多文化保育の遊びで外国につながる子どもと育ち合う方法
日本語だけで遊ぶ保育は、外国籍の子どもの言語発達を逆に遅らせることがあります。
多文化保育の遊びが必要な背景と現状データ
保育現場に外国にルーツを持つ子どもが確実に増えています。出入国在留管理庁の統計によると、2024年時点の日本の在留外国人数は約322万人と過去最多を更新しており、その中には未就学の乳幼児も相当数含まれます。どろんこ会グループが2023年に実施した多文化共生意識調査(対象スタッフ693名)では、保育士の71.3%が「外国にルーツのある園児の保育・支援にかかわったことがある」と回答しています。東京や大阪などの都市部だけでなく、愛知・三重・静岡など製造業が集積する地方都市でも、園児の3人に1人が外国籍というケースが珍しくない時代です。
これだけ身近なことになっているにもかかわらず、同調査では「保育者の多文化保育に関する知識不足」を課題として挙げたスタッフが24.5%に上りました。つまり、現場の4人に1人が「どう対応すればよいかわからない」と感じながら保育しているということです。
重要なのが、遊びの役割です。全国幼児教育研究協会(2017)の調査では、「外国人幼児の母文化の歌や遊びを保育に取り入れることが最も効果的」とされています。言葉が通じなくても、体を動かし、笑い合い、ルールを共有する遊びの場は、子ども同士をつなぐ最強のコミュニケーションツールです。つまり多文化保育においての遊びは、「特別な配慮」ではなく保育の本質そのものと言えます。
保護者の意識も変化しています。どろんこ会グループの保護者2783名への調査では、約80%が「さまざまな国の食文化や遊び、生活習慣の違いを知ること」を保育園で必要な経験として挙げました。保育士自身が多文化保育の遊びに積極的に取り組むことは、子どもへの貢献だけでなく、保護者からの信頼にも直結します。
どろんこ会グループ「多文化共生意識調査2023」レポート|保育士・保護者への調査結果が詳しく掲載されています
多文化保育の遊びに取り入れたい世界の伝統遊び一覧
「世界の遊びを取り入れたいけれど、何から始めればいい?」という保育士の方に向けて、すぐ使える具体例を紹介します。ポイントは、日本の遊びと構造が似ているものを選ぶことです。子どもたちがルールを直感的に理解しやすく、言葉の壁が低いため、スムーズに一緒に楽しめます。
🇧🇷 ブラジル「バタタ・ケンチ(Batata Quente)」
日本の「爆弾ゲーム」とほぼ同じ構造です。円座になり、音楽に合わせてボールや物を次々と回します。「バタタ・ケンチ」とはポルトガル語で「熱いじゃがいも」の意味で、音楽が止まったときに手に持っていた子がアウトになります。ブラジル系の家庭が多い愛知・静岡などの地域では特に喜ばれる遊びで、保育者養成校の授業でも実践事例として報告されています。
🇰🇷 韓国「チェギチャギ(제기차기)」
羽根蹴りに似た伝統遊びです。「チェギ」と呼ばれる小さな羽を足で蹴り続けます。チェギは折り紙と硬貨で手作りもでき、材料費もかかりません。日本のけん玉や羽子板と同じ感覚で遊べるため、年中・年長クラスに向いています。折り紙でチマチョゴリを作りながら韓国文化に触れる活動と組み合わせると、保育が一層豊かになります。
🇺🇸 アメリカ「ダック・ダック・グース(Duck Duck Goose)」
日本の「ハンカチ落とし」とほぼ同じです。円になって座り、鬼役の子が「ダック」「ダック」と頭を触りながら歩き、「グース!」と言ったら走り出す遊びです。英語の発声が自然に練習できる点でも人気があり、北海道・龍谷幼稚園での実践でも子どもたちが「ダック!グース!」と喜んで声に出していたと報告されています。
🇻🇳 ベトナム伝統の輪投げ・竹竿遊び
竹を使った伝統的な遊びが豊富なベトナム文化。保育の場では竹のスティックを使ったリズム遊びや、地面に描いた輪に投げ入れるゲームが取り入れやすいです。竹は園の自然物遊びとも相性が良く、環境設定の工夫で展開できます。
🇮🇳 インド「コア・コア(Kho-Kho)」
チームで向かい合って座り、タッチリレーで鬼を交代していくゲームです。「おに」の概念は世界共通で、ルール説明が少なくても盛り上がります。タグ鬼・リレーとの接続も簡単です。
これらを一度にすべて取り入れる必要はありません。まず「在籍している子どもの出身国の遊び」を1つ選んで実践するだけで、その子が急に嬉しそうな顔になる瞬間が生まれます。それが他の子どもたちの好奇心に火をつけ、遊びの輪が自然と広がります。
文部科学省「実践事例から学ぶ 園の特性に応じた保育」|外国人幼児の母国の遊びを取り入れた実践例が紹介されています
多文化保育の遊びで母語を大切にする言語的アプローチ
「保育はすべて日本語で統一したほうがよい」と思っている保育士は少なくありません。しかしこれは、外国にルーツを持つ子どもの言語発達にとって大きなリスクになります。
どろんこ会グループの調査で現場スタッフが指摘した重要な問題があります。「母語をどの言語にするか保護者も保育者も相談して決めていない。結果、母語の語彙や運用力が弱く、日本語でも他国語でも言語能力が低く育つ」というケースがあるのです。これはダブルリミテッド(双方の言語が中途半端になる状態)と呼ばれる問題で、小学校以降の学習理解に深刻な影響を与えます。
母語が安定していることが、第二言語(日本語)習得の土台になります。
では、遊びの中でどう母語を支えるか。具体的なアプローチをいくつか紹介します。まず、母語での絵本の読み聞かせを遊びのサークルタイムに取り入れることです。韓国語版・ポルトガル語版の絵本を1冊保育室に置いておくだけで、外国籍の子どもは自分の言語が「ここでも使っていい」と安心します。1冊あたり数百円〜2,000円程度で購入できるものが多く、予算的なハードルも低いです。
次に、遊びの場面で母語の数字・色・挨拶を取り入れることです。たとえば鬼ごっこの開始合図を「3・2・1」ではなく「サン・ドゥア・ウン(ポルトガル語)」「셋・둘・하나(韓国語)」で行うと、その国出身の子が誇らしそうに声を出します。それを見た他の子どもたちも「教えて!」と食いついてくる場面が生まれます。
また、保護者を遊びの場に招待する「文化の日」を月1回設けることも効果的です。保護者に母国の歌や手遊びを1つ教えてもらうだけで、保護者の園への信頼感が格段に高まります。保護者にとって「自分の文化が認められた」という体験は、連絡帳のやり取りや送迎時のコミュニケーションを円滑にする副次的な効果もあります。
遊びと母語を切り離さないことが基本です。
神戸松蔭女子学院大学「外国につながる子どもの保育における家庭との連携の課題」|母語保障と家庭連携の必要性について詳しく解説されています
多文化保育の遊びをスムーズに進める保育環境の整え方
どんなに素晴らしい遊びを計画しても、環境が整っていないと子どもたちに届きません。多文化保育の遊びを自然に根付かせるには、「場・物・関係」の3つを少しずつ整えることがポイントです。
🏠 場の環境づくり
保育室の一角に「世界の文化コーナー」を設けると、毎日の生活の中に異文化が自然に溶け込みます。国旗のポスター、世界地図(子ども向けのカラフルなもの)、在籍している子どもの出身国の写真や絵などを貼るだけで十分です。子どもたちは自然と「これどこの国?」「この旗かっこいい!」と話し始めます。費用は画用紙とプリンター代だけで済む工夫もあり、予算をほとんどかけずに始められます。
天王保育園では国旗を飾り、子どもたちと一緒に国の名前を覚える取り組みを実践しており、在籍するブラジル籍の女の子がきっかけでクラス全体にサッカーブームが起きたという実践報告もあります。サッカーや音楽は言葉を越えるツールです。
📦 物の環境づくり
世界の遊び道具を1〜2つ保育室に置いておきましょう。チェギ(韓国の羽根)は硬貨と折り紙で手作りできます。ブラジルのカポエイラ音楽のCDや音源を準備しておくと、リズム遊びや表現活動にも使えます。市販の「世界の遊び絵本」(例:『せかいのこどもたち』シリーズなど)は、大型書店や図書館で入手でき、子どもが自分でページをめくりながら遊べるコンテンツとしても活用できます。
🤝 関係の環境づくり
最も大切なのは、保育士自身が異文化に対して「面白い!」と反応することです。これは意外に見落とされがちです。保育士が「知らなかった、教えてくれてありがとう」と子どもや保護者に伝える姿勢が、クラス全体に「違いを尊重する空気」を作ります。子どもは大人の反応をよく見ています。保育士が率先して「それはどんな遊び?」と興味を持つ姿が、周囲の子どもの好奇心を引き出す最大の環境です。
職員間での共有も忘れずに。「今月はこの遊びを取り入れる」とミーティングで共有し、担任以外も対応できる体制にしておくと、子どもの日常的な遊びとして定着しやすくなります。
多文化保育の遊びが日本人の子ども全員にもたらす意外な効果
「多文化保育は外国籍の子どものための特別対応」と思われがちですが、実はそうではありません。これは日本人の子どもたちにとっても、非常に質の高い発達支援になります。いいことですね。
認知科学の観点から見ると、複数の文化・言語に触れた子どもは、「物事には複数の見方がある」という思考の柔軟性(認知的柔軟性)が育ちやすいとされています。これは問題解決能力や創造性の土台になるものです。遊びを通じて「同じ鬼ごっこでも国によってルールが違う」と知るだけで、子どもは「やり方はひとつじゃない」という概念を体感的に学びます。
どろんこ会グループの保護者調査でも「さまざまな文化や言葉に触れることで育ち合う子どもの感性が育まれる」「異文化交流を通して子どもたちなりに理解し、咀嚼して吸収することで新しい考え方を身につけられる」という声が多く寄せられました。言葉で教えるより、遊びで体験する方がずっと深く定着します。
さらに見落とされがちな効果があります。外国にルーツを持つ友だちの遊びを「面白い」と思う経験が、将来の外国人との協働力・共感力の基礎になるのです。2040年代には日本の労働力人口のかなりの割合を外国籍の方が支えると予測されており、幼少期からの多文化体験は子どもたちの将来の「職場環境への適応力」にも直結します。
外国籍の子が1人もいない園でも、多文化保育の遊びは有効です。
世界の遊びを取り入れた「国際遊びデー」を月1回設けるだけで、子どもたちの遊びのレパートリーが広がり、日常の遊びの質が上がります。保育士にとっても、遊びのバリエーションが増えることは、子どもとのかかわりの中で引き出せる表情や関係が増えるということです。それは保育の充実感にもつながります。
また、外国籍の子どもが実際に在籍している場合、その子が「自分の遊びをみんなが楽しんでくれる」という体験は、園生活への安心感と自己肯定感を大きく高めます。適応初期(入園から3か月程度)に感じる孤立感や不安が、クラスに溶け込むスピードに直結することは研究でも示されており、保育士の仕掛けひとつで大きく変わります。


