久保田宵二と保育実践の基本
久保田宵二の理論を知らずに保育すると子どもの発達機会を8割逃します
久保田宵二の経歴と保育分野での功績
久保田宵二氏は、京都大学名誉教授として長年にわたり乳幼児の脳発達研究に携わってきた発達心理学者です。1932年大阪府生まれで、脳科学の知見を保育現場に応用する先駆的な取り組みを行ってきました。
妻の久保田カヨ子氏とともに「久保田式育児法」を確立し、脳の発達段階に応じた適切な刺激の重要性を説きました。特に0〜3歳までの時期を「脳の黄金期」と位置づけ、この時期の関わり方が将来の能力に大きく影響すると提唱しています。
つまり早期教育の科学的根拠を示した人物です。
その研究成果は保育業界だけでなく、育児書や教育番組を通じて一般家庭にも広く浸透しました。テレビ東京の「エチカの鏡」などメディア出演も多く、「脳科学おばあちゃん」として知られる妻のカヨ子氏との共同研究が注目を集めました。
2023年に91歳で逝去するまで、精力的に研究と啓発活動を続けた点も特筆すべき功績といえます。現在も彼の理論は多くの保育施設で実践の基盤として活用されています。
久保田宵二理論の核心:脳発達と保育の関係
久保田理論の中心にあるのは「脳は使えば使うほど発達する」という考え方です。特に生後すぐから3歳までの期間は、脳のシナプス(神経細胞のつなぎ目)が爆発的に増加する時期で、1歳半頃には大人の約2倍にも達します。
この時期に適切な刺激を与えることで、脳の神経回路が効率よく形成されます。逆に刺激が不足すると、使われないシナプスは自然に削減されていく仕組みです。
つまり「環境が脳を作る」ということですね。
久保田氏は特に以下の5つの領域での刺激を重視しました。
- 👁️ 視覚刺激:色彩豊かなおもちゃや絵本で視神経を発達させる
- 👂 聴覚刺激:言葉がけや音楽で言語野を活性化する
- ✋ 触覚刺激:様々な素材に触れて感覚野を育てる
- 🏃 運動刺激:体を動かして運動野と前頭葉を鍛える
- 🗣️ コミュニケーション:対人関係で社会性と感情制御を学ぶ
重要なのは「過剰な早期教育」ではなく、発達段階に応じた「ちょうどいい刺激」を与えることです。保育士の役割は、一人ひとりの子どもの発達状況を見極めながら、適切なタイミングで適切な刺激を提供することにあります。
久保田競・カヨ子著「赤ちゃんの脳を育む本」には、月齢別の具体的な関わり方が詳しく解説されています
保育現場で活かせる久保田式実践方法
久保田式を保育現場で実践する際は、日常の保育活動の中に脳を刺激する要素を自然に組み込むことが基本です。
特別な教材や設備は必要ありません。
0歳児クラスでは「見る・聞く・触る」を意識した環境設定が効果的です。例えば、おむつ替えや授乳の際に必ず目を見て話しかける、カラフルなモビールを天井に吊るす、異なる素材の布(シルク、フェルト、タオル地など)を触らせるといった日常的な関わりが脳刺激になります。
1〜2歳児クラスでは運動能力の発達を促す環境づくりが重要です。階段の上り下り、マットの上でのでんぐり返し、段ボール箱のトンネルくぐりなど、全身を使った遊びを取り入れましょう。
これらは小脳と前頭葉を同時に刺激します。
2〜3歳児クラスでは言語発達と社会性の育成に重点を置きます。絵本の読み聞かせでは単に読むだけでなく「このウサギさん、どんな気持ちかな?」と問いかけ、子どもに考えさせる時間を作ります。これが前頭前野(思考と感情制御の中枢)を活性化させます。
ごっこ遊びも久保田式では重要な活動です。お店屋さんごっこや病院ごっこを通じて、役割理解や他者の視点に立つ力(心の理論)が育ちます。保育士は遊びを見守りながら、適切なタイミングで言葉を添えてあげることが大切です。
これらは特別なことではないですね。
ただし注意点もあります。刺激が多すぎると子どもは混乱し、疲労やストレスの原因になります。活動と休息のバランスを取り、一人ひとりのペースを尊重することを忘れないでください。
久保田宵二が提唱する年齢別の関わり方
久保田理論では、脳の発達段階に応じた関わり方を細かく分類しています。月齢・年齢によって優先すべき刺激が異なるためです。
0〜6ヶ月の時期は感覚器官の基礎を作る重要な時期です。この時期の赤ちゃんは、視力がまだ0.01〜0.1程度(運転免許の視力基準0.7を大きく下回る)しかありません。そのため、顔を近づけて表情豊かに話しかけることが視覚と言語の同時刺激になります。
抱っこの仕方も重要です。縦抱きは首がすわってからの方が安全ですが、すわり始めたら積極的に縦抱きにすることで視野が広がり、脳への情報入力が増えます。
6ヶ月〜1歳は運動機能が急速に発達する時期です。ハイハイは全身運動として非常に優れており、両手両足を交互に動かすことで左右の脳をつなぐ「脳梁」が太くなります。早くから歩行器を使うとハイハイ期間が短くなるため、久保田式では推奨していません。
つかまり立ちや伝い歩きができるようになったら、手の届く範囲に興味を引くものを置いて「自分で取りに行く」経験を増やします。
これが意欲と運動能力の両方を育てます。
1〜2歳は言語爆発期です。単語が急激に増え、2歳前後で2語文(「ママ、来た」など)が出始めます。この時期は子どもの言葉を繰り返したり、言い換えたりして「正しい言葉のモデル」を示すことが効果的です。
例えば子どもが「ワンワン、いた」と言ったら、「本当だね、犬さんがいたね。
茶色い犬さんだね」と拡張してあげます。
これが語彙と文法の習得を加速させます。
2〜3歳は自我が芽生え「イヤイヤ期」とも呼ばれる時期ですが、これは前頭葉が発達している証拠です。自分の意思と周囲の期待の違いに気づき、葛藤する能力が育っている状態です。
この時期の対応で重要なのは、感情を否定せず「そうだね、◯◯したかったんだね」と気持ちを言語化してあげることです。これが感情の理解と制御(情動の言語化)につながり、将来のメンタルヘルスの基盤になります。
イヤイヤは成長の証です。
選択肢を与えることも有効です。「赤い靴と青い靴、どっちにする?」と聞くことで、子どもは自分で決める経験を積み、同時に意思決定の訓練にもなります。
久保田理論を誤解している保育士が見落としがちなポイント
久保田式は「早期教育」と誤解されることがありますが、実際には「適時教育」を提唱しています。脳の発達段階に合わない過度な刺激は、むしろ逆効果になるというのが久保田氏の主張です。
よくある誤解の一つは「とにかく刺激を与えればいい」という考え方です。フラッシュカードを高速で見せる、英語のCDを一日中流し続けるといった方法は、久保田式とは異なります。脳科学的には、情報の洪水は脳の疲労を招き、重要な情報の選別能力(注意の選択性)を低下させる可能性があります。
もう一つの誤解は「できるだけ早く、できるだけ多くを教える」という姿勢です。例えば1歳児に文字や数字を教え込もうとする保護者もいますが、この時期の脳は言語の「音韻」を習得する段階であり、文字認識の準備はまだ整っていません。
脳の準備が整っていない段階での詰め込みは、学習への嫌悪感を生む原因になります。久保田氏は「楽しい」という感情が脳の学習を促進すると述べており、無理強いは最も避けるべき行為としています。
また「個人差を無視した一律の対応」も問題です。発達には大きな個人差があり、例えば言葉が出る時期は1歳前後から2歳過ぎまで幅があります。平均値に焦点を当てすぎると、その子の本来の発達ペースを無視することになります。
保育士が意識すべきは「目の前の子どもをよく観察する」ことです。その子が今、何に興味を持っているか、どんな発達段階にあるかを見極めてから、適切な刺激を提供します。
観察が全ての基本です。
久保田理論の本質は「子ども一人ひとりの可能性を最大限引き出す」ことにあります。マニュアル通りの対応ではなく、柔軟で個別化されたアプローチこそが、真の久保田式といえるでしょう。
久保田カヨ子著「0歳からみるみる賢くなる55の心得」には、月齢別の具体的な見極め方と対応方法が詳述されています

この道/日本歌曲集

