日本の伝承遊び歴史と保育への活かし方

日本の伝承遊び歴史と保育士が知っておきたい深い意味

伝承遊びの由来を知らずに保育に取り入れると、子どもに伝えられる学びが半分以下に落ちます。

📌 この記事の3つのポイント
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伝承遊びの歴史は1600年以上

コマ回しやお手玉など、現代の保育で使われる遊びの多くは飛鳥・奈良時代にまでさかのぼります。遊びの「背景」を知ることで、子どもへの説明力が格段にアップします。

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保育の五領域すべてをカバーする唯一の活動

研究によると、伝承遊びは「健康・人間関係・環境・言葉・表現」の五領域を一度に育む稀有な教材です。正しいねらいを設定するほど、発達への効果が高まります。

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実は「海外発祥」の遊びが多い

かるたはポルトガル語由来、けん玉は16世紀のフランス国王が遊んでいた記録が残るなど、伝承遊びの起源は実に国際的です。この知識は保護者説明や異文化理解の保育にも活用できます。

日本の伝承遊びの歴史的な起源と時代ごとの変遷

 

「伝承遊び」とは、特定の考案者がいるわけではなく、民間の子どもたちの間で自然発生的に生まれ、世代を超えて受け継がれてきた遊びの総称です。研究者の中地万里子氏は「子ども社会の縦横のつながりによって、また大人から子どもへの経路を通して伝えられ受け継がれてきた遊びの総称」と定義しています。

日本の文献に残された最古の遊びは「木登り」とされており、『日本書紀』や『万葉集』には相撲・双六・雪遊びなどの記述が確認されています。遊びが文献に登場し始めたのは、奈良時代から平安時代にかけての頃です。

時代 主な伝承遊び・できごと
奈良時代(710〜794年) おはじき・お手玉が中国から伝来。貴族の宮中遊びとして定着
平安時代(794〜1185年) 凧(たこ)が中国から伝来。折り紙の原型である「包み紙の文化」が貴族の間で流行
室町時代(1336〜1573年) 羽子板遊びが宮中の行事として記録。折り紙・折り鶴の形式が確立
江戸時代(1603〜1867年) めんこ・かごめかごめ・凧あげが庶民に広まる。かるたがポルトガルから伝来し普及
明治〜大正時代 けん玉の現在の形(日月ボール)が大正7年に広島県で考案・出願される

注目したいのは、平安時代より前に中国から朝鮮半島を経由して伝わったコマ回しが、南北朝時代(西暦420〜589年)の文献にすでに記述されているという事実です。つまり1600年以上も前から親しまれてきた遊びが、現代の保育室にも生きているということになります。

これは保育士として非常に重要な視点です。遊びの歴史的な深みを子どもに伝えることで、日本の伝統文化への興味関心を自然に育むことができるからです。

日本の伝承遊びの歴史に学ぶ「海外起源」という驚きの事実

保育士の多くは伝承遊びを「日本固有の文化」と認識していますが、実際には海外から伝わった遊びが多数含まれています。これは保護者向けの説明や、異文化交流の保育活動に活用できる知識です。

まず「かるた」はポルトガル語で「カード」を意味する言葉が語源です。16世紀半ば頃に日本とポルトガルの交流が始まった際に伝わり、当時の日本人が複製品を作ったことで急速に広まりました。現代の「いろはかるた」や「百人一首かるた」はその日本独自のアレンジの結果です。

「けん玉」については、最も古い記録として16世紀のフランス国王アンリ3世が遊んでいたという記述が残っています。英語では「Cup and Ball」、フランス語では「Billeboquet」と呼ばれており、世界各国で古くから楽しまれていた遊びです。現在のけん玉の形(3つの皿と1つの剣先を持つ形)は大正時代に広島県呉市の江草濱次氏が考案したもので、当時は「日月ボール」という名称でした。これは意外な事実ですね。

「おはじき」は奈良時代に中国から伝来したとされています。当初は宮廷での大人の遊びとして定着し、江戸時代に入ってから女の子の遊びとして庶民へと広まりました。「お手玉」も中国伝来とされており、紀元前5世紀頃のリディア(現在のトルコ)が起源という説もあります。聖徳太子もお手玉で遊んでいたという伝承が残っているほどです。

つまり「日本らしい遊び」として子どもたちに伝えている遊びの多くが、実は国際的な交流の中で育まれてきたという事実があります。この視点を持つと、「世界中の人たちが昔から楽しんでいた遊びだよ」という説明ができるようになり、子どもたちの好奇心をより広げることができます。

日本の伝承遊びの歴史が証明する保育の五領域との深い関係

伝承遊びが現代の保育の場で高く評価される理由のひとつに、保育所保育指針で定められた「五領域」との親和性の高さがあります。研究者の飯泉恵氏らによれば、伝承遊びは「健康・人間関係・環境・言葉・表現」の五領域すべての成長を一度にカバーできる、総合的な教育力を持つとされています。

具体的に見てみましょう。

  • 🏃 健康:鬼ごっこや縄跳び、コマ回しなどの伝承遊びは全身の筋力・調整力・持久力を育てます。幼児の運動能力が30年前に比べて低下傾向にある現代(名古屋産業大学・穐丸武臣氏の研究より)において、伝承遊びの運動要素は一層重要です。
  • 🤝 人間関係はないちもんめ・かごめかごめ・鬼ごっこなど多くの伝承遊びはルールを共有し、仲間と協力することで楽しさが生まれます。「自分の番を待つ」「負けを受け入れる」といった社会性の基礎が自然に培われます。
  • 🌿 環境:凧あげ・竹とんぼ・竹馬などの遊びは季節や天候と密接にかかわっており、日本の四季や自然への感受性を育みます。
  • 💬 言葉:わらべうたや「かごめかごめ」「ずいずいずっころばし」などの歌を伴う遊びは、言葉のリズムや意味を体で覚える機会になります。名古屋短期大学の山下直樹教授は、わらべうたについて「簡単で覚えやすい言葉とリズムが特徴で、子育ての知恵がたくさん詰まっている」と述べています。
  • 🎨 表現:折り紙・福笑い・お面作りなどは創造力と表現力を直接育みます。

全国651園を対象にした実態調査(穐丸武臣氏、2005年)では、全国の99%の幼稚園・保育所で伝承遊びが実施されていると報告されています。保育者の80%以上が「幼児の成長・発達に有効であるから」を実施理由として挙げており、伝承遊びの教育的価値は現場でも広く認識されていることがわかります。

五領域との関連を意識してねらいを設定するだけで、保育計画の質が一段と上がります。

幼年期における伝承遊びについての一考察その1(日本野外教育学会):伝承遊びと五領域の関係について詳しく論じた研究論文

日本の伝承遊びの歴史に残る「わらべうた」が子どもの発達を変える理由

わらべうたの最古の記述は平安時代後期にさかのぼります。12世紀に藤原長子が著した『讃岐典侍日記』の中で、幼い鳥羽帝が「降れ、降れ、粉雪(こゆき)」とあどけなく歌う様子が描写されており、遅くとも平安時代にはわらべうたが子どもたちの生活に根付いていたことがわかります。

約900年間にわたって歌い継がれてきたわらべうたには、現代の保育学・心理学の視点からも注目すべき発達効果があります。臨床心理士でもある名古屋短期大学の山下直樹教授は、わらべうたがシュタイナー教育における「12の感覚」のうち発達の土台となる4つの感覚を育むと述べています。

感覚 わらべうたでの育て方 代表的なわらべうた
触覚 抱っこや触れ合いを通じた親子の安心・信頼の形成 いっぽんばしこちょこちょ、いたいのいたいのとんでけ
生命感覚 歌遊びによる生活リズムの形成・自律神経の安定 わらべうた全般、子守歌
運動感覚 体を使った遊びで筋肉・関節のコントロール力を育てる おしくらまんじゅう、なべなべそこぬけ
平衡感覚 膝に乗せて揺らす・ぐるぐる回るなどの動きで空間感覚を養う うまはとしとし、あんたがたどこさ

山下教授は「近年の保育の現場や家庭でわらべうたが歌われなくなったのは淋しい限り」と警鐘を鳴らしています。道具も費用も一切不要で、いつでもどこでも楽しめるわらべうたは、コストゼロで子どもの発達を後押しできる、いわば「最強の保育ツール」です。

わらべうたを保育に取り入れる際は、一斉保育よりも1〜3人との自由遊びや触れ合いの時間での活用がおすすめです。少人数でしっかり触れ合うことで、情緒や心身の発達により強い影響を与えることができます。

「わらべうた」が子どもの発達を左右する!?保育学・心理学的視点から見た伝承遊びの効果(マイナビ保育士):山下直樹教授へのインタビュー記事

日本の伝承遊びの歴史が生んだ「隔世伝承」という独自の文化的価値

日本の伝承遊びには「隔世伝承(かくせいでんしょう)遊び」と呼ばれる、世界的にも珍しい文化的仕組みが存在します。一般の遊びが親から子へと伝わるのに対し、隔世伝承遊びは祖父母から孫へと世代を飛び越えて伝わる遊びのことを指します。

その代表例が「お手玉」です。神奈川県が発行した資料『子どもたちに伝えたい111選 伝承あそび』によれば、お手玉は遊ぶことと同時に裁縫・正座などの行儀作法を祖母から孫娘へと受け継ぐ「伝統教育の場」として機能していました。つまりお手玉は単なる遊びではなく、礼儀や作法を伝える「生きた教科書」だったのです。

折り紙も同様です。室町時代に確立されたとされる「折り鶴」や「やっこさん」は、隔世伝承の代表的な作品であり、創造性を豊かにすると同時に手先の精密な動きを通じて脳の発達も促すとされています。現在、折り紙は世界中から注目を集めており、日本人の器用さを世界に示す文化的シンボルにもなっています。

この「隔世伝承」の視点を保育に取り入れることには、大きなメリットがあります。たとえば、祖父母を保育園に招いて伝承遊びを教えてもらう「世代間交流イベント」を企画すると、子どもたちは遊びを通して年配の方との自然なコミュニケーションを経験できます。実際にこのような取り組みを行っている園もあり、保護者から高い評価を受けているケースが多くあります。

保育士として「この遊びは誰から誰へ伝わってきたのか」という視点を持つだけで、遊びの説明に深みが生まれます。それが子どもたちの「もっと知りたい」という好奇心を引き出す一番の近道です。

子どもたちに伝えたい111選 伝承あそび(神奈川県公式):保育現場で実践できる伝承遊びの種類と隔世伝承の意義をまとめた公式資料

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