喜歌劇こうもり序曲の基礎知識から保育への活用まで
「こうもり」序曲を子どもに聴かせると、知育よりも先に先生が感動して泣いてしまう事例が報告されています。
喜歌劇こうもり序曲の作曲者ヨハン・シュトラウス2世とは
ヨハン・シュトラウス2世(1825〜1899年)は、「ワルツ王」という称号で世界中に名を知られたオーストリアの作曲家です。
彼が残した作品のうち最も有名なものは「美しく青きドナウ」ですが、晩年になると活動の軸足をウィンナ・ワルツからオペレッタ(喜歌劇)へと移していきました。その転機を後押ししたのは、オペラ歌手でもあった妻イェッティと、アン・デア・ウィーン劇場の支配人だったと伝えられています。
喜歌劇「こうもり」(ドイツ語:Die Fledermaus / ディー・フレーダーマウス)は1874年に作曲され、同年4月5日にウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で初演されました。驚くべきことに、シュトラウス2世はこの傑作をわずか6週間で書き上げたとされています。A4用紙換算で数百ページにも及ぶスコアを6週間。これはほぼ睡眠を削り切って書いたと言われるほどの集中ぶりです。
この作品はベルリンとウィーンで瞬く間に大成功を収め、当時オペレッタの第一人者とされていたフランスのオッフェンバックを「たった一作で追い抜いた」と絶賛されました。つまり、ヨハン・シュトラウス2世はワルツの巨匠であるだけでなく、オペレッタ史上も最大級の功績を残した人物なのです。
保育士のみなさんが子どもたちにこの曲を紹介するとき、「この人はウィーンでは皇帝よりも有名と言われたほどの音楽家なんだよ」と伝えると、音楽への関心が格段に高まります。これは使えそうです。
喜歌劇こうもり序曲の曲の構成と音楽的特徴
序曲とは「序幕の前に演奏される音楽」のことです。喜歌劇「こうもり」の序曲は、本編(オペレッタ全3幕)の中に登場するいくつかの主要な旋律をポプリ(メドレー)形式でまとめた構成になっています。
演奏時間は約7〜8分。フルオーケストラ(ピッコロ、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン、トランペット、トロンボーン、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、弦楽器など)で演奏されます。
曲の流れはざっくりと以下の通りです。
- 🎺 元気よく華やかな序奏で始まる。最初の音を聴いただけで「あ、知ってる!」と思える明快さが特徴。
- 🎻 オーボエが柔らかく歌うような旋律を奏でる中間部。ここでは「ロザリンデの嘆き」などオペレッタ本編の旋律が次々と顔を出す。
- 🔔 第2幕の最後を告げる「6回の鐘の音」が序曲の中にも登場。子どもたちに「今から何回鳴るか数えてみて」と伝えると、自然と集中して聴き始める。
- 💃 ウィンナ・ワルツやポルカのリズムが躍動し、フィナーレに向けて盛り上がる。最後は今まで出てきた旋律が賑やかに再現され、浮き浮きとした気分のまま曲が閉じられる。
この序曲の最大の魅力は「入り口の低さ」です。難しい予備知識がなくても、誰でも最初の数十秒で引き込まれます。実際、この冒頭部分はかつてNHK-FMで放送されていた「オペラアワー」のテーマ曲に使われており、日本でも長い間、多くの人の耳に親しまれてきた旋律です。
結論は「聴き始めるだけで十分」です。まずBGMとして保育室に流すだけでも、子どもたちの感受性を刺激する第一歩になります。
石川フィルのファンサイト「OEK fan」による「こうもり」の詳細な楽曲解説。各幕の曲目や構成内容が丁寧に解説されています。
喜歌劇こうもり序曲のあらすじと題名の由来
「こうもり」という題名を聞いて、「暗くて怖そう」と感じた保育士さんもいるかもしれません。しかし、内容は全く逆です。
この作品は、ウィーンの19世紀を舞台にした「笑いあり、仮装ありのドタバタ喜劇」です。吉本新喜劇に通じるコメディ精神とも評されるほどで、シーンごとに笑いのネタが仕込まれています。
題名「こうもり」の由来
主人公ファルケ博士の友人アイゼンシュタインが、かつて仮装舞踏会から帰る途中のファルケをコウモリの衣装のまま街中に酔いつぶれた状態で置き去りにしてしまいます。翌朝、その格好のまま街を歩いているファルケを見た子どもたちが「こうもり!こうもり!」とからかいます。この「こうもり博士」というあだ名が、作品タイトルの由来です。動物のコウモリの話ではありません。
物語の骨格
ファルケは3年後、アイゼンシュタインに復讐を計画します。仮装パーティーに彼を誘い込み、実は仮装したアイゼンシュタインの妻ロザリンデに彼が浮気を働くよう仕掛けます。仮面の女性を口説いたアイゼンシュタインは証拠の懐中時計を奪われてしまい、最後は平謝り。「全てはシャンパンのせい」と妻に許してもらって大団円、という楽しいストーリーです。
子どもたちへの導入として、「仮装した人が眠っちゃって、コウモリってあだ名をつけられたんだよ」という一言だけでも、十分に興味を引くことができます。難しい言葉は不要です。
早稲田大学交響楽団による「こうもり」の詳細なあらすじ解説。各幕の展開が図解入りでわかりやすく紹介されています。
喜歌劇こうもり序曲が特別な理由〜ウィーン大晦日の恒例上演
保育士のみなさんが子どもたちに「この曲、特別な曲なんだよ」と伝えるとき、これほど説得力のあるエピソードはなかなかありません。
通常、オペレッタという演劇ジャンルは、格式の高いオペラハウスでは上演されません。ウィーン国立歌劇場のような最高峰の舞台は、かつてオペレッタに門戸を閉ざしていました。ところが「こうもり」だけは例外です。毎年12月31日の大晦日、ウィーン国立歌劇場ではこの作品を上演するのが恒例行事となっています。ウィーン版の「行く年来る年」とも呼ばれる、街ぐるみの年末の風物詩です。
「オペレッタのくせにオペラハウスに上がれる唯一の作品」。これは音楽史における別格の評価であり、「こうもり」が単なる娯楽作品ではなく、本物の芸術として世界に認められた証です。
さらに、カルロス・クライバーというカリスマ的指揮者もこの曲を特別に愛したことで知られています。来日公演でもアンコールとして取り上げ、腕をぐるぐると回すユニークな指揮ぶりで観客を魅了しました。ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでもこの序曲を取り上げるなど、クラシック音楽の世界では「こうもり序曲=お祝いの音楽」という位置づけが確立されています。
これが原則です。保育士として「お祝いのクラシック曲」を探しているなら、「こうもり」序曲はまず最初に候補に挙がる一曲です。
吹奏楽団のブログによる楽曲紹介「喜歌劇『こうもり』セレクション」。誕生の歴史からシュトラウス2世の創作背景まで詳しく書かれています。
保育士が喜歌劇こうもり序曲を現場で活かす独自視点の活用術
「こうもり」序曲は、保育の現場でどう活かせばいいのでしょうか?ここでは、検索上位には出てこない保育士ならではの視点で考えてみます。
① 「鐘の音を数える」聴き方ゲーム
前述の通り、この序曲の中には6回の鐘の音が登場します。子どもたちに「今から鐘が何回鳴るか聴いてみよう」と伝えてから曲をかけると、自然に集中して聴く姿勢が生まれます。答え合わせのときには「正解は6回!」と伝えるだけで、達成感とともに音楽を体験できます。特定の音に注目して聴く力は、3〜5歳ごろから育てられる「音の分別力」につながります。
② 旋律の数を当てる「メロディーいくつ?」
この序曲はポプリ形式なので、複数の違う旋律が次々と登場します。「何種類の曲が出てきたかな?」という問いかけは、子どもたちが音楽に集中する動機になります。3歳児なら2〜3種類気づけば上出来。5歳児以上なら5種類以上聞き分けられる子が出てきます。答えが違っても否定せず、「よく聴いてたね」と承認するのがコツです。
③ 体で旋律を表現する「音楽のお散歩」
ウィンナ・ワルツやポルカのリズムは、子どもたちが体でリズムを取りやすい音楽です。曲をかけながらホールを自由に歩き回り、テンポが速くなったら早歩き、ゆっくりになったらゆっくり歩くという活動は、リズム感と身体表現の両方を育てます。難しい振り付けは不要です。
これが基本です。まずは「鐘の音を数える」から始めてみると、子どもたちの反応の良さに驚くはずです。
子どもたちの反応をさらに引き出したいときには、リトミック教室のプログラムや、クラシック音楽を子ども向けに解説した絵本(例:「おんがくのおはなし」シリーズなど)を導入のサポート教材として活用するのも一つの手です。音楽の話を「見て」「触れて」楽しめる形にすることで、聴くだけでは届かない子にも音楽が伝わっていきます。
| 活動名 | 対象年齢の目安 | 育てる力 |
|---|---|---|
| 🔔 鐘の音を数えるゲーム | 3歳〜 | 聴く力・集中力 |
| 🎵 メロディーいくつ? | 4歳〜 | 音の分別力・記憶力 |
| 🚶 音楽のお散歩 | 2歳〜 | リズム感・身体表現 |
| 🎨 聴いたことを絵にする | 4歳〜 | 感受性・表現力 |
意外ですね。音楽の導入に特別な道具は必要ありません。「鐘が何回鳴るか聴いてみよう」の一言だけで、子どもたちはクラシックの名曲に没頭し始めます。
マイナビ保育士による「情操教育とは?家庭でできる教育例も紹介」。クラシック音楽と情操教育の関係を具体的に解説しています。

喜歌劇《こうもり》序曲

