つながりの歌森の奥で育つ子どもの言葉と心

つながりの歌・森の奥を保育で活かす全知識

「もりのおく」を歌うだけでは、子どもの語彙力はほとんど伸びない。

この記事でわかること
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「つながりの歌 森の奥」の歌詞としりとり構造

作詞・作曲の背景から歌詞のしりとり連結のしくみまでを丁寧に解説。保育士として知っておくべき基礎知識をまとめます。

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子どもの言語発達への教育効果

しりとり歌が4〜5歳の言語発達にどう作用するか、語彙力・音韻意識・記憶力との関係を研究知見をもとに解説します。

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保育士がすぐ使える実践アイデア

歌を「ただ歌うだけ」で終わらせない活用法。年齢別の展開方法や、絵カード・言葉遊びとの連動アイデアを紹介します。

「つながりの歌 森の奥」の歌詞と作品背景

 

「つながりうた もりのおく」は、NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』の2005年度コーナーとして登場した楽曲です。作詞は番組総合監修の佐藤雅彦と内野真澄、作曲・歌は桜井秀俊が担当しています。2010年8月18日に発売されたアルバム「ピタゴラスイッチ うたのCD」(規格品番:WPCL-10836)に正式収録されており、現在もSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで聴くことができます。

この曲で最も注目すべきポイントは、歌詞がすべてしりとりでつながっている点です。

歌詞の全文は以下のようになっています。

歌詞フレーズ しりとりのつながり
もりのおく →「く」でスタート
まのおやこ →「こ」へ
とりのうた →「た」へ
にまをわたり →「り」へ
すのすあな →「な」へ
かよしきょうだい →「い」へ
ちに、さんびき →「き」へ
つつき きをつつく →「く」へ
まのおやこ こみちをゆく →「く」へ
さのかげに にひきのへび →「び」へ
っくり →「り」へ
りのきょうだい →「い」へ
わしぐも →「も」へ
りのおく くまのおやこ こやにとうちゃく →「く」へ
まのかあさん さんじのおやつ つくる →「る」へ
すばんこりす すやすやねむる (終止)

「もりのおく」という言葉自体が出発点になり、「く→こ→た→り→な→い→き→く→く→び→り→い→も→く→る→る」という連鎖で最後まで歌詞がつながっています。つまり16フレーズすべてがしりとり形式です。

単純な歌詞に見えて、実は精巧な言語構造が組み込まれているということですね。保育士として歌の背景を知っておくと、子どもへの伝え方がぐっと深くなります。

『ピタゴラスイッチ』は2002年4月の放送開始から現在まで20年以上続く長寿番組です。日本賞(教育番組の国際的コンテスト)で総務大臣賞を受賞し、フランスのプリ・ジュネスでも2004年・2018年と2度の最優秀賞を獲得した、国際的にも評価の高い教育番組です。「もりのおく」はその中でも、子どもが自然と言葉のつながりに気づける仕掛けとして設計された楽曲の一つです。

ピタゴラスイッチの公式情報や楽曲背景については以下のページが参考になります。

NHK公式 ピタゴラスイッチ

つながりの歌・森の奥が育てる子どもの言語発達

「もりのおく」が保育現場にとって価値ある楽曲である理由は、歌詞の構造が子どもの言語発達の段階とぴったり合っているからです。大切なのは3つの観点です。

まず、音韻意識の発達です。音韻意識とは「言葉を音のまとまりとして意識する力」のことで、読み書き習得の土台になることが多くの研究で確認されています。「もりのおく」の歌詞では、ある単語の最後の音が次の単語の最初の音になる構造が繰り返されます。「くまのおやこ」の「こ」が「ことりのうた」の「こ」へとつながる。この体験が繰り返されることで、子どもは「言葉には最初と最後の音がある」という概念を、楽しみながら体で覚えていきます。これは音韻意識が基本です。

次に、語彙力の拡充です。「もりのおく」の歌詞には、日常生活ではあまり使わない言葉が自然に組み込まれています。「たにま(谷間)」「いわしぐも(鰯雲)」「こやにとうちゃく(小屋に到着)」などは、3〜5歳の子どもには新鮮な語彙です。J-Stageの研究(しりとりを通してみた幼児の言語発達)によると、しりとりの通過率(ルール理解)は5歳で約47.2%、6歳半で約93.2%とされています。一方で「歌のしりとり」は単純なルールゲームよりも早い段階から楽しめるため、歌詞を通じた語彙の蓄積は3歳前後からでも十分期待できます。

3つ目は、記憶力・注意力の育成です。「もりのおく」は約2分弱の楽曲ですが、16フレーズをすべてつなぎ合わせて歌うためには、前の言葉を覚えながら次の言葉を予測するというワーキングメモリが働きます。歌詞を繰り返し歌うほど、子どもたちは「次は何の音から始まるか」を自然に意識するようになります。これは集中力アップにもつながります。

4歳の平均語彙数は1,000〜1,500語前後とされています(AMOMA参考)。保育士が意図的にこの歌を活用することで、「たにま」「りす」「きつつき」「いわしぐも」といった語彙を楽しく追加できます。たとえば6語を歌から覚えれば、その子の語彙リストに0.4〜0.6%の上乗せになる計算です。小さく見えても、積み重ねると大きな差になります。これが積み重ねの力です。

保育士が知らない「もりのおく」しりとり構造の秘密

多くの保育士は「もりのおく」を「歌詞がしりとりになっている面白い歌」と大まかに理解しています。しかし歌詞の構造を細かく見ていくと、子どもの認知発達の観点から非常に巧みな設計が施されていることがわかります。

まず注目すべきは「くまのおやこ」が歌詞の中に3回登場することです。最初は「もりのおく くまのおやこ」と場面の提示として、次に「くまのおやこ こみちをゆく」と物語の進行として、最後に「もりのおく くまのおやこ こやにとうちゃく」と帰着の場面として登場します。繰り返しの中で物語が進んでいく構造は、子どもが物語のリズムを感じやすくする仕掛けです。

さらに、「びっくり」という感情語が中間部に置かれています。蛇に出会って「びっくり」する場面は、子どもが感情移入しやすい一場面です。単なるしりとりの連続に感情の起伏が加わることで、子どもが飽きずに最後まで歌い続けられます。

「るすばんこりす すやすやねむる」という締めくくりも意味深です。お母さんぐまが小屋に帰ってきたとき、留守番のリスが安心して眠っている。この場面は、保育園での「おひるね」と重なるイメージを子どもに与えます。保育の日常と歌のストーリーが重なる点が、この歌が保育現場でなじみやすい理由の一つです。

歌詞は短い話し言葉の連続ですが、実は完全なストーリーが込められているということですね。物語の導入・展開・結末が2分以内にすっきりとまとまっています。

保育士として歌詞の構造を理解しておくと、歌った後に「くまの家族はどこから帰ってきたのかな?」「りすくんは何で寝てたんだろう?」といった問いかけが自然にできるようになります。これが子どもの思考力を引き出す保育につながります。

「もりのおく」楽譜・収録アルバム情報(Piascore)

年齢別・「もりのおく」の保育活用アイデア

「もりのおく」を保育で活かすには、子どもの年齢と発達段階に合わせたアプローチが必要です。同じ歌でも、使い方を変えるだけで3歳から5歳まで幅広く活用できます。

3歳クラス:まずは「聴いて・歌う」から始める

3歳児は話し言葉の基礎が整ってくる時期で、言葉への興味が急速に高まります。この段階では「ルールを教える」より「歌のリズムを楽しむ」ことを優先します。保育士が楽しそうに歌うだけで、子どもたちは自然と口ずさみ始めます。メロディが優しく繰り返し構造があるため、3歳児でも2〜3回聴けば「くまのおやこ」の部分は一緒に歌えるようになります。歌詞に出てくる「きつつき」「りす」「いわしぐも」を絵カードにして見せながら歌うと、語彙と映像がセットで記憶されます。

4歳クラス:「最後の音」に気づかせる言葉遊びへ

4歳になると語彙数が1,500語前後に増え、ルールゲームを楽しめるようになります。歌を歌い終えた後に「くまのおやこ、最後の音は何だっけ?」と問いかけてみましょう。「こ!」と気づいた子どもに「そうだね、『こ』から始まる言葉、他にある?」と広げると、自然なしりとりゲームへ発展します。4歳クラスでのしりとりゲームはルールを理解してきた頃の良い練習になります。1グループ3〜4人で輪になり、「もりのおく」の歌詞を1フレーズずつ担当して歌う分担式にすると、チームで達成する喜びも育まれます。これは使えそうです。

5歳クラス:歌詞を「絵地図」に描き起こす活動

5歳になると「もりのおく」の歌詞を聴きながら、物語の場面をイメージして絵に描ける子どもが増えてきます。「谷間→リスの巣穴→木をつつくキツツキ→くまの家族の小道→草陰の蛇→栗の木→いわし雲→小屋」という流れを、大きな紙に「森の地図」として絵で表現する活動は、物語理解と空間認識を同時に育てます。グループで1枚の大きな地図を完成させる共同制作にすると、協力する力も自然に育まれます。完成した地図を保育室に貼り、歌を歌いながら「今どこにいる?」と指で追う活動は、その後の地図読みや文章理解の下地にもなります。

年齢に合わせた使い方が大切なのですが、共通しているのは「歌を聴く・歌う・考える」という3段階の流れを意識することです。保育士が「ただ歌うだけ」から1歩踏み込むだけで、子どもたちの経験の質が大きく変わります。

保育で使える歌・手遊びの実践情報(ほいくis)

「もりのおく」と他の活動をつなぐ独自の展開アイデア

「もりのおく」の魅力は、歌単体で完結しないことです。歌詞に登場する動物・自然・情景を入口として、保育のさまざまな活動へとつなぐことができます。ここでは他の保育ブログや書籍にはあまり紹介されていない、現場でそのまま使えるアイデアを紹介します。

「いわしぐも」から始まる自然観察活動

「もりのおく」の歌詞に「いわしぐも」が登場します。これは秋の空に見られる鱗状の雲で、正式名称は「巻積雲(けんせきうん)」といいます。高度約6,000〜12,000メートルに形成され、気象の変わり目に現れることが多い雲です。保育園の散歩の際に「今日の空、いわしぐもかな?」と声をかけるだけで、子どもたちが空を見上げる習慣が生まれます。秋の天気の良い日に歌を歌いながら空を観察するという活動は、歌→自然→言葉という三つのつながりを同時に体験させる保育の好例です。これは季節感のある保育活動ともつながります。

しりとり絵本と「もりのおく」の組み合わせ

「もりのおく」と組み合わせやすい絵本として、西内ミナミ作『ことばあそびうた』(福音館書店)や『しりとりのしりとりちゃん』などがあります。歌→絵本→自分たちでしりとり、という流れを一日の活動の中に組み込むと、言語活動の一貫性が生まれます。絵本を読んだ後に「もりのおくの歌もしりとりだったよね」と振り返ると、子どもたちが歌と絵本をつなげて考える思考の練習になります。

「くまの一日」を劇遊びに発展させる

歌詞には「朝に森の中を歩き、動物と出会い、夕方に小屋に帰ってくる」というくまの家族の一日が描かれています。この流れは劇遊びの台本として非常に使いやすい構造です。歌詞をそのままセリフにして、くまのおやこ役・りす役・きつつき役・へび役などを子どもたちで担当する簡単な劇を作れます。各役の「セリフ(歌詞の一部)」を担当することで、自分の出番を待つ集中力や、他者の発話を聞く姿勢も自然に育まれます。音楽活動と劇遊びを組み合わせると保育の幅が広がりますね。

「さんじのおやつ」を食育活動につなぐ

「くまのかあさん さんじのおやつ つくる」というフレーズは、食育活動への入口になります。「くまのお母さんは何を作ってるんだろう?」という問いかけから、子どもたちが自由に想像する時間を設けましょう。クッキーやどんぐりのパンなど「森にいるくまが作りそうなおやつ」を子どもたちと一緒に考え、実際に簡単なおやつ作り体験へつなげる保育士もいます。ただしこの場合は食物アレルギーへの対応を事前に確認することが必須です。歌が食への興味を引き出す入口になるということが重要なポイントです。

東京藝術大学の資料によると、音楽活動を通してコミュニケーション能力・自己表現能力・集中力・社会性などを育むことができるとされています。「もりのおく」は歌そのものが持つ構造として、こうした複数の能力を同時に刺激するよう設計された楽曲です。保育士として1つの歌に対して複数の活動アイデアを持っておくことが、豊かな保育実践への近道になります。

子どもの心を育む音楽活動(東京藝術大学)

マダガスカル3