音楽の授業で歌う保育士が知るべき声の発達と選曲の技術

音楽の授業で歌う保育士が押さえるべき声の発達と選曲のポイント

保育現場で使われる童謡や歌の約70%は、幼児が無理なく歌える音域(1オクターブ)を超えた音域で作られています。

この記事の3つのポイント
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童謡の約70%は音域が広すぎる

宮崎国際大学の研究では、保育現場で使われる子どもの歌曲集300曲のうち約213曲(70%)が1オクターブ以上の音域。3歳未満の子どもの音域と合わない曲が多い実態があります。

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「大きな声で元気よく」は声帯に危険

保育現場で習慣的に使われるこの声かけが、子どもの声帯に慢性的な負担をかけているケースがあります。現場の65〜73%の保育者が「どなり声」と認識しながら歌わせ続けているという調査結果も。

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わらべ歌は声の発達に科学的根拠あり

わらべ歌の音域は3〜4音と幼児の声域にぴったりマッチ。日本語リズムとの親和性・身体との連動まで、音楽の授業で歌う教材として優秀な理由があります。

音楽の授業と歌が子どもの発達に与える影響とは

 

保育所保育指針では、歌を含む音楽活動は「表現」領域の中心として位置づけられています。「正しい音程で歌うことや楽器を上手に演奏することではなく、子ども自らが音や音楽で十分遊び、表現する楽しさを味わうこと」が目的と明記されています(内閣府、幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説、2015年)。これが原則です。

歌うことで得られる発達への効果は多岐にわたります。リズム感音感の発達、腹式呼吸による運動能力の向上、歌詞を通じた語彙の増加、友だちと声を合わせることによる協調性の育成などが代表的なものです。さらに見逃されやすいのが、人見知りが強い子どもでも集団の中で「全員がスポットライトを浴びる場」として機能するという点です。意外ですね。

普段は集団に溶け込みにくい子どもでも、うたあそびの時間には声を出しやすくなる傾向があります。これはヤマハ音楽財団の調査でも確認されており、音楽には「非言語コミュニケーション」として子どもの緊張を解く作用があるとされています。

音楽の授業・歌の活動が子どもに与える影響として、保育士が現場で意識したい点を整理すると次のようになります。

  • 音感・リズム感:繰り返し歌うことで音の高低やテンポの感覚が育ちます
  • 言語発達:歌詞に触れることで、物語・季節・感情など豊かな語彙を身につけます
  • 社会性:「みんなで声をそろえる」体験が、他者への意識や協調性につながります
  • 情緒の安定:好きな歌を歌うことでストレスが解消され、保育園に来るのが楽しいと感じる動機にもなります

これだけ多くの発達効果があるからこそ、選曲と指導の方法を適切に理解しておくことが保育士としての大切なスキルになります。

参考:保育における歌の効果と実践例(ほいくbox)

音楽の授業で使う歌の音域と子どもの声域の落とし穴

宮崎国際大学の日髙まり子・横山祐里奈両氏の研究(2021年)によれば、保育現場でよく使われる子どもの歌曲集300曲を分析したところ、音域が1オクターブ以上あるものが全体の約70%(213曲)を占めていました。1オクターブが適当とされる幼児の声域と比べると、多くの曲が実は広すぎる音域で作られていることになります。

子どもの声域は年齢によって大きく異なります。1歳児の出せる音域はおおむね「ド(C1)〜ソ(G1)」程度で、鍵盤で言えば「ドレミファソ」の5音分です。2歳になると少し広がり、3歳ではおよそ半オクターブ(ド〜ラ)、4〜5歳でようやく1オクターブ(ド〜ド)が安定して出せるようになってきます。

静岡大学教育学部の武田道子・加藤明代両氏の調査(1274名対象)では、年長男児の57.4%・女児の38.2%の最高音が「一点ト(G1)以下」という結果が出ています。多くの子どもが思っている以上に音域が狭いのです。

音域に合わない高い音域の曲を繰り返し歌わせると、子どもは声帯に過剰な力をかけて叫ぶような「どなり声」になりがちです。どなり声が習慣化すると声帯への慢性的な負担につながります。最悪の場合、声帯結節(声帯にできる「タコ」のようなもの)のリスクが生じます。声帯が問題です。

選曲時に確認したい3つのポイントは以下の通りです。

  • 🎵 最低音・最高音の確認:楽譜の最高点と最低点をチェック。3歳未満なら最高音が「ラ(A1)」を超える曲には注意が必要です
  • 🎵 音程の跳躍幅:一度に5度以上跳躍する箇所が多い曲は幼児には難しくなります
  • 🎵 歌詞のリズム:日本語の自然なアクセントとメロディーが合っている曲の方が、子どもが声を当てやすくなります

ピアノ伴奏が苦手な保育士は、CDや音楽アプリを活用しながらキー(調性)を変えることも有効な選択肢です。子どもの声域に合わせてキーを半音〜2音下げるだけで、どなり声が劇的に減るケースもあります。これは使えそうです。

参考:子どもの音域に合わせた歌の選び方

子供の音域はいつから発達する?年齢に合わせた曲の選び方を解説|EYS-Kids

音楽の授業で「大きな声で元気よく」が声帯を傷める理由

「もっと大きな声で!」「元気よく歌おう!」——この声かけは保育現場で最もよく使われる指示の一つです。しかし、この指導が子どもの声の発達にとってむしろ逆効果になるケースがあることはあまり知られていません。

関東短期大学の久保田和子氏の研究では、埼玉県K市保育所の保育者82名中53名(65%)、S市幼稚園の保育者40名中29名(73%)が「自分の担当している子どもたちはどなって歌っており、自分もそれを認識しながら歌わせ続けている」と回答しています。つまり半数以上の保育者が問題に気づきつつも状況を変えられていないのです。厳しいところですね。

なぜ「大きな声」の要求が問題になるのでしょうか。子どもの声帯は非常に柔らかく、傷つきやすい組織です。大人の指示に応えようとして無理に声を張り上げると、声帯に過剰な圧力がかかり炎症を起こしやすくなります。名古屋学院大学の研究も「元気=大きな声との考えは、声帯を傷付けてしまい音声障害を引き起こす危険性がある」と明確に指摘しています。

さらに同研究によれば、どなり声には次のような副作用があります。

  • 音程が正しく取れなくなる
  • 友だちと声を合わせる楽しさを感じられなくなる
  • 嗄声(声がかすれる状態)になるリスクがある
  • 周囲の音や伴奏を聞きながら歌うことができなくなる

元気よく歌うことと声を張り上げることは別の話です。代替の声かけとして有効なものを見てみましょう。

❌ 避けたい声かけ ✅ 効果的な声かけ
「もっと大きな声で!」 「お口を大きく開けて歌おう」
「元気よく歌って!」 「歌詞がきこえるように歌おう」
「もっとはっきり!」 「先生のお口を見ながら一緒に歌ってみよう」
「声が小さい!」 「おなかに手を当てて、ぼよーんと膨らませて歌ってみよう」

「声量ではなく口の形・呼吸・発音に注意を向けさせる」ことが、声帯を傷めずに歌唱力を育てる基本です。3歳未満のクラスではとくにこの意識の差が、長期的な声の発達に大きな影響を与えます。

どなり声をなくすための具体的な指導方法を詳しく知りたい場合は、以下のサイトが参考になります。

歌の時・・・子どもたちがどなってしまう!!|ペティパ保育研修

音楽の授業でわらべ歌が声の発達に科学的に有効な3つの理由

わらべ歌は保育現場で長年活用されてきましたが、単なる「懐かしい遊び歌」として扱うのはもったいないほど、声の発達支援の科学的根拠が揃っています。

理由の1つ目は、音域の狭さが子どもの声帯に優しいという点です。わらべ歌の多くは「ミ・ソ・ラ」など3〜4音で構成される短い音程の中に収まっており、1歳〜3歳の子どもが無理なく歌える音域と自然にマッチしています。先述の通り、一般的な童謡の70%が幼児の音域を超えているのに対し、わらべ歌はそもそも声帯に無理をかけない構造で作られています。音域が狭いということですね。

理由の2つ目は、日本語リズムとの親和性です。わらべ歌は日本語のアクセントやリズムに基づいて作られているため、子どもが言葉の節を自然に感じ取りやすくなっています。複数の研究が、わらべ歌への継続的な接触が音程取得能力や言語感覚の発達に有効である可能性を示しています。

理由の3つ目は、身体との連動です。わらべ歌には触れ合い・くすぐり・揺らし・拍手などの動きが組み合わさっているものが多く、声を出すことが全身の感覚と結びついて体験されます。保育学的には「触覚」「生命感覚」「運動感覚」「平衡感覚」の4つを同時に育む活動として評価されており、歌うこと単体よりも発達効果が広い点が特長です。

年齢別のわらべ歌の活用例を見てみましょう。

年齢 おすすめのわらべ歌の特徴 代表的な例
0〜1歳 保育士が歌いかけ、スキンシップを伴うもの 「ととけっこう」「いないいないばあ」
1〜2歳 繰り返し・オノマトペが多いもの あんたがたどこさ」「ずいずいずっころばし
2〜3歳 保育士の動きを真似る要素があるもの かごめかごめ」「はないちもんめ
3〜5歳 ルールのある集団遊びと組み合わせるもの 「おてらのおしょさん」「なべなべそこぬけ

わらべ歌は伴奏なしのアカペラで歌えるため、ピアノが苦手な保育士でもすぐに取り組める点もメリットです。5〜11か月の赤ちゃんを対象にした研究では、ピアノ伴奏ありより声だけのシンプルな歌いかけ(アカペラ)の方を長く聞くという結果も出ています(玉川大学・梶川祥世氏ら)。声が基本です。

アカペラ VS 伴奏つき 赤ちゃんが好きなのはどっち?|ON-KEN SCOPE(ヤマハ音楽財団)

音楽の授業で保育士自身の歌い方が子どもの声の発達を左右する

子どもの声の発達を語るとき、ほとんどの情報は「どんな曲を選ぶか」という選曲の話に集中します。しかし実は、保育士自身の歌い方が子どもの声の発達に与える影響は、見逃されがちな重要な要素です。保育士の声は「環境」そのものです。

ヤマハ音楽振興会の嶋田氏らによる研究(2013年)では、同一のわらべ歌を8種類の異なる声質で歌い分けたものを子どもと大学生に聴かせ、印象評価と音響分析を行いました。この研究は、保育士の「声の質」が子どもの反応や感情状態に具体的な違いをもたらすことを示唆しています。つまり上手く歌えるかどうかよりも、子どもに向けてどのように声を使うかが問われているのです。

保育士が日々の歌の時間に意識したい具体的なポイントは次のとおりです。

  • 🎤 子どもより少し高め・ゆっくりめのテンポで歌う:子どもが音を模倣しやすくなります(マザリーズ的な効果)
  • 🎤 口の動きを見えやすい位置で歌う:視覚的な情報が発声の模倣を助けます
  • 🎤 子どもの発声に応答する:子どもが歌ったら同じフレーズを繰り返す、歌ったことを認めるなどの反応で「もっと歌いたい」という意欲につながります
  • 🎤 子どもが声を出すのを「待つ」:少し間を取ると自発的な発声が引き出されやすくなります

乳幼児クラスでは、保育士の歌いかけが子どもの言語発達とも深く関係しています。梶川氏らの研究では、生後7か月の赤ちゃんが保育者の「歌唱音声の中から」単語を切り出せることが確認されており、語りかけと歌いかけは脳内で別々に処理されている可能性も指摘されています。0歳から声かけをすることが大切です。

また、保育士自身が声を酷使して喉を傷めていると、声の質が変わり歌いかけの効果も落ちます。実際、保育養成校の学生を対象にした柴田学園大学の研究(2022年)では、「実習後半になると喉を傷めて声が出しにくくなる」という報告が複数あります。保育士の声の健康は子どもの発達支援の質に直結します。喉の違和感が続く場合は、耳鼻咽喉科への早めの受診が原則です。

さらに、「弾き歌い」の場面でも一点注意があります。ピアノの音量が大きすぎると、子どもが自分の声が聞こえないためにどなり声になりやすくなることが研究で指摘されています。伴奏はあくまで歌の「添え」として、子どもの声を引き立てるボリュームに留めることがポイントです。

保育者の声と歌声の質に関する研究は以下のサイトが参考になります。

保育者の歌声に求められる「声質」に関する実験的研究|ヤマハ音楽振興会

COLD WAR あの歌、2つの心(字幕版)