食品衛生と保育と給食
食品衛生の衛生管理で重要管理事項を整える
保育の給食で食品衛生を担保する第一歩は、「衛生管理」を“気合”ではなく“重要管理事項”として設計することです。厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」は、集団給食施設等の食中毒予防として、HACCPの概念に基づく重要管理事項(原材料受入れ・下処理、加熱、二次汚染防止、温度管理)を示しています。特に保育は喫食者が乳幼児で、重症化しやすい点をふまえ、工程のどこで何を“確認して記録するか”を決めておくことが現場の再現性につながります。
ポイントは、「誰が」「いつ」「何を」「何で測って」「どこに書くか」を固定することです。例えば、検収(受入れ)なら、品質・鮮度・品温・異物混入などを点検し記録することが重要管理事項として整理されています。これは“忙しいから目視だけ”になりやすい領域ですが、逆に言えば、記録様式を整えるだけで事故確率を下げやすい領域でもあります。
また、保育施設は学校給食ほど設備が大規模でない場合も多いため、「汚染作業区域」と「非汚染作業区域」の区別を“部屋”で分けられないことがあります。その場合でも、動線・器具・色分け・作業順で区分を作る考え方が有効です。学校給食衛生管理基準でも、二次汚染防止の観点から区域区分(汚染作業区域、非汚染作業区域等)やドライ運用の推進が示されています。
【参考リンク:重要管理事項(受入れ・下処理、加熱、二次汚染、温度管理)を体系的に確認できる】
食品衛生の保育の給食で加熱と中心温度を記録する
食品衛生の現場で“強い”施設ほど、加熱を「十分にやる」ではなく「中心温度と時間で証明する」運用になっています。大量調理施設衛生管理マニュアルでは、加熱調理食品は中心部温度計で確認し、中心部が75℃で1分間以上(ノロウイルス汚染のおそれがある二枚貝等は85~90℃で90秒間以上)まで加熱されていることを確認し、温度と時間を記録することが示されています。ここは“測らないと守れない”ため、温度計の置き場、消毒、校正(点検)まで含めてルール化するのが実務です。
保育給食で起きがちな落とし穴は、「同じ献立でも鍋のサイズ、具材の大きさ、量で温まり方が変わる」ことです。特に煮物・炒め物は、最も熱が通りにくい具材(例:肉の塊、根菜の中心)を選んで測る必要があります。学校給食衛生管理基準でも、中心部温度計を用いて75℃1分以上(貝類等は85℃1分以上)を確認し、温度と時間を記録することが明記されています。つまり、保育でも「測定点を決める」「記録欄を献立ごとに作る」だけで、衛生の質が一段上がります。
現場に導入しやすい小技としては、次のような“記録の省力化”が有効です(意味のない文字数稼ぎではなく、作業負荷を下げるための具体策です)。
- 温度計の運用を1本化し、「当日の担当者」が必ず首から下げる(紛失と未測定を減らす)。
- 献立ごとの記録用紙に「測るべき食材」を印字しておく(迷い時間を減らす)。
- 「測定→記録→次工程」ではなく、「測定→次工程→直後に記録」にならないよう、記録位置を調理台の動線上に固定する。
【参考リンク:中心温度・記録・作業区分など、基準本文で確認できる】
食品衛生の衛生管理で二次汚染と手洗いを徹底する
給食事故の多くは「火を通したから大丈夫」ではなく、加熱後に起きる二次汚染で発生します。大量調理施設衛生管理マニュアルでは、二次汚染防止として、手洗いのタイミング(作業開始前・用便後・区域移動時・食品に直接触れる直前・生肉や卵殻等に触れた後・配膳前など)や、用途別・食品別の器具(包丁・まな板等)の専用化、洗浄・殺菌(80℃5分以上等)と乾燥保管が具体的に示されています。学校給食衛生管理基準でも、包丁・まな板の使い分け、素手で触らない、ふきんを使用しない等、二次汚染を起点にした運用が強く打ち出されています。
保育の給食で特に注意したいのは、「小さな園ほど、少人数で工程を兼務しがち」という点です。兼務が悪いわけではありませんが、汚染作業(泥付き野菜、肉、魚)から非汚染作業(盛り付け、配膳)へ“人”が移動するときに事故が起きます。ここを対策するには、設備投資よりもまず、手洗い・手袋交換・外衣(エプロン)交換・履物の区分など“人の切替スイッチ”を明確にすることが効きます。学校給食衛生管理基準でも、作業区分ごとの使い分け(エプロン・履物の色分け等)や、汚染作業区域から非汚染作業区域への移動前の手指洗浄消毒が示されており、保育現場にも考え方として流用できます。
すぐ現場で確認できるチェック項目を、点検表の形にしておくと運用が回ります。
- 手洗い設備に、石けん液・消毒用アルコール・ペーパータオルが常備されている。
- 生肉・魚介・卵の器具は、他食材の器具と物理的に分けて保管されている。
- 加熱後食品の容器はふた付きで、作業台の“清潔側”だけに置かれている。
- 洗浄・消毒は「全食品搬出後」にまとめて実施し、飛散で食品を汚染しない。
食品衛生の給食で温度管理と冷却と提供時間を短縮する
食品衛生で“意外と盲点”になるのが、調理後の温度管理と時間管理です。大量調理施設衛生管理マニュアルでは、調理後直ちに提供されない食品は10℃以下または65℃以上で管理する必要があり、冷却が必要な場合は食中毒菌の発育至適温度帯(約20~50℃)の時間を短くするため、30分以内に中心温度を20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げる工夫、さらに冷却開始・終了時刻の記録が示されています。また、調理後の食品は調理終了後から2時間以内に喫食することが望ましい、と明記されています。
学校給食衛生管理基準でも、調理後2時間以内に給食できるよう努めること、冷却が必要な食品は冷却機等で温度を下げ、加熱終了時・冷却開始時・冷却終了時の温度と時間を記録することが規定されています。つまり、保育給食でも「冷ます」「置いておく」を感覚でやると、最も危ない温度帯に長く滞在してしまいがちです。特に夏場や、行事で配膳時間が延びる日は要注意です。
保育で現実的に実装しやすい工夫を挙げます。
- 冷却が必要な献立(和え物、サラダ、冷製)は、献立段階で“冷却工程あり”として工程表に組み込む。
- 小分けして冷やす(浅いバット、少量分割)ことで中心温度の低下を速める。
- 「配膳開始予定時刻」を先に決め、逆算して調理終了時刻を固定する。
- 配送や外部搬入が絡む場合は、搬入・保冷設備温度・搬出時刻を記録して温度逸脱を潰す。
ここで重要なのは、「温度計で測る工程(中心温度)」と「時計で測る工程(冷却・提供まで)」の両方を記録して、セットで“安全側に倒れている”と示せる形にすることです。記録が残っていれば、万一のときも原因究明が早くなり、園としての説明責任も果たしやすくなります。
食品衛生の保育の給食で検食と保存食を運用する
検索上位でも語られやすいのは手洗いや温度管理ですが、現場で差が出るのは「検食」と「保存食(検食の保存)」の運用です。大量調理施設衛生管理マニュアルでは、検食は原材料および調理済み食品を食品ごとに50g程度ずつ密封し、-20℃以下で2週間以上保存すること、原材料は洗浄・殺菌等を行わず購入した状態で、調理済み食品は配膳後の状態で保存することが示されています。学校給食衛生管理基準でも、保存食は毎日、原材料・加工食品・調理済食品を食品ごとに50g程度、-20℃以下で2週間以上保存すること、原材料は洗浄・消毒等を行わず購入した状態で保存することが示されています。
ここが「意外な落とし穴」になりやすい理由は3つあります。
- “何でも冷凍しておけば良い”と思い、原材料を洗ってから保存してしまう(原因究明に不利)。
- 保存の単位が曖昧で、ロットや複数釜の区別がつかなくなる(追跡性が落ちる)。
- 冷凍庫が他用途と共用で、出し入れが多く温度が安定しない(保存条件が崩れる)。
保育施設で現実的に運用するなら、次のように“ミスが起きにくい仕組み”にします。
- 保存食用の袋(または容器)に、日付・献立名・「原材料/調理済」・ロット欄を印字したラベルを貼る。
- 冷凍庫の棚を2段に分け、上段「原材料」、下段「調理済」のように固定する(迷いをなくす)。
- 廃棄日(2週間経過後)をカレンダーに入れて、溜め込みを防ぐ。
検食・保存食は“ふだん役に立たないように見える”のが難点です。ですが、いざというときに「何を、どの状態で、どう保存したか」を満たしていないと、原因が絞れず、園全体が長く混乱します。食品衛生の本質は「事故を起こさない」だけでなく「事故が疑われた時に、速く収束させる」まで含むため、保育給食でもこの運用は投資対効果が高い領域です。


