食文化と保育と食育
食文化 保育 食育の目的と指針と計画
保育園の食育は、単に「栄養をとる」「好き嫌いを減らす」だけではなく、子どもが生涯にわたり健康で質の高い生活を送るための基礎となる「食を営む力」を培うことが目標として示されています。
そして、保育所における食育は保育所保育指針を基本とし、家庭・地域と連携しながら、保育士・調理員・栄養士・看護師など全職員が専門性を生かして進めることが重要だと整理されています。
ここで見落としがちなのが、「食育は食事時間だけの取り組みではない」という設計思想です。
参考)https://syokuiku-tokushima.jp/pamphlet.pdf
指針では、食育を計画的・総合的に展開する必要があるとして、保育計画や指導計画の中にしっかり位置づけること、さらに実践の経過や結果を記録して評価・改善することが求められています。
食文化という視点を入れる場合も同様で、指針の内容は「食と健康」「食と人間関係」「食と文化」「いのちの育ちと食」「料理と食」の5つの観点で構成され、文化はその中核の一つとして扱われます。
つまり「郷土料理を一回出して終わり」ではなく、遊び・会話・歌・制作・栽培などを通して、子どもの生活全体の中に“文化としての食”を染み込ませるのが王道です。
参考:保育所における食育の目標・内容構成(食と文化/料理と食/計画の位置づけ)
厚生労働省「楽しく食べる子どもに~保育所における食育に関する指針」
食文化 保育 食育と給食と行事食と旬
食文化を保育の中で扱うとき、給食は「毎日ある教材」になります。
指針でも、保育所での食事は「食育の目標」を達成するために、子どもが意欲をもって食事や食環境に関わる体験の場を構成するものだとされ、給食運営を一貫性・系統性のあるものとして組み立てる必要が述べられています。
食文化の入り口として扱いやすいのは、行事食と旬の組み合わせです。
「旬の食材から季節感を感じる」「郷土料理に触れる」「伝統的な日本特有の食事を体験する」などが、3歳以上児の「食と文化」の内容として例示されています。
実務で効くコツは、「行事食=ハレ」だけに偏らず、翌週や翌月の「ケ」に分散させることです。
指針の配慮事項でも、地域・郷土の食文化は“日常と非日常(いわゆるケとハレ)のバランス”を踏まえ、子どもが季節の恵みや旬を実感し、文化の伝え手となれるよう配慮することが述べられています。
具体例としては、行事当日は「由来を短く」「体験を濃く」、翌週は「同じ食材を別料理で再会」、翌月は「製作・絵本・歌で再想起」という3段構成が使えます。
こうすると、子どもにとって行事食が“単発イベント”ではなく、「季節が巡るとまた会える味」「地域の大人が大切にしてきた習慣」という形で定着しやすくなります。
食文化 保育 食育の歌と手遊びと導入
保育の現場では、歌は「説明」より先に子どもの身体と気持ちを動かせるため、食育の導入に向きます。
給食前後のあいさつの歌は、音楽が鳴ったら席につこうという行動の合図になり、食事の習慣や挨拶の習慣の導入になると紹介されています。
また、「よく噛んでね」と言葉で伝えるだけでなく、擬音(カミカミ・モグモグ等)を使った歌詞とメロディで、楽しくテンポよく噛むこと・食べる習慣が身につく、という実務的な示唆もあります。
参考)https://sc.kgef.ac.jp/wp-content/uploads/2023/12/20180905-5b8fbdfa532ee.pdf
ここは食文化の話題(箸・食具・姿勢・挨拶)とも相性がよく、説教臭くならずに“文化としての作法”へ接続できます。
さらに、旬や行事食と歌を組み合わせると、季節を感じる体験になり、旬の食材や行事食への記憶が高まると述べられています。
つまり「今日の献立の説明」を長くするより、短い歌→食材カード→一言の由来、の順にすると、子どもの集中の波に乗せやすいです。
実践アイデア(歌を“教材”に変える工夫)
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🎵「歌う前に質問」:歌詞に出る食材を1つだけ当ててもらう(当てた子を褒めるより、答えが増えるのを面白がる)。
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🍠「歌う後に観察」:旬の食材を“匂い・色・形”の1観点だけで観察する(全観点は欲張らない)。
- 🥢「歌う後に選択」:箸・スプーン等、食具を使う年齢は“今日の一つの動作”だけ丁寧にする(全部はやらない)。
参考:食べ物ソングが食事の習慣・好き嫌い・旬/行事食の記憶に役立つという実務視点
食文化 保育 食育と家庭と地域と連携
食文化は園の中だけで完結しにくく、家庭や地域との連携で“本物感”が出ます。
指針でも、保育所における食育は家庭や地域社会と連携し、保護者の協力のもと、全職員が専門性を活かして進めることが重要だとされています。
また、地域子育て支援の役割として、在宅子育て家庭からの乳幼児の食に関する相談に応じ、助言を行うよう努めることも述べられています。
ここを「食文化×歌」で設計すると、家庭への持ち帰りがスムーズになります。
家庭連携の具体策(園だより・掲示・口頭の負担を減らす)
- 🧾「食事だより」に歌を1行だけ載せる:曲名だけでよい(歌詞全文は載せない)。
- 🎧 家庭での再現ハードルを下げる:手拍子だけ、擬音だけ、挨拶だけなど“部分使用”を提案する。
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🥬 地域の食材と接続:地産地消の野菜の日に、その食材が出る歌(なければ擬音・リズム)を園内だけで作り、子どもが口ずさめる形にする。
地域連携のポイントは、行事として盛り上げるより「子どもの生活に負担がないように指導計画に盛り込む」ことです。
指針でも、地域と連携した食に関する行事を行う場合は、全職員が趣旨を理解し、日常の保育として子どもの生活に負担がないように指導計画に盛り込む必要があるとされています。
食文化 保育 食育の独自視点:音と匂いと記憶
ここは検索上位の定番(栄養・マナー・行事食紹介)とは少し角度を変え、「音」を食文化の記憶装置として使う視点です。
食文化は知識ではなく、身体感覚の層に残ったものほど再現されやすく、大人になってからも“ふと”戻ってきます。
給食の時間に、歌を「BGM」ではなく「儀式の合図」にすると、子どもの中で“食の場の型”が育ちます。
指針が大切にする「楽しく食べる体験」や「一緒に食べたい人がいる」などの子ども像とも、歌の設計は相性が良いです。
意外と効くのが、「匂い」と「音」をセットにするやり方です。
例えば、焼きいも・だし・柑橘など、香りが立つ献立の日に短い歌(または同じリズムの掛け声)を必ず入れると、“匂いを嗅いだ瞬間に歌が出る”状態が生まれます。
この現象が起きると、食文化の継承が「説明を覚える」から「思い出せる」に変わります。
家庭でも同じ匂いに出会ったときに子どもが歌い、そこから会話が起きるため、園→家庭へ自然に食育が流れます。
すぐ試せるミニ実験(園内で完結)
- 🔔「同じ合図」を固定:いただきます前の10秒だけ、毎日同じ短い歌に固定してみる。
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🍲「匂いの強い日」に重ねる:カレー、だし、焼き魚など“香りが分かりやすい献立”で固定歌を重ね、子どもの反応(口ずさむ・先回りで席に着く)を観察する。
- 📝「記録して改善」:指針が述べるように、経過や結果を記録し次の実践改善につなげる(歌の長さ、テンポ、導入のタイミングを微調整)。
この独自視点は、栄養・マナーの「正しさ」を押しつけず、子どもが自然に食の場へ入りたくなる導線を作れる点が強みです。
食文化を“教える”より、“思い出せる型”を園生活の中に置くことが、保育の現実にも合います。

和食のこころえ -日本の心と美学 supported by 文化庁

