ラヴェル ボレロ解説と保育で使える音楽活動のヒント

ラヴェル ボレロを解説:構造・楽器・誕生秘話と保育活用

「ボレロ」を子どもたちに聴かせると、自然に体が動き出すことが研究で確認されています。

ラヴェル ボレロ 3ポイント解説
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構造の極意

メロディはAとBの2種類だけ。スネアドラムのリズムはなんと169回繰り返され、1つの長大なクレッシェンドで曲全体が構成されています。

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楽器の魔法

フルートの独奏から始まり、最後は約20種以上の楽器が重なる大編成へ。楽器の組み合わせだけで色彩を変えるラヴェルのオーケストレーション技法が光ります。

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保育での活用

徐々に盛り上がる構造は、子どもの集中力を自然に引き出します。リトミックや身体表現活動のBGMとして非常に効果的です。

ラヴェル ボレロの誕生秘話と作曲の背景

 

ボレロ」は1928年、フランス作曲家モーリス・ラヴェルが作曲したバレエ曲です。依頼主はバレリーナのイダ・ルビンシュタイン。彼女は自身のバレエ団のために「スペイン風の曲を」とラヴェルに頼みました。

当初ラヴェルは、イサーク・アルベニスのピアノ曲集「イベリア」からオーケストラ編曲する予定でした。しかし既に別の作曲家による編曲権が存在していたため、ゼロから書き起こすことを選択します。

つまり「ボレロ」は、ある意味で偶然の産物でした。意外なことですね。

ラヴェルが夏の海水浴中に別荘で友人ギュスターヴ・サマズイユにピアノで主題を弾いてみせ、「このテーマは執拗な性格を持っていると思わないかい?このメロディをいかなる発展もなしに何度も繰り返してみるつもりだ」と語ったという逸話が残っています。

作曲期間はわずか1928年7月〜10月の短期間。それほどのスピードで生み出された曲が、現代においてもクラシック音楽で最も多く演奏されるレパートリーの一つになっているのです。

ラヴェルのルーツにもこの曲の鍵があります。彼の母はフランスとスペインの国境に暮らすバスク人の出身であり、ラヴェルの人生最初の音楽体験は母が歌ったバスク民謡でした。父は機械技師・発明家で、幼いラヴェルを工場によく連れていきました。ラヴェル自身「この作品の作曲を鼓舞したのは工場」と語っており、ボレロの規則的な打楽器リズムには工場の機械音が反映されているとも言われています。

スペインの文化と工場のリズム、この二つが「ボレロ」を生んだわけです。

初演は1928年11月22日、パリ・オペラ座(ガルニエ宮)にて行われました。会場では一人の女性客が「異常だ!」と叫んだと伝えられますが、ラヴェルはむしろその反応が「正しく音楽を理解している」と語ったそうです。それほどに意図的な実験作品だったということですね。

ラヴェル本人は「世界の一流オーケストラはボレロの演奏を拒否するだろう」と考えていたほど、この曲への手応えを感じていませんでした。しかし実際は大ヒットとなり、ラヴェルを大いに驚かせることになります。

ボレロ(ラヴェル)- Wikipedia|作曲経緯・初演・楽曲構造に関する詳細な記述

ラヴェル ボレロの旋律と構成を徹底解説

「ボレロ」の最大の特徴は、その構造のシンプルさにあります。

まず旋律は「A」と「B」の2種類だけ。Aの旋律はハ長調で書かれており、臨時記号もなく素朴な印象を持ちます。ラヴェル自身「主題はすべて個人が生み出したものではありません。スペイン風かつアラブ風の音楽によくある民謡の調べです」と語っています。

BはAとは対照的に、「スパニッシュ・アラビアン」と呼ばれる旋法を使っており、よりスペイン・アラブの香りが強い旋律です。この2つのメロディをAA・BB・AA・BB…と交互に繰り返すだけで、全体18回のサイクルが続きます。

伴奏の構造はさらに単純です。

  • 3拍子のボレロのリズムをスネアドラムが一曲通して打ち続ける
  • 和音はハ長調のⅠ(ドミソ)とⅤ(ソシレ)だけを繰り返す
  • スネアドラムのリズムパターンは全曲を通じてなんと169回も繰り返される

169回というのは具体的にどんな量でしょうか。例えば1分間に10回行うとしたら約17分間ひたすら同じリズムを叩き続ける計算になります。それを少しずつ音量を上げながら正確に演奏し続けるスネアドラム奏者の集中力は並外れたものです。実際に経験したドラム奏者の中には「途中から訳がわからなくなってくる」と表現する人もいます。

これが基本です。

では何が変わるかというと、「演奏する楽器の組み合わせ」だけです。最初はフルート1本の細い音から始まり、クラリネット、ファゴット、オーボエ、トランペット、サクソフォーン、トロンボーン…と次々と加わり、最終部では弦楽器・木管楽器・金管楽器・打楽器がすべて加わる大編成になります。音量も一番小さいピアニッシモ(pp)から一番大きいフォルティッシモ(ff)まで、15分かけて一直線に上昇していきます。

つまり「一直線のクレッシェンドだけで曲が成立している」という、前例のない作曲方法です。

ラヴェルはこれを「一直線登山型」の作曲と呼べるような方法で実験しました。通常10分を超える曲では旋律・和音・リズム・調性などさまざまな要素を変化させて聴き手を飽きさせない工夫をします。しかし「ボレロ」はそれを意図的に排除し、「オーケストレーション(楽器編成)の変化」という一点だけで15分間を維持しきった前例のない試みでした。これが条件です。

ラヴェル ボレロに使われる楽器の順番と音色の変化

「ボレロ」の醍醐味のひとつは、曲が進むにつれて次々と異なる楽器がソロをとり、その音色の変化を楽しめる点にあります。ラヴェルは「管弦楽の魔術師」「オーケストレーションの天才」と称されるほど楽器の使い方が精緻で、この曲はその技量が最も凝縮された作品と言えるでしょう。

主なソロ楽器の登場順は以下の通りです。

初めは一つの楽器が単独でメロディを担当しますが、中盤以降は2〜3種類の楽器が重なり合い、終盤には木管・金管・弦・打楽器すべてが一斉に鳴り響きます。

これは使えそうです。

特に注目したいのがトロンボーンのソロです。曲の中間部で突然トロンボーンが単独で低く太いBのメロディを吹く場面があり、その異質な響きに驚く聴き手は少なくありません。また、チェレスタ(鉄琴に似た鍵盤打楽器)の透き通った音色と他の楽器の組み合わせも、ラヴェルならではの独特な音色を生み出しています。

曲の最後の8小節では、ハ長調からホ長調(長3度上)へと転調します。これが曲全体で唯一の転調です。ずっと同じ調が続いた後の突然の転調によって、クライマックスへの緊迫感と驚きが一気に高まります。そして最後の2小節で激しく下降し、大きな終止が訪れます。

この「終わりの2小節だけが別世界」というのも、ボレロの面白さの一つです。169回繰り返したリズムがピタリと止まる瞬間の解放感は格別と言えるでしょう。

近江の春ジャーナル「繰り返しの恍惚 ボレロの魅力 東条碩夫」|169回繰り返されるリズムの意義と魅力の詳細解説

ラヴェル ボレロのあらすじとバレエ作品としての魅力

「ボレロ」はオーケストラ曲として有名ですが、もともとはバレエ曲として依頼された作品です。バレエには次のようなあらすじがあります。

> セビリアのとある酒場。一人の踊り子が、舞台で足慣らしをしている。やがて興が乗ってきて、振りが大きくなってくる。最初はそっぽを向いていた客たちも、次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出す。

このストーリーと音楽の構造が見事に一致しているのが「ボレロ」の素晴らしさです。最初はひそかに一人が踊る=フルート1本のか細い音、そして徐々に人々が惹きつけられていく=楽器が増えていく過程、全員が熱狂する=大編成の圧倒的な総奏、というように音楽とドラマが完全に呼応しています。

バレエ振り付けとしては、モーリス・ベジャールによるバージョンが世界的に最も有名です。1961年に初演されたこの版では、舞台中央に置かれた大きな円形テーブルの上で一人の男性ダンサーが踊り始め、徐々に周囲の人々が引き込まれていく演出が取られています。シルヴィ・ギエムやホルヘ・ドンら世界的ダンサーたちが挑んだことでも知られています。

バレエとして観ることで、「なぜこの音楽構造なのか」が体感的に理解できます。

保育士として子どもたちに「ボレロ」を紹介する際には、このあらすじをまず話してから聴かせると、子どもたちは格段に音楽に集中するようになります。「最初は誰が踊っていた?」「次に何人増えた?」と問いかけながら聴く方法は、鑑賞の幅を大きく広げてくれます。

バレエソナンス「実はあらすじがある!?バレエ『ボレロ』を徹底解説」|バレエ作品としての演出・あらすじの詳細

保育でのボレロ活用法:リトミックや身体表現への活かし方

ラヴェルのボレロは、保育現場での音楽活動に非常に活用しやすい曲です。なぜならば、その構造上の特性が子どもの発達支援と深く結びついているからです。

東京都の常盤台めぐみ幼稚園が行った研究では、年長・年中の40名の幼児にさまざまな音楽を聴かせた際、「ボレロ」がかかると自然に体を動かし始め、隣同士で話し始めるなど、音楽への反応として最も活発な行動が見られたと報告されています。子どもの感性がボレロの反復リズムに強く反応することは研究データでも示されているのです。

いいことですね。

具体的な保育での活用方法としては、以下のような場面が挙げられます。

  • 🏃 身体表現活動のBGM:最初は小さく、だんだん大きくなる音に合わせて、子どもたちに動きの大きさを変えてもらう。音が大きくなったら手を広げる、体を大きく動かすなどの活動ができます。
  • 🥁 打楽器あそびとの連携:ボレロのシンプルな3拍子リズムは、子どもがタンバリンカスタネットなどで真似をしやすいです。3拍子(ター・タタ)のリズムを一緒に叩く活動は、リズム感の発達にも効果的です。
  • 🎨 造形・絵画との連携:音楽の盛り上がりに合わせて線を描く、色を塗るなど、音楽と造形活動を結びつける方法も有効です。小さい音のときは細い線、大きい音になったら太い線や大きな形を描く活動が楽しめます。
  • 🌸 朝の会帰りの会のBGM:静かに始まって徐々に盛り上がる構造は、活動の導入やまとめのタイミングにも合わせやすいです。

また、リトミックの観点からも「ボレロ」は理想的な素材です。同研究では、音楽への反応が豊かな子どもの7名中5名がリトミックの課外講座を受講していたことが確認されており、音楽体験と感受性の発達に強い相関関係が見られています。

保育の現場では、クラシック音楽を「難しいもの」と避けてしまいがちです。しかしボレロは「繰り返し」という子どもが最も親しみやすい音楽の原理で作られており、初めて聴く子どもでも自然と体が動き出す親しみやすさがあります。リズムが条件です。

保育士向けのリトミック活動の参考資料としては、一般社団法人日本リトミック協会が提供する教材も活用できます。ボレロのような段階的に音量が増す楽曲は、「音の強弱を体で感じる」という目標に沿った活動として非常に適しています。

昭和女子大学リポジトリ「5歳児のアコースティックな音楽体験における受容の多様性と発展」|保育現場でのボレロ体験に関する実践研究
常盤台めぐみ幼稚園「幼児期に良い音を聴くことの大切さ」研究報告書|幼児40名のボレロを含む音楽反応調査の実証データ

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