音の科学の本が保育士の保育を変える理由と選び方

音の科学の本が保育士にとって必須な理由と実践的な選び方

保育室の騒音は平均85dBで、これは地下鉄の車内と同じ音量です。

🔑 この記事のポイント
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音の科学の本が保育の質を高める

音響学・脳科学・音楽発達の知識を持つことで、子どもへの音環境づくりや言語発達支援が格段にレベルアップします。

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保育室の騒音リスクを知る

保育室は最大100dBを超えることも。85dB以上の騒音は子どもの聴覚・言語発達・ストレスに深刻な影響を及ぼします。

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目的別・レベル別で本を選ぼう

「子どもの聴覚発達を知りたい」「保育室の音環境を改善したい」「音楽活動の根拠を深めたい」など目的に合った1冊を選ぶのが近道です。

音の科学の本が保育士に必要な理由:保育室の騒音問題

「子どもがにぎやかなのは当たり前」と感じている保育士は多いと思います。しかしその「にぎやかさ」が、実は子どもの発達に深刻なダメージを与えているとしたら、どうでしょうか。

埼玉大学の志村洋子名誉教授の研究によると、吸音材を設置していない一般的な保育室では、午睡時間を除いた1日の平均騒音レベルが85dBに達し、最大では100dBを超えることもわかっています。85dBとは地下鉄の車内、100dBとはコンサート会場の前方に相当します。これは工事現場に近い音量です。

子どもの聴覚は大人よりも「選択的聴取(雑音の中から必要な音だけを選ぶ能力)」が未発達です。つまり、大人が難なくこなせる「騒がしい中で話を聞く」という行為が、子どもには非常に高い負荷をかけるということです。この状態が毎日・長時間続くと、言語発達の遅れやストレス蓄積につながることが、近年の研究で明らかになっています。

保育士にとっても他人事ではありません。保育士の発話音圧の平均は75dB、幼稚園教諭は85dBと報告されており(聖和短期大学紀要の研究)、一般的な事務職や専業主婦の平均音圧65dBと比べて明らかに高い数値です。大声を毎日出し続けることで声帯に負担がかかり、声がかれる「音声障害(嗄声)」は保育士の職業的な健康問題として認識されるようになってきています。

こうした状況を改善するためには、まず「音の科学」の基礎知識を持つことが欠かせません。知識があってこそ、「なぜ音環境を整えるのか」を理解し、実際に行動できます。それが保育士が「音の科学」を扱った本を読む、大きな理由です。

▶ 保育環境と音(保育士向けWEB連載:志村洋子名誉教授)|mirakuu.jp

保育室の騒音レベルの実測値や、子どもの聴覚への影響について研究者の視点で詳しく解説されています。

音の科学の本おすすめ①:保育士入門にぴったりな『音と音楽の科学』

「音の科学」と聞くと難しそうと感じるかもしれません。それで大丈夫です。

岩宮眞一郎(日本大学芸術学部特任教授・九州大学名誉教授、工学博士)著の『音と音楽の科学』(技術評論社)は、音と聴覚のしくみを基礎から解説した入門書です。「音を聴いて音楽を味わうまで」という第1章から始まり、音の物理・心理、音楽のしくみ、楽器の科学、電子楽器の原理まで、幅広い内容を科学目線でわかりやすくまとめています。

この本が保育士におすすめな理由は、保育現場で日々「音」と向き合っているからこそ、土台となる知識が活きてくる点にあります。たとえば、なぜ子どもは低音よりも高音に反応しやすいのか、なぜ保育室の「反響音」がとくに問題なのかは、音の物理特性(周波数・残響時間など)を知ってはじめて理解できます。音楽活動の際に「なぜこのリズムが子どもを惹きつけるのか」を科学的に説明できるようになれば、保護者への説明や後輩保育士への指導にも役立ちます。

著者の岩宮氏は、音楽心理学・音響生態学・聴能形成の第一人者として「音のプロフェッショナル」と呼ばれています。専門書でありながら一般向けに書かれているため、理系知識がなくても読み進めやすい構成になっています。つまり、音楽専門家でなくても十分に活用できる本です。

書籍情報 詳細
タイトル 音と音楽の科学
著者 岩宮眞一郎
出版社 技術評論社
対象 一般向け入門書
ポイント 音・聴覚・音楽のしくみを基礎から網羅

▶ 音と音楽の科学(岩宮眞一郎・技術評論社)|Amazon

音の物理から音楽心理まで、科学目線で幅広く解説した保育士の入門書として最適な1冊です。

音の科学の本おすすめ②:保育の現場に直結する『子どもはどのように音を聞いているか』

保育室の音環境を変えたいと思っているなら、まずこの本を読むべきです。

嶋田容子著『子どもはどのように音を聞いているか——育ちを支える「保育の音環境」』(新曜社、2026年3月刊行)は、最新の研究成果にもとづき、保育の場での音環境整備を具体的に提案した一冊です。「保育園はにぎやかなのが当たり前」というよくある思い込みを、科学的に否定することから始まります。

本書の構成は非常に実用的です。第1章では子どもの聴覚発達と特性を解説し、「選択的聴取(雑音の中から必要な音だけを聞き取る力)」が乳幼児には難しいことを詳しく説明しています。第2章では、騒音環境が言語発達・認知能力・ストレスにどのような長期的影響を及ぼすかをデータとともに示します。さらに第4章の「実践編」では、低コストでできる保育室の吸音改善の具体例が、カラー写真とともに複数紹介されています。

とくに注目したいのが「APD(聴覚情報処理障害)/LiD(聞き取り困難)」に関する記述です。聴力は正常なのに、雑音がある環境では言葉を聞き取りにくい子どもたちが一定数います。発達障害との関連性もある一方で、単に「音環境が悪い」だけでも同様の状態が起きうることが指摘されています。保育士がこの知識を持つかどうかで、「何度言っても聞いていない」という子どもへの対応が、根本から変わります。これは使えそうです。

  • ✅ 子どもの聴覚発達・特性を科学的に解説(乳幼児と大人の違いがわかる)
  • ✅ 騒音が言語発達・ストレスに与える影響をデータで示している
  • ✅ 保育室での具体的な吸音改善事例をカラー写真で紹介
  • ✅ APD/LiDの子どもへの気づきと対応のヒントがある
  • ✅ 保育者・建築・政策関係者の連携を見据えた視点がある

▶ 子どもはどのように音を聞いているか(嶋田容子・新曜社)|公式ページ

目次・内容紹介・著者情報を確認できます。保育の音環境改善に関心のある方に特に有益です。

音の科学の本おすすめ③:乳幼児の音楽発達を知る『赤ちゃんは何を聞いているの?』

「歌って泣きやむ赤ちゃん」の理由を、科学で説明できる保育士になれます。

呉東進(くれひがしすすむ)著『赤ちゃんは何を聞いているの?——音楽と聴覚からみた乳幼児の発達』(北大路書房)は、小児科医でもある著者が、音楽・リズム・言葉と赤ちゃんの発達の関係を科学的な根拠に基づいて解説した本です。

本書の最大の特徴は、保育士が日々体験している「あるある」を、科学で裏打ちしてくれる構成にあります。たとえばある特定のCMソングを聴かせると泣いている赤ちゃんが泣きやむ現象、これは単なる偶然ではなく「人の声の周波数特性」と「赤ちゃんの聴覚感度」の一致によって説明できます。マザリーズ(赤ちゃんに話しかける際の独特の高い声)が赤ちゃんの行動に与える影響、子守唄の音楽的特性、言語音声の獲得プロセスなど、0歳から関わる保育士にとって直接役立つ知識が詰まっています。

著者の呉東進氏は、京都大学医学部附属病院小児科助手などを経て同志社大学赤ちゃん学研究センター教授を務めた研究者です。つまり、医学・赤ちゃん学・音楽を横断した、保育士には珍しい視点の本ということです。

  • 保育士が子守唄を歌う際に「音程や声質を意識すること」の科学的な意味がわかる
  • 言語発達が遅れている子どもへの音楽的アプローチのヒントが得られる
  • 乳児保育・0歳児担当の保育士に特に役立つ内容

▶ 赤ちゃんは何を聞いているの?(呉東進・北大路書房)|公式ページ

乳幼児の音楽・聴覚発達と保育の関係を科学的に解説した、乳児担当保育士への推薦書です。

音の科学の本を保育に活かす独自視点:「モーツァルト効果」の落とし穴と正しい音楽活動

「クラシックを流せば頭が良くなる」は、すでに科学的に否定されています。

モーツァルト効果」という言葉をご存知でしょうか。1993年にアメリカで発表された研究をもとに広まった「モーツァルトを聴かせると頭が良くなる」という説です。これが日本でも「胎教にはモーツァルト」「保育室にクラシックをBGMで」という文化として定着しました。しかし1999年の追試でこの「効果」は再現されず、現在では「音楽を聴くだけで劇的に認知能力が向上する科学的根拠はない」とされています。

「えっ、じゃあ音楽活動に意味はないの?」と思うかもしれません。そうではありません。

音楽活動そのもの、つまり「歌う・リズムを叩く・楽器に触れる」といった参加型の音楽体験には、言語発達・社会性・感情表現・身体協調など多方面への効果が確認されています。ベネッセの調査によると、4〜5歳は耳の力が最も発達する時期であり、音楽の基礎力(音感)を育むのに最適な時期とされています。この時期に「聴くだけ」ではなく「参加する音楽体験」を提供することが、保育士の重要な役割です。

「音の科学」の本を読む価値は、こうした「思い込みを正しく更新する」ためにもあります。根拠のある知識を持って音楽活動を設計すれば、保護者への説明にも自信が生まれます。音楽活動の「ねらい」を明確にして、より質の高い保育ができるようになります。それが原則です。

よくある思い込み 科学的な実態
モーツァルトを聴くと頭が良くなる 聴くだけでの認知向上効果は再現されず
にぎやかな保育園は元気の証 85dB以上は言語発達に悪影響の可能性
子どもは音に強い 乳幼児の聴覚は大人より雑音に弱い
歌は楽しければそれでいい 音程・声質・マザリーズには科学的な意味がある

▶ 5歳までが効果大?音楽の習い事の「始めどき」|ベネッセ 教育情報サイト

4〜5歳は音楽の基礎力を育む最適期というデータと、音感発達の仕組みが解説されています。

音の科学の本を読んだ後にできる保育室の音環境改善ステップ

知識を得るだけでは、子どもの環境は変わりません。行動が必要です。

本を読んで「保育室の音環境を改善したい」と感じたとき、最初の一歩として意外と効果的なのが「スマートフォンの騒音計アプリで実際の音量を測ること」です。現在のiPhoneには「ヘルスケア」アプリに聴覚機能が内蔵されており、周囲の音量を記録することができます。また「騒音計」などの無料アプリを使えば、保育室の音量をリアルタイムで数値として確認できます。85dBという数字が「地下鉄の中」と同じだと実感できると、危機感の解像度がまったく違ってきます。

音環境改善には「吸音」が最も効果的です。専門業者に依頼する大規模な工事は必要ありません。まず保育室でできる改善として有効なのが、布製の吸音パネルやカーペット、カーテンの設置です。硬い床と壁だけの保育室では音が反響して残響時間が長くなりますが、柔らかい素材は反響を抑えます。布団や絵本棚の配置を変えるだけでも、室内の音の響きは変わります。

日本建築学会は2020年の「学校施設の音環境保全規準」改訂に伴い、保育施設の室内残響時間の推奨値を「0.4秒(保育室の床面積50㎡・高さ2.5m程度の場合)」と示しています。この数値を意識することが、保育室の音環境改善の具体的な目標になります。また2025年11月には、日本建築学会が国に対して反響音対策の法整備を求める要望書を提出しており、保育室の音環境は今、社会全体の課題として動き始めています。

保育士個人でできることとして、まず「声かけの方法を変える」のも有効です。「声は手渡し」という言葉があります。遠くから大声で叫ぶのではなく、子どもに近づいて穏やかに伝える方法です。これだけで保育室の音量が下がり、保育士の声帯保護にも直結します。知識は行動に変えてこそ意味を持ちます。

  • 🔍 ステップ1:スマホの騒音計アプリで保育室の音量を計測する
  • 🪑 ステップ2:カーテン・カーペット・布製パネルなど柔らかい素材を増やす
  • 🗣️ ステップ3:「声は手渡し」を意識し、子どもに近づいて話す習慣をつける
  • 📖 ステップ4:「音の科学」の本の知識をもとに、園全体での音環境会議を提案する

▶ 日本建築学会による「保育施設の音環境」推奨値について|保育施設の室内音環境改善協議会

保育室の残響時間推奨値の根拠と、音環境改善に向けた公的指針が確認できます。