夜想曲の意味とノクターンの語源・歴史を知る
ショパンの夜想曲を「子どものお昼寝BGMにしている」という保育士さんは少なくありません。でも実は、ショパンの夜想曲を大音量でかけると、逆に子どもが眠れなくなる曲が21曲中に複数含まれています。
夜想曲の意味:「夜を想う曲」という美しい日本語訳
夜想曲という言葉を初めて目にしたとき、読み方すら迷った方もいるかもしれません。「やそうきょく」と読み、英語・フランス語では「ノクターン(Nocturne)」、イタリア語では「ノットゥルノ(Notturno)」と呼びます。
語源はラテン語の「nocturnus(ノクトゥルヌス)」にあります。これは「夜の」「夜に属する」という意味を持つ形容詞で、英語の「nocturnal(夜行性の)」と同じ語源です。日本語訳の「夜想曲」は、「夜を想う音楽」という意味合いをそのまま漢字に落とし込んだもの。明治から昭和初期の翻訳語には難解なものも多いなか、この訳語は字面の美しさと意味の正確さを兼ね備えた、珍しく秀逸な一例と言われています。
音楽ジャンルとしての夜想曲は、「静かな夜の気分を表現した楽曲」という定義が基本です。ポイントは、厳格な形式ルールがないこと。ソナタ形式のように「必ずこの構成で書く」という縛りがなく、作曲家が夜に感じる感情を自由に音楽へ落とし込んでいいとされています。
夜想曲が基本です。その自由さこそが、19世紀ロマン派の作曲家たちを魅了し、多くの名曲が生まれた理由のひとつです。
コトバンクでは夜想曲について「夜の曲を意味し、ロマン派時代に作られたピアノのための小曲が多い」と定義しており、音楽的なジャンルの定義として参考になります。
コトバンク「夜想曲(ヤソウキョク)」の定義・意味の解説ページ
夜想曲の語源:ノクターンはイギリス発祥だった
「夜想曲といえばショパン」というのは、多くの人が持っているイメージです。しかし実は、ノクターンというジャンルを最初に生み出したのはショパンではありません。これは音楽史においてよく知られた事実ですが、一般的にはあまり広まっていない情報です。
創始者はアイルランド生まれでイギリス育ちのピアニスト兼作曲家、ジョン・フィールド(1782〜1837)です。ショパンより28歳年上のフィールドは、当時産業革命の最中にあったイギリスで活躍していました。新型ピアノの製造が盛んになった時代に、ピアノ製作者のクレメンティとともにヨーロッパ各地でデモ演奏をして回ったフィールドは、その新型ピアノが持つ「きれいな弱音」と「なめらかなレガート」の能力を最大限に活かした曲として、静かで叙情的なピアノ曲にノクターンという名を冠しました。
フィールドが1812年頃に作り始めたノクターンは、それまでの格式ばった音楽とは一線を画す親密さと自由さを持っており、ヨーロッパ各地でヒットしました。その影響を色濃く受けたショパンが、フィールドのスタイルを受け継ぎながらも独自に発展させて21曲を作曲したことで、ノクターンは広く世界に知られるジャンルになったのです。
意外ですね。「元祖」がいたという事実を知ると、音楽史の見え方が少し変わります。
夜想曲の語源と歴史的背景については、ONTOMOの記事が詳しく解説しています。
夜想曲の特徴:分散和音・ルバート・ベル・カントの3要素
夜想曲の「あの独特の雰囲気」はどこから来るのでしょうか?音楽的な構造を少し知るだけで、聴き方がぐっと変わります。
まず左手のパートに注目してください。夜想曲の多くでは、和音を一音ずつバラバラにして弾く「分散和音(アルペジオ)」が多用されます。低音から高音へと波のように広がるこの伴奏が、夜想曲特有の「漂うような浮遊感」を生み出す土台です。伴奏の音域の広さは、コンサートグランドピアノの低音から高音まで約7オクターブ(約88鍵)を縦横に使うことでもたらされる、豊かな音の広がりです。
次に右手のメロディは、イタリアのオペラ歌手が使う「ベル・カント唱法」をモデルにしています。つまり、ピアノで歌っているのです。一音一音に呼吸のような強弱をつけ、まるで人間が語りかけるように旋律が動きます。装飾音が多用されているのも、感情の細かいニュアンスを表現するためです。
そして「ルバート(rubato)」。これはイタリア語で「盗まれた時間」という意味で、演奏者がテンポを自由に揺らす奏法です。楽譜通りに一定のテンポで弾くのではなく、感情に合わせて少し溜めたり、流したりする。この揺らぎこそが、夜想曲を聴いたときに感じる「人間の息遣い」の正体です。
つまり夜想曲の独自性は、分散和音・ベル・カント・ルバートの3つが組み合わさった構造にあります。
ショパンの夜想曲21曲:遺作を含む多彩な感情表現
ショパン(1810〜1849)が生涯に作曲した夜想曲は全部で21曲です。そのうち18曲は生前に作品番号をつけて出版され、残りの3曲は遺作として後から発表されました。
21曲といえば、ピアノで1曲ずつ弾き続けたとして約2時間にもなる量です。それだけの数を一つのジャンルに注ぎ込んだショパンにとって、夜想曲がいかに重要な表現手段であったかがわかります。
よく知られているのは「第2番 変ホ長調 作品9-2」で、ショパンのノクターンの中では最も有名な曲のひとつです。穏やかで甘美なメロディと、繊細な装飾音が特徴的で、聴いたことがある方も多いでしょう。一方、第13番(作品48-1)は一転して壮大でドラマチックな展開を見せ、「嵐のノクターン」と呼ばれることもあります。
これが条件です。夜想曲のすべてが静かで穏やかというわけではなく、激しい感情の爆発を含む曲も存在します。
また、遺作として知られる「第20番 嬰ハ短調(遺作)」は、映画『戦場のピアニスト』でも使用されたことで一気に有名になりました。ショパンが生前に出版しなかった曲が映画によって広く知られるようになるというのも、音楽の歴史の興味深い側面です。
ショパンの夜想曲全曲の作品解説・難易度については以下のページが詳しくまとめられています。
chopinist.net「ショパン・ノクターン(夜想曲)全21曲:作品解説・難易度・演奏リスト」
夜想曲と保育:子どもの入眠・情緒安定への応用と選曲の注意点【独自視点】
保育の現場では、お昼寝の時間に音楽を流すことがあります。そのとき「ショパンのノクターンでいいか」と何となく選んでいると、じつは逆効果になることがあります。これは知っておくと保育士として大きく得をするポイントです。
ショパンの夜想曲21曲には、リラックスに最適な穏やかな曲から、中間部で突然嵐のように盛り上がる曲まで幅広く含まれています。たとえば第13番(作品48-1)は、静かな出だしから始まるものの、曲の途中で力強くドラマチックな展開を見せます。子どもが浅い眠りについた頃にこのような曲がかかると、せっかく落ちかけていた眠りが妨げられる可能性があります。
お昼寝のBGMに適した夜想曲を選ぶ場合は、次の3点を基準にするとよいでしょう。
- 🎵 テンポが一定かつ遅め(♩=50〜70程度)であること:心拍数が落ち着き、眠りに入りやすくなります。
- 🔈 強弱の変化が少なく、中間部でも大きな盛り上がりがないこと:眠りを妨げる急な音量変化を避けます。
- 🎼 演奏者の解釈がシンプルで、ルバートが控えめな録音を選ぶこと:ルバートの揺らぎが大きい演奏は、脳が音楽を追いかけすぎて覚醒状態を維持してしまうことがあります。
具体的なおすすめ曲としては、第2番(作品9-2)の穏やかな部分や、第5番(作品15-2)、あるいはジョン・フィールドのノクターン第5番(変ロ長調)などが比較的安定した曲調で入眠BGMに向いています。
また、音楽療法士の監修によるお昼寝用クラシック音楽CDも市販されており、選曲の参考になります。専門家が子どもの睡眠リズムを考慮して選んだ曲目は、保育現場での実用性が高いです。
これは使えそうです。音楽の知識を保育の実践に活かす視点は、現場の質を上げてくれます。
子どもの睡眠とお昼寝の効果については、科学的な根拠もあります。幼児期のお昼寝は脳の発達に寄与し、記憶の定着や感情の調整を助けるとされており、質の高い入眠を促す環境づくりは保育士の大切な役割のひとつです。BGM選びも、その環境づくりの一部として捉えることができます。
子どもの睡眠とお昼寝の必要性・効果については以下が参考になります。


