ワールドミュージック 日本 声楽 伝統と表現の可能性

ワールドミュージック 日本 声楽の学び方

ワールドミュージックと日本声楽の入口
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ワールドミュージックとは何か

土着の音楽や民族音楽を含む「ワールドミュージック」という概念を、日本の声楽学習にどう結びつけるかを概観します。

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日本の伝統音楽と声のスタイル

雅楽・邦楽・詩吟など、日本の声の伝統をワールドミュージックの一部として捉え直し、発声のヒントを整理します。

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声楽レッスンに応用する視点

世界各地の歌のリズム・母音・装飾を、クラシック声楽や合唱の練習に応用する具体的な方法を示します。

ワールドミュージック 日本 声楽の基本的な考え方

 

ワールドミュージックという言葉は、欧米のポップスやクラシック以外の「世界各地の在地音楽」をまとめて呼ぶために広まった、とてもざっくりした分類です。

日本では、アフリカや中南米、中東、アジアの民俗音楽だけでなく、日本の演歌や民謡まで「ワールドミュージックの一部」として捉え直す論考もあります。

声楽を学ぶ人にとって重要なのは、「ワールドミュージック=特殊な音楽」ではなく、「声とリズムの使い方が違う多様な歌い方の宝庫」として扱う視点です。

ワールドミュージックの現場では、「地元の音楽」であることが当たり前であり、外からのジャンル名はあくまでマーケット側のラベルに過ぎないという指摘もあります。

参考)第4回 「音盤=音楽」からこぼれてしまうもの | 北島三郎論…

この距離感を理解しておくと、他文化の音楽を学ぶときに「珍しいものとして消費する」のではなく、「その土地の言葉や生活から生まれた声の使い方を学ぶ」という姿勢に自然と変わっていきます。

参考)ワールドミュージックはなにが面白いのか – nomolkのブ…

声楽家にとっては、音域や音量よりも、言語・拍子・装飾の違いをどう自分の身体で再現するかが、ワールドミュージックに取り組むときの本当のテーマになります。

参考)https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/16739/files/bg020005.pdf

ワールドミュージック 日本 声楽と日本の伝統的な声

日本の伝統音楽は、広い意味で「日本のワールドミュージック」とも言える存在で、邦楽・雅楽・声明・民謡など、声を中心にしたジャンルも多彩です。

雅楽では、器楽と舞に加えて「歌物」と呼ばれる声楽的レパートリーがあり、千年以上ほぼスタイルを変えずに伝承されてきたとされます。

日本語のイントネーションに沿って作られた近代唱歌や童謡も、言葉の抑揚と旋律が密接に結びついており、日本語の声楽表現を考えるうえで重要な素材です。

一方で、日本には詩吟(詩を朗誦する「詩吟/吟詠」=shigin)という独特の声の文化があり、武士階級に広まった歴史を持ちます。

参考)The Japanese Shigin Vocal Trad…

詩吟は、漢詩や和歌を節をつけて吟じるもので、強いビブラートや独特のポルタメント、語尾の伸ばし方など、クラシック声楽とは違う「声の装飾」の宝庫です。

現代では、詩吟の響きを電子音響と組み合わせる試みもあり、日本の声の伝統がワールドミュージック的な実験の素材にもなっています。

声楽家にとって意外なヒントになるのは、日本語の音節構造の変遷が、仏教の声楽譜(声明)からも読み取れるという研究です。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/8c879cfb4cb4d8d05daa0e26f16737fd73d4e89b

後位モーラ(小さい「ツ」や長音など)が独立した拍として扱われるようになった過程は、日本語のリズム感や歌詞の区切り方を理解するうえで重要な示唆を与えます。

ドイツ歌曲やイタリア歌曲を歌うときにも、「日本語のモーラ感覚をどう使うか/外すか」を自覚しているかどうかで、リズムの揺れやフレーズ感に大きな違いが出てきます。

ワールドミュージック 日本 声楽と世界の声のスタイル

ワールドミュージックという視点で見ると、日本の声楽家が参考にできる声のスタイルは、世界各地に広がっています。

例えば、中南米のフォルクローレやクンビア、カリブ海地域のズーク、アフリカ北部のグナワなど、それぞれが独自のリズムと発声を持ち、「地元のダンスや言語と一体化した声」として存在しています。

東京音楽鑑賞協会が企画する「ワールドミュージック/民族音楽」コンサートでも、アンデスのフォルクローレや竹を素材にした創作楽器による民族音楽など、さまざまな声と楽器の組み合わせが紹介されています。

声楽家がこれらを聴くときは、次のポイントに注目すると学びが増えます。

参考)ワールドミュージック / 東京音楽鑑賞協会 / 会館自主事業

  • 言語のアクセントとリズム(どこに重心が置かれているか)。
  • 胸・頭・鼻腔など、共鳴の支点がどこにあるように聞こえるか。
  • ビブラートや装飾音の頻度と位置(常にかけるのか、要所だけなのか)。
  • マイクの有無と距離感(生声なのか、音響込みの設計なのか)。

こうした観察を通して、自分がふだん学んでいるオペラや芸術歌曲だけでなく、「もっと素朴で生活に近い声」「身体に密着した声」の持ち味を取り入れられるようになります。

また、日本の伝統音楽西洋音楽の融合の試みとして、武満徹の《ノヴェンバー・ステップス》のように、琵琶や尺八とオーケストラを組み合わせる作品がよく知られています。

参考)https://periodicos.ufmg.br/index.php/permusi/article/download/36944/29457

ここでは、西洋的な和声と日本の伝統楽器・音階が「対立する力」として扱われており、同じステージの上で異なる音楽文化が並び立つ構図が意識的に作られています。

声楽家にとっても、「日本語の歌」「外国語の歌」「マイクを使う歌」が一つのリサイタルに共存するプログラムを組むときに、このような“対立と共存”の構図をヒントにできるでしょう。

参考)The History of Japanese Tradit…

ワールドミュージック 日本 声楽レッスンへの具体的な応用

ワールドミュージック的な発想を声楽レッスンに取り入れるとき、いきなり異文化の歌を完コピするよりも、「既に自分が歌っているレパートリーを世界の文脈に置き直す」ことから始めるとスムーズです。

例えば、日本語歌曲や唱歌を「日本のワールドミュージック」と見立て、以下のような観点で練習してみると、表現の幅が広がります。

  • 日本語の母音の長さと子音の位置を意識し、詩吟や民謡の録音と聞き比べる。
  • 雅楽や民謡の旋律の“揺れ”(ポルタメント)を、オペラアリアの装飾と比較する。
  • 息の使い方を、朗読・詩吟・歌唱でどう変えているかを自録音で確認する。

こうした練習は、日本語の発声を「クラシックの発声に合わせる」だけでなく、「日本語の自然なリズムと響きを活かしつつクラシックの技術と共存させる」ための土台になります。

さらに、近年の日本語歌唱の研究やデータベースも、ワールドミュージック的な視点で活用できます。

参考)http://arxiv.org/pdf/2001.07044.pdf

日本語歌唱コーパス「PJS」や、複数話者の歌声を集めた「JVS-MuSiC」などのデータセットでは、日本語の歌声が精密に記録・分析されており、音節の長さや音程変化、ビブラートの傾向などが機械的に扱える形で整理されています。

J-POPソロ歌手の歌唱技法を解析した研究では、フェイク、ブレス、しゃくりなどのテクニックがどの程度出現するかが定量的に示されており、クラシック声楽との違いを客観的に把握する手がかりになります。

参考)Redirecting…

声楽の個人練習にこれを応用するなら、次のようなステップが考えられます。

  • 自分の歌唱を短く録音し、ビブラートやポルタメントの位置を簡単にメモする。
  • 民族音楽やJ-POPの録音を同じフレーズ長で切り出し、装飾の頻度や息継ぎの位置を比較する。
  • 「意図的に装飾を増やす版」と「限りなくそぎ落とした版」の2種類を歌い分けてみる。

このように、ワールドミュージックを「採譜と分析の素材」として扱うことで、耳や感性だけに頼らない学び方が可能になります。

ワールドミュージック 日本 声楽とジャポニスム的な視点(独自の切り口)

あまり語られない観点として、「日本が他国からどう“ワールドミュージック”として見られてきたか」という逆方向の視点があります。

19世紀以降、欧米では日本を題材にした小品がシートミュージックとして出版され、日本のイメージが音楽的に消費されましたが、その多くは日本の実際の音楽文化とはかなり距離のある、想像上の「ジャポニスム音楽」でした。

京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターと国際日本文化研究センターによるイベント「お話と演奏 耳で感じるジャポニスム」では、こうした“耳で見る日本像”が演奏とともに紹介されています。

声楽家にとって、この歴史は「自分が今、他国の音楽をどうイメージで消費していないか」を振り返る鏡にもなります。

日本の歌が西洋から見て“エキゾチック”にデフォルメされたように、自分が歌う民族音楽も、もしかすると現地の感覚からはズレた「観光用のイメージ音楽」になっているかもしれません。

だからこそ、現地の研究者や演奏家の解説、日本語で読める民族音楽研究の論文などに目を通し、音楽が生まれた社会や歴史、宗教的背景まで含めて理解しようとする姿勢が、声楽家にとってのリスペクトの形になります。

また、文化研究の立場からは、「ワールドミュージック」の市場や研究動向そのものを批判的に整理した論文も出ています。

このような文献に触れると、「自分の歌の選曲やプログラミングが、どんな文化的意味を帯びてしまうのか」を一段深いレベルで考えられるようになり、単なる“おしゃれな異文化メドレー”から抜け出した企画ができるようになります。

結果的に、レパートリー選びやMCでの言葉が変わり、聴き手にとっても「異国情緒」だけでなく、「文化と声の関係まで一緒に味わえる時間」へとコンサート体験を育てていけるでしょう。

参考)日本伝統音楽研究センター × 国際日本文化研究センター「お話…

日本の伝統音楽の歴史やジャンルごとの特徴を、日本語と英語の両方で整理している解説記事です(日本の音楽を“自国のワールドミュージック”として俯瞰したいときに役立つ資料)。

The History of Japanese Traditional Music

「ワールド・ミュージック」という概念そのものの研究動向と問題点をまとめた論文です(ジャンル名の背景を理解し、批判的な視点を持つための基礎資料)。

ワールド・ミュージック研究の動向と展望

日本の伝統的な声のスタイルとしての詩吟と、その現代的な展開を紹介する記事です(日本の声楽とワールドミュージックの架け橋としての詩吟に関心があるときの参考)。

The Japanese Shigin Vocal Tradition—and Electronics

Various Artists – Music Of The British Invasion