三木露風と保育園と童謡
三木露風と保育園と童謡の導入(赤とんぼ)
保育園で「赤とんぼ」を扱うときは、「秋の歌だから歌う」で終わらせず、歌が生まれた背景と、子どもの“今の生活”につなぐ導入を用意すると活動の質が上がります。
三木露風作詞・山田耕筰作曲の「赤とんぼ」は、2007年に「日本の歌百選」に選ばれたとされ、日本を代表する童謡として位置づけられています。
つまり、行事・季節の枠を超えて「日本語の響き」「情景の共有」「記憶の語り」を体験できる教材で、保育のねらい(情緒・言葉・表現)に接続しやすい歌です。
導入の実例(短い語りの型)
- 「夕焼けの空を見たことある?」→子どもの経験を先に出す
- 「今日は“赤とんぼ”っていう歌。昔の人が“だれかにおんぶされて見た空”を思い出して作ったんだって」
- 「みんなは、抱っこやおんぶって、どんな気持ち?」→安心・信頼の感情語につなぐ
この導入のポイントは、歌詞の意味解説を“知識”として渡すのではなく、子どもの身体感覚(抱っこ・おんぶ)や生活場面(散歩・夕方の空)に寄せてから歌うことです。
歌った後に「歌の中の景色、どこが好き?」と聞くと、絵に描く・色を選ぶ・動きで表すなど、表現活動へ自然につながります。
三木露風の赤とんぼ歌詞(負はれて・姐や)保育園の言葉
「赤とんぼ」の一番に出てくる「負はれて見たのは」は、「追われて」ではなく、子守に“おんぶされて見た”という意味だと説明されています。
また三番に出てくる「姐や」は、実の姉ではなく子守として雇われていた少女(子守り)である、という整理が示されています。
保育園ではこの2点を押さえるだけで、歌詞理解のズレが減り、保育者同士の説明も統一できます。
ただし、子どもに「姐や=奉公の子守」と言っても、生活実感から遠くなりがちです。
そこで“意味を落とさず、今の言葉に置き換える”工夫が役立ちます。
置き換え例(年齢に合わせて)
- 3歳頃:姐や=「お世話してくれる人」/負はれて=「おんぶ」
- 4~5歳:姐や=「昔は子どものお世話をするお姉さんがいた」
- 5歳後半:姐や=「働きに来ていたお姉さん」→“昔のくらし”の学びへ
さらに大事なのは、歌詞の言葉を“正解として暗記させる”のではなく、「昔の言葉っておもしろいね」「今はどう言う?」と、言葉への好奇心に変えることです。
こうすると、国語的な理解だけでなく、歌の世界に自分から入る姿勢(読む・聞く・尋ねる)が育ちます。
三木露風の童謡(赤とんぼ)保育園でのねらい
「赤とんぼ」は、作詞されたのが大正10年8月で、月刊雑誌「樫の木」に掲載されたが、当初は題名や歌詞が現在と少し違っていた、という整理があります。
また山田耕筰が曲を付けたのは昭和2年で、のちに映画の挿入歌やNHK「みんなのうた」で広く知られるようになった、と説明されています。
この“成立の歴史”は、保育者がねらいを立てるときの裏付けになり、ただの季節歌から「文化に触れる活動」へ格上げできます。
保育園で立てやすい「ねらい」の例
- 情緒:夕方の空や虫の飛び方を感じ、静かな気持ちを味わう。
- 言葉:古い言い回し(負はれて・姐や)に触れ、意味を想像する。
- 表現:歌のテンポに合わせてスカーフを動かす、夕焼けの色を絵具で作る。
- 関係:安心の記憶(抱っこ・おんぶ)を共有し、他児の話を聞く。
活動の組み立て例(流れが作りやすい)
- 散歩で夕焼け探し(赤・橙・紫のグラデーション)
- 部屋で一番だけ歌う→「おんぶ」ってどんな場面?
- 二番は“桑の実”が難しければ「昔の畑の果物」として紹介し、食の話題へ
- 三番は“別れ”を強調しすぎず、「会えなくなることもある」程度に留める
- 4番で「今、目の前に赤とんぼが止まっている」場面に戻す(過去→現在)
歌詞は一番~三番が過去形中心で、四番だけが現在形になっている、という指摘があり、ここを保育者が理解していると“語り方”が自然になります。
子ども向けには「思い出がよみがえった歌なんだね」と短くまとめれば十分で、切なさを煽らず、余韻を大切にできます。
三木露風とたつの市(童謡の里)保育園の行事
三木露風の生誕地であるたつの市は、児童文化の風土づくりを目指して1984年に「童謡の里宣言」を行い、その後「三木露風賞新しい童謡コンクール」を実施している、と市の案内に明記されています。
このコンクールは、世代を超えて歌い継がれる新しい童謡の創造を目指し、全国から童謡創作詩を募集する取り組みとして紹介されています。
保育園の行事や園内研修では、この“地域文化×童謡”の事例を扱うと、童謡を「昔の歌」ではなく「今も作られ続ける文化」として伝えられます。
行事や保育計画に落とし込むアイデア
- 秋の会:子どもが作った「園の童謡(短い歌詞)」を発表する(曲はわらべうたのリズムでも可)
- 園内掲示:赤とんぼの歌詞から「夕焼け」「竿の先」など情景語を抜き出し、写真と並べる
- 保護者連携:家庭での“抱っこ・おんぶの思い出”を聞き取り、子どもの語りにつなぐ
また、たつの市の案内には開催回数や会場、入賞詩発表会などの情報も載っているため、研修で「自治体が童謡を文化政策として支える例」として紹介できます。
“保育で童謡を扱うことは、表現活動であると同時に文化継承でもある”と説明しやすくなります。
(参考:たつの市の取り組み・コンクール概要)
三木露風と保育園(独自視点)童謡の沈黙と余韻
検索上位の解説は「意味」「背景」「人物紹介」に寄りがちですが、保育園の現場で効く独自視点は、歌い終わった直後の“沈黙”を設計することです。
「赤とんぼ」は、最後が強い結論ではなく、竿の先にとまる情景で止まるため、静かな余韻を残しやすい構造だと読めます。
この余韻は、子どもが“ことばにならない感じ”を抱える練習になり、表現の入口(絵・動き・つぶやき)を広げます。
実践のコツ(沈黙を怖がらない)
- 歌い終わったら10秒だけ何もしない(保育者が先に話さない)
- そのあと一言だけ:「いま、どんな色が見えた?」
- さらに一言だけ:「だれに“おんぶ”してもらったこと、ある?」
注意点もあります。
三番には「嫁にゆき」「たよりもたえはてた」と別れを想像させる表現があるため、家庭背景に配慮し、無理に個別の事情を引き出さないことが大切です。
“語らない自由”を守りつつ、語りたい子には「うんうん」と受け止める—この距離感が、童謡を安全な活動にします。
(参考:歌詞の異同、負はれて・姐やの解説、過去形と現在形の読み)
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/2018-10-09-11-19

日本の詩歌 (2) 土井晩翠 薄田泣菫 蒲原有明 三木露風 (中公文庫)

