追いかけっこと夢が子どもの発達に与える深いつながり
追いかけっこで全力で遊んだ日ほど、子どもは午睡中に笑顔で体を動かします。
追いかけっこは「体力づくり」だけではない——遊びの本質と発達的意義
追いかけっこは、保育の現場でもっとも日常的な遊びのひとつです。しかし「体を動かして体力をつける遊び」と捉えているだけでは、半分しか見えていません。
臨床心理士の視点から追いかけっこの本質を解説した「ほいくnote」では、「追いかけっこの本質は、離れてもついてくる関係だ」と述べています。子どもは一人で進んでいきながら、大人が自分を追いかけてくれるかどうかをたえず確認しています。捕まえられると大喜びし、またすぐ走り出す——あの繰り返しには、「自分は守られている」という安心感の確認が含まれているのです。
つまり、本質はこうです。追いかけっこは愛着の確認作業です。
和洋女子大学の佐藤有香教授(保育・幼児教育専門)は、ベネッセの取材に対して「1〜2歳の時期の追いかけっこは、先生や保護者とマンツーマンで行うことで信頼関係や愛着形成を育み、情緒の安定にもつながる」と述べています。追いかけっこは走る遊びである前に、「この人は私のことを追いかけてくれる」という体験を積み重ねる行為なのです。
保育士として子どもと関わるとき、ただ体を動かすためではなく、「私はあなたを追いかけるよ」というメッセージを体全体で届けることが、追いかけっこの真価を引き出します。これは使えそうです。
さらに、追いかけっこを通して子どもが体験する重要な要素がもうひとつあります。それは「大人は子どもが一人ですることを止めはしない」という自立への安心感です。捕まえても、また放して、また追いかける。その繰り返しの中で、子どもは「自分で進んでいい」「大人はちゃんと見ていてくれる」という確信を得ていきます。これが自己肯定感の土台になることを、保育士は忘れてはなりません。
年齢別に見ると、追いかけっこで育まれる力はさらに具体的になります。
- 🍼 1〜2歳:信頼関係・愛着形成・情緒の安定。マンツーマンの関係が基本で、ルールよりも「一緒に動く喜び」が大切です。
- 👟 3歳以上:瞬発力・バランス感覚・判断力が向上します。「どう逃げるか」を自分で考えることが思考力を育てます。
- 🏅 5〜6歳(年長):「どろけい」などのより複雑な遊びで、戦略的思考・チームワーク・協調性が育まれます。
参考:和洋女子大学 佐藤有香教授によるベネッセの解説記事(鬼ごっこで身に付く力と年齢別の遊び方)
鬼ごっこで身に付く力とは?ケース別の遊び方のアイデアやルールの工夫も|ベネッセ
追いかけっこの夢を子どもが見る理由——午睡と記憶定着の脳科学
「先生、今日の午睡で追いかけっこの夢を見た!」と子どもが話してくれた経験はないでしょうか。これは単なる偶然ではありません。
コドモンカレッジが早稲田大学 前橋 明教授(人間科学)への取材でまとめた研究によれば、「午睡は、午前中の活動による脳温を下げての疲労の回復、情報の整理、学んだ記憶を定着させるために必要」とされています。脳科学の観点では、睡眠中——とくにREM(レム)睡眠中——に脳は日中の経験を再処理し、記憶として定着させます。
追いかけっこの夢は、脳が楽しかった体験を整理しているサインです。
BBCニュースが報じたカナダ・マギル大学の研究によれば、レム睡眠中の脳の活動を妨害すると、前日に学んだ内容を覚えられなくなることがマウス実験で示されています。子どもが追いかけっこの夢を見ながら笑っている時間は、脳が「今日の楽しい体験」を未来の記憶として刻み込んでいる時間でもあるのです。
つまり、こういうことです。追いかけっこをしっかり体験した日の午睡は、質の高い学びの時間になります。
これは保育士にとって大きな示唆を持ちます。午前中に全力で追いかけっこをさせることで、午後の午睡の質も上がります。前橋教授も「朝もめいっぱいからだを動かす時間をつくりましょう。朝の活動量の少なさが、午睡に眠りにつけない原因になっている可能性もある」と指摘しています。なかなか寝ない子どもがいるなら、午前中の外遊びの量を見直すことが大切です。
また、筑波大学と京都大学の共同研究(2021年)では、レム睡眠中に大脳皮質で活発な物質交換が行われ、脳がリフレッシュすることが確認されています。子どもが夢を見ながらスヤスヤ眠っている時間は、脳のメンテナンスタイムでもあるのです。
午睡の時間設定については、以下を参考にするといいでしょう。
| 年齢 | 目安の午睡時間 | 起床目安 |
|---|---|---|
| 0歳乳児 | 1〜2時間半 | 午後3時まで |
| 1〜2歳児 | 2時間前後 | 午後3時まで |
| 3歳以上 | 1時間半〜2時間弱 | 午後3時まで |
| 年長(5〜6歳) | 1〜1時間半(または静的活動) | 午後3時まで |
前橋教授は「15時以降には子どもの体温が最高に達するゴールデンタイムとなるため、午後3時までに起こすことで、午後の外遊びの質も高まる」と説明しています。午睡後の15〜17時に再び外遊びを入れることで、夜間の睡眠も深くなり、翌日の追いかけっこがさらに充実します。
参考:コドモンカレッジ 早稲田大学 前橋明教授の研究解説(午睡と記憶定着・脳の発達)
子どもの生活リズムを整える午睡と活動のポイント|コドモンカレッジ
子どもが「追いかけっこの夢を語れる保育士」になりたいと思う理由
保育士を目指す人の多くが「子どもが好きだから」と答えます。しかし、その背景にある原体験を詳しく聞くと、「全力で遊んでくれた先生の姿が忘れられない」「追いかけてくれた先生が大好きだった」という声が少なくありません。
こども家庭庁と第一生命の調査によれば、「幼稚園の先生・保育士」は中学生女子の将来なりたい職業ランキングで3位(6.9%)にランクインしています。数字で見ると少なく感じるかもしれませんが、これは医師・看護師などの人気職と並ぶ数値です。
子どもにとって「夢の仕事」になるほど魅力的な保育士とは何かを考えると、共通点が見えてきます。それは「本気で一緒に遊んでくれる大人」という姿です。
全力で追いかけっこをする保育士の姿が、子どもの夢になります。
厚生労働省の調査では、保育士試験合格者の約8割が就業意思を持っており、就業理由として「子どもと関わる仕事がしたい」が上位に入っています。この数字は、保育士という職業の魅力の核心が「子どもとの直接的な関わり」にあることを示しています。
ゆめのこ保育園のスタッフアンケートでは、「暑くても寒くても毎日のように追いかけっこ(笑)体力勝負です!」という声が紹介されています。実際の保育現場で、追いかけっこは毎日のように行われている「代表的な遊び」であり、保育士の体力と熱意が試される場でもあります。
保育士が全力で追いかけっこをすることの意義はここにあります。
- ✅ 「この先生は本気で遊んでくれる」という信頼体験になる
- ✅ 子どもの自己肯定感を高め、「もっとやりたい」という意欲を育てる
- ✅ 「将来の夢は保育士」と思わせるほどの、憧れの大人像をつくる
追いかけっこは子どもの「今」を豊かにするだけでなく、「将来の夢」を描く土台にもなる遊びです。忘れてはならない視点ですね。
参考:こども家庭庁「保育士・保育の現場の魅力発信に関する取組について」(第一生命調査データ含む)
保育士・保育の現場の魅力発信に関する取組について|こども家庭庁
追いかけっこで夢中になれる子どもを育てる——保育士の関わり方と年齢別アプローチ
追いかけっこを「ただ走らせる」遊びから、「夢中になれる体験」に変えるためには、保育士のかかわり方が重要です。
まず大切なのは、保育士自身が「本気で楽しむ」姿勢です。子どもは大人の感情を驚くほど敏感に読み取ります。義務感でやっている追いかけっこと、心から楽しんでいる追いかけっこでは、子どもの反応がまるで違います。これが基本です。
1〜2歳のかかわり方:安心の土台をつくる
この時期は、マンツーマンの追いかけっこが基本です。広すぎる空間では「どこまで逃げていいかわからない」と不安を感じる子どももいるため、フェンスのある空間や室内など、範囲がはっきりした場所が適しています。「まてまて〜!」と声をかけながら追いかけ、捕まえたらしっかり抱っこする。そのひとつひとつの動作が愛着の積み重ねです。
保育士が「追いかけるふり」だけして捕まえないでいると、子どもが「わざと捕まえられるよう待つ」行動をすることがあります。これが追いかけっこの面白いところです。「捕まえてほしい」気持ちを読んで、タイミングよく抱きとめることが、信頼関係をさらに深めます。
3〜4歳のかかわり方:ルールとスリルを楽しむ
3歳を過ぎると、簡単なルールを理解できるようになります。ただし、長々と説明しても伝わりません。物語と連動させると効果的です。たとえば、絵本『おおかみと7ひきのこやぎ』を読んだあと、「保育士がおおかみ役、子どもたちがこやぎ役」でのごっこ遊び的な追いかけっこをすると、自然にルールへの理解が深まります。
鬼になるのを怖がる子どもには、保育士と一緒に鬼になるという方法が有効です。「鬼ふたりでやってみよう!」とさりげなく誘うだけで、心理的な負担が大きく減ります。厳しいところですね——でも、こうした工夫で乗り越えられます。
5〜6歳のかかわり方:自主性と戦略性を引き出す
年長児は「どろけい」などの高度な遊びが楽しめる時期です。この時期に保育士がやるべき役割は、「プレイヤー」から「環境の設計者」へとシフトします。子どもたち自身が作戦を考え、リーダーシップを発揮できるよう、保育士は少し引いた位置から見守ります。子ども同士でルールを話し合い、自分たちで遊びを発展させていく力を育てることが、この時期の最大のねらいです。
走るのが苦手な子どもへの配慮
追いかけっこが苦手な子どもも必ずいます。そういう時こそ、遊びのバリエーションが力を発揮します。
- 🐢 お尻歩き鬼:お尻を床につけたまま移動する。スピードの差が縮まり、苦手な子どもも参加しやすくなります。
- 🚃 電車鬼:前の人の肩につかまって電車のように動く。「チームで逃げる」ことで、足の速さに関係なく楽しめます。
- 🎯 しっぽ取り:走るのが苦手な子は守る側に回ったり、ハンデを調整したりと工夫の幅が広がります。
体を動かしながら笑顔になれる環境をつくることが、保育士の大切な仕事です。追いかけっこの夢を子どもが楽しそうに語ってくれたとき、その笑顔の背景には保育士の工夫が必ずあります。
参考:臨床心理士による「おいかけっこの遊びの本質」解説(ほいくnote)
【臨床心理士講座】おいかけっこ〜遊びの意味〜|ほいくnote
追いかけっこの夢占い的意味——子どもが「追われる夢」を見たとき保育士はどう読むか
保育の現場では、「先生、おばけに追いかけられる夢を見て怖かった」と話す子どもがいます。夢占い的な観点では、追いかけられる夢は「ストレスや不安、プレッシャーのあらわれ」とされています。子どもが見る「追いかけられる夢」の内容は、保育士にとってひとつのサインになり得ます。
一般的に追いかける夢・追いかけられる夢の意味は以下のように解釈されています。
- 😊 楽しく追いかける夢:健康運が上昇中。活発に活動できている状態を示します。夢の中での笑顔は、日中の充実した遊び体験の反映です。
- 😰 恐怖を感じて追いかけられる夢:心理的な不安やストレス、プレッシャーがあるサインとされています。特に「鬼や怪物」に追われる夢は、精神的不安定な状態と関連することが多いとされます。
- 😄 鬼ごっこで楽しく遊ぶ夢:子どもの頃のような素直な気持ちへの充足感や、日中の遊び体験が夢に再現されているケースです。
- 🤔 追いかけて捕まえられない夢:焦りの感情が夢に表れていることが多く、何かうまくいかない体験がある可能性があります。
保育士として注目すべきポイントがあります。それは「怖い夢」を繰り返し見る子どもの場合です。
もし子どもが「毎日おばけに追いかけられる夢を見る」と訴えるなら、日中の何かしらのストレスや不安のサインかもしれません。「夢の話だから気にしなくていい」と流さず、子どもの最近の生活の変化(新しいクラスへの移行、友達関係のトラブルなど)を振り返ることが大切です。
夢の話を聞くことは、子ども理解の一歩です。
一方、「追いかけっこをして楽しかった夢を見た!」と嬉しそうに話す子どもは、日中の遊びで十分に充実した体験を得ているサインです。前橋教授の研究が示すように、日中にしっかり体を動かすことで睡眠の質が高まり、脳が楽しかった記憶を夢として再処理している状態——これは保育が良い方向に機能している証拠でもあります。
大阪大学の研究(2024年)では、幼児期早期の規則正しい睡眠が社会性発達や脳機能と関連することが示されています。追いかけっこ→充実した午睡→脳の記憶整理→良い夢、という好循環は、子どもの脳と心の発達を同時に支えているのです。
子どもが楽しそうに「夢の話」をしてくれる保育園は、良い保育ができている環境だと言えます。
参考:大阪大学「幼児期早期の規則正しい睡眠が社会性発達や脳機能と関連する」研究発表
参考:マイナビウーマン 鬼ごっこ・追いかける夢の夢占い解説
追いかけっこを「将来の夢」につなげる保育士の独自視点——「体験の質」が子どもの夢を形にする
ここからは、他の記事ではあまり語られない視点をお伝えします。
追いかけっこは「子どもが楽しむ遊び」ですが、その体験の「質」が、子どもが将来持つ夢の具体性に影響を与えると考えられます。
たとえば、毎日全力で追いかけてくれる保育士に育てられた子どもは、「将来は保育士になりたい」という夢を語ることがあります。これは第一生命のランキングデータが示す通りです。「幼稚園の先生・保育士」は子どもにとって「身近な憧れの大人」であり、その印象は遊びの質によって大きく左右されます。
「夢中になれる体験」が、「夢を持てる子ども」を育てます。
脳科学の観点からも、これは説明できます。ハーバード大学の研究で知られるように、子ども期の豊かな遊び体験は非認知能力(やり抜く力・感情コントロール・共感力など)を高め、それが将来の自己実現につながります。追いかけっこは「非認知能力の総合トレーニング」とも言えるのです。
では、どうすれば体験の「質」を上げられるのでしょうか?
ポイント①:追いかけるだけでなく、「声」と「表情」を合わせる
「まてまて〜!」と叫びながら笑顔で追いかける。この一言と笑顔が、子どもにとって「楽しい記憶」を形成します。無言で追いかけるより、声を出して感情を表現することで、子どもの脳がより鮮明にその体験を記憶します。声が大切です。
ポイント②:捕まえた後の「だっこ」「ギュッ」を大切にする
追いかけっこで捕まえた瞬間のスキンシップが、愛着形成の核心です。「捕まえたー!」と抱きしめる体験は、子どもにとって「安全基地への帰還」と同じ意味を持ちます。その安心感が、次の冒険(一人で走り出すこと)への勇気につながります。
ポイント③:「子どもにわざと追いつかれる」演技力も必要
特に1〜3歳の子どもとの追いかけっこでは、保育士が「あ〜、もうすぐ捕まる〜!」と演じることが大切です。子どもが「追いつけた!」という成功体験を積むことで、自己肯定感と達成感が育まれます。意図的に「追いつかれる」ことも保育士の専門性のひとつです。
ポイント④:遊びの後に「振り返り」の時間をつくる
「今日の追いかけっこ、どうだった?」「誰が一番速かった?」と声をかけることで、子どもは体験を言語化します。この言語化のプロセスが、脳の記憶定着をさらに強化します。ベネッセの報告でも指摘されているように、子どもが自分の言葉で体験を語ることが、思考力と表現力の発達につながります。
保育士が「追いかけっこ」に込める意図と工夫の深さが、子どもの「夢」の豊かさを決める——そう言っても過言ではありません。
- 🌱 非認知能力の土台:追いかけっこで育つ「やり抜く力」「感情調整力」「協調性」は、将来の学業・仕事・人間関係の基礎になります。
- 🌱 自己肯定感の蓄積:「追いかけてもらえる」「捕まえられる」「また逃げられる」の繰り返しが、「自分は価値ある存在だ」という感覚を育てます。
- 🌱 夢を語れる子の育成:充実した遊び体験を積んだ子どもは、「将来こうなりたい」という具体的なイメージを描きやすくなります。
保育士が全力で追いかける10分間が、子どもの人生における「夢の種」を蒔いているかもしれません。その意識を持って園庭に出ることが、専門職としての保育士の姿勢です。
参考:三重大学「鬼ごっこ・ルール遊びの展開における保育者の指導・援助」論文(PDF)
