オスティナートと保育リズム
オスティナートの保育リズムの基本と意味
オスティナートは、同じ音型やリズムなどのパターンを繰り返す音楽的な仕組みで、日本語では「執拗音型」「執拗反復」などとも説明されます。
保育で扱うときの価値は、「繰り返し」自体が目的というより、子どもが安心して乗れる“土台”をつくり、上に歌・動き・言葉・即興を重ねやすくする点にあります。
特に集団活動では、一定のリズムがあるだけで、ばらばらの表現が「同じ場の出来事」としてまとまりやすくなります。
保育での説明は、難しい用語よりも次のように置き換えると伝わりやすいです。
- 「ずっと同じリズムをたたく係(ベース)だよ」
- 「みんなの足場(ドンドン…)を作る音だよ」
- 「同じリズムを続けると、友だちの音も聞こえやすくなるよ」
また、オルフの考え方では、子どもが参加しやすい短い型として、オスティナートで反復したり、小さなロンドのようにつないだりする“基礎的な音楽”が重視されます。
ここで重要なのは、保育者が「リズムを正確にさせる」ことより、子どもが身体で感じて参加できる形に整えることです。
オスティナートの保育リズム遊びの導入手順(模倣→問答→即興)
保育でオスティナートを安定させるコツは、最初から“合奏”を目指すより、段階を踏んで「できた感」を積み上げることです。
オルフの実践整理では、模倣→問答→即興と段階的に進め、繰り返す形(オスティナート)を土台にして発展させる考え方が示されています。
導入の流れ(0〜5歳まで応用しやすい型)
- ①模倣(まねっこ):保育者が短い2拍〜4拍を提示→手拍子・膝・足踏みで全員が同じ型を反復。
- ②問答(かけ合い):保育者が1小節、子どもが1小節で返す(コール&レスポンス)。
- ③即興(つくる):1人(または2人)が自由に鳴らし、周りがオスティナートで支える。
ここでのポイントは、即興の前に「模倣と問答の経験」を十分に入れることです。
いきなり自由にさせると、自由度が高すぎて“何をしていいか分からない”子が出やすい一方、土台があると「ちょっと変える」だけで表現が成立しやすくなります。
年齢別の調整例
- 0〜1歳:保育者が抱っこ・揺れ・膝トントンで一定拍を提示(声は短い擬音でOK)。
- 2〜3歳:足踏み2回+手拍子1回など、身体部位を切り替えるパターンにすると集中しやすいです。
- 4〜5歳:役割分担(足は全員、手は半分、楽器は数人)で“簡単な重なり”を作ります。
オスティナートの保育リズムと楽器あそび(距離・役割・音色)
オスティナートを「周りが鳴らしているから、真ん中も合うはず」と考えると、実は合わないことがあります。
保育の観察研究では、周囲でオスティナートが響いていても、中央の子の即興と結びつかず、アンサンブルとして成立しにくい場面があり、“仲間(音)を感じられる距離”の大切さが示唆されています。
つまり保育者が調整すべきは、リズムの難易度だけでなく、場の配置と関係づくりです。
- 円を大きくしすぎない(音が「聞こえる」だけになりやすい)。
- 真ん中に出る子の近くに“支える2人”を置く(視線と音がつながりやすい)。
- まず2人組で「同時に重ねる」経験をつくってから、全体に広げる。
楽器の選び方は、難しい演奏技術より「鳴らした瞬間に音が成立する」ものが向きます。
具体例(園で扱いやすい順)
- 身体:手拍子、膝、足踏み(最強の導入)
- 小物:ウッドブロック、カスタネット、鈴、タンブリン(音の立ち上がりが明確)
- 音板:鉄琴・木琴(1音でも音楽になりやすく、不要音を外す工夫もしやすい)
さらに、オスティナートは「リズム」だけでなく、言葉や動き、メロディーでも成立するため、楽器が少ない日でも実施できます。
例。
- 言葉オスティナート:「ドンドン・パッ(休み)」を声でも言う
- 動きオスティナート:一定の歩き+止まる、などの反復
- メロディーオスティナート:ド・ミだけ、ソ・ミだけ、など短い反復
オスティナートの保育リズムで「受け止める」声かけと評価
表現活動では、結果よりも「表現する過程」を大切にし、子どもが表現したい気持ちを受け止め支えることが求められる、という整理があります。
また、オルフの考え方に基づく整理では、幼児の表現はコミュニケーションであり、保育者や友だちに受け止められる体験が、表現への意欲を高めるとされています。
オスティナート活動で起きがちな場面は、「リズムを間違えた子」をどう扱うかです。
ここで“直す”が先に立つと、子どもは土台に乗る前に降りてしまいます。そこで、声かけを次の順で組み立てると崩れにくいです。
- ①事実を拾う:「今、音が小さくなったね」「ここ、速くなったね」
- ②意味づけする:「しゅわしゅわみたい」「忍者みたいに静か」など、子の表現として肯定する。
参考)http://www2.ngu.ac.jp/uri/jinbun/pdf/jinbun_vol5602_04.pdf
- ③全体へ共有する:「みんなもやってみよう」→“正解化”ではなく“アイディア化”。
実際の事例整理でも、保育者が「間違い」を否定せず面白さとして受け止めたり、子どもの小さな音をイメージで評価したりすることで、本人の満足感や周囲の模倣につながる様子が示されています。
この「受け止める」が入ると、真似が起き、真似が循環し、活動が持続しやすくなります。
観察研究では、2人でたたく場面で、どちらかが変えるともう一方も変えるなど、固定せずに真似し合うことが見られ、相手を感じ合い受け入れられる関係が活動の持続条件になると整理されています。
したがって保育者の役割は、拍を揃える指揮者というより、「真似し合いが起きる関係」を守る編集者に近いと考えると、援助の方向が定まりやすいです。
オスティナートの保育リズムの独自視点:子どもの「見て真似る」を設計する
保育の現場では「よく聴いて合わせようね」と言いがちですが、実際には、子どもは耳だけで合わせているとは限らず、“動き(見た情報)”が強い手がかりになることがあります。
2人で向かい合ってたたく場面では、音を聴いて変えるというより、相手の動きを見て奏法を真似る様子が示され、目を見合わせて微笑むなど、相手の動きに合わせる楽しさが伝わると整理されています。
一方で、周囲のオスティナートが響いていても、中央の子にとっては切り離されて聞こえ、アンサンブルが成立しにくい場面があり、“距離”が条件になることも示唆されています。
この知見を保育に落とすなら、独自の工夫ポイントは「耳で聴け」より「見て分かる」設計です。
具体策(明日から試せる)
- 保育者の提示は、手拍子より先に“腕の大きい動き”で拍を見せる(視覚情報を増やす)。
- オスティナート係は、あえて向かい合わせの2人から始める(真似し合いが起きやすい)。
- 子どもの即興者が真ん中に出る前に、「隣で一緒に」→「半歩前へ」→「真ん中へ」と距離を段階化する。
- 役割カード(絵)を置く:足=ドン、手=パン、楽器=カン、休み=シー(視覚で迷いを減らす)。
この設計にすると、聴覚が得意な子だけでなく、視覚・身体感覚で理解する子も活動に入りやすくなります。
結果として、一定のオスティナートが“ただ鳴っている音”ではなく、“関係が見える音”になり、保育者の過度な指示がなくても続きやすくなります。
表:オスティナート活動の「つまずき」と援助例
| つまずき | 起きやすい理由 | 援助の具体例 |
|---|---|---|
| テンポが崩れる | 全体が一度に合奏し、視線の手がかりが少ない | 向かい合う2人から開始し、動きを大きく提示する(見て真似る設計) |
| 即興が出ない | 自由度が高く、何をしていいか分からない | 模倣→問答→即興の順で「変えてよい範囲」を体験させる |
| 真ん中の子と周りが噛み合わない | 音は聞こえても“仲間を感じる距離”がない | 円を小さめにし、支える2人を近くに配置する |
| 間違いを怖がる | 正確さが前面に出ると自己表現が止まる | 間違いを「面白い表現」として受け止め、全体に共有する声かけ |
権威性のある日本語の参考リンク(研究・理論の裏取り)
保育の場での「オスティナート」「距離」「真似し合い」に関する観察研究。
http://www2.ngu.ac.jp/uri/jinbun/pdf/jinbun_vol5602_04.pdf
オルフの理念と「模倣→問答→即興」「表現する過程」を保育に接続する整理。
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/kyoiku35-05.pdf

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