問題解決能力と保育と遊び
問題解決能力の保育と遊びの位置づけ
保育でいう「問題解決能力」は、プリント学習のように一問一答で測る力というより、子どもが身近な事象に関わりながら「気付く・考える・試す・工夫する」を往復する力として捉えるほうが実態に合います。特に保育所保育指針では、子どもが自発的・意欲的に関われるよう環境を構成し、生活や遊びを通して総合的に保育することが重視されます。
そのため「遊び」は、問題解決能力を“教える場”というより、問題が自然に立ち上がる“生活の場”です。たとえば同じ積み木でも、床の素材が変わる・置き場が変わる・友達の人数が増えるだけで、崩れる、取り合いになる、相談が必要になるなど、課題の種類が変化します。
さらに保育所保育指針の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」では、「思考力の芽生え」として、物の性質や仕組みに気付き、予想したり工夫したりすること、また他者の考えに触れて考え直すことが挙げられています。これはまさに、遊びの中の問題解決が「自分の工夫」から「みんなで折り合う工夫」へ広がるプロセスです。
参考:保育所保育指針(環境構成・主体的な活動・思考力の芽生えの記述)
次に、保育園での「歌」をどう位置づけるかです。歌は、単に季節行事の演目ではありません。歌は「テンポ」「繰り返し」「合図」「役割交代」を持ち、遊びのルール形成や協働の入口として非常に相性が良い要素です。つまり、歌は“遊びの外側”ではなく、“遊びを動かすエンジン”にもなります。
- 歌=ルールを固定するもの、ではなく「みんなで共有する合図」
- 歌=静かにさせるもの、ではなく「切り替えのリズム」
- 歌=覚えさせるもの、ではなく「試すきっかけを増やすもの」
ここを押さえると、狙いワードの「問題解決能力 保育 遊び」に“歌”を自然に接続できます。
問題解決能力の遊びとルール遊びの工夫
問題解決能力が育ちやすい遊びの一つが「ルール遊び」です。なぜならルール遊びは、最初から「守れない・理解がずれる・勝ち負けで揉める・納得できない」などの“困りごと”が起きやすく、そこに調整・交渉・再設計が生まれるからです。
ルール遊びを導入する際、保育者がルールを一気に説明してしまうと、子どもは「守る/守れない」しか体験できず、「直す」「提案する」「折り合う」が起きにくくなります。ポイントは、子どもが自分でルールを扱えるように“見える化”し、少人数から始め、状況に合わせてアレンジできる余地を残すことです。
ルール遊びのねらいとして、年齢が上がるほど「ルールを確認しながら遊ぶ」「ルールをアレンジしながら楽しむ」など、子ども側の調整が期待される整理も見られます。こうした段階を意識すると、「問題が起きないように管理する」のではなく、「問題が起きたときに直せる遊び」へ設計が変わります。
- 導入は少人数:まず“理解のズレ”を小さくする
- 見える化:絵カード・実演・置き場の固定で迷いを減らす
- アレンジを許可:子どもが提案して変えられる余地を残す
- 勝敗よりプロセス:勝った理由・負けた理由を“振り返れる問い”にする
歌をここに絡める方法はシンプルです。
「はじめの歌(集合・役割確認)」「途中の歌(チェンジ・交代)」「終わりの歌(振り返り合図)」を決めるだけで、子どもはルールを“音”でも覚えられます。音の合図は文章より即時性が高く、指示が増えすぎるのを防ぎます。
そして意外に効くのが、歌詞を少し“未完成”にしておくことです。たとえば最後のフレーズだけ空けておき、子どもに「今の状況に合う言葉」を入れてもらうと、ルールを“自分ごと化”しやすくなります。
問題解決能力の環境構成と試行錯誤
問題解決能力は、子どもに「考えなさい」と言って育つものではなく、考えたくなる環境(=試行錯誤が起きる環境)で育ちます。保育所保育指針でも、子どもの主体的な活動を大切にし、環境を通して養護と教育を一体的に行うことが示されています。
ここで重要なのが「可塑性(変えられる余地)」です。物の置き方が固定されすぎると、子どもは“正しい使い方”に寄ってしまい、試行錯誤が減ります。逆に、素材が混ざり合い、別のコーナーと行き来できるようにすると、子どもは自分で必要なものを探し、組み合わせ、失敗して調整するようになります。
実践事例の中では、子どもが共通の目的(例:砂場の温泉に水を流す)を持ち、うまくいかない場面で試行錯誤し、友達と協力して解決していく様子が詳細に捉えられています。そこでは、樋からホースへ素材を変える、傾斜を作る、つなぎ目を補強するなど、まさに“工学的な問題解決”が遊びの文脈で起きています。
注目したいのは、保育者が「正解の作り方」を教えず、子どもの“ひらめき”や“困難”が出たタイミングで、環境(道具)を少し更新している点です。これにより、子どもは「自分たちでやれた」感覚を保ったまま探究を続けられます。
参考:試行錯誤・探究を支える具体的な実践(温泉に水を流す、シャボン玉研究所 等)
環境構成を考えるとき、歌は「環境の一部」になれます。たとえば次のように、歌を“道具化”します。
| 場面 | 歌の使い方 | 育ちやすい問題解決 |
|---|---|---|
| 素材が足りない | 「さがしにいこう」の短い歌で探索開始 | 必要な物の見立て・代替案 |
| 協力が必要 | 「せーの」のリズムで持つタイミングを合わせる | 役割分担・協働 |
| うまくいかない | 「もういっかい」の歌で再挑戦を肯定 | 試行錯誤の継続 |
歌は「うまくいかない」を明るく受け止める雰囲気も作ります。これは、失敗を避ける子が増えがちな場面で特に効きます。
問題解決能力の観察と記録と共有
問題解決能力を“育てたつもり”で終わらせないためには、観察と記録が欠かせません。保育所保育指針でも、保育の過程を記録し、自己評価や保育の見直しにつなげることが示されています。
ただし、ここでありがちな落とし穴があります。それは「できた/できない」だけを記録してしまうことです。問題解決能力で見るべきは、結果ではなく過程です。
見る観点を、次のように“動詞”で揃えると、記録が一気に使えるようになります。
- 気づく:何に違和感を持ったか(例:水が止まる場所)
- 予想する:どうすれば良くなると思ったか(例:坂道が必要)
- 試す:実際に何を変えたか(例:道具を替えた、位置をずらした)
- 確かめる:どう評価したか(例:水の流れ方を見た)
- 共有する:誰にどう伝えたか(例:友達に提案、保育者に相談)
ソニー教育財団の実践事例集でも、子どもの気づきや試行錯誤を丁寧に見取り、記録し、次の環境の工夫につなげるサイクル(観る→支える→工夫する→振り返る)が整理されています。ここを園内で共通言語化できると、「あの子は落ち着きがない」ではなく「試行錯誤の回数が多い」「確かめが丁寧」など、見方が変わります。
歌に関しても、記録が役立ちます。歌の時間を「発表の出来」ではなく、問題解決の観点で観察すると、面白い発見が出ます。
- 歌詞が分からない子が、周りの口元を見て追随する(情報収集)
- テンポが崩れたとき、子ども同士で合わせ直す(調整)
- 手遊びの動きが難しいとき、自分なりに簡略化する(代替案)
「歌の上手さ」ではなく「調整の仕方」を見取ると、歌は“認知+社会”の問題解決が同時に見える素材になります。
問題解決能力の歌と保育の独自視点:あえて未完成の遊び
検索上位の一般的な説明では、「問題解決能力=ブロック・パズル・ルール遊び」になりやすい一方で、保育の現場で効くのは“未完成さの設計”です。ここは独自視点として提案します。
未完成さとは、子どもが自分で「埋めなければ進まない穴」が残っている状態です。完成された玩具、完成された製作見本、完成された歌の振り付けは、安心感はありますが、問題が起きにくくもなります。
そこで、あえて“ちょっと足りない”状態を作ります。ポイントは、安全や安心を削らずに、認知負荷だけを少し上げることです。
具体例:歌を「未完成」にする
- 歌詞の一部を空白にして、今日の遊びに合う言葉を子どもが入れる
- 手遊びの動きを1つだけ「自由」にして、各自で考えた動きを持ち寄る
- サビのテンポを変え、子どもに「どっちがやりやすい?」と選ばせる
このとき保育者がやるべきは、「いいね」で終わらせず、選んだ理由を言語化できるように支えることです。保育所保育指針でも、子どもの主体としての思いや願いを受け止め、安心感と信頼感の下で活動できるようにすることが求められています。未完成の設計は、主体性を引き出す反面、不安が出やすいので、土台の安心は必須です。
具体例:遊びを「未完成」にする(歌と連動)
- ごっこ遊びの「お店のルール」を決めきらず、困ったら“相談の歌”を歌って会議にする
- 積み木コーナーに「細い板だけ」など偏った素材を置き、安定させる工夫が必要な状況にする
- 片付けを“ただの撤収”にせず、「次に続く形」で残す(続きの歌で翌日に接続)
意外に効果が大きいのは、「片付けの未完成」です。全部を毎日リセットすると、子どもの探究は分断されます。実践事例でも、子どもの活動意欲が“暗黙のルール(全部片付ける等)”で阻害され得ることが示唆されています。続きが残ると、子どもは翌日、前日の問題を思い出し、再計画して再挑戦できます。これは問題解決能力の“継続性”そのものです。
歌は、その継続性を支える「記憶のフック」になります。昨日の歌を口ずさむだけで、昨日の課題が戻ってくる。ここまで設計できると、歌は行事の飾りではなく、問題解決を支える道具として保育に根づきます。


