
文部科学省:幼児期における音楽的な関わりと発達の関係(参考資料)
保育士が現場で使えるイタリア民謡の有名曲アレンジ術
原曲をそのまま使うのが難しい場合、保育士が手を加えてアレンジするのは有効な手段です。
まず取り組みやすいのは、「日本語詞に差し替える」方法です。「サンタルチア」には複数の日本語訳詞がすでに存在しており、文部省唱歌として長く学校教育でも使われてきた実績があります。歌詞の内容は「静かな夜の海」「星と波」という自然描写が中心で、季節を問わず使えます。
次に効果的なのが「ハミングと体の動きの組み合わせ」です。歌詞を覚えさせることにこだわらず、メロディだけをハミングしながらゆらゆら揺れる、手をひらひらさせるといった動きを加えると、0〜2歳の乳児クラスでも十分に楽しめます。これは使えそうです。
「フニクリフニクラ」をリズム遊びに活用する際は、鈴やタンバリンといった打楽器を子どもに持たせて、サビの部分だけ一緒に叩かせるのがおすすめです。曲全体を通して演奏するより、サビ(「フニクリ、フニクラ」の部分)を繰り返す「サビループ」にするだけで、子どもの集中力が格段に上がります。
アレンジの基本は「繰り返しと予測可能性」です。
子どもは「次に何が来るか分かる」という安心感の中で、音楽を楽しみます。そのため、AメロとBメロが複雑に入れ替わる曲より、シンプルな繰り返し構造を持つ曲の方が、保育の場では力を発揮します。
既製品のCDやストリーミングを使う場合も、著作権が消滅している楽曲(作曲者の死後70年以上)なら演奏・録音ともに自由に使えます。ここに挙げた曲は全て1950年以前の作品なので、著作権の観点では問題ありません。確認してから使うようにしましょう。
イタリア民謡の有名曲が保育士の感性を磨く理由(独自視点)
ここはあまり語られない話です。
イタリア民謡(カンツォーネ・ナポレターナ)の多くは、「感情の振れ幅が大きい」という特徴を持っています。悲しみと喜び、郷愁と希望が、短いメロディの中に同居しています。この感情の複雑さが、実は保育士自身の感性トレーニングになり得るのです。
保育士は日々、子どもの感情を受け止め、言語化し、返す仕事をしています。語彙が豊かであることはもちろん、「怒りにもいろんな種類がある」「悲しさの中に少し嬉しさが混じることもある」という感情の細やかさを体感していることが、質の高い保育につながります。
イタリア民謡を聴き・歌う習慣は、感情語彙のトレーニングになります。
たとえば「帰れソレントへ」を聴きながら、「この曲はどんな気持ちを表しているか」を自分なりに言葉にしてみる。それを子どもとの会話に応用する。「この曲、なんだかちょっと悲しいね、でも最後はあったかい気持ちになるね」という声かけができる保育士は、子どもの感情表現を豊かにするモデルになれます。
📌 ポイントまとめ。
- イタリア民謡は「感情の振れ幅の大きさ」が特徴で、感情語彙のトレーニングに向いている
- 保育士が曲の「気持ち」を言語化する練習をすることで、子どもへの声かけが豊かになる
- 「音楽を聴いて感じたことを話す」という行為そのものが、子どもへの共感的関わりの練習になる
感情を言葉にすることが、保育の本質に近いです。
音楽の鑑賞を「BGMを流すだけ」で終わらせず、保育士自身が「この曲、どんな感じがするかな」と問いかける習慣を持つだけで、音楽活動の質は変わります。
イタリア民謡の有名曲を使った保育計画の立て方
イタリア民謡を保育に取り入れる際、いきなり「今日はイタリアの歌を歌おう」と始めるのはやや唐突です。子どもたちの興味を自然に誘導するための「文脈作り」が重要になります。
まずおすすめなのは、「世界の音楽を聴いてみよう」という大きなテーマの中にイタリア民謡を位置づける方法です。月間テーマを「世界の国々」に設定している保育園・幼稚園では、イタリアを扱う週にイタリア民謡を紹介すると、食べ物(ピザ・パスタ)や色(イタリア国旗の緑・白・赤)との連携がしやすく、子どもの関心を引き出しやすくなります。
次に、年間計画への組み込み方を考えます。以下のような流れが効果的です。
- 🎵 4〜5月:「サンタルチア」を鑑賞用BGMとして流す(聴き慣れさせる段階)
- 🎵 6〜7月:「フニクリフニクラ」でリズム打ち遊びを導入(体で覚える段階)
- 🎵 9〜11月:「帰れソレントへ」を秋の情操教育に使う(感情を言葉にする段階)
- 🎵 12〜2月:発表会での合唱や器楽合奏に「オー・ソレ・ミオ」を選択(披露する段階)
計画の立て方は「聴く→動く→感じる→表現する」の順が原則です。
この流れを意識すれば、子どもが無理なく音楽と関わりを深めていけます。保育計画に音楽活動を組み込む際は、文部科学省が定めた「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」の中の「豊かな感性と表現」との対応も確認しておくと、保育者間での共有や保護者への説明がスムーズになります。
文部科学省:幼稚園教育要領における「豊かな感性と表現」の解説(参考リンク)
保育計画書に「イタリア民謡を活用した音楽活動」と記載する場合は、ねらいを「異文化への興味・関心を育てる」と「音楽のリズムや旋律に親しむ」の2点に絞ると、評価もしやすくなります。記録に残しておくと後の反省や引き継ぎにも役立ちます。
