本居長世 曲 声楽の魅力と学び方
本居長世 曲 声楽作品の全体像と代表曲
本居長世は「七つの子」「赤い靴」「青い眼の人形」「十五夜お月さん」「めえめえ児山羊」「汽車ぽっぽ」など、多くの童謡で知られています。
一方で、童謡だけでなく「國學院大學校歌」や各種校歌、仏教曲、合唱曲なども手掛け、声楽曲として確認されている作品はおよそ650曲に及ぶと紹介されています。
これらの作品は、独唱曲、児童合唱、同声合唱、混声合唱、男声合唱など声楽編成が非常に幅広く、レッスンや演奏会のレパートリー選定に応用しやすいのが特徴です。
「きしゃぽっぽ」は本居自身の作詞作曲で、箱根の山を駆け上がる汽車のスピード感を、早口で舌がもつれそうな歌詞処理と音型で表現したと伝えられています。
参考)http://www5d.biglobe.ne.jp/~yakata/motoori.htm
また、卒業式の定番として長く親しまれてきた「仰げば尊し」の編曲にも関わっており、学校唱歌の声楽的な響きの整え方に本居のセンスが活かされています。
参考)東京音楽学校出身の作曲家・本居長世。『仰げば尊し』『赤い靴』…
さらに、徳川時代のわらべうたを補正作曲して劇的に構成した童謡劇「移り行く時代」など、舞台作品の一部としての声楽曲も残されている点は、声楽家にとってドラマ性の研究素材となります。
参考)http://htanaka.net/yoshi/warabe/107.htm
知られざる一面として、長世は奥浄瑠璃や琉球歌謡、流行歌、民謡調の歌まで視野に入れて作曲し、今日の日本の大衆音楽の礎の一部を形成したとも評価されています。
この幅広い音楽的関心は、単純な「童謡作曲家」というイメージを超えて、声楽家が「日本歌曲」「大衆歌曲」「芸術歌曲」を横断的に学ぶ際の重要な人物であることを示しています。
その結果、本居長世の作品は、子どもの歌としてだけでなく、舞台上で大人の声楽家が深い表現を追求できる豊かな声楽レパートリーとして再評価されています。
参考)https://www.ne.jp/asahi/sayuri/home/doyobook/doyo00nagayo2.html
歌詞と旋律の関係を見ると、「お山の大将」では一番と二番で歌詞のアクセントが異なる箇所に合わせて旋律を変える手法が用いられており、同様のアプローチは山田耕筰「からたちの花」よりも先駆的だったと指摘されています。
このような日本語アクセントへの繊細な配慮は、「青い眼の人形」など他の童謡にも見られ、声楽家にとっては「ことばのリズムと音楽のリズムの一致」を学ぶ格好の教材です。
参考)https://www.ne.jp/asahi/sayuri/home/doyobook/doyo00nagayo.htm
同時に、長世は西洋和声をよく学んでおり、「青い眼の人形」「俵はごろごろ」「お山の大将」などで特徴的な転調を積極的に用いることで、単調さを避けつつ日本的感性を醸し出しています。
本居長世の代表的な合唱曲としては、「秋のおとずれ」「蟻の行列」「春」「涙の幣」「露」「婆やのお家」「嬉しき日」などが挙げられ、二部合唱から混声四部、男声四部まで多様です。
喜歌劇「死神」からの「ほろ酔いのワルツ」は二重唱として書かれ、童謡とは異なる声楽スタイルを示す作品であり、長世が舞台音楽や軽歌劇の色彩にも関心を持っていたことがうかがえます。
このように、子どもの歌から合唱曲、喜歌劇まで、長世の声楽作品はジャンルとスタイルの幅が大きく、歌い手の学び方次第で多角的な訓練素材となります。
参考)https://www.lib.wakayama-c.ed.jp/nanki/event/minilec/pdf/2019_04_20minilecNo68.pdf
本居長世 曲 声楽家のための日本語アクセントと発声
本居長世は、童謡において詩に日本語のアクセントを付けることに強い関心を持ち、歌詞の自然なイントネーションと旋律の高低を丁寧に一致させたとされています。
この「アクセントの一致」は、単に言葉が聞き取りやすいだけでなく、日本語の情緒を損なわずに音楽的な抑揚を作るという点で、声楽家にとって重要な指針になります。
童謡歌唱における問題点として、クラシック声楽の立場からは、「母音中心の発声が子どもの言葉の細かな子音ニュアンスを曖昧にしてしまう」ことが指摘されることもあり、本居作品を歌う際には、そのバランスが課題になります。
例えば「七つの子」では、「カラスなぜ鳴くの」など、日常語の抑揚がそのまま旋律線に組み込まれているため、声量を追い求めるあまり日本語のアクセントが平板化すると、作品の魅力が損なわれます。
声楽家がレッスンで取り組む際には、まず朗読のアクセントを確認し、それをほとんど変えずに軽く歌う練習を行うことで、ことばの自然さと声楽的響きを両立させやすくなります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/595ad57471217a96690bed9a5073d0d285ee261a
また、母音の長短や撥音、促音など、日本語特有の音価を意識することは、本居の童謡だけでなく、他の日本歌曲や現代作品にも通じるトレーニングとなります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/4387d3337a2eee8e43e4800b81ab6f9dfbe6c5c7
発声面では、子どものために書かれた曲を大人の声楽家が歌う場合、「声のサイズ」をどこまでコントロールするかがポイントです。
ホールでのリサイタルだからといって常にフルボイスで歌うのではなく、室内楽的な響きや語りに近い声色を選ぶことで、童謡の世界観と大人の声の豊かさを両立させることができます。
とくに「十五夜お月さん」など静かな抒情を内包する曲では、過度なビブラートやオペラ的なドラマ性よりも、息の流れと柔らかなレガートが重視される傾向があります。
一方で、「きしゃぽっぽ」のようにリズムが軽快でテンポの速い曲では、発語の明瞭さと舌の俊敏さが求められ、滑舌トレーニングとしても有用です。
長世が娘みどりに対し、舌が回らないくらい早く歌うよう指導したという逸話は、リズム感とことばの機敏さを重視していたことを示す一例でしょう。
声楽家が同曲に取り組む際には、全体を一定のフォルテで押し切るのではなく、車窓の風景が変わるようなダイナミクスと音色の変化を設計することで、舞台映えする表現になります。
さらに、本居の作品は「子ども目線」の歌詞が多いため、歌い手が大人であっても、歌の主体を子どもとして演じることが求められます。
これは、オペラやリートと同様に「語り手の視点」を演技的に組み立てる作業であり、声色、表情、身体の使い方まで含めたトータルな表現力を育てる練習になります。
結果として、本居童謡を丁寧に学ぶことは、日本語発声だけでなく、役作りや解釈力の基礎トレーニングとしても大きな意味を持つと言えるでしょう。
本居長世 曲 声楽的和声と旋法・転調のポイント
本居長世は和声学に精通しており、「青い眼の人形」「俵はごろごろ」「お山の大将」など多くの作品で転調を好んで用いたとされています。
これらの転調は単に技巧的な装飾ではなく、歌詞の内容の変化や感情の高まりに合わせて行われており、声楽家が解釈を深めるための重要な手がかりとなります。
「青い眼の人形」はト長調・四分の四拍子で書かれた小三部形式とされ、A–B–Aの構成により、最初と最後の部分をやや強く、中間部を弱めに歌うと、日本的な旋律感がいきいきと伝わると解説されています。
本居の多くの童謡は、西洋音階を用いながらも「日本旋法」の感覚を保っていると指摘されており、旋律線には民謡風の節回しがしばしば現れます。
これは、奥浄瑠璃や邦楽、在来の俗謡の研究・改良に取り組んだ長世の背景と密接に関係しており、声楽家にとっては「西洋式の声」で歌いつつも、日本的な音感を失わないバランス感覚が求められます。
具体的には、導音の鋭い緊張感を強調しすぎず、終止音でのわずかな「たゆみ」や、節の折れ目での間合いを大切にすることで、日本旋法的な味わいが生まれます。
転調の扱いに関しては、「お山の大将」が先駆的な例としてしばしば取り上げられ、一番と二番で歌詞のアクセントに応じて旋律と調性が変わることで、同じメロディに単調感が出ないよう工夫されています。
山田耕筰の「からたちの花」のように、後年の日本歌曲で同様の手法が広まる以前に、この歌詞と調性の連動が試みられていた点は、声楽家にとって興味深い歴史的背景です。
演奏の際には、転調の箇所を単なる音の移動として捉えるのではなく、「歌詞の情景が変わる瞬間」「主人公の心の色が変化する瞬間」として意識することで、表現に立体感が出てきます。
合唱作品に目を向けると、「秋のおとずれ」「春」などでは、比較的素朴な和声進行の中に、要所で印象的な非和声音や和声のすり替えが用いられ、響きの変化で季節感や情緒を描いています。
男声四部の「婆やのお家」や「涙の幣」などでは、声部の重なり方と和声密度が増し、童謡とはまた異なる重厚な声楽世界が展開されるため、合唱団のプログラムにも独自の彩りを与えます。
声楽家がソロとしてこれらの一部を抜粋して歌う場合であっても、本来の合唱和声を頭の中でイメージしながら歌うと、音色やフレージングのイメージが豊かになり、説得力のある演奏につながります。
本居の和声処理は、当時の東京音楽学校での西洋音楽教育を背景にしつつ、邦楽や民謡の響きを折衷した独自のスタイルであると評価されています。
紀州徳川家との関わりの中で、ピアノや和声を教えた経験もあり、宮廷的な品格と民衆的な歌謡感覚が共存している点は、声楽家が解釈するときの大きなヒントとなるでしょう。
したがって、長世作品を学ぶ際には、単なる「やさしい曲」「子どもの曲」としてではなく、和声・旋法・転調の観点からもしっかりと分析し、自身のレパートリー全体のなかで位置づけていくことが重要です。
本居長世 曲 声楽レッスンでの導入と教材としての活用
声楽レッスンにおいて、本居長世の作品は「子どもの歌」であると同時に、「日本語の発音・フレージングを学ぶ教材」として非常に優れています。
とくに初級〜中級の学習者にとって、「七つの子」「十五夜お月さん」「めえめえ児山羊」などは音域・音型が無理なく、歌詞も親しみやすいため、発声と日本語の整理を同時に行うことができます。
一方で、上級の声楽家にとっても、これらの曲を「どこまで繊細に歌えるか」を追求することで、細やかな音楽性や声のコントロールを磨く高度なトレーニングとなります。
レッスンでの具体的な活用方法としては、以下のようなステップが考えられます。
- 朗読からはじめ、アクセントと意味の流れを確認する。
- 歌詞を話し言葉に近い抑揚でリズム読みし、母音と子音の位置を整理する。
- 小さな声で旋律に乗せ、ことばが崩れない発声ポイントを探す。
- 最後に、表現したい感情や情景を明確にし、ダイナミクスとフレージングを設計する。
童謡歌手第1号とされる長女みどりが、「十五夜お月さん」などをオーケストラ伴奏で歌った事例は、童謡が単なる教育用の歌ではなく、芸術的な声楽作品としても通用することを示しています。
このエピソードを手がかりに、現代の声楽家もピアノだけでなくアンサンブル編成やアレンジ版で長世の作品を取り上げることで、童謡レパートリーに新しい光を当てることができます。
また、学校唱歌としての側面を活かし、合唱団の基礎練習や発声練習として本居の合唱曲を活用することで、言葉の明瞭さとハーモニー形成の両方を鍛えることが可能です。
意外な活用法として、現代の歌唱合成研究では「かたつむり」など日本の童謡が大量の歌声データに用いられており、日本語のアクセント・音素配列を学習させる素材となっています。
これらの研究は直接本居長世作品を扱っているわけではないものの、「日本語童謡が発声・音声研究の基盤として重要である」ことを示しており、本居の童謡も同様に、発声科学の観点から再評価されうるでしょう。
声楽家にとっても、こうした研究動向を知ることで、「童謡=子どもの簡単な歌」というイメージを超え、音声科学・言語学的にも意味のあるレパートリーとして主体的に取り組む動機づけになります。
さらに、童謡・唱歌を体系的に整理した事典的なサイトでは、本居長世の作品ごとに成立事情や歌詞、旋律上の工夫などが丁寧に解説されており、レッスン前の予備知識として大きな助けとなります。
こうした資料をもとに、レッスンで学ぶ曲の「背景ストーリー」を共有すると、学習者の理解度と集中力が高まり、単なる音取り練習に終わらない深い学びにつながります。
その意味で、本居長世の作品群は、声楽教育の初期段階から専門レベルまで、縦断的に使える「日本語声楽教育の軸」となり得る存在と言えるでしょう。
本居長世 曲 声楽家視点のレパートリー選びとプログラム構成
声楽家が本居長世の曲をリサイタルや発表会で取り上げる際には、「童謡だけのコーナー」としてまとめるよりも、他の日本歌曲や民謡編曲、さらには世界の子どもの歌と組み合わせてプログラムを構成すると、聴き手にとっても新鮮な体験になります。
例えば、前半をドイツ・リートやフランス歌曲、後半を「日本の子どもの歌とその周辺」と題して、本居長世・山田耕筰・中山晋平などの作品を並べる構成は、レパートリーの歴史的背景や文化的対比を自然に浮かび上がらせます。
このとき、本居作品を一曲だけ添えるのではなく、「七つの子」「十五夜お月さん」「青い眼の人形」を一連の小組曲として演奏するなど、テーマ性を持ったまとまりとして提示すると、作曲家像がより立体的に伝わります。
合唱コンサートでは、「日本の童謡を合唱で歌う」というテーマのもと、本居の合唱曲と童謡の合唱編曲を組み合わせることで、子どもから大人まで参加できるステージづくりが可能です。
とくに「秋のおとずれ」「春」など季節感のある曲は、学校や地域合唱団の定期演奏会で取り上げやすく、プログラム全体の流れの中で「季節の章」として配置することができます。
また、男声合唱団や女声合唱団が本居作品を取り上げることで、普段は洋楽中心のレパートリーに日本語の響きを取り入れ、新しい表現の可能性を探るきっかけにもなります。
独自視点として、本居長世の童謡を「朗読と歌の二重構造」で上演するアイデアがあります。
一人が詩を朗読し、もう一人が同じテキストを歌うことで、日本語アクセントと旋律の関係を聴き手に可視化し、作曲家の言語感覚を浮き彫りにすることができます。
この形式は、小規模なサロンコンサートやレクチャーコンサートに適しており、声楽家自身が作品解説を交えながら演奏することで、教育的効果と芸術的満足度を両立させることができるでしょう。
さらに、長世が関わった「仰げば尊し」や卒業ソングをテーマにしたプログラムを組み、「別れ」「旅立ち」をキーワードに日本と西洋の歌曲を並べると、観客にとっても感情移入しやすいステージになります。
そこに「青い眼の人形」や「赤い靴」など、近代日本の国際化や子どもの視点を扱った童謡を挟むことで、歴史的な背景や社会的なメッセージを静かに示すことも可能です。
このように、本居長世の曲は単独で完結するだけでなく、プログラム全体のストーリーづくりにおいても重要なピースとなり得るレパートリーと言えます。
最後に、楽譜の入手については、本居長世作品選集(歌曲・合唱曲・仏教曲・御製御歌)などの楽譜集や、図書館・資料館での閲覧を活用すると、単発ではない体系的なレパートリー研究が行えます。
参考)CiNii 図書 – 本居長世作品選集 : 歌曲・合唱曲・仏…
インターネット上の歌詞データベースや童謡事典サイトでも、多くの本居作品の歌詞・解説が公開されているため、まずはそこから代表曲を選び、レッスンや自主練習に取り入れるとよいでしょう。
声楽家として本居長世の世界に踏み込むことは、日本語で歌う意味そのものを深く考える貴重な機会となり、今後のレパートリー選びにも長期的な影響を与えてくれるはずです。
本居長世の人と作品の概観や代表曲、合唱作品、作品数などの情報源として有用です(作曲家像とレパートリー全体像を知る際の参考)。
本居長世の代表的な童謡の成立背景や歌詞、旋律の特徴について詳しい解説があり、個別曲の解釈やレッスン準備に役立ちます。
本居長世の経歴や代表作一覧、童謡歌手としての長女みどりの活動など、基本的な人物像を押さえる際に便利です。


