論理的思考と保育と研修で遊び

論理的思考と保育と研修

論理的思考と保育と研修:この記事の概要
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ねらい

「論理的思考」を“子どもに教える技術”ではなく、“保育者が子どもの姿を読み解き、環境と援助を調整する技術”として研修に落とし込みます。

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押さえる視点

遊びの中の思考は、規則性・比較・因果・仮説確認・人との関係など複数の観点で見取れます。観察→言語化→共有→振り返りの循環を作ります。

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歌が効く理由

歌は「順序」「繰り返し」「合図」「役割分担」を自然に含むため、論理的思考の“見える場面”を作りやすく、研修素材として扱いやすいです。

論理的思考の保育のねらいを研修で共有

 

保育で「論理的思考」という言葉を出すと、つい“子どもに論理を教える”方向に引っ張られます。ですが、現場で本当に効くのは、保育者が「いま目の前で子どもが何を根拠に行動しているか」を読み取り、援助や環境構成を調整するための“筋道”としての論理です。杉並区立堀ノ内子供園の研究でも、論理的思考力を「道理や道筋に沿って結論を導いたり、複雑な事柄を分かりやすく説明できる力」と整理しつつ、幼児期には主体的な遊びと試行錯誤の中で育まれる、という捉え方が示されています。

研修設計の最初に行うべきは、園内で「論理的思考=記録が上手になる話」でも「小学校接続のための先取り」でもなく、日々の保育の質を上げる“共通言語”であると合意することです。文部科学省の「保育者としての資質向上研修俯瞰図」でも、園内研修(ケース会議)の企画、エピソードの記述、観察と記録、実践の評価などが連続した学びとして整理されており、論理的に見取り→共有→改善する流れは研修そのものの中心に置けます。

参考)保育士向け研修 – アドラー心理学の保育士研修|叱らない言葉…

具体的な共有の仕方として、研修冒頭に次の“定義の置き場”を用意するとズレが減ります。

  • ✅論理的思考:子どもの行動を「状況」「試したこと」「結果」「次の見通し」で説明できること。

  • ✅保育の目的:説明の上手さ自体ではなく、説明できることで“援助の精度”を上げること。

  • ✅研修の成果物:報告書ではなく、翌週の環境構成・声かけ・歌や遊びの組み立てが1つ変わること。

この合意ができると、歌や遊びの場面で「子どもの思考が働いた瞬間」を取り上げても、単なる感想大会になりにくくなります。研修は“正解探し”ではなく、子どもの姿に基づいて仮説を立て、保育者同士で検証し、次の環境に反映させるサイクルとして設計できます。

参考)保育士向け研修~子供の行動を分かりやすく伝える編(1日間):…

(参考リンク:幼児の論理的思考を、遊びの中の試行錯誤・援助・言語化でどう育むかの事例と整理が詳しい)

https://www.suginami-school.ed.jp/horinouchikodo/upload/66a85aca664f0/66a85b9f47ca7_2.pdf

論理的思考の研修で遊びの観察と記録

研修で「観察」を扱うとき、ありがちな失敗は“見たこと”の列挙で止まることです。論理的思考の研修にするなら、観察は必ず「根拠」と「変化」を含む形にします。堀ノ内子供園の研究では、幼児の論理的思考を捉える視点として、①規則性・法則性、②比較・分類、③全体と部分、④時系列因果・因果関係(可逆的因果)、⑤仮説・確認、⑥人との関係性、という分類を用いて整理しています。

この6観点は、研修で“観察のラベル”として使うと効果的です。例えば歌の場面なら、次のように観察が具体化します。

  • 🎵規則性:同じフレーズで同じ動きを繰り返す、順番を守ろうとする。

  • 🔁比較・分類:「この歌は速い/遅い」「この部分は大きい声」など違いを見つける。

  • 🧩全体と部分:歌全体の流れを保ちながら、サビだけ強調する、役割を分ける。

  • ⏳因果:合図(前奏・言葉)で動きが切り替わる、順番が崩れると全体が止まる。

  • 🧪仮説確認:やってみて「うまくいかない」→動きを変える→再挑戦する。

  • 🤝人との関係:友達の動きに合わせる、リーダー役に従う、相談して決める。

記録は、フォーマットを変えるだけで質が上がります。おすすめは、エピソード記録を「状況→子どもの試行→結果→次の見通し→保育者の援助」に固定することです。これは堀ノ内子供園の事例でも、保育者の投げかけ・環境・子どもの変化が因果で読める形に整理されており、研修資料としても再現しやすい構造です。​
さらに、研修の“意外な効き方”として、記録の精度が上がると保護者対応も楽になります。なぜなら「起きた事実」だけでなく「子どもがどう考えて工夫したか」を筋道立てて説明できるからです。結果として、行事や歌の練習がうまくいかない時も「練習量が足りない」ではなく、「どこで見通しが切れたか」「何が合図として機能していないか」という改善ポイントとして語れます。​

(参考リンク:保育者の研修項目を、園内研修・記録・評価・連携まで俯瞰した整理がある)

https://www.mext.go.jp/content/20210518-mxt_kyoikujinzai02-000015025_10_1.pdf

論理的思考の保育で歌の環境構成

歌は「楽しい活動」以上に、論理的思考が立ち上がる“構造”を持っています。特に、前奏→Aメロ→サビ→間奏→終わり、のような時間構造は、子どもが見通しを持ちやすく、途中で調整もしやすいです。堀ノ内子供園の研究でも、幼児は直観的に感じながらも、過去の体験と結び付けて予測し、試行錯誤を繰り返す中で論理的に考えていく姿が示されます。

研修で扱いやすい環境構成は、歌そのものを“教材化”しすぎないことです。幼児期にふさわしくないのは、論理的思考力を高めるための特化活動を訓練的に行うことだ、と研究内で明確に述べられています。​

だからこそ、環境構成は「歌を中心に置く」のではなく、「歌が自然に起動する遊びの文脈」を作るのがコツです。

たとえば、歌を次の3種類に分け、狙う思考の観点を変えます(研修での整理が簡単になります)。

  • 🎵合図の歌:始まり・片付け・切替の歌(因果、見通し)。

  • 🎭役割の歌:掛け合い・パート分け(人との関係、全体と部分)。

  • 🔁反復の歌:繰り返し・テンポ変化(規則性、仮説確認)。

保育者の援助は、指示で整えるより「考える余地の保障」が効きます。堀ノ内子供園のまとめでも、十分な時間や空間を保障し、幼児の気付きや考えを受け止めて具体的に言語化することが、思考の明確化と深まりにつながると整理されています。​

歌の場面なら、次のような声かけが“論理”を促します。

  • 「いま、どこまで進んだ?」(全体と部分)

  • 「さっきより早くなったのは、何が変わった?」(因果)

  • 「次はどうなると思う?」(仮説)

  • 「〇〇ちゃんの動き、何が良かった?」(比較・共有)

また、環境の“意外な調整点”として、歌の導入にICT(写真・動画)を使うと、視覚が補助になり言語化が進みやすい、という示唆も研究の成果と課題の中で触れられています。​

園の方針やルールに配慮しつつ、短い動画で「前回の続き」を確認するだけでも、子どもは見通しを回復しやすくなります。

論理的思考の研修で言語化

論理的思考の研修で最も伸びやすく、同時に誤解されやすいのが「言語化」です。言語化は“子どもに言わせる”ことではなく、まず保育者が「まだ言葉にならない考え」を適切な言葉に置き換えて返すことから始まります。堀ノ内子供園のまとめでは、幼児の内面に湧き上がった考えを保育者が言葉に置き換えることが、幼児自身の思いや考えを自覚させ、論理的思考力を働かせることにつながる、と明確に述べられています。

ここで重要なのは、“実況中継”と“評価”を混ぜないことです。例えば歌の途中で「上手!」と言うのは悪くありませんが、論理的思考を育てる言語化としては情報が少なすぎます。代わりに、次のように「事実→解釈→次の一手」を短く返すほうが、子どもの思考がつながります。

  • 🗣️事実:「いま、みんなの声が小さくなったね。」

  • 🧠解釈:「聞こえやすくしようとしてるのかな?」

  • 🔜次の一手:「サビはどうする?」

研修では、言語化を“型”にして練習するとブレが減ります。おすすめは、園内研修で2人1組になり、同じ短いエピソード(歌の切替、掛け合い、テンポ変化など)に対して、各自が次の3文だけ作る練習です。

  • 「私は〇〇を見た」(観察)

  • 「だから〇〇だと考えた」(根拠・解釈)

  • 「次は〇〇を試す」(仮説)

この型は、文部科学省の俯瞰図で示される「観察と記録」「実践の評価」「園内研修(ケース会議)」の流れにも接続しやすいです。​

“書ける”ことが目的ではなく、書けることで会議の質が上がり、次の保育が変わる、というルートを園内で共有できます。

さらに、あまり知られていない実務上の利点として、言語化の型が揃うと、職員間の引き継ぎ(担任交代、早番遅番、異年齢保育)でも誤解が減ります。歌の導入がうまくいかない時も「落ち着かない」ではなく、「合図が曖昧で、切替の見通しが持てない」など、改善可能な言葉になります。​

論理的思考の保育の研修で独自視点

検索上位で多いのは、論理的思考を「問題解決」「説明力」「報連相」へつなげる一般論です。現場で差がつく独自視点は、歌を“論理的思考の測定器”として使うことです。つまり、歌の時間を「できた/できない」で評価するのではなく、園の保育が今どこで詰まっているかを見つける診断の場にします。

診断のポイントは3つあります。

  • 🧭見通しの設計:前奏・合図・切替が機能しているか(因果)。

  • 🧩役割の分解:全員同時でなく、役割分担が生まれているか(全体と部分・人との関係)。

  • 🔁改善の余地:やり直しが許され、試行錯誤が起きているか(仮説確認)。

この視点は、堀ノ内子供園の研究で示された「クリエイティブ・ラーニング・スパイラル(発想→やってみる→共有→振り返り)」の循環と相性が良いです。​

歌は短時間でこの循環が回りやすく、研修で観察・共有・振り返りの練習素材として使いやすいからです。

例えば、歌の場面で「途中で止まる子が多い」場合、原因は集中力ではなく、合図が曖昧で“因果の手がかり”が薄い可能性があります。逆に「歌は止まらないが、表現が硬い」なら、正解を求めすぎて試行錯誤が許されていない可能性があります。こうした診断ができると、研修は精神論から離れて、環境構成(合図を増やす、役割を分ける、繰り返しを許す)という具体策に落ちます。​

最後に、園内研修での運用案を提示します。1回60分でも回せる形です。

  • ⏱️10分:共通言語の確認(6観点を壁に貼る)。​
  • 👀15分:歌の短い動画 or エピソード共有(状況→試行→結果→次の見通し)。​
  • 🧩20分:6観点でラベル付け、声かけ案を3つ作る(絵文字OK)。​
  • 🔄15分:翌週の環境構成を1つだけ変更して決める(誰が、いつ、どうする)。​

この形にすると、「論理的思考 保育 研修」という狙いワードで期待される“研修の設計”と、“保育の具体の変化”がつながります。歌に興味がある人にも、歌を「行事の練習」から「思考の見取りと改善」へ再定義できるので、読み応えのあるテーマになります。​

論理的思考とは何か (岩波新書)