対位法の音楽を学べる本を保育士が選ぶ方法
対位法を学ばなくても、子どもとの音楽活動は十分できると思っていませんか。
対位法とはどんな音楽理論か?保育士にわかりやすく解説
「対位法」という言葉を初めて見ると、専門家だけが扱う難解な理論のように感じるかもしれません。でも実は、保育士なら日常的に子どもたちと楽しんでいる「あの活動」に、対位法の考え方がすでに隠れています。
その代表が「カエルの歌」の輪唱です。一人が歌い始めてから少し遅れてもう一人が同じメロディを歌うと、不思議なことにきれいに調和して聞こえますよね。これがまさに対位法の入り口です。つまり対位法、複数の旋律をそれぞれの独立性を保ちながら美しく重ねる技法のことを指します。
英語では「Counterpoint(カウンターポイント)」と呼ばれ、「点(音符)を対置する」という意味を持ちます。中世ヨーロッパの教会音楽から発展し、ルネサンス期にはパレストリーナという作曲家によって精緻な形に磨き上げられました。さらに18世紀にはヨハン・ゼバスティアン・バッハによってフーガやカノンという形式として花開き、音楽史上の頂点を迎えたといわれています。つまり対位法は数百年にわたる音楽の知恵です。
対位法と混同されやすいのが「和声法(ハーモニー)」です。違いをひとことで言えば、和声法では主役は1つのメロディで残りは和音として支える役割を担います。一方の対位法では、2つ以上のメロディがそれぞれ対等な主役として同時に動きます。「全員が主役」というのが対位法の本質です。
実は保育の現場でも、対位法の発想が登場しています。四天王寺大学の研究では「レガート奏法や手の独立は何よりも対位法的音楽の中で学ぶもの」と指摘されており、子どもの歌だけでは習得しにくいポリフォニックな音楽に触れることが保育者の技術向上に大きく貢献するとされています。対位法は基本です。
対位法の歴史と基礎的な実践方法をわかりやすく解説(Phonim Music)
対位法の本を選ぶポイント:保育士が失敗しない3つの基準
対位法の本には大きく分けて「実習型」と「読む型」の2種類があります。保育士として音楽活動に活かすことを目的とするなら、選ぶ基準を最初に整理しておくことが大切です。失敗するとムダになりません。
まず確認したいのが「使われている楽曲の種類」です。バッハのフーガを中心に据えた専門書は内容は充実していますが、保育で使われる童謡や子どもの歌とはかけ離れているため、読み終えても「で、どこで使えるの?」となりやすいです。一方、童謡や身近なポップスを譜例として使った本は、習得した知識をすぐ伴奏アレンジや合唱指導に応用できます。
次に見るべきは「課題(ワーク)が付いているかどうか」です。対位法は「読んで理解する」だけでは身につきません。実際に旋律に対してもう1声部を書いてみる訓練が必要で、課題つきの本は独学でも着実に力をつけられます。これは使えそうです。
最後は「対象レベルの明記」です。音楽大学の作曲専攻向けに書かれた本と、ポピュラー音楽経験者向けに書かれた本とでは、前提知識の量が大幅に異なります。保育士向けの音楽知識レベルであれば「コードやメロディに関する基礎知識がある人向け」と明記された本が最も入りやすいでしょう。
| チェック項目 | おすすめの特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 使用楽曲 | 童謡・ポップス・身近な曲 | バッハ作品のみだと応用しにくい |
| 課題の有無 | ワーク・実習課題つき | 読み物だけでは実力が伸びにくい |
| 対象レベル | コード知識があれば読める | 作曲専攻向けは前提知識が多い |
上記3点を照らし合わせるだけで、本選びの迷いはかなり減ります。
対位法を学べるおすすめ本5選:初心者から実践派まで
保育士が対位法を学ぶためのおすすめ本を、難易度と目的別に紹介します。全部読む必要はありません。自分の目的に合った1冊から始めるのが一番の近道です。
① 実践!やさしく学べるポピュラー対位法(彦坂恭人 著・自由現代社)
「ぶっちぎりでわかりやすい」と独学者から高評価の入門書です。クラシックの専門用語ではなく「コード」や「メロディ」という言葉で対位法を説明しているため、楽典の知識がそれほど深くない保育士でも読み進めやすいのが特長です。童謡やジャズの実例を用いて対旋律(カウンターメロディ)の付け方を解説しており、読みながらアウトプットできる課題も収録されています。価格は税込1,980円程度で入手しやすく、最初の1冊として最適です。
② 名曲で学ぶ対位法 書法から作編曲まで(柳田孝義 著・音楽之友社)
モーツァルトやベートーヴェンなど18世紀以降の名作を豊富な譜例とともに分析しながら対位法を学べる1冊です。この本の特徴は「旋律がなぜ美しく聞こえるのか」という問いから入ることで、対位法の理論だけでなく「良い旋律の作り方」まで理解できる点にあります。吹奏楽や合唱指導への応用も扱われており、音楽活動を担当する保育士にとって特に役立つ内容です。
③ ピストン 対位法 分析と実習(角倉一朗 訳・音楽之友社)
バッハを中心にコレッリからブラームスまでの実作品から譜例を多数掲載したやや上級の教科書です。各章末に実習課題があるため、「読んで終わり」にならない構成になっています。独学者にも大学のテキストとしても活用できる1冊で、対位法をより本格的に理解したい人向けです。
④ 対位法 線的作曲技法及びカノン・フーガ(長谷川良夫 著・音楽之友社)
1955年の初版から読み継がれてきた定番書です。15・16世紀の合唱音楽から17・18世紀の器楽まで時代順に対位法の変遷をたどりながら学べます。カノンとフーガの章が充実しており、「輪唱(カノン)の仕組みを深く知りたい」という保育士に特におすすめです。
⑤ パリ音楽院の方式による厳格対位法(山口博史 著・音楽之友社)
音楽大学の作曲専攻1年生向けに書かれた実習中心の教科書です。規則の一覧表が整理されており、2声から5声以上まで段階的に学べます。初心者には少し骨のある内容ですが、将来的に本格的な作曲・編曲を目指したい保育士には長く使える1冊です。
音楽之友社の公式ページで対位法に関する各書籍の詳細な解説が読めます。
対位法の知識を保育のピアノ伴奏に活かす方法
対位法を学んだ後の最大のメリットは、ピアノの伴奏が「ただ和音を鳴らすだけ」から脱却できることです。これは大きな変化です。
一般的な保育士のピアノ伴奏は、右手がメロディを弾き、左手がコードを鳴らす「ホモフォニー型」がほとんどです。もちろんこれで十分ですが、対位法を知ると伴奏の「左手パート」にも独立した歌心のある旋律を組み込めるようになります。メロディが上昇しているとき、左手が下降するカウンターラインを入れるだけで、子どもが聞いたときの音楽的な豊かさが明らかに増します。
童謡「七つの子」を例に挙げると、メインの旋律とは動きの方向が逆になるような第2声部を追加すると、1声だけでは出せない立体感が生まれます。これは対位法でいう「反行」と呼ばれる技法で、入門書レベルの知識があれば実践できます。むずかしくないです。
また、子どもたちと輪唱(カノン)で遊ぶとき、「どうしてずらして歌っても音が濁らないの?」という疑問に答えられるのも対位法を知っている保育士だけの強みです。カノンは対位法の中でも最もシンプルな形式で、「同じ旋律が一定の間隔でずれて登場しても音がぶつからないようにあらかじめ設計されている」という仕組みを理解すると、子どもへの説明も格段にわかりやすくなります。
九州大谷大学の研究論文では、「専門的な作曲のためには和声法や対位法などの高度な音楽理論の習得が必要」と明記されています。保育者養成の視点からも、対位法の素養が豊かな音楽活動の土台になることが指摘されています。
保育者養成における作曲活動と音楽理論の関係を論じた九州大谷大学の研究論文(PDF)
対位法の独学でよくある落とし穴と正しい学び方
対位法の独学でつまずく人の多くに共通するパターンがあります。つまずきに注意が必要です。
最も多いのは「ルールを暗記しようとしてしまうこと」です。対位法の厳格な規則には「連続5度の禁止」「並達8度の禁止」など多くの禁則が存在します。これを最初からすべて頭に詰め込もうとすると、パズルのように難解に感じてしまい、途中で挫折することになります。
正しいアプローチは「良い例をたくさん見て、感覚として身につけること」です。良い音の組み合わせを繰り返し書いているうちに、自然と禁則を避けられる耳と感覚が育っていきます。入門書の著者たちも「良い形を積み上げることで、ルールを意識せず使えるようになる」と強調しています。
もう1つの落とし穴は「声部数が多い本から始めること」です。対位法には2声・3声・4声・5声以上と段階があり、最初は必ず2声(2本のメロディ)から始めるのが原則です。2声が安定して書けるようになってから初めて3声に進むのが正しい順序で、これを飛ばすと混乱が生じます。順番が条件です。
保育士の場合は毎日の保育業務がある中での勉強ですから、長時間の学習より「1日15分、定旋律に対旋律を1つ付けてみる」という小さな習慣を続けるほうが確実に力がつきます。Phonimなどの音楽教育サイトでは、定旋律を使った対位法の練習問題が無料で確認できるため、教材費を最小限に抑えながら学ぶことも可能です。
- 📌 まず2声対位法から始める(3声以上は後で)
- 📌 全音符対位法(1小節1音)のシンプルな課題を繰り返す
- 📌 禁則は暗記せず、良い例を見続けて感覚で覚える
- 📌 1日15分の小さな実践を習慣にする
- 📌 童謡の旋律を定旋律として使うと保育への応用が見えやすい
全音符対位法の実践練習が図解つきで学べるPhonimの解説ページ
保育士が対位法を知ると変わること:独自視点で見る音楽活動の広がり
対位法を学んだ保育士が気づく変化のひとつは「子どもの音楽的な行動が見え方が変わる」という点です。これは意外な収穫です。
子どもたちは自然発生的に「ポリフォニー(多声)」的な遊びをすることがあります。たとえば、1人が「きらきら星」を歌っているそばで別の子が全く違う歌をうたいだす場面は保育室でよく起きることです。大人の目には「バラバラに歌っている」と映りますが、対位法の知識があると「複数の声部が同時に進行している状態」として捉え直すことができます。つまり子どものその自由な行動は、むしろ音楽的な感受性の表れでもあります。
また、対位法を知ることで保育士が子どもに聴かせる音楽の選び方も変わります。バッハの「カノン」やパッヘルベルの「カノン」は、複数の旋律がきれいに絡み合う様子が耳で追いやすく、3〜4歳の子どもでも「あ、おんなじのが出てきた!」と自発的に気づくことがあります。こうした音楽体験の積み重ねが、後に子どもたちが輪唱や合唱に自然と親しむ下地を作ります。
東京藝術大学の研究によれば、音楽活動を通じてコミュニケーション能力、主体性、集中力、社会性など多くの能力が育まれるとされています。複数の旋律が対話するように動く対位法的な音楽は、子どもが「自分の声を聞きながら他者の声も聴く」という耳を自然に育てる環境として機能します。協力して音楽を作るという体験そのものが、保育の目標と深く重なります。対位法的な音楽体験が基本です。
バッハのブランデンブルク協奏曲について脳科学の観点から調べた研究では、「繰り返し構造と対位法的展開が長期増強(LTP)を誘発し、注意力と記憶保持力の向上をもたらす可能性がある」という報告もあります。保育の場で対位法的な音楽を積極的に取り入れることは、子どもの脳の発達という観点からも無意味ではないと言えるでしょう。
東京藝術大学が発行した「子どもの心を育む音楽活動」(PDF)。音楽活動が育む能力について詳細に解説されています。

名曲で学ぶ対位法 書法から作編曲まで

