郷愁の歌ノスタルジックサウンドを保育士が活かす方法

郷愁の歌・ノスタルジックサウンドを保育士が保育に活かす全技法

ノスタルジックな歌を子どもに聴かせても意味がないと思っていると、毎日の保育で使えるツールを丸ごと損しています。

この記事でわかること
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ノスタルジックサウンドとは何か

郷愁を誘う音楽の特徴(ヨナ抜き音階・昭和童謡など)と、保育における基礎知識を解説します。

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子どもへの具体的な効果

郷愁の歌が子どもの情緒安定・語彙力・記憶力にどう作用するか、研究データをもとに紹介します。

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保育士自身のセルフケアへの活用

新卒保育士の3年以内離職率が約41.5%という現実のなか、懐かしい音楽が保育士のメンタルを守る理由を解説します。

郷愁の歌・ノスタルジックサウンドとは何か、保育士が知るべき基礎知識

 

「ノスタルジックサウンド」とは、聴いた瞬間に懐かしさや温かさがこみ上げてくる音楽全般を指します。日本においては、ヨナ抜き音階ド・レ・ミ・ソ・ラの5音で構成され、ファとシを使わない音階)を基礎にした童謡・唱歌・昭和歌謡がその代表格です。「赤とんぼ」「ふるさと」「たき火」「里の秋」などはすべてこの音階を骨格に持ち、日本人の耳に”なんとなく懐かしい”という感覚を自然に呼び起こします。

つまり「ヨナ抜き=郷愁の音」が原則です。

このヨナ抜き音階は、明治時代の『小学唱歌集』が編纂された頃から日本の学校音楽の骨格を形成し、150年以上にわたって世代を超えて歌い継がれてきました。保育士として現場に立つ皆さんも、幼少期にこれらの歌を歌った経験があるはずです。その記憶と感情のつながりこそが、ノスタルジックサウンドの本質的なパワーと言えます。

保育の現場で「懐かしい歌なんて子どもには関係ない」と判断してしまうのは、もったいないことです。昭和の童謡・唱歌の多くは著作権保護期間(作詞者・作曲者の死後70年)を終えており、無料・自由に使用できる曲が非常に多く存在します。一方で、昭和後期以降の歌謡曲については著作権が存続していることも多く、保育園内での使用にはJASRACへの手続きが必要なケースがあります。曲を選ぶ際はまずその点を確認することが大切です。

分類 代表曲例 著作権の目安
明治〜大正の唱歌 ふるさと・赤とんぼ・朧月夜 パブリックドメイン(基本的に自由使用可)
昭和初〜中期の童謡 たき火・里の秋・みかんの花咲く丘 死後70年経過で順次パブリックドメイン化
昭和後期〜の歌謡曲 岩崎良美「郷愁のうた」など JASRAC管理が多い(要確認)

参考:著作権・ノスタルジック音楽の基礎知識について

童謡を店舗BGMとして商用利用するには?著作権に注意が必要! – モンスター・チャンネル

郷愁の歌が子どもの情緒に与えるノスタルジックサウンドの科学的根拠

「童謡や昔の歌は子どもに古くさい」と感じる方もいるかもしれませんが、研究データはその逆を示しています。これは意外ですね。

京都大学をはじめとする複数の研究によれば、懐かしい音楽(ノスタルジックな楽曲)を聴くことは、聴いた側のポジティブ感情を高め、自伝的記憶の想起量を増やす効果が確認されています(Janata, Tomic, & Rakowski, 2007ほか)。つまり、音楽が感情の記憶を引き出す「鍵」として機能するのです。子どもにとっても、保育士さんが優しく歌ってくれた「ふるさと」や「赤とんぼ」は、その後の人生で”安心の記憶”として長く根付きます。

音楽が脳の聴覚皮質を活性化すると、セロトニン(幸福感・安心感をもたらす神経伝達物質)やオキシトシン(「愛情ホルモン」とも呼ばれる絆ホルモン)が分泌されることが知られています。こうした物質の分泌は、子どもの情緒安定・集中力向上・ストレス軽減に直結します。

特に注目したいのが「ヨナ抜き音階」の特性です。この音階は跳躍が少なく音域が比較的狭いため、子どもが声帯に負担をかけずに自然な発声で歌えます。無理なく声が出る、という点は保育の現場での実践において非常に重要です。

  • 🎶 語彙力の向上:童謡の歌詞には「こがらし」「おぼろ」「ほたる」など、日常会話ではほとんど使われない美しい古語が多く含まれています。日常的にこれらの歌を歌う子どもは、語彙数が多い傾向が研究で示されています。
  • 🧠 記憶力の発達:歌詞を覚えることで記憶の定着が促されます。4〜5歳は聴覚野の神経細胞が最も発達する時期とされており、この時期に繰り返し歌に触れることで脳の発達に良い影響を与えます。
  • 🌿 季節感・自然への感受性:「たき火」「みかんの花咲く丘」のような曲は、自然の風景をリアルに描写しており、子どもが季節を体感・想像する力を育みます。
  • 🤝 コミュニケーション促進:みんなで同じ歌を歌う体験は、言葉でのやり取りが少なくても一体感を生み出し、子ども同士の感情共有を助けます(岡山大学研究)。

参考:童謡・唱歌の保育への効果について

郷愁の歌を保育現場で活かすノスタルジックサウンドの具体的な使い方

実際にノスタルジックな曲を保育の場面に取り入れるには、「どの場面で・どの曲を・どう使うか」の設計が大切です。これが基本です。

お昼寝・休憩時間のBGMとして

子どもが眠りにつく時間帯に「揺りかごのうた」「七つの子」などのゆったりとした童謡をピアノや音源で流すと、副交感神経を優位にさせる効果が期待できます。テンポはBPM(1分間の拍数)60前後が理想とされており、これはちょうど安静時の心拍数に近い値です。そのため、心が自然に落ち着きやすい状態が生まれます。

朝の会・帰りの会での歌唱活動として

季節の変わり目には「春がきた」「たき火」「ゆき」などの季節の唱歌を選曲することで、子どもが季節を感じ取る感性が養われます。保育士が伴奏なしのア・カペラで歌ってみせることも非常に効果的です。子どもは保育士の声に引き寄せられ、自然と一緒に歌い始めます。

手遊び・リズム遊びとの組み合わせ

わらべうた(「かごめかごめ」「はないちもんめ」など)はノスタルジックサウンドの中でも特に子どもの発達との親和性が高いジャンルです。触覚・運動感覚・平衡感覚という発達の土台となる感覚を同時に刺激することが、保育学・心理学の研究で確認されています(マイナビ保育、2024)。

選曲の際に活用できるツールとして、NHKが公開している「NHKデジタル教材アーカイブ」や、Audiostock・BGM.ne.jpといった著作権フリーBGM配信サービスがあります。保育利用可とラベルされた曲を選べば、安心して園内で流せます。

なつかしい(ノスタルジック・郷愁)著作権フリーBGM音楽素材 – Audiostock

保育士自身のセルフケアに郷愁の歌・ノスタルジックサウンドが効く理由

保育士の新卒3年以内の離職率は約41.5%(厚生労働省データ)という現実があります。これは大学卒業者の全産業平均12.0%と比べると、実に3倍以上という高さです。日々の業務で感情を使い続ける保育士にとって、自分の心を守る手段を持つことは職業的な必須スキルと言えます。

痛いところですね。

ノスタルジックな音楽は、聴く人に「懐かしさ」「安心」「自己連続性の感覚(今の自分は過去の自分とつながっている、という実感)」をもたらすことが心理学研究で示されています(Southampton Nostalgia Scale 研究グループ)。過去の大切な思い出を思い返すことで、自分が一貫した存在であるという感覚が強化され、現在の孤独感・疲弊感が和らぎます。

保育士が職員室でひとり休憩する5分間に、好きな童謡や昭和のメロディをイヤホンで聴くだけでも、ドーパミン(快感・意欲に関わる物質)とセロトニンの分泌を促す効果があることが知られています。これは使えそうです。

具体的に試してほしい方法を紹介します。退勤後の帰路に「ふるさと」や幼い頃に好きだった童謡をスマートフォンで聴くのはハードルが低く始めやすいです。YONAKAやanoのように「昭和歌謡テイストを現代風にアレンジした」ジャンルの音楽も、ノスタルジックな感覚を持ちながら新鮮さもあるため保育士世代に人気が高まっています。懐かしさと新しさが同居しているのが、この音楽の魅力と言えます。

  • 🎧 休憩中に1〜2曲:5分の休憩時間でも「七つの子」「赤とんぼ」1曲を聴くだけで気持ちがリセットされる体験を持つ保育士は多くいます。
  • 🏠 帰宅後のルーティンに:入浴しながら好きな童謡を口ずさむと、副交感神経が優位になりやすく質の良い睡眠につながります。
  • 📱 スマートフォンアプリの活用:Spotify・Amazon MusicにはJASRAC処理済みの懐かしい歌プレイリストが豊富にあります。「童謡」「昭和歌謡」で検索すると、すぐに見つかります。

参考:保育士のメンタルヘルスケアについて

【保育士の独自視点】郷愁の歌で保護者との距離が縮まる意外な理由

保育士と保護者の関係は、子どもの成長を支える大きな柱です。しかし、「どう話しかければよいか分からない」「連絡帳以外のコミュニケーションが苦手」という声は現場で少なくありません。ここにノスタルジックサウンドが思わぬ橋渡しをしてくれることがあります。

たとえば、お迎えの時間に保育室から「ふるさと」のメロディが流れていると、保護者の多くが「あ、懐かしい」と自然に足を止めます。人は郷愁を感じた瞬間、心の防衛が薄れて感情が開きやすくなるのです。心理学用語でいう「感情の開口(emotional opening)」が起きている状態で話しかけることで、保護者との会話が弾みやすくなります。

また、昭和の童謡・唱歌の多くは保護者世代(30〜40代)も幼少期に親から歌ってもらったものです。「今日、○○ちゃんが”七つの子”を歌っていましたよ」と一言添えるだけで、保護者の記憶の扉が開き、「私も小さい頃に歌ったな…」という感覚から会話が生まれます。これは保育士の意図した「場づくり」と言えます。

つまり、郷愁の歌は保育士と保護者をつなぐ「共通言語」になるということですね。

保育の日誌や連絡帳にも活用できます。「今日はクラスで”たき火”を歌いました。○○ちゃんは手をたたきながら楽しそうに歌っていました」という一文は、子どもの様子を伝えながら保護者に懐かしい感情も呼び起こす、一石二鳥の表現です。このような細かな工夫の積み重ねが、長期的な信頼関係の構築につながっていきます。

  • 🌸 お迎え時のBGM選択:16〜18時台のお迎え時間には「朧月夜」「みかんの花咲く丘」などのゆったりとした唱歌を流すと、保護者の緊張が自然にほぐれる環境が生まれます。
  • 📝 連絡帳・保育日誌への記録:歌の活動を記録する際に、曲名と子どもの様子を具体的に書くことで、保護者との対話のきっかけが自然に生まれます。
  • 🎤 保育参観での歌唱発表:子どもが保護者の前で童謡を歌う場面は、保護者の共感と感動を引き出す最大の機会です。「赤とんぼ」「ふるさと」は年齢を問わず保護者の心に届く選曲です。

参考:保護者と保育士の信頼関係構築について

保護者と保育士の信頼を育む 円滑なコミュニケーションと情報交換 – little-i-land

女声合唱とピアノによる日本の歌 郷愁に寄せて