長野県 わらべうた 民謡
長野県のわらべうた 民謡が保育園の歌に向く理由
保育園での歌は、「みんなで同じ時間を過ごすための合図」「気持ちを切り替えるスイッチ」「身体を動かすきっかけ」など、実務的な役割を持ちます。わらべうたは元々、生活の場面で自然に使われてきた歌なので、こうした役割にそのまま接続しやすいのが強みです。長野県に残るわらべうたを見ても、遊び・行事・子育ての中で使われ、歌が単独で存在するというより「行為とセット」で受け継がれてきたことが分かります(例:松本の女児行事と歌の関係)。
保育の現場で特に相性がよいのは、次の3タイプです。
-
手遊び系:視線が散りやすい時間の集合、導入、待ち時間のつなぎに向く。
-
子守歌系:午睡前、静けさを作りたい時、安心感の形成に向く。
-
掛け合い・行進系:散歩前後、整列、移動、運動あそびへの導入に向く。
また、長野県のわらべうた・民謡を保育園で扱う意義は「郷土」だけではありません。子どもは言葉の意味が完全に分からなくても、一定の反復や抑揚、呼吸の位置、体の動きがあると参加できます。長野県の伝承歌は、地域行事の中で“みんなで揃える”必要があったため、集団で回しやすい要素(繰り返し、短いフレーズ、掛け声)が残りやすい点も注目できます。
参考)Vol.121「ぼんぼん唄」楽譜から見る民俗行事の営み(R7…
長野県のわらべうた 民謡と子守歌の使い分け
保育園で「歌を教える」より先に、「どの場面で歌うか」を決めると失敗が減ります。子守歌は、寝かしつけのための“音量・速度・音域”が前提にあるので、朝の会や活動の導入に持ち込むと、場のエネルギーが下がりすぎることがあります。一方で、午睡前の導入や、気持ちが高ぶっているクラスを落ち着かせるには、子守歌の設計思想そのものが役立ちます。
長野県の伝承歌を「民謡」「わらべうた」「童謡」と雑に一括りにすると選曲ミスが起きやすいので、園向けには次の整理が実用的です。
-
わらべうた:遊びや行事に結びつく、短い反復が多い。
-
子守歌:眠り・安心が目的で、言葉よりも旋律と揺れが重要。
-
民謡:本来は大人の労働や祝い、芸能の場に結びつくが、掛け声や拍の取り方を抜き出すと幼児にも合う。
「民謡は難しい」と感じる場合、歌全体を再現しようとせず、“導入の掛け声だけ”“サビだけ”“足踏みや手拍子に合う部分だけ”を教材化します。長野県の行事歌の研究例では、楽譜に残る形が一つではなく、採譜時期や実践の都合で拍子や音域が整理されることも示されています。つまり、園向けのアレンジは「改変」ではなく、もともと伝承が持つ可変性に沿った運用だと捉えられます。
参考:松本の「ぼんぼん唄」が、行事の実践に合わせて拍子や歌い方が整理・変化してきた背景
Vol.121「ぼんぼん唄」楽譜から見る民俗行事の営み(R7…
長野県のわらべうた 民謡の地域行事と伝承(ぼんぼん唄)
長野県のわらべうた・民謡を保育に生かすなら、「その歌が“どんな身体動作”と結びついていたか」を掘るのが近道です。松本に伝わる「ぼんぼん」は、お盆時期の女児行事として江戸時代から都市部で盛んだった風俗が、現在は松本にのみ伝承されている、と紹介されています。つまり、歌は“音”ではなく、“行列を作って歩く”“提灯を持つ”“町内で継ぐ”といった動作・道具・空間と一体で残ってきたものです。
この視点は保育の設計に直結します。園で取り入れるなら、例えば次のように分解できます。
-
行列で歩く=室内なら「電車ごっこ」や「お散歩サーキット」に変換できる。
-
提灯=紙コップ提灯、LEDライトで安全に“光る小道具”へ置換できる。
-
町内ごとの節回し=クラスごとの“わがクラス節”を作ってよい根拠になる。
さらに、研究記事では、複数資料の楽譜を比較すると拍子の扱い(不規則拍子が休符で整理される等)や旋律の音域が変化していること、そして「歌いながら歩きやすいよう一部修正」したという保存団体資料の記述にも触れられています。園でも同じで、「子どもが歩きながら歌える」「全員が無理なく声を出せる」形に整えることは、伝承の精神から外れにくいアプローチです。
長野県のわらべうた 民謡の資料・動画で学ぶ方法
現場で困るのは「音源がない」「節回しが分からない」「方言が難しい」の3つです。これに対しては、(1)公的機関の教材動画、(2)地域の博物館・資料館・図書館の講座、(3)既存の収集・全集系資料、の順に当たると効率が上がります。
(1) 公的機関の教材動画
長野県教育委員会の学習支援コンテンツとして、わらべうたの“うたとてあそび”動画がまとまった再生リストが公開されています。保育者が節回しを確認し、手の動きやテンポの目安を掴む用途に向きます(園内研修の導入にも便利です)。
参考)「いっしょに学ぼう」小学校1~3年 – YouTube
(2) 図書館・子育て支援の場
伊那市立伊那図書館では、わらべうた講座の案内が出ており、自治体レベルで“うたおう・あそぼう”型の学びが継続していることが分かります。また、駒ヶ根市の子育て支援センター紹介では、活動として「わらべうた遊び」を実施している旨が明記されており、園外にも実践コミュニティがあると捉えられます。こうした場は「歌そのもの」よりも「子どもに当てる間合い」「遊びの回し方」を学ぶのに強いです。
参考)https://www.inacity.jp/koho/pressrelease/inapress0709/inapress070919.files/PR070919_inatosyokan.pdf
(3) 収集資料・全集
長野・岐阜のわらべ歌をまとめた資料として『日本わらべ歌全集13』の掲載曲例が公開されており、地域名つきで曲が整理されていることが分かります。園で扱う際は、歌詞をそのまま配布するよりも、クラスの年齢に合わせて短いフレーズに切る、または方言部分だけ“音”として残して意味は補助説明に回すと実装しやすくなります。
参考)https://www.komoriuta.jp/archive/ar/A05071919.html
参考:長野県教育委員会の「わらべうた①うたとてあそび」など、節回しと動きを確認できる動画
参考:伊那市立伊那図書館の「わらべうた講座」案内(地域での実践の場の例)
https://www.inacity.jp/koho/pressrelease/inapress0709/inapress070919.files/PR070919_inatosyokan.pdf
長野県のわらべうた 民謡を園で安全に続ける工夫(独自視点)
検索上位の一般的な解説は「由来」「歌詞」「遊び方」で終わりがちですが、保育園で大事なのは“継続できる運用設計”です。ここでは、長野県の伝承歌を題材にしつつ、園で事故やクレームを起こしにくく、かつ子どもの体験が深まる工夫に絞って整理します。
-
音域を下げる・フレーズを短くする(声帯と集団運用のため)
伝承歌は、歌い手が子ども同士だったり、大人が場を仕切ったりと前提が一定ではありません。松本の「ぼんぼん唄」研究では、歩きながら歌う実践に合わせて拍子や音域が整理されうることが示されています。園でも、最初から“正しい旋律”に固執せず、子どもの声が無理なく出る高さに合わせてよい、という考え方が安全面でも継続面でも有利です。
-
接触の強い遊びは「非接触版」を用意する(多様な家庭背景に配慮)
手遊びの中には、押す・引く・回すなど、身体接触が前提のものもあります。園では、感染症流行期や配慮が必要な子もいるため、同じ歌で「手拍子だけ」「自分の肩・膝をタップ」「距離を取って真似する」など代替ルールを最初からセットにします。こうすると、“できない子を作らない”設計になり、クラス全体の安心感が上がります。
-
方言・古語は「意味を固定しない」(言葉遊びとして扱う)
わらべうたの語彙は、方言や古語、当時の生活用語が混ざり、意味を一つに定めにくいことがあります。ここを無理に解説しすぎると、子どもにとって歌が「勉強」になります。おすすめは、
-
先生は1つだけ“こういう意味とも言われるよ”と提示する
-
子どもには“どんな感じがする?”と音の感触を言語化させる
という二段構えです。意味の確定より、音と身体の一致を優先すると、歌が活動に定着します。
-
園の年間行事に「小さな伝承枠」を作る(地域とつながる)
松本の「ぼんぼん」のように、歌が行事と結びつくと記憶に残りやすいことが分かります。園でも「夏の夕方の歌」「お散歩前の歌」「お別れ会の歌」など、年中行事に紐づけた“枠”を作ると、毎年同じ歌が自然に継がれます。行事の規模は大きくなくてよく、提灯の代わりに小さな紙灯りを作る程度でも、「歌が場を作る」体験として十分に機能します。
-
保護者に説明する一文テンプレを用意する(誤解を減らす)
伝承歌は歌詞の一部が現代の感覚に合わないと受け取られる場合もあります。そこで、連絡帳や掲示に次のような一文テンプレを用意しておくと運用が安定します。
-
「昔から歌い継がれてきた言葉の響きを楽しみ、園では年齢に合わせて短く歌ったり、動きを安全に工夫しています。」
この“先回り”があると、現場の先生が毎回説明に追われずに済み、継続できます。
以上を踏まえると、「長野県 わらべうた 民謡」は郷土理解の題材であると同時に、保育の運用を強くする道具にもなります。資料で“正しさ”を確認しつつ、子どもが続けられる形へ整えること自体が、伝承が本来持つ変化の仕組みと噛み合う――この発想が、現場では一番効きます。


