社会性と保育と合唱
社会性の保育の合唱のねらい
保育で合唱を扱うとき、ねらいは「歌を完成させる」だけではありません。友だちと一緒に声を合わせる過程そのものが、社会性や協調性を育てる機会になります。実際に、園での歌唱活動のねらいとして「いっしょに歌いながら社会性や協調性を身につける」ことが挙げられています。
参考:保育現場での歌活動のねらい(社会性・協調性)
子どもが歌いたくなる!保育園での歌の教え方。選曲の基準や指導…
また、幼児教育の整理では、歌やリズム遊びを通して「心が安定し豊かになる」「友達と一体感を味わう」「表現力が豊かになる」など、合唱の前提となる土台が示されています。合唱を社会性の活動として設計するなら、子どもが“集団の中で安心して声を出せる状態”を先に作る必要があります。
参考:音楽活動の教育的意義(心の安定・一体感・表現)
https://www.ocha.ac.jp/intl/cwed_old/eccd/report/hand_J/2_5-5.pdf
社会性の観点で見ると、合唱は「同じ歌を歌う」よりも「同じ時間を共有して調整する」活動です。たとえば、歌い出しを待つ、友だちの声を聴く、速くなりそうならゆっくりに戻す——これらは全部、集団生活の基本スキルに直結します。保育者は“歌の指導”として扱いながら、実は“集団の調整”を教えているとも言えます。
社会性の保育の合唱の指導
合唱の指導を社会性育成として成立させるには、最初に「評価軸」を変えるのがコツです。音程や歌詞の正確さは結果であり、保育でまず拾いたいのは行動面(聴く・待つ・合わせる・譲る)です。子どもにとっての成功条件が「上手に歌えた」だけだと、声が小さい子・音程が取りにくい子は参加の動機を失いやすくなります。
おすすめは、合唱の時間に“観察する行動”を保育者側で決めておくことです。例えば以下のように、社会性の行動目標へ落とし込みます。
・合図まで待てた(待つ)
・隣の声を聴こうと顔を向けた(聴く)
・同じフレーズを一緒に始められた(合わせる)
・友だちが歌いやすいように場所を譲れた(譲る)
・終わりまで参加した(継続)
この「行動目標」を、子どもが分かる言葉に直して短く伝えると効果が上がります。例:「今日は“耳でお友だちの歌も聞く”日」「声は小さくてもいいから“最後まで一緒に”」。短い合唱でも、目標が一つあるだけで集団の空気が整いやすくなります。
さらに、導入は歌そのものより“リズムと動き”から入ると安定しやすいです。幼児教育の資料でも、歌に手や身体の動きをつけるリズム遊びは取り組みやすく、教師が気持ちを落ち着かせたい時などにも活用できるとされています。合唱前に手遊びを挟むと、声の揃い以前に「一緒にやる」テンポが揃っていきます。
参考:歌やリズム遊びの活用(導入・落ち着き・楽しさ)
https://www.ocha.ac.jp/intl/cwed_old/eccd/report/hand_J/2_5-5.pdf
社会性の保育の合唱の一体感
合唱で生まれる一体感は、「全員が同じ音程で歌えたから」だけではありません。むしろ保育の現場では、多少ズレがあっても“同じ時間に同じ方向へ向かっている”ことが一体感になります。合唱は、クラスの「関係づくり」を音で可視化する活動です。
ここで意外に効くのが「役割」を作ることです。例えば、歌の途中で“合図係(手を上げる)”“おしまい係(最後のポーズ)”“小さな声係(ささやきパート)”のように、声の大きさ以外の参加の仕方を用意します。歌が得意な子だけが主役にならず、全員に“居場所としての役割”ができます。結果として、集団が落ち着き、合唱の一体感が出やすくなります。
音楽の共同体験が向社会的行動(助け合い等)を増やしうる、という実験報告も紹介されています。音楽を使って一緒に活動した子どものペアの方が、音楽を使わない条件より向社会的行動が多かったという内容で、合唱が社会性に接続しやすい理由を裏づけるヒントになります。
参考:音楽の共同体験と向社会的行動(実験紹介)

一体感を高める実務の小技としては、「同時に始める」より「同時に終える」を揃えるのも有効です。歌い出しは緊張や先走りが出ますが、終わりは集中が集まりやすいからです。最後の一音を伸ばして止める、終わったら静かに手を膝に置く、など“終結の型”を作ると、合唱が社会性の活動として締まります。
社会性の保育の合唱の協調性
協調性は「仲良くする」ことだけではなく、「違いがあるまま調整する」力です。合唱は、声の高さ・大きさ・テンポ・息継ぎの場所など、微細な差が必ず出ます。そこを一律に矯正するのではなく、子ども同士が“気づいて揃えようとする”状況を作ると、協調性が育ちやすくなります。
例えば、次のような“協調性が必要になる仕掛け”を入れます。
・1番は小さめ、2番は普通、3番は元気に(調整)
・サビだけ立って歌う(切り替え)
・手拍子を入れるが、速くしない(抑制)
・1フレーズごとに「聴く番」を入れる(交代)
幼児教育の資料では、友達と一緒に歌ったりリズム遊びをしたりすることで一体感を味わう、と整理されていますが、協調性の核はまさにこの“一体感へ向けた調整”です。合唱の時間に、保育者が「今、みんなが揃ったのは“耳で聴いたから”だね」のように因果を言葉にして返すと、協調性が“感覚”から“学び”に変わります。
参考:友達と一緒に歌うことと一体感
https://www.ocha.ac.jp/intl/cwed_old/eccd/report/hand_J/2_5-5.pdf
また、合唱を「行事のための練習」に寄せすぎると、協調性が“指示待ち”になりやすい点に注意が必要です。協調性を育てたいなら、指示の量を減らし、子どもが自分で調整する余白(テンポがズレたら戻す、友だちの声を聴く時間を取る)を確保します。大人の正解へ一直線に連れていくより、ズレを経験して立て直す方が、社会性としての協調性は深くなります。
社会性の保育の合唱の独自視点の環境
検索上位で語られやすいのは「ねらい」「指導」「選曲」ですが、現場で効くのに見落とされがちなのが“環境設計”です。社会性を目的に合唱をするなら、音楽以前に「子どもが他者を意識しやすい環境」を作る必要があります。つまり、合唱の成果は、歌唱技術より配置・距離・見え方で大きく変わります。
独自視点として提案したいのは、「輪」より先に「ペア」を作る方法です。いきなり円になって歌うと情報量が多く、社会性が伸びる前に疲れてしまう子がいます。最初は2人で向かい合って短いフレーズだけ真似する(交互に歌う)、次に4人で合わせる、最後に全体へ、という段階を踏むと“他者と合わせる経験”を丁寧に積めます。これは「全体で揃える」より、「少人数で調整を経験する」ことで社会性を作る考え方です。
さらに、音量の大きい子が無意識に主導権を握ってしまうと、集団が“合わせる”ではなく“押し切る”になり、社会性の学びが歪みます。そこで、あえて「ささやき合唱(小さな声の合唱)」の日を作り、声の大きさではなく耳の使い方で成立する時間を用意します。音量が下がると、子どもは自然に近づき、相手の声を聴く必要が出てきます。結果として、協調性の基盤である「注意を他者へ向ける」が起きやすくなります。
最後に、家庭との接続も社会性に効きます。幼児教育の資料では、保護者に歌を伝えて親子で歌う時間が心の安定につながること、保護者に呼びかけて合唱団になってもらい唱和する歌声を聞かせる提案も記載されています。園内の合唱が“園だけの課題”から“生活の音”へ広がると、子どもは安心して参加しやすくなり、結果的に社会性の育ちが安定します。
参考:保護者への共有・保護者合唱の提案(家庭連携)
https://www.ocha.ac.jp/intl/cwed_old/eccd/report/hand_J/2_5-5.pdf

社会性の発達心理学

